犬も歩けば棒に当たる   作:政影

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番外編3-3:銭闘漂流

「戦いの中で戦いを忘れた……」

 

「ふえぇ~!」

 

 目の前のおじさんはテーブルに凄い音を立てて突っ伏した。

 はぐみちゃんとワンコちゃんのお見舞いに来た筈だったんだけど……どうしてこんな事に?

 

 

 

 

「わーくん、喜んでくれるかな?」

 

「大丈夫だと思うよ。はぐみちゃんのお店のコロッケ美味しいし」

 

 今日ははぐみちゃんと一緒にワンコちゃんのお見舞い。

 お見舞いに持っていくのはお花にしようか悩んだけど、お気に入りの銘柄の紅茶のティーパックにした。

 長い入院生活、少しでもリラックスしてもらえたら嬉しいな。

 

「今日は奮発して五十個持ってきたんだ」

 

「流石にそれは多いかも……」

 

 体育祭で見せた健啖振りでも五十個はきつそう。

 想像しただけでも胸焼けが……。

 

「食べきれないようだったらかのちゃん先輩も食べてね」

 

「え、ええ~!?」

 

 お願いワンコちゃん、頑張って!

 

 

 

 

 そんなこんなで病院に着いたものの……ここどこ~!?

 気付いたらはぐみちゃんはいないし取り合えず歩いてみたらどんどん薄暗く。

 人の気配がしてそっちに向かうと――

 

 

「いい目をしているな、それにここに来るとは度胸も良い」

 

「ふえぇ!?」

 

「一勝負願おうか」

 

 青色の入院着を着ているダンディなおじさんに促され奥へ。

 病院なのにすごく煙ったい……あ、これお香だ。

 不思議な香り。

 

 たどり着いたのは談話室のような場所。

 

 

「謀ったな!」

 

「やらせはせん!」

 

「圧倒的じゃないか!」

 

 各テーブルから怒号が聞こえてくる、怖いよ~。

 

 

「この席を使わせてもらうぞ」

 

「はっ!」

 

 おじさんに敬礼して席を譲る患者さん。

 一体何者なんだろう?

 

「闘茶の準備を。ちなみに闘茶の経験は?」

 

「あ、闘茶なんですね。部活で少々」

 

 雰囲気的に麻雀とかポーカーだと予想してた。

 闘茶のルールは五種類のお茶を飲んで銘柄と産地を当てるんだったかな?

 

「結構。こちらも本気でやらせてもらう」

 

 おじさんの顔が凄みを増す。

 だけど私も覚悟を決めた。

 現役道部員として負けられないよ。

 

 

 

 

 ――そして冒頭に至る

 

 

 今回は略式ということで解答用紙に答えを書き最後に答え合わせ。

 おじさんは四種類、私は五種類正解だった、えっへん。

 

「青いのがやられたか」「次は俺達と」「闘ってもらおうか!」

 

「ふえぇ!??」

 

 今度は黒い入院着の三人組。

 どうみても堅気の人には見えないよー。

 

 

 その後も勝ち続け戦利品の山が出来ちゃったけど お茶の飲みすぎでお手洗い行きたい……。

 

 

「あ、かのちゃん先輩!」

 

「どうやったらこんな所に……」

 

「はぐみちゃんにワンコちゃん! ふえぇ~、やっと会えた~」

 

 包帯だらけのワンコちゃんの乗った車椅子を押すはぐみちゃんを目にしたら、嬉しくて思わず涙ぐんじゃった。

 駆け寄ったら漏らしそうなのでゆっくりと近付く。

 油断したら零れちゃいそう。

 

「やはり一つ目の知り合いか」

 

「連絡ありがとう、赤いの。まさか手は出してないよね?」

 

「ははっ」

 

「女子高生に母性を求めるな」

 

 ……聞かなかったことにしよう、うん。

 あと出来るだけ早くお手洗いまで案内してもらおう。

 

 

 

 

 無事お手洗いを済ましワンコちゃんの病室へ。

 私の戦利品は大部分がそのままお見舞い品に……持って帰りづらい品も多いし。

 既にお見舞い品は幾つか置いてあり中には見事なフラワーアレンジメントもあった。

 紅茶にしておいて本当に良かった。

 

「入院中で暇を持て余している大人達の息抜き場なので、ご内密に」 

 

「うん、分かったよ」

 

「はぐみも何かやりたかったなぁ~」

 

 さっきの出来事は忘れた方がいいみたい。

 ……ちょっとスリルがあって楽しかったけど。

 

「ちょっと髪梳かすね」

 

「うん、ありがとう」

 

 ワンコちゃんの髪の乱れが気になってポーチからブラシを取り出して梳かす。

 髪質自体は凄く良いし香りも良い……友希那ちゃん家のヘアケアブランド聞こうかな?

 

「あっ」

 

 余計な事を考えていたせいでブラシに紐が引っ掛かり眼帯が外れる。

 瞳が露わになったワンコちゃんの右目。

 白く濁ったそれはまるで――

 

「クラゲみたいで可愛い……」

 

「えっ!?」

 

 私の言葉に目を丸くするワンコちゃん。

 変なこと言っちゃったかな? 気を悪くさせちゃったなら謝らないと。

 

「あ、あの」「クラゲ……クラゲ……ぷぷっ!」

 

 謝ろうとしたらお腹を抱えて大爆笑。

 その様子に頭が真っ白になっちゃう。

 

「ふえぇー!」

 

「ご、ごめん。怖いとか気持ち悪いは聞き慣れてるけど、クラゲみたいに可愛いって言われたのは初めてで」

 

 泣き笑いのような状態のワンコちゃんに胸が締め付けられる。

 

 

「怖いとか気持ち悪いなんてそんな事ないよ!」

 

 

 クラゲに似ているかどうか以前に人の体を貶す言葉なんて!

 自分でもびっくりする位の大声が出た。

 呆気にとられる二人。

 いち早く我に返ったワンコちゃんから笑顔が向けられる。

 

「怒ってくれてありがとう。花音さんみたいな人がいるから人生楽しい」

 

 その言葉に心が満たされる。

 

「かのちゃん先輩は凄いんだから!」

 

 はぐみちゃんが自分の事のように自慢するとちょっと面映ゆいな。

 

「ちなみにはぐみちゃんは何て言ったと思う?」

 

「……かっこいい、とか?」

 

「温泉卵、ぷっ」

 

「ふふっ、はぐみちゃんらしいね」

 

「二人して笑わないでよ~」

 

 拗ねた素振りのはぐみちゃんに笑いが止まらない私達。

 

「そんな意地悪な二人にはコロッケあげないんだから!」

 

「ごめん、ごめん。早く食べさせて」

 

「私、給湯室で紅茶淹れてくるね」

 

「わーい、かのちゃん先輩の紅茶大好き♪ お砂糖多めでね」

 

「うん」

 

 給湯室へ向かう私の足取りは今日一番軽かった。

 今度は私の紅茶で笑顔にしてあげるんだから。

 

 

 

 

「……という事があったんだよ、美咲ちゃん」

 

「色々と突っ込みどころはあるけど……危険物がある場所で迷子にはならないでください」

 

「ご、ごめんね。気が付いたら……」

 

 CiRCLEのテラス席で疲れたような笑みを浮かべる美咲ちゃん。

 私は気まずそうにコーヒーを口に含む。

 

「悪気がないのは分かってるんだけどね。一緒にいる人と常に手を繋いでおくとか?」

 

「うん、ワンコちゃんにもそう言われたよ。だから」

 

 ぎゅっ

 

「えっと……」

 

「私から目を離さないでね、美咲ちゃん」

 

 お見舞いに行った日からどうも親しい人の温もりを求めてしまうみたい。

 包帯だらけのワンコちゃんを見たせいかな?

 それとも……。

 

「あ、はい……」

 

 私の言葉に赤面する美咲ちゃん。

 

 繋いだ手が熱くなる。

 

 迷い犬の私には首輪でも嵌めて貰おうかな?




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<備考>

松原花音:強い。

北沢はぐみ:車椅子押しで病院レコードを叩き出す。

ワンコ:笑いすぎて入院期間延長。

奥沢美咲:最近友人達の別の意味での奇行が悩みの種。

番外編3で扱ってほしい人物は?

  • 羽沢つぐみ
  • 若宮イヴ
  • 市ヶ谷有咲
  • 奥沢美咲
  • 白鷺千聖
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