犬も歩けば棒に当たる 作:政影
前回の反動で短めです。
「あこ、走り気味よ」
「はいっ!」
「リサ、もっと激しく」
「おっけー♪」
体育祭の熱が冷めず、筋肉痛が治まらない翌日もRoseliaの練習は激しい。
一人参加できなかったあこちゃんは、ここぞとばかりに演奏に思いを込める。
……込めすぎな気もするけど。
「一旦休憩、水分しっかりとってね」
切りの良いところで声を掛けペットボトルとタオルを渡す。
夏が近付き最近暑くなってきたので体調管理はしっかりと。
「FWF.のコンテスト前に一度ライブをしておきたいわね」
「そうですね。修正点が見つかるかもしれませんし」
「そう言うと思って、いくつか捻じ込めそうなステージをリストアップしておいた」
友希那さんと紗夜さんに候補を表示させたタブレットの画面を見せる。
まりなさんとか麻弥さんとかの人脈をフル活用させてもらった。
「手が早いわね……ここなんてどうかしら?」
「そこそこ大き目ですし良いのでは?」
「他の三人はどう?」
二人の反応に胸を撫で下ろし、残りの三人に意見を求める。
「りょーかい♪」「おっけーです!」「がんばり……ます」
息はピッタリ流石Roselia、向いている方向は一緒だ。
物理的な意味だと演奏中は私だけ逆だったりするけど。
「それじゃあ連絡入れてくる」
私はスマホを手にウキウキしながらスタジオの外へ向かった。
練習は練習で聞き応えはあるけど、やっぱり本番の独特な雰囲気は格別。
数か月前までは音楽なんて殆ど縁が無かったけど今ではご覧の通り、だ。
……悪くない、ってね。
「あ、麻弥さんすみません。例のステージの件ですが」
『お、もう決まりましたか、早速進めておきますね。詳細は後程メールします』
「よろしくお願いします」
『フヘヘ、任せてください!』
「で、これはどういう事?」
「……これは予想外」
当日会場入りすると控室に案内されたが、部屋の入り口には「Roselia」と「Pastel*Palettes」の名が。
「へー、このシークレットゲストってパスパレなんだ!」
「すごい……ですね」
パンフレットを楽しげに眺めるあこちゃんと燐子さん。
その時扉が開く。
「まんまるお山に「あ、おねーちゃん♪」」
「日菜、またあなたの仕業!?」
「う~ん、半分くらい?」
紗夜さんに飛びつこうとするもアイアンクローで抑え込まれる。
……ダメージは受けていないみたいだけど。
挨拶を途中で遮られた彩さんの方がダメージは大きそう。
「Roseliaの皆さん、本日はよろしくお願いします」
「白鷺さん……ええ、こちらこそ」
友希那さんに会釈すると私の方へ向かってくる千聖さん。
残り半分ってまさか……。
「先日は薫の代走ありがとう」
「結果はちょっと残念でしたけど」
その時の事を思い出して思わず微笑む。
まあ数日で薫さんの湿布も取れたのは、代わったお蔭と自惚れたい。
「最近テレビで見ない日は無いですね」
まあ昔はテレビ自体持ってなかったけど。
今では食後に家族の誰かとリビングで見てたりする。
この前のサイコパス役なんて、漏らしかけるくらいリアリティーがあってやばかった。
「ふふっ、そう言ってもらえると嬉しいわ。でもワンコちゃんに会える時間が減って寂しいわ」
どこまでが社交辞令か分からないけど、上目遣いで寂しげな言葉を呟かれるとドキッとさせられる。
誰が言ったか「微笑みの鉄仮面」……言い得て妙。
三枚くらい引き剥がさないと素顔は見せてくれない。
「ご来店心よりお待ちしております。まあ犬笛でも吹いて呼び出してくれてもいいですけど」
スカートの端を持ちお辞儀、我ながらドッグカフェというよりメイド喫茶の店員ぽいと思う。
下手なウインクを決めて明るく振る舞うと千聖さんの表情も和らぐ。
「そうね、今度花音とカフェに行く時に同行してもらおうかしら?」
「喜んでお供します」
噂に聞く乗換音痴と方向音痴の最恐コンビ、これは腕が鳴る。
女子力の高そうなお二人なら、きっと行くのも素敵なお店だろうね。
羽沢珈琲店の参考になるかも。
「白鷺さんも苦労するわね」
「ワンコって敵意とか殺意とかには敏感なんだけどね~」
「……ふんすっ!」
ぼそぼそとよく分からない事を言ってる友希那さん達。
燐子さんにいたっては謎の奮起。
心の機微って難しい。
「みんなるるるんっ♪ って感じだね」
遺憾だけど日菜ちゃんの方が事態を分かってそう。
思考と伝達が突飛なだけで認知はまとも、だと思う。
「ワンコ師匠『仁に過ぐれば弱くなる』です!」
「ああ、独眼竜の遺訓。偏らないように頑張るよ」
「はい!」
イヴちゃんの言葉は意図してか正誤の境界線に転がしてくるから面白い。
全然関係ないけど彼女の三つ編みって撫でると凄く安らぐ。
私よりも犬力が高い気がするし……髪、伸ばそうかな。
「どうかしたの?」
「うーん、何と言うか胸騒ぎが」
どうもRoseliaの順番が近付くにつれ嫌な予感がビンビンしてきた。
「緊張しいのリサ姉がミスるとか?」
「日菜、いえパスパレの直前だからお客さんにトイレ休憩の時間にされる心配とか?」
「今井さん……お漏らし……」
「さり気にアタシディスられてない?」
みんなは程よい緊張を維持しつつ油断も見当たらない。
なのに何故か胸の不安は消えてくれない。
「なるようになるだけよ」
そう言うと友希那さんが私の少し震える手を両手で優しく包む。
色白の小さな手。
私の大好きな手だ。
「練習は裏切らない。私達を一番傍で見てきたのはワンコでしょ?」
「……うん、そうだね。いつも通りの最高の音楽を期待してる」
「ええ、当然よ」
その言葉と毅然とした表情にようやく手の震えは収まった。
まだ頂点への入口、私が尻込みしてどうするんだ。
「Roseliaの方、ちょっとよろしいですか?」
「私が行ってくる」
「頼んだわよ」
ライブに向けて準備をしている友希那さん達に代わってスタッフさんの所へ向かう。
話によるとパスパレ出演はギリギリまで緘口令が敷かれていたらしく、その所為で機材スペースの開放とかでてんてこ舞いとか。
……パスパレ恐るべし。
まあそんなわけで捌けた後の動きに変更があると伝えられた。
後人手が足りないとも。
「動きについては分かったわ。全く……」
「まさか日菜さんと千聖さんが出演したいと言うなんて……本当に申し訳ないです」
「いいっていいって、麻弥も調整大変だね~」
ちょっと拗ねたポーズをする友希那さんに、恐縮しっぱなしな麻弥さんのフォローをするリサさん。
本気で拗ねているわけじゃないので安心して見ていられる。
密かに一緒に猫カフェ巡りをしている程に仲良しだとか。
「まあいいわ、ワンコ手伝いに行ってきなさい」
「うん、ありがとう」
手伝いたくてウズウズしている私に呆れるように許可をくれる友希那さん。
まあじっとしているのは性に合わないので。
それにもし準備が遅れたら待ち遠しいライブまでの時間が延びてしまう……。
「終わったら……戻ってきてください。みんなで記念撮影……したいです」
燐子さんにそんな事を言われたら超特急で戻ってくるしかない。
「いやー、すみませんね」
「いえいえ、こちらも出させていただいている身なので」
「手際良いっすねー」
「大抵のバイトはやったことありますよ」
不要な機材を物置に運びながらスタッフさん達と雑談を交わす。
Roseliaの一員として半端な仕事は出来ない。
力仕事なので事前の打ち合わせもいらないしすぐに取り掛かれて良かった。
「……ちょっと入りきらないですね」
物置はかなり乱雑で片付けるにはかなり時間が掛りそう。
元々全部が収まっていたのかすら怪しい。
「一旦通路の端に寄せときましょう」
「……そうですね」
片付けたい本能が刺激されまくりだが今日は断念する。
撮影に間に合わなかったら燐子さん悲しむだろうし。
「ライブ楽しみだな」
控室へ向かう道すがらつい独り言を言ってしまい、浮かれている自分が気恥ずかしくなる。
友希那さんにこんな事を言ったら臍を曲げてしまうかもしれないけど、今日はパスパレも出演するから更に高め合う事だろう。
紗夜さんは日菜ちゃん意識しちゃうのかな……それともそれすら力に変えるのかな?
キーボードと一緒の燐子さんは絶対強者、ドラムを叩いている時のあこちゃんは無敵戦姫。
リサさんは――
ブーブーブージシンデス――
スマホが震え初めて聞く音声を脳が理解する前に、私は天井に押し潰された。
感想、評価、誤字報告などありましたらよろしくお願いします。
次回で本編3終了です。
<備考>
ワンコ:社畜根性。
大和麻弥:電話する時は背後に気を付けよう。
月島まりな:それなりに頑張ったけど出番無し。
丸山彩:不発の決めポーズ。
白鷺千聖:溢れる国民的女優感。
番外編3で扱ってほしい人物は?
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羽沢つぐみ
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若宮イヴ
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市ヶ谷有咲
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奥沢美咲
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白鷺千聖