犬も歩けば棒に当たる   作:政影

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折角アンケート二位になったので出番増です。

※またアンケートやるので投票お願いします。


番外編3-5:スターダストクマセイダース

『ワンコさん、問題ないですか?』

 

「うん、麻弥さんありがとう」

 

 Webカメラから送られてくる映像とマイクを通して聞こえてくる音声は良好。

 これでベッドの上でも授業を問題なく受けられる。

 発案から先生の説得、配線、設定等を率先してやってくれた麻弥さんには感謝しかない。

 

『大和さん、これって音声だけじゃなくて向こうの映像は見えないの?』

 

『流石に病室の映像を外から見えるようにするのは問題があるそうで……』

 

『ちょっと不公平ね』

 

 友希那さんが不満げな顔でカメラ越しにこっちを見る。

 入院するまでは毎日見ていた顔だけにちょっと感慨深い。

 

「友希那さん、ちゃんと勉強してますか? 一年留年したら蘭ちゃん、二年留年したらあこちゃんと同学年ですよ」

 

『わ、分かっているわよ! そっちこそ期末テストで酷い点だったら許さないんだから』

 

『あ、それってワンコちゃんと繋がってるの? おーい、日菜ちゃんだよー♪』

 

『ちょっと日菜さん持ち上げないでください!』

 

『ワンコ、何という儚い姿に』

 

『いや薫、義体化したわけじゃないから』

 

 ……相変わらず賑やかなことで。

 私も早く治して加わりたいな。

 

 

 入院中は暇、そう思っていた時期が私にもあった。

 Roseliaの雑用もできないし、バイトにも行けないし。

 

 

 完全な杞憂だったけどね。

 授業が受けられるようになったので予習復習もきっちりやる。

 燐子さんから差し入れられたタブレットは本読み放題に映像見放題。

 お見舞いの品々を眺めているだけでも心が温かくなる。

 それに――

 

「おねーちゃん、遊んで!」

 

「はやく! はやく!」

 

「談話室行こう」

 

 何故か入院中の子供達に懐かれた。

 

 

 

 

「はい、あがり」

 

「えー、そんなー」

 

 子供相手の七並べでも割と容赦しない。

 勝負の世界は厳しいので。

 

「アイコンタクトは上手くなったけど、まだバレバレかな」

 

 子供にお見舞い品のお菓子を配りながらアドバイスする。

 

「フェイクも混ぜるといいかも。あと相手の枚数は常に把握しておくこと。重ねて持たれることもあるから」

 

「はーい!」「うん!」「了解」

 

 素直な態度は結構。

 この短期間でここまで読みやイカサマの精度が上げられる吸収力。

 まったく、小学生は最高。

 

 

「子供相手に何教えてるんですか!?」

 

 あ、ピンク色の熊、じゃないミッシェル。

 

「勝つための方法。トランプなら子供でも大人に勝てる」

 

「いや、まあ、そうでしょうけど!」

 

 少しお怒りの様子。

 何が不満なんだろう?

 

「あー、ミッシェルだ!」

 

「抱き着け!」「わ~!」「もふもふ」

 

「ちょ、タックルはやめて!」

 

 流石人気者、ちょっと嫉妬した。

 

 

 

 

 子供達に揉みくちゃにされて力尽きたミッシェルを車椅子で牽引して私の病室へ運んだ。

 頭を外し冷蔵庫から取り出したキンキンに冷えたスポドリのペットボトルを美咲ちゃんの頬に当てる。

 

「冷たっ!」

 

「お疲れ」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

 キャップを開け勢いよく中身を飲む。

 その間にタオルで汗を拭く。

 昔着ぐるみのバイトもやったけどきついんだよね、暑いし臭いし。

 

「はー、何から何まですみません」

 

「こちらこそありがとう、みんな喜んでた」

 

「そう言ってもらえると嬉しいです」

 

 照れ笑いを浮かべる美咲ちゃん。

 あまり接点がなかったから知らなかったけど、気だるげな表情だけじゃなくてこういう表情もできるのか。

 

「今日は何でまた」

 

「前にこの病院で色々あってライブして、それ以来時間があったらミッシェルの格好で来てくれってお医者さんに」

 

 病院でライブ!

 ハロハピも中々ロックだ。

 そしてセラピードッグならぬセラピーベアか。

 

「つまり小さな子供大好き」

 

「微妙に語弊がある言い方はやめてもらえません!?」

 

「それは失礼」

 

「……まああたしにも妹がいるので、困ってる年下は放っておけないというか」

 

「そっか……私も施設にいた時は下の子達の面倒を見ていたから分かるよ」

 

「……っ」

 

 言葉を詰まらせる美咲ちゃん。

 余計な事言っちゃったか。

 

「一つお願いがあるんだけど」

 

「あ、はい、なんでしょう?」

 

 ちょっと強引でも話題を変えようか。

 

 

 

 

「これが普段美咲ちゃんが見ている景色」

 

「……傍から見ると病室に熊の着ぐるみってシュールを通り越してホラーですね」

 

 私のお願いは少しの間ミッシェルになること。

 最初は渋っていた美咲ちゃんも根負けして、どこかに電話をかけ許可を取ってくれた。

 着るのを手伝ってもらい今はベッドに腰掛けている。

 隣には美咲ちゃん。

 

「その……汗臭くないですか?」

 

「ん、良い匂い」

 

「恥ずかしいこと言わないでください!」

 

 多分私の方が体臭きついし……そう考えるとこの後美咲ちゃんが着るとなると申し訳ない。

 ちなみに美咲ちゃんには私の予備の入院着を着てもらっている。

 

「この姿で散歩したいな」

 

「車椅子に収まらないんで勘弁してください」

 

 一応松葉杖でも少しなら歩けるけどミッシェルの体だと辛いか。

 

「……ワンコ先輩ってよく分からない人ですよね」

 

「そうかな?」

 

「そうですよ。ミッシェルになりたいなんて初めて言われましたし」

 

 さっきの私の発言を思い出しているようでちょっと笑いを堪えている様子。

 そんなにおかしなこと言ったかなぁ?

 

「『切り結ぶ 太刀の下こそ 地獄なれ 一足踏み込め そこは極楽』だったかな?」

 

「はっ?」

 

「とりあえずやってみることを心掛けてる」

 

 まあ毎回上手くいくとは限らないわけで。

 私一人の力で解決できたことってレアだし。

 

「……凄いですね。あたしには真似できないや」

 

「そうかな? 花音さんがべた褒めしてたけど」

 

「ちょっと花音さん何言ってるの!」

 

 この場にいない花音さんに対しての見事なツッコミ。

 やっぱりハロハピの大黒柱かな?

 

「自分の行動が直接結果に結びつかなくても誰かの何かの糸口になれば……ごめん、格好つけ過ぎたかも」

 

 似たようなこと前に麻弥さんが言ってたっけ。

 

「つまり……私が凄いなら美咲ちゃんも凄いってこと」

 

「強引にまとめましたね」

 

「強引なのは嫌い?」

 

「……まあ誉め言葉として受け取っておきます」

 

 言葉とは裏腹に澄み切った笑顔、普段隠されているだけに貴重。

 

 

 

 

「じゃあそろそろ脱がせますよ」

 

「お願い」

 

 十分にミッシェルも堪能したしそろそろお返ししないと。

 

「あれ……留め具が外れない……」

 

「えっ」

 

「だ、大丈夫ですよ。っと、このっ!」

 

「……ベッドに座ったままだとやりにくいようだったら体勢変えるけど?」

 

「すみません……ベッドにうつ伏せになってもらえますか?」

 

「うん」

 

 うつ伏せになった私にまたがり奮闘する美咲ちゃん。

 私は特に問題ないけど美咲ちゃんは息が切れてきた。

 

「はぁ……はぁ……すみません」

 

 

 バーンッ!

 

 

「ワンコ先輩! お見舞いに……」

 

「おい、香澄、ノック位……奥沢さんがミッシェルにまたがって息切れしながら首を絞めてる……」

 

「ちょ、二人とも、これは違うの!」

 

「……見えてないけど何となく状況は分かった」

 

 

 この後美咲ちゃんが香澄ちゃんと有咲ちゃんの誤解を解いている間に、黒服さんが何とか脱がせてくれた。

 着心地は割と良かったのでまた着る機会があったら着たいかも。




感想、評価、誤字報告などありましたらよろしくお願いします。

活動報告上げました。


<備考>

奥沢美咲:「熊殺し」として病院七不思議に加えられる。

ワンコ:ご満悦。

大和麻弥:何でもできる舞台監督。

戸山香澄:トラウマになってしばらく妹と寝た。

市ヶ谷有咲:トラウマになってしばらくばあちゃんと寝た。

下記の中で一番好きな話は?

  • プラチナは砕けない
  • ファントムブレッド
  • 銭闘漂流
  • アイアンオーシャン
  • スターダストクマセイダース
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