犬も歩けば棒に当たる   作:政影

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時系列的にはワンコ入院中です。


番外編3(シーズン1春)
番外編3-1:プラチナは砕けない


 コンコンコン

 

「ワンコさん、失礼……します」

 

「はーい」

 

 少し緊張して扉をノックすると中からは心待ちにしていた声が。

 はやる気持ちを何とか抑え静かに扉を開閉する。

 扉をきっちり締めて振り返ると彼女は自由になる右手を小さく振ってくれた。

 お見舞いの蜂蜜クッキーを鞄から取出し、既にたくさん置かれているお見舞い品の山に加える。

 

「お見舞いありがとう、燐子さん」

 

「いいえ……ようやく終わったので……」

 

 コンテストが終わるまでお見舞いは自粛という友希那さんの提案。

 勿論全員が一も二もなく賛成したが、会いたい気持ちは燻り続けた。

 先日これくらいは良いだろうとタブレットを病院にいる知り合い経由で差し入れたが。

 

「面白い本がたくさん読めてすごく良かった。ただ……」

 

「……ただ?」

 

「燐子さんの魅力が余すことなく発揮された……コスプレ画像フォルダが」

 

「ふふっ……」

 

 頬を少し赤らめる彼女にしてやったりの感情を抱くわたし。

 かなり際どい画像もあるけど頑張って良かった……。

 

「……実物はもっと凄いです……よ?」

 

「うん、流石に病院では遠慮しておく」

 

 含みを持たせた笑顔に胸がざわつく。

 そんなところがずるい……けど気になる。

 

「そのかわり、と言っては変だけど体拭いてもらってもいい?」

 

「……喜んで」

 

 多分わたしが犬だったら全力で尻尾を振ってたと思う。

 

 

 

 

 彼女が入院着の上と肌着を脱ぎ素肌をさらす。

 ブラはつけていないため右手で胸を隠している。

 じっくりと観察すると……。

 

「火傷の痕が……」

 

「古いし諦めてたのに目立たなくなってるよね?」

 

「はい……」

 

 まるでどこぞの小説の主人公。

 何年間も完治しなかった火傷痕が良くなるなんてありえるのだろうか?

 

 ペロッ

 

「んっ!? 何で舐めるの?」

 

「何となく……です」

 

 実は以前友希那さんがやっていたのを見て羨ましかったので機会を窺っていた。

 ……犬が仲間や飼い主の傷口を舐めたがるという話を何故か思い出した。

 

「まあ、燐子さんにならいいけど」

 

「うれしい……です」

 

 今度はおしぼりでしっかり拭いていく。

 氷川さんより引き締まった体には薄くなった火傷痕以外にもうっすらと細かい傷が幾つもあり、彼女の歩んできた人生の過酷さを表している。

 

「……燐子さんみたいに魅力的な体じゃないので見ても面白くないよ?」

 

「そんなこと……無いですよ?」

 

 そう言って指先で古い傷跡をなぞる。

 

「好きです……だってワンコさんの体だから」

 

「そう言ってくれてありがとう、でも前は自分で出来るからもういいよ」

 

「…………ちぇっ」

 

 後少しで小ぶりな胸の谷間を拭けたのに。

 渋々おしぼりを片づけると彼女はもう服を着終わっていた。

 

 

 

 

「改めてコンテストお疲れ様、そして優勝おめでとう」

 

「ありがとう……ございます」

 

 そう言うと病室に置かれたトロフィーに目を向ける。

 昨日Roselia全員で届けに来て一番目立つところに置いた。

 一時は出場すら危ぶまれたけれど、終わってみれば絶賛の嵐。

 見事優勝してフェスへの出場を決めた。

 

「口さがない連中曰く……弔い合戦」

 

「まだ生きてるのに酷いね。それに私がピンピンしててもRoseliaなら優勝してたよ」

 

 わたしの膨れた頬を優しく撫でてくれる。

 思わずその手に縋り付いてしまう。

 その温もりに暗い感情が消えていくようだ。

 

「来年三月の本番は必ず傍にいるから」

 

「はい……約束です」

 

 その時は絶対に今以上の演奏と最高の衣装を披露しよう。

 

 

 

 

「そう言えば輸血の手配のお礼してなかったね」

 

「親戚が頑張ったお蔭で……わたしは何も……」

 

 前に血液のサンプルを採った時に血液型は分かっていたので迅速に手配出来た。

 未だに彼女の体液で興奮する仕組みは分からないけど、普通の血液で輸血ができて本当に良かった。

 

「それに……命の恩人はあなた」

 

 もし扉が開かなかったらRoseliaもパスパレも最悪な結末を迎えていたかも知れない。

 でも……必ず来てくれると信じていた。

 

「じゃあお相子か」

 

「ふふっ」

 

 事も無げに言う彼女に思わず笑いが漏れる。

 そこに危うさを感じている人間が果たして何人いるのだろうか?

 それでも彼女ならやってくれそうという思いが湧いてくる。

 それなら、せめて――

 

「あなたの陽だまりに……なりたい」

 

「……ワンコは日向ぼっこが好きだから、ね」

 

 わたしの想い……伝わったら……嬉しいな。

 

 

 

 

「ふぁ……」

 

「燐子さん、おねむ?」

 

「ごめんなさい……コンテストが終わるまでゲームを自粛していたので」

 

「終わった反動で徹夜プレイ?」

 

「はい……」

 

 もうすぐ面会時間も終わり、名残惜しいけど帰らないと。

 

「そんな状態で帰ったら危ないから泊まってく? なんて「はい……許可を取ります」」

 

 個室での通話は許可されているので直ぐに病院にいる知り合いに連絡を取り宿泊の許可を貰う。

 服を脱ぎ下着姿になるとワンコさんの予備の入院着を着る。

 胸の辺りが少しパツパツだが一晩くらいなら問題ないだろう。

 念の為に歯磨きと入浴は来る前に済ませておいたので後はもう寝るだけ。

 

「失礼……します」

 

 彼女のベッドに体を潜り込ませる。

 濃厚な彼女の匂いに全身が包まれていく。

 途端に体から力が抜けていく。

 

「燐子さんのその行動力好きだよ」

 

「えへへ……ありが……とう」

 

 眠気が限界に達し彼女の言葉に何と返したのか分からないまま眠りに落ちた。

 

「おやすみ」

 

「おや……ちゅ……み」

 

 

 

 

 ガラガラガラ

 

「ワンコ、お見舞いに来たわ」

 

「!?」

 

 友希那さんの声に意識が一気に覚醒した。

 とても不味い状況、混乱した頭では言い訳も思いつかない。

 

「あ、おはよう、友希那さん」

 

「おはよう。ところでその布団の膨らみは何かしら?」

 

 微かに怒気を孕んだ声に恐怖し、思わず布団をかぶったままワンコさんに強く抱きつく。

 安心させるかのように頭に手が置かれる。

 

「ちょっと猫が迷い込んだ」

 

「そう、にゃーんちゃんが……病院に猫が迷い込む訳が無いでしょ!」

 

 勢いよく掛布団を捲られ、友希那さんと目が合う。

 互いに気まずいが目を逸らせない。

 

「にゃ、にゃーん」

 

「……はぁ、何をやっているのよ、燐子。猫耳まで付けて」

 

 その言葉に驚いて頭に手をやるとモフモフしたものが付いている。

 さっき頭に手を置かれた時に付けたのだろうか?

 

「お蔭でよく眠れた」

 

「ごめん……なさい」

 

 あっけらかんと言うワンコさんとは対照的に、私は友希那さんに申し訳ないような気がして謝ってしまう。

 

「そんな泣きそうな顔をしないで、燐子」

 

 猫耳の上から優しく撫でてくれる友希那さん。

 思わず喉を鳴らしてしまいそうな感覚に襲われる。

 

「友希那……さん」

 

「さあ他の見舞い客が来る前に着替えなさい。それと顔も洗ってきなさい」

 

「はい……」

 

 友希那さんの言葉に従いベッドから降り着替え始める。

 

「病院で変な事はしていないでしょうね?」

 

「変な事って~? あ、ごめんなさい、トロフィーで殴られたら壊れちゃう。してないしてない」

 

「最初からそう言えばいいのよ」

 

 持ってきた鞄から化粧ポーチを取り出すと、ベッドの上で正座させられているワンコさんを尻目に扉を開け廊下に出る。

 早くトイレで昨日の痕跡を消さないと。

 

「あ、りんりんだ!」

 

「あこちゃん!?」

 

 廊下の角であこちゃんに鉢合わせる。

 不味いことに後ろには今井さん・氷川さんもいる。

 

「ちょっとおトイレに」

 

 気付かれる前に通り過ぎようとするが――

 

「あれ~、りんりんからワンコ先輩の匂いがする!」

 

「へ~、それは聞き捨てなりませんなぁ、紗夜先生?」

 

「詳しくお話を聞く必要がありますね、今井先生」

 

 純粋な興味に瞳を輝かせるあこちゃんと明らかに面白がっている二人。

 ……終わった。

 

 

 このあと無茶苦茶尋問された。




感想、評価、誤字報告などありましたらよろしくお願いします。


<備考>

白金燐子:まだヤンデレではない。

ワンコ:生き方は不器用だけど手先は器用。

湊友希那:ペットが自分以外からも餌を貰っていると知った時の心境。

宇田川あこ:あの女の匂いがする……なんちゃって♪

今井リサ・氷川紗夜:支柱コンビ。

番外編3で扱ってほしい人物は?

  • 羽沢つぐみ
  • 若宮イヴ
  • 市ヶ谷有咲
  • 奥沢美咲
  • 白鷺千聖
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