犬も歩けば棒に当たる   作:政影

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たくさんの投票ありがとうございました。

千聖さん回です。


番外編3-4:アイアンオーシャン(アンケート1位)

 そっと病室のドアを開ける。

 

 袖口に隠したナイフを手に持ちベッドに眠る彼女の心臓目掛けて突き立てる。

 

 一本、二本、三本……。

 

 

「はっ!? ナイフのヴァイスシュヴァルツ、じゃなかったシュバルツバルトや!」

 

「彩ちゃん突っ込みが遅い」

 

「ご、ごめん、千聖ちゃん。つい迫真の演技に見入っちゃって」

 

 全く、彩ちゃんも芸人としての自覚を持ってほしいものね。

 取り合えず刃が引っ込んだ状態で立っているマジックナイフを回収する。

 隠し持って服から出すのは慣れたけれど逆は改善の余地ありかしら。

 

「……えっと、この茶番は?」

 

「あら、起きていたのね。お見舞いのついでに今度出るお笑い番組の練習よ」

 

「ワンコちゃんごめんね。次は突っ込みのレベルを上げるから!」

 

「あー、うん、期待してる」

 

 ごまかし笑いをするワンコちゃんの頭を撫でる。

 やっぱりレオンの次に癒されるわ。

 イヴちゃんも捨てがたいけれど。

 

 

 

 

「もうそろそろ退院かしら?」

 

「うん、来週には。ギプスは着けたままになりそうだけど」

 

 愛おしそうにギプスを撫でるワンコちゃん。

 やけに黒い……と思ったらびっしりと寄せ書きが。

 仕事が忙しすぎて完全に出遅れたわ!

 

「あ、私も書きたい」

 

「はい、マジック」

 

 彩ちゃんが早速書き始める……って普段色紙に書くような謎生物サイン!

 

「早く元気にな~れ、と」

 

 チュッ♪

 

 サインした後にギプスにキスなんてあざとさにも磨きがかかってきたわね……。

 

「千聖ちゃんも書く?」

 

「そうね」

 

 何て書こうかしら?

 他の人に劣らないようなインパクトのある文言。

 特に友希那ちゃんの「早く帰ってきなさい」には負けたくない。

 というか寄せ書きをするタイプには見えなかったけれど、やるわね。

 

「……こんな感じかしら」

 

「『月見れば 千々に物こそ 悲しけれ』……千聖ちゃん、これってどういう意味?」

 

「小倉百人でしたっけ?」

 

「ええ、大江千里の歌」

 

「ちさと……千々……秋……千秋……」

 

「ふふっ、私の気持ちはご想像にお任せするわ」

 

「もー、二人共私にも分かるように話してよ!」

 

「ごめんね。これでも食べて機嫌直して」

 

 会話についていけずに膨れっ面の彩ちゃん。

 ワンコちゃんからお見舞い品のお菓子を渡されてすぐに機嫌は直ったみたい。

 ……いつも間食には気を付けろと言ってるけれど今日は見逃そう。

 

 

 

 

「お礼が遅くなってごめんなさいね。地震の時はありがとう」

 

「いえいえ、千聖さんが犬笛を持っていなかったら危なかった」

 

「音の届く範囲で良かったわ……流石地獄犬耳ね」

 

 ワンコちゃんの耳たぶを指でふにふにする。

 屋内、しかも地震による雑音が激しい中良く聞こえたわね。

 

「はい、お見舞い品のスキンケアセット。少しは肌にも気を使いなさい」

 

「うん、気を付ける」

 

「リサちゃんにも言っておくから必ず使いなさいよ? 素材は悪くないんだから」

 

「……千聖ちゃん、お母さんみたい」

 

「彩ちゃん、何か言ったかしら?」

 

「ひっ、何でもないです! 飲み物買ってきます!」

 

 全く、現役女子高生アイドルをつかまえてお母さんとか失礼ね。

 あと病院内では走らないように。

 

「でもパスパレのお母さんみたい」

 

「もう! ワンコちゃんまで」

 

 腹いせにベッドに腰かけ入院着の中に手を入れお腹を撫でる。

 レオンみたいにモフモフという事はないけれど何となく落ち着くわ。

 ただ以前と比べると違和感が。

 

「……もしかして太ったかしら」

 

「リハビリだけだとカロリーが消費しきれなくて」

 

 ワンコちゃんの視線の先にあるのは大量のお見舞い品の果物、ジュース、スイーツ、茶葉、缶詰、パン等々。

 おい、生ハム原木とか巨大ジャーキーとか誰が持ってきた。

 悪ノリなのか競争意識なのか……人望だと思いたいわね。

 

「このまま入院してたら病気になりそうね」

 

「そういう意味でも早く退院したい」

 

 切実な発言。

 義理堅いワンコちゃんの事、お見舞い品を捨てるなんて出来そうにないわね。

 

「退院したらパーティーでも開いて一気に消化しましょう。羽沢珈琲店を貸切るくらいなら、うちの事務所の経費で落とせるわ」

 

「流石千聖さん、頼りになる」

 

 ワンコちゃんの笑顔にドキッとする。

 この笑顔に去年の私は救われたのだから。

 

「……去年の私から成長できたかしら」

 

 頭を撫でながらポツリと漏らす。

 着実に女優としてステップアップしつつも、あの時の選択の是非を問い続けている。

 

「勿論、一段と素敵な女性になった」

 

 右手で頬を撫でられる。

 自分より仕事を選んだというのに優しい表情、胸が締め付けられる。

 

 

 ああ、この人はいつも私が欲しい言葉をくれる。

 

 

「……頭を抱きしめてもらえるなんてレオンくんに悪い気が」

 

「いいじゃない……たまには……」

 

 こんなに触れ合えたのはいつ以来かしら。

 でもこれでまた頑張れる。

 

 

 日本中、いえ世界中の人達を魅了する役者になるから、その目でしっかり見ていなさい。

 

 

 

 

「紅茶買ってきた……って、千聖ちゃん何してるの!?」

 

「何ってワンコちゃん分の補充よ。彩ちゃんも試しに如何?」

 

「そんな試食販売みたいなノリで……」

 

「ちなみに補充後の私のオーディション合格率は百パーセントよ」

 

「やるよ!」

 

 何故か靴を脱ぎ捨てベッドの足元の方に乗りにじり寄る彩ちゃん。

 ワンコちゃんは若干引き気味……あ、真正面から頭を抱きかかえたわ。

 

「んっ、良い匂い」

 

「彩ちゃんもね」

 

 何だかんだ言ってワンコちゃんも彩ちゃんの腰に手を回して抱きしめている……。

 自分で煽っておきながら面白くないと感じている私。

 ちょっと長すぎじゃないかしら。

 

 

 はむっ

 

 

「ひゃっ!?」

 

 ワンコちゃんの右耳を甘噛みする。

 中々良い噛み応えだわ。

 

「あ、千聖ちゃんずるい! 私も!」

 

「ちょ!?」

 

 負けじと彩ちゃんも抱きしめていた腕を解き、左耳に噛みついたようね。

 それならこちらも負けてられないわ。

 自慢の舌テクで耳の中――

 

 

 バーンッ!

 

 

「おねーちゃんとお見舞いに来た、よ……」

 

「ちょっと日菜、病院では静かに……お二人とも一体何を?」

 

 病室の扉が勢いよく開き現れた氷川姉妹。

 二人とも私達の状態を見て固まっている。

 

 いち早く我に返った私はワンコちゃんの耳から口を離し、備え付けのティッシュで唾液を拭う。

 そして入り口の二人に向き直りスカートの裾を摘み

 

 

「ごきげんよう」

 

 

 会心の演技も紗夜ちゃんには通用せずワンコちゃん、彩ちゃん共々正座する羽目になった……。




感想、評価、誤字報告などありましたらよろしくお願いします。


<備考>

白鷺千聖:仕事を優先させた結果拗らせた。

丸山彩:奉仕するリーダー。

ワンコ:欠陥フラグ。

氷川紗夜:現行犯には容赦ない。

氷川日菜:帰宅後に姉の耳でるんっ♪

番外編3で扱ってほしい人物は?

  • 羽沢つぐみ
  • 若宮イヴ
  • 市ヶ谷有咲
  • 奥沢美咲
  • 白鷺千聖
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