犬も歩けば棒に当たる   作:政影

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合同体育祭の本番です。


本編3-2:九牛の一毛(後編)

「ワンコ、そろそろ時間だよ」

 

「うん、後はよろしく」

 

 出来上がった料理の数々をリサさんに任せるとエプロンを外しジャージを羽織る。

 今日は待ちに待った合同体育祭、当然お弁当にも気合が入る。

 実行委員の当日準備があるため早めに起き、今井家でギリギリまでリサさんとお弁当作り。

 結構な量になったが友希那さんと二人なら運べる、と思う。

 

「また後で」

 

「頑張ってきな♪」

 

 行ってきますのキスの代わりに頭を撫でられる。

 ただそれだけで昨日までの準備の疲れが吹き飛ぶ、我ながら単純だ。

 

 

 

 

「……うわぁ」

 

 登園早々昨日までは無かったはずの仮設スタンドを見て変な声が漏れる。

 事前の打ち合わせには無かった筈だけど……。

 

「あらワンコじゃない! おはよう、絶好の運動会日和ね!」

 

「おはよう、こころちゃん」

 

 まあ考えるまでもないか。

 あと運動会じゃなくて体育祭なので。

 

「凄い立派なスタンドだね、驚いた」

 

「そうでしょ! これならみんなの顔が良く見えるわ!」

 

「うん、良いアイデアだね。でも段取りがあるから実行委員会には教えて欲しかったな」

 

「それはごめんなさい、次は気を付けるわ!」

 

 善意に水を差すのは野暮かもしれないがつい言ってしまう。

 不快には思われなかったようなので一安心。

 

 まあ出来上がった物は有効活用させてもらうとして、選手の入退場とか用具の搬入搬出とか変更点を確認しないと。

 

 

 

 

「この度の事、誠に申し訳ございません」

 

 実行委員が揃ったところで開口一番紗夜さんが頭を下げる。

 それに続いて花女の人達も頭を下げる。

 

「いいえ、こちらこそなんとお礼を言ったらよいやら」

 

 困惑する羽丘の委員長を筆頭に誰も花女側を責めようとはしない、まあ思考が追い付いていない部分が大きいけど。

 

「るんっ♪ っと。これで良し。ワンコちゃん?」

 

「うん……多分大丈夫、送信。お話し中失礼します。変更点を担当のタブレットに送りましたのでご確認ください」

 

 日菜ちゃんが神懸かった早さで直した資料を、私とつぐみちゃんで確認・微修正をして最後に送信。

 事態発覚から一時間、つぐみ班全員が全力でツグったお蔭で何とかなった。

 ……開会式が始まる前から割と疲労困憊。

 

「花女問題ありません」

 

「羽丘大丈夫です」

 

 花女、羽丘双方の担当から確認完了の返事。

 こちらを見た委員長に引きつり気味な笑顔を返す。

 

「問題無さそうですね。それでは皆さん今日も一日頑張りましょう」

 

『はい!』

 

 羽丘の委員長の言葉と共に一斉に動き出す面々。

 全員が同じ方向を向いているのって心強い。

 

「おねーちゃん、褒めて!」

 

「はいはい、よく頑張ったわね。ワンコさんも羽沢さんもありがとうございました」

 

 紗夜さんの笑顔に思わずつぐみちゃんとハイタッチ。

 ……ちょっと気分が高揚してるのかも。

 

 

 

 

「遅かったわね」

 

「まあ色々と」

 

 何とか開会式が始まる前に整列しているクラスの列の最後尾に並ぶと友希那さんに声を掛けられた。

 青色のハチマキで猫耳を作り後ろ髪はポニーテール、やるなリサさん。

 私は額に巻いてるけど見回しても同じ巻き方がイヴちゃんしかいないという、ブシドーショック。

 こういうところで女子力の低さが露呈する。

 

 ちなみにチームごとの色はこんな感じ。

 

 花女一年:黄

 花女二年:白

 花女三年:緑

 

 羽丘一年:赤

 羽丘二年:青

 羽丘三年:紫

 

「「それではここに第一回合同体育祭の開会を宣言します!」」

 

 うちの生徒会長と花女の鰐部生徒会長の息の合った開会宣言……え、今第一回って。

 

「来年も合同でやるつもりかしら?」

 

「そうみたい。つぐみちゃんが生徒会長にでもなったら可能性大かも」

 

 そのためにはまず今回を成功させないと。

 

 

 

 

○徒競走(百メートル)

 

「それでは位置について、よーい」

 

 パンッ!

 

 スターターピストルの合図で六人が一斉に走り出す。

 第一種目はおなじみの徒競走、私の役目は一位の走者に金色のラバーバンドを渡す資材係。

 二位の銀色、三位の銅色はそれぞれ日菜ちゃん、つぐみちゃんが受け持っている。

 何で私が一位担当か聞いたら「ワン(コ)」だからとのこと、解せぬ。

 

「わーくん!」

 

「おめでとう、はぐみちゃん」

 

 一位一番乗りはハロハピの北沢はぐみちゃん。

 商店街の絡みで何度かソフトボールに参加してバッテリーを組ませてもらったけど圧巻の一言。

 それでいて繊細で女の子らしいところもあるので少々可愛がった。

 

「全力全開、優勝ははぐみ達花女一年が貰うよ!」

 

「宣戦布告ありがとう。こっちも全力で相手をさせてもらうから」

 

「うん!」

 

 一点の曇りもない笑顔、折角の合同体育祭はこうでなくっちゃ。

 ラバーバンドを渡しつつそんな事を考えていたら無意識にはぐみちゃんの頭を撫でていた。

 

「優勝したらもっと撫でて欲しいな……」

 

「ワンコ、一位よ!」

 

「ごふっ!」

 

 油断していたら二レース目の勝者こころちゃんに抱きつき、というかタックルされた。

 真横だったから何とか踏ん張れたけど、後ろからだったらやばかった。

 

「お、おめでとう」

 

「はぐみみたいにあたしも撫でて!」

 

「はいはい」

 

 気持ち良さそうに目を細めるこころ。

 この後、日菜ちゃんとつぐみちゃんに説教される事になるとは……。

 

 

 

 

○綱引き

 

『ソイヤ! ソイヤ! ソイヤ!』

 

 綱引きとは思えない掛け声、いつからお祭り会場に?

 圧倒的早さで既定のラインを越えたので赤旗を揚げ羽丘一年の勝利を示す。

 よく見たら巴ちゃんだけねじりハチマキにして頭に巻いてある。

 

「えいえいおー!!」

 

『……………………』

 

 またひまりちゃんの不発の大号令が発動している……。

 

 

 

 

○パン食い競争

 

 ようやく私の選手としての出番。

 

 パンッ!

 

 合図とともに走り出す。

 警戒すべきは左右のモカちゃん、りみちゃん、パン好きは侮れない。

 今回の吊るされたパンは伝統のあんパンで統一されているのでりみちゃんには少し不利か?

 

 走りながらパンまでの距離・歩幅を計算しジャンプする場所を定める。

 後ろ手に縛られていようが姿勢はぶれない。

 後は勢いを維持したまま飛び上がり包装した袋をがっちり咥えてゴールまでひた走る。

 

 その様子を見ていた友希那さんは後日「ワンコの前世はサーバルキャットじゃないかしら?」と麻弥さんに言ったとか。

 

「おめでとうございます」

 

「あ、紗夜さん。ありがとうございます」

 

 私が出場する代わりに一位担当になった紗夜さんから金色のラバーバンドを貰う。

 これで最低限の仕事は果たした。

 

「それと……」

 

 なでなで。

 

「……ありがとうございます」

 

 紗夜さんのサプライズなでなで。

 この後他の一位獲得者もなでなでをお願いしたとか。

 

 

 

 

○棒倒し

 

 三メートルの棒の先端についている旗を取れば勝利のこの競技。

 

「美咲!」

 

「こころ行けー!」

 

 美咲ちゃんの肩を足場にしたこころちゃんの跳躍で、防御陣形が機能しないまま旗を取られて終了する事態が多発。

 

「儚い……」

 

『キャー、薫様よー!』

 

 まあこっちの薫さんも儚すぎて誰も手が出せずあっさり旗を獲得しているわけだけど。

 

 花女一年四勝、羽丘二年四勝で迎えた全勝対決。

 

「ワンコちゃんちょっといい?」

 

「日菜ちゃん、何か作戦?」

 

「ごにょごにょっと」

 

「……頑張る」

 

 ルール的には問題ない筈。

 流石日菜ちゃん、悪魔的発想。

 

 

 

 

 パンッ!

 

「行くよ!」

 

 合図とともにこころちゃん目掛けて駆け出す日菜ちゃん。

 いかに相手のエースに仕事をさせないかが今回の勝負の分かれ目。

 

「あら日菜、あたしを止めるつもりかしら?」

 

「止めさせてもらうよ!」

 

 真正面からの日菜ちゃんタックルを頭上を越えて回避するこころちゃん。

 

「……ワンコがね」

 

「え!?」

 

「捕まえた」

 

 日菜ちゃんの作戦通り追走していた私に飛びかかる形になったこころちゃんを抱きしめる。

 勢いを殺しきれずに私が押し倒される形になったが、抱きしめる力は意地でも緩めない。

 打撃以外は特に禁止されていないので、後はうちの二枚看板が旗を取るまで拘束し続けるだけだ。

 

「んーんー!」

 

 何とか脱出しようともがいているけど柔道で日菜ちゃん用に鍛えた寝技は健在。

 少し力を強めれば壊れてしまいそうな華奢な体……どこにあれだけの超人的な運動能力が秘められているのか疑問。

 

「あっ」

 

「んっ」

 

 もがいた拍子に重なる唇。

 こころちゃんの顔が赤くなっていき、それと共に抵抗が無くなっていく。

 吸い込まれそうな金色の瞳が熱っぽく潤む。

 唇から伝わる熱で理性が融解しそうになる。

 

「いつまで抱きついてるのかな?」

 

「ああ、終わったの」

 

 少し機嫌の悪い日菜ちゃんが手にした勝利の証の旗で脇腹を突いてくる。

 指示通りに行動したのに理不尽。

 

「あう……」

 

 すっかり力が抜けてしまったこころちゃん。

 とりあえず救護所まで運びますか。

 

 

 救護所では何故か白衣を着た燐子さんが忙しそうに怪我の手当てを行っていた。

 

「似合い……ますか?」

 

「毎日保健室に顔を出したい位には」

 

 羽丘も花女も勝負に手が抜けない生徒が多いらしく、大怪我はないものの軽傷は多いとか。

 花の女子高生なんだから自重してよ、って私が言えた義理じゃないか。

 

「弦巻さんは……軽い疲労ですね。……破廉恥」

 

 燐子さんに軽く睨まれる。

 いやあれは事故だって。

 

 

 

 

○借り人競走

 

 出場予定の種目は全部終わったので資材係に復帰。

 次の借り人競争には友希那さんが出るから本当はスタンドから応援したかったけど。

 まあ雄姿の撮影(機材は湊父提供)はリサさんにお願いしてあるから後でじっくり見よう。

 本当は麻弥さんにお願いしたかったけど実行委員の撮影係に引き抜かれた。

 

 パンッ!

 

 走者が一斉にスタートを切るが友希那さんだけ明らかに遅い。

 借り人が書かれた紙が置かれた台に辿り着いた時には、既に他の走者は探しに向かっていた。

 紙を見て周りを見回し私を見つけると一目散に駆けてくる友希那さん。

 

「ワンコ!」

 

「うん」

 

 ゴールテープを迂回して私の所に来ると手を繋ぎぐるっと回ってゴールする。

 

「確認します。はい、問題ありません」

 

「当然よ」

 

 微笑む判定係の紗夜さん。

 その表情が気になってお題を見せてもらう。

 

『眼帯を付けている人』

 

 狙い撃ちか!

 

「さあバンドを付けて頂戴」

 

「うん、おめでとう」

 

「……撫でるのは家に帰ってからにして」

 

 左腕に付けた金色のラバーバンドを嬉しそうに見つめながらボソッと言う友希那さん。

 耳が真っ赤なのは黙っておこう。

 

 

 

 

○昼食

 

 午前中の種目も終わりようやくお弁当タイム。

 仮設スタンドの外のフリースペースに大きめのレジャーシートを広げ重箱を並べる。

 

「作り過ぎよ。重かったんだから」

 

「その分味は保証するよ♪」

 

「ありがとう、友希那さん、リサさん」

 

 リサさんと合作のお弁当の中身はご覧の通り。

 

・小さめのおにぎり(梅、鮭、おかか、昆布、ツナマヨ、明太子)

・サンドイッチ(玉子、レタス、トマト、きゅうり、チーズ、ハム、ベーコン、ピーナッツバター、イチゴジャム、チョコ)

・ナポリタン

・ポテトフライ

・から揚げ

・エビフライ

・コロッケ

・ミートボール

・ハンバーグ

・ウィンナー

・焼肉

・卵焼き

・オムレツ

・筑前煮

・枝豆

・野菜スティック

・ミニトマト

・クッキー

・たい焼き

・果物各種

 ──等々

 

 ……あれ、当初の予想より増えてる。

 重箱四つの筈が五つになってるし、私が今井家を出た後増やした?

 

「ほら、四だと縁起が悪いでしょ?」

 

「うん」

 

 まあ多いに越したことはない、か。

 リサさんの手料理は美味しいし。

 

「全く子供好みのおかずばっかりね」

 

 とか言いながら既に食べ始めている友希那さん。

 リサさんは微笑みながらポットから緑茶を注いでいる。

 いつも通りのその光景に何だかホッコリした。

 

「あー、もう食べてる!」

 

「日菜、待ちなさい」

 

「お待たせ……しました」

 

 日菜ちゃん、紗夜さん、燐子さんがそれぞれのお弁当を持って合流。

 紙の取り皿だけ配ればいいかな。

 あこちゃんがいればRoselia集合だけど、中等部から呼んでくるわけにもいかないし来年に期待。

 

「ポピパ参上!」

 

「お待たせしました」

 

「美味しそうね」

 

「来たわ……よ」

 

 ポピパ、Afterglow、パスパレ、ハロハピのみんなが合流。

 仕事で多忙な千聖さんも来れたようでなにより。

 ……こころちゃんがしおらしいのはちょっと気になるけど。

 

「あー、あんまり気にしないでください。一晩経てば治ると思うので」

 

「何かごめん」

 

 背中にこころちゃんがしがみ付いている美咲ちゃんがフォローしに来た。

 何品か皿に取り箸と一緒に渡す。

 

「うわー、どれも美味しいですね。まるでピクニックのような」

 

「美咲……あたしも」

 

「はいはい、ウィンナー」

 

「もぐもぐ……美味しいわ」

 

「良かったね」

 

 二人のやり取りを見ていると、失礼かもしれないけどまるで親子か姉妹。

 ついいつまでも眺めていたくなる。

 

 

 

 

『応援合戦に参加される方は準備をお願いします』

 

 デザートまで食べ終え寛いでいるとアナウンスが流れてきた。

 何人かが立ち上がる、当然友希那さんもだ。

 

「最高の応援を届けるわ」

 

「うん、期待してる」

 

 ライブ前に見せる気負いもてらいも無いスッキリとした表情。

 音楽と猫以外にここまで本気になるって……何だか嬉しいな。

 

 

 

 

○応援合戦

 

 チアのユニフォームを着た友希那さん、エモい。

 ノースリーブ、ミニスカートから伸びる白くほっそりとした手足。

 動く度に見え隠れするおへそ。

 一呼吸遅れて宙を舞うポニーテール。

 終わった後の上気した晴れやかな笑顔なんて尊すぎて胸が苦しい。

 短期間でよくここまで動けるように……。

 

 

 花女はまさかの学ランで紗夜さん・たえちゃん・イヴちゃんの凛々しい姿が印象的だった。

 彩さんは……その……学ランに着られてる感が。

 

 

 

 

○玉ころがし

 

 おかしい、確かに大玉を用意した筈なのに巨大なミッシェルの頭部に入れ替わってる。

 凹凸あるし難易度上がってない?

 

「ソイヤ! ソイヤ! ソイヤ!」

 

「あたしが一番、ミッシェルをうまく使えるんだ!」

 

 意に介さない人達。

 

「ふええ~」

 

 約一名あらぬ方向にミッシェルごと転がっていく……。

 場外に出る前に止めないと!

 

 

 

 

○障害物競争

 

 知り合いからは燐子さん、麻弥さん、ひまりちゃん、有咲ちゃんが参戦……推薦者がいたらちょっとお話ししようか?

 

「く、苦しい……です」

 

 予想通りネットで絡まって酷い光景に。

 まるで燐子さんの部屋にあった蜘蛛の糸に絡め取られる凌辱ゲー、モザイク必須。

 凹凸が無くて髪も短い私なら圧勝……言ってて空しくなってきた。

 

 

 

 

○騎馬戦

 

 四人一組で各チーム三組の計七十二人十八組の壮観な光景。

 如何に自分をハチマキを守りつつ相手から奪い、制限時間まで生き残るかが問われる。

 当然最初は睨み合いが続くかと思った。

 

「蘭ちゃん行くよ!」

 

「ちょ、香澄!」

 

「悪くない」

 

「行くぜ、蘭!」

 

 有咲ちゃんを乗せた香澄ちゃん、たえちゃん、沙綾ちゃんが蘭ちゃん目掛けて単騎突撃。

 蘭ちゃんを乗せた巴ちゃん、モカちゃん、つぐみちゃんも応じて迎え撃つ。

 

「天は自ら行動しない者に救いの手をさしのべない。つまりそういうことさ」

 

「まあ薫もこう言ってるし、アタシ達も行くよ」

 

「座して見ているのは士道不覚悟です!」

 

「はぐみも全力で行くよ!」

 

 熱は伝染するようで他の組、他のチームも攻勢に出る。

 全チーム入り乱れての大乱戦に横にいる日菜ちゃんはウズウズしっぱなしだ。

 

 

「ひなちゃんワールド大勝利!」

 

 勝者はまさかの花女三年チームグリグリだ。

 流石三年生、乱戦での勝負の駆け引きを心得ている。

 

 

 

 

○リレー(四人×百メートル)

 

 騎馬戦の興奮冷めやらぬまま最後の四百メートルリレー。

 ちなみにサプライズという事で走者が誰かは本人にも実行委員にも知らされていない。

 春の体力測定のタイムで均等になるようにはすると言っていたけど……あれって五十メール走だったよね?

 

『羽丘二年は今井リサさん、氷川日菜さん、瀬田薫さん、湊友希那さん』

 

 ……そもそも友希那さんは百メートル走れたっけ?

 

 

 

 

「声掛けに行きたいんでしょ?」

 

「……うん」

 

「じゃあ一緒に行こ♪」

 

 走者の日菜ちゃんと一緒に集合場所へ向かう。

 既にチアの衣装から体操着に着替えた友希那さんとリサさんがいた。

 

「日菜、足を引っ張ることになると思うけどよろしくね。それとワンコ、そんな不安そうな顔しないでよ」

 

 軽くおでこを突かれる。

 

「大丈夫よ。必ずバトンは繋げるわ」

 

「……がんば」

 

 過保護だったかな。

 安心感を与えてくれる微笑。

 私の想像以上に彼女は成長している。

 それが嬉しくもあり寂しくもある。

 

「それにしても薫くん遅いね」

 

『連絡です。瀬田薫さんが先程の騎馬戦で負傷したため、羽丘二年の走者を変更します。走者は──』

 

「あ、私だ」

 

 どうやら後片付けの前に大仕事が出来たらしい。

 各チームの得点差は僅か、最後の大勝負といきますか。

 

 

 

 

「ワンコすまないね」

 

「いえいえ、怪我の具合は?」

 

 集合場所に薫さんが千聖さんを連れてやってきた。

 右手首には湿布が貼られている。

 

「軽く捻っただけさ」

 

「何が『軽く捻っただけさ』よ。ワンコちゃんにまで迷惑をかけて」

 

「おや、千聖は心配してくれるのかい?」

 

「耳までおかしくなったのかしら?」

 

 目の前で繰り広げられる夫婦漫才。

 一体何をしに来たのだろう?

 

「おっと話が逸れてしまったようだね。私も気持ちだけは一緒に走りたくてね」

 

 差し出された青色のハチマキ。

 こういう行為が絵になるのがずるいよなぁ。

 

「全く一々格好付けなのよ、失礼」

 

 千聖さんが横からハチマキを取ると私のラバーバンドに巻きリボン結びにする。

 

「千聖さんも負けず劣らず格好いいですよ」

 

「ふふっ、ありがとう」

 

「儚い……」 

 

 気合は十二分に乗ったかな。

 

 

 

 

「走る順番はリサさん、友希那さん、私、日菜ちゃんでいい?」

 

「オッケー」

 

「構わないわ」

 

「あたしがアンカーでいいの?」

 

「あれだけアピールされるとね」

 

 チラリと花女二年チームを見ると紗夜さんが指を四本立てている。

 わだかまりも無く純粋な姉妹対決、それが優勝をかけた勝負とか私が見たい。

 

「分かった! 絶対に勝つからちゃんとバトン繋いでよ?」

 

「任せて~」「ええ」「うん」

 

 これで後は走るだけ……昂ぶってきた。

 

 

 

 

「あら、あたしの相手はワンコね!」

 

「よろしく」

 

 そこにはすっかり回復したこころちゃん。

 美咲ちゃんのお蔭かな?

 

「今度は抱きつき無しだからね!」

 

「うん、分かってる」

 

 まあ反則になるし。

 

「辛かったら言ってね。救護所まで運ぶから」

 

「っ!」

 

 気を使ったつもりなのに何故か可愛く睨まれた。

 やっぱりさっきの敗北が悔しいのかな?

 

 

 

 

「それでは位置について、よーい」

 

 パンッ!

 

 第一走者のリサさんが綺麗なスタートを切る。

 足の速さは、

 

 日菜ちゃん>私>リサさん>>>友希那さん

 

 なので私が友希那さんからバトンを受けてからが勝負。

 第三、四走者は花女一年はこころちゃん、はぐみちゃん、花女二年は陸上部っぽい人、紗夜さんの順番。

 他のチームはよく知らないけど五分の勝負は出来そう。

 

「友希那!」

 

「リサ!」

 

 三位で友希那さんにバトンを渡したリサさん。

 友希那さんも必死に走るが六位にまで落ちてしまう。

 大丈夫、タイム差を考えると今は何位でも問題無い。

 

「お先に行くわ!」

 

「後で追いつく」

 

 美咲ちゃんから二位でバトンを受け取ったこころちゃんが先にスタートする。

 友希那さんが最後の直線に入る。

 

「はぁはぁ、ワンコ!」

 

「友希那さん!」

 

 最後の力を振り絞ったバトンパス。

 しっかりと思いの詰まったリボンが巻かれた左で受け取ると右手に持ち替える。

 三秒差以内なら日菜ちゃんで勝てる。

 遥か前方のこころちゃんの背中を目指し地面を蹴る。

 

 

 

 全力を振り絞っても差は少ししか縮まらない。

 でもここで諦めたくはない。

 

『はー、そんなんじゃ駄目駄目にゃー』

 

 え、何この声、イラッとする。

 

『友希那ちゃんの歌を初めて聞いた時の事でも思い出したら?』

 

 ……あの時の事か。

 初めて聞いた時、あまりの衝撃に頭が真っ白になった。

 圧倒的な充足感。

 幼いころに聞いた私の原点。

 

 

 ああ……そうか……まるで心と体が一つになるような。

 

 

「日菜!」

 

「ワンコちゃん!」

 

 気付いたら日菜ちゃんにバトンを渡していた。

 フラフラになりながらも何とかコースの内側に入るとリサさんが肩を貸してくれた。

 

「いやー、魅せてくれるね♪」

 

「はぁ……はぁ……一位とのタイム差は?」

 

「四秒かな」

 

「むー、後一秒縮めたかった」

 

「良くやったって。さあ、日菜の応援しよう。日菜ー!」

 

「日菜ー!」

 

 先行する二人を追いかけ、日菜ちゃん、いや羽丘二年の反撃が始まった。

 

 

 

 

「負けちゃった」

 

「お疲れ様」

 

 フラフラになった日菜ちゃんをタオルで包んで抱きしめ座らせる。

 紗夜さん、日菜ちゃん、はぐみちゃんの三つ巴の争いは最終的にビデオ判定にまでもつれ込んだ。

 

 一位:花女二年、二位:羽丘二年、三位:花女一年

 

「ごめんなさい」

 

「友希那が謝る事じゃないって!」

 

「うん、本当は私が後一秒縮めるはずだった。友希那さんは体力測定の時よりも早くなってたし」

 

「あたしもおねーちゃんに追いつけなかった……」

 

 二位とは言え薫さん達の期待裏切っちゃった。

 ……応援席に戻りたくない。

 

 

「全く……あなた達はいつまで座り込んでいるのですか?」

 

「紗夜……」

 

 左腕にリレーの分のバンドを付けた紗夜さんが腰に手を当てて、やれやれといった表情で見下ろしている。

 

「さっさと立ちなさい、日菜。良い走りだったわ。それと総合優勝おめでとう」

 

「えっ」「あっ」「そっか」「へっ」

 

 リレーのショックが大きくて総合順位の事をすっかり忘れていた私達。

 

「お、おねーちゃん!」

 

「ちょっと日菜! 抱きつくのは二人きりの時だけでしょ!」

 

「涙でおねーちゃん以外見えないもん!」

 

 紗夜さんに抱きついて号泣する日菜ちゃん。

 走りを褒められて優勝を祝われて……泣いても仕方ないか。

 

「友希那~泣くならアタシの胸貸そうか?」

 

「いいえ結構よ。愚妹の前でそんなこと出来ないわ」

 

「じゃあワンコ、おいで」

 

「うん、ありがたく借りる」

 

「ちょっと外で見っともないことしないで頂戴!」

 

「青春っぽくて良いと思うんだけどね~」

 

 最後がグダグダなのは実に私達っぽいと思う。

 

 

 

 

○閉会式

 

 優勝トロフィーを手にしたのは最後の激走が印象的だった、日菜ちゃん。

 本当は薫さんだったらしいけど怪我で辞退したとか。

 

「今日はるん♪ ってきたよ、来年もまたやりたいねー」

 

 この優勝スピーチには盛大な拍手が起きた。

 

 今年の雪辱の機会があるかもしれない事に喜ぶ者。

 

 お祭り騒ぎをまた楽しめるかもしれない事にワクワクが抑えきれない者。

 

 自分達の代で新たな学園の歴史の誕生に立ち会えた事に感動する者。

 

 紗夜さんの方を盗み見ると微笑みながら拍手をしていた。

 

 来年はもっと大事になりそうな予感がしたけど今だけはこの多幸感に浸ろう。

 

 

 

 

 さて次はFWF.出場に向けて頑張っていきますか。




感想、評価、誤字報告などありましたらよろしくお願いします。


<備考>

ワンコ:あんパンはすぐに食べた。

湊友希那:後日チア姿の画像が父のスマホの待受けになっているのを知る。

今井リサ:コレクションが充実してウハウハ。

氷川日菜:ご褒美に姉妹で同じベッドで寝た。

弦巻こころ:感染。

番外編3で扱ってほしい人物は?

  • 羽沢つぐみ
  • 若宮イヴ
  • 市ヶ谷有咲
  • 奥沢美咲
  • 白鷺千聖
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