犬も歩けば棒に当たる 作:政影
おたえ、モカ、日菜あたりを違和感なく書けるようになりたいです。
コンコンコン
「……蘭です。モカとお見舞いに来ました」
「来ました~」
蘭ったら緊張しちゃって。
平静を装っているけど手が震えてるし。
「どうぞ」
「失礼します」
先輩の元気そうな声に明らかに表情が明るくなった……。
「ひゅーひゅー」
「モカ、煩い!」
「うん、いつも通りだね」
入室早々のあたしと蘭との騒がしいやり取りに笑顔を返す先輩。
全身至る所が包帯ぐるぐる巻きなのに、そんな表情されたら――
「す、すみません。ワンコ先輩!」
「さーせんしたー」
あーあ、蘭が赤面して赤メッシュとの境界が分かんなくなった。
先輩に椅子を勧められベッドの横に座る。
「ありがとうね。平日の午後なんて忙しいでしょ?」
「それがですねー、蘭がソワソワして全然練習に身が入らなくてー」
「ちょっと、モカ!」
「ふふっ」
「ワンコ先輩まで笑わないでくださいよ!」
「ごめんごめん」
膨れっ面の蘭だけどそんなに怒ってないのはあたしにはバレバレ。
先輩も当然分かっているようで謝りながらも笑ってる。
「蘭~」
「あ、ワンコ先輩、お見舞いの品のフラワーアレンジメントです」
蘭が取り出したのは淡い色の花の中に五本の赤い薔薇を配したフラワーアレンジメント。
意味は確か「あなたに出会えて本当に嬉しい」だったかな~?
もっと情熱的な意味の本数もあったのに。
「ありがとう、とても綺麗。蘭ちゃん作?」
「はい!」
先輩は右手で受け取ると顔に近付けて匂いを嗅いだ。
「……蘭ちゃんの匂いがする」
「ちょっ!?」
先輩の言葉にまた真っ赤になる蘭……。
「先輩~、それ以上やると蘭が呼吸困難で死んじゃうよ~」
「それは困る。また情熱的な歌声を聞かせてもらわないと」
「ま、前より熱い歌を約束します!」
「お~、蘭が燃えてる。モカちゃんからは――」
「お、山吹ベーカリーの袋。モカちゃん、お主も悪よのう」
「いえいえ、お代官様ほどでは」
「……なんで悪代官みたいなやり取り?」
あたし達の即興劇に少し落ち着いて呆れ顔の蘭。
鉄板の山吹ジョークなのに。
「怪我の方は大丈夫なんですか?」
「二、三週間で退院できるって。左手は暫くギプスかな?」
「おでこも包帯グルグルですな~」
「流血で視界が塞がれてやばかった」
軽い感じで話す先輩にあたしは引き気味だけど蘭は瞳がランラン……。
「流石あたしの命の恩人ですね! 湊さん達も助けて生還だなんて」
「私が言っても説得力に欠けるけど『いのちだいじに』、一番悲しむ人が身近にいるなら猶更」
……モカちゃんの方を見て言わないで欲しいなー。
「先輩と二人っきりになるのってコンビニバイト以外だと初めて?」
「かもね」
蘭は飲み物を買いに行ったので先輩と二人きりに。
あたしとしては気まずいなー。
先輩は全然気にせずもうパンを食べ始めてるし。
椅子に座ったあたしの胸の中にモヤモヤとした感情が生まれる。
「……もしそのパンに毒を入れた、って言ったらどうします?」
「それはないかな」
あたしが口走った物騒な言葉に即答し、気にした様子もなくパンを食べ続ける。
「……どうして?」
「モカちゃん程のパン好きがパンに毒を盛るわけないから。パンを買う時のモカちゃんの笑顔、好きだよ」
「っ!」
思わず両手で顔を覆った。
過去に蘭を救ってくれた恩人に何を言ってるんだろう……。
「モカちゃんも蘭ちゃんも可愛い後輩なんだから遠慮せず頼って。役に立つかは分からないけど」
頭に乗せられた包帯で巻かれた手。
凄く……安心する。
「お騒がせしました~」
何とかいつも通りのモカちゃんに戻った、つもり。
いや~、蘭が惚れるわけだ。
「若気の至りってやつでしてー、ちょっと先輩をからかってみました」
「別にいいけど。辛い時は辛いって言うのも強さだよ?」
「ですよね~。モカちゃんか弱いのでー」
蘭とか幼馴染を前にするとつい自分の立ち位置を気にして、心の内をさらけ出すことが出来ないな~。
「その歳まで疎遠にならないで幼馴染続けられたのって凄いよ」
「ですかね~」
「私はモカちゃん達みたいな努力をしてこなかったから旧友なんていないし」
「…………」
「正直、羨ましい」
先輩の嘘偽りを感じさせない言葉に胸が締め付けられた。
「だからもし私の存在が不和の原因になるなら――」
「ごめんなさい!」
自分でも驚くぐらいの大声が出た。
「勝手に嫉妬して勝手に落ち込んで……先輩は何も悪くないのに。蘭の世界がどんどん拡がって取り残されていくみたいで」
「……うん、そんな時もあるさ。ちょっとおいで」
「はい……わっ!?」
椅子から立ち上がりベッドに近付いたところで急に引っ張られ右腕で抱きしめられた。
「私もただ前だけ向いて生きてきたから心の機微には疎いけど……さらけ出して素直に甘えるのも大事」
「……ですかね~」
「生傷の絶えない人生送ってると躊躇する時間が勿体無く感じる。恥も外聞も割と気にならなくなるし」
「説得力あり過ぎ」
もしあたしが被災時の先輩と同じ状況になったら生きて戻れないだろうなー。
でも想いを告げずに永遠の別れは流石に嫌だよ。
「つまりそういうことさ。少しは参考になった?」
「ぷっ、最後の薫先輩の物真似で台無しですよ~」
先輩への苦手意識は完全に消えたわけじゃないけど、優しさは伝わってきた。
凶暴そうな大型犬に懐かれた気分?
「で、素直じゃない可愛い後輩に先輩からプレゼント」
先輩はそう言うと枕の下から二枚の紙を取り出した。
「『世界のパン展』の食べ放題チケット!」
「ちょっと他の患者と賭け事で、ゲフンゲフン。蘭ちゃん誘って行ってきたら?」
「いいんですか~?」
「退院が間に合いそうにないから。ただし現地で必ずツーショット写真を撮ること」
「了解で~す♪」
見た目は完全に漫画の悪役なのにずるいなー。
コンコンコン
「蘭です」
「どうぞ」
三人分の缶飲料を持って入ってくる蘭。
ちなみに先輩の奢り、太っ腹~。
「ワンコ先輩、ストレートティーです」
「ありがとう」
「モカは本当にブラックでいいの?」
「ふっふっふ~、モカちゃんも大人の味が分かるようになったのです」
「なーに、言ってるんだか」
口ではそう言う蘭だけどブラック派が増えて満更でもなさそう。
……先輩ニヤニヤ顔でこっち見ないでよ~。
「蘭~、先輩から『世界のパン展』のチケット貰ったから一緒に行こうよー」
「……別にいいけど。ワンコ先輩いいんですか?」
「うん、私の代わりに二人で楽しんできて」
「ありがとうございます。……それでは遠慮なく」
その言葉に本当は先輩と二人で行きたかったのかな、と思ってしまう。
でもここで尻込みしたら折角の好意が無駄になるよね?
「わ~い、蘭とデートだ♪」
「ぶふっ!? ちょっと、モカ!」
コーヒーを吹き出しかけて慌てる蘭。
だけどまだ終わらないよ。
「……本当に楽しみだよ、蘭。大好き」
「!?」
あたしに出来る最高の笑顔を蘭に向ける。
蘭は赤面して口をパクパクさせた後そっぽを向いてしまった……耳まで真っ赤だよ。
先輩の方を見ると……実に嬉しそうな表情。
ちょっと手のひらで踊らされてる感があるけど構わない。
だってずっと抱いていたこの気持ちは本物だから、ね。
感想、評価、誤字報告などありましたらよろしくお願いします。
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<備考>
青葉モカ:幼馴染の関係から一歩先へ進みたいお年頃。
美竹蘭:色々挑戦したいお年頃。
ワンコ:後輩の世話を焼きたいお年頃。
番外編3で扱ってほしい人物は?
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羽沢つぐみ
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若宮イヴ
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市ヶ谷有咲
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奥沢美咲
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白鷺千聖