犬も歩けば棒に当たる 作:政影
カタカタカタ
燐子さんから新たに借りたノートパソコンにRoseliaについて色々と打ち込んでいく。
友希那さんが作詞・作曲したものの権利は燐子さんから詳しい人を紹介してもらい確保。
並行してネット配信の準備も進めている。
活動費についてはチケットの売り上げが好調なので当面は問題なし。
衣装代は紗夜さんに指摘されて燐子さんを問い詰めて白状させたら結構な金額だったので保留、いずれ払いたい。
ファンの要望で制作の決まったCDとグッズは業者のサンプル待ち……個人的にも欲しい。
フライヤーは無くなることが多いので次は部数を増やす方針。
ミュージックビデオは……砂漠で演奏とか物理的に無理だから合成かな。
そろそろ公式ファンクラブとか視野に入れた方がいいかもしれないけど既存の方との棲み分けが問題。
公式サイトは「高貴なる闇の騎士団」のイメージ、とのあこちゃんの希望。
他にも色々、数か月で一気に駆け上がった関係で未着手が多い。
最優先、優先、保留……さてどれに分類しようか?
比較的自由にできるアマチュアバンド、みんなと相談しながら納得のいくものに仕上げよう。
コンコンコン
「はーい」
「入るよ、ワンコくん」
「どうぞ」
入ってきたのは湊さんのお父さん、まあ私のお父様にもなる予定だけど。
パソコンを閉じ居住まいを正す。
お父様はベッド横の椅子に腰を下ろすと胸ポケットから何かを取り出した。
「気の利いたお見舞いの品が思い浮かばなくてね」
渡されたのはUSBメモリ、はて?
「片付けをしていたら昔の歌の音源が出てきた。データにしたから良かったら聞いてほしい」
どこか遠くを見るような目。
何故か胸が締め付けられる。
「友希那さんに聞かせても?」
「好きにしたらいい。もう君のものだ」
少し突き放すような言い方だけど声音は優しい。
友希那さんが素直じゃないのは父親譲りかな。
何にせよ宝物がまた増えた。
「中々見舞いに来れなくて悪かったね」
「いいえ。それに友希那さん達に遠慮してたんですよね?」
「お見通しか。本人には秘密だけど、前に私だけでお見舞いをしたと知った時の友希那の拗ねた顔は可愛かったよ」
「わぁ……いいなぁ」
拗ねた顔の友希那さんを想像しただけで胸が温かくなる。
早く毎日会えるようになりたいな。
「何かしてほしいことはあるかい? 友希那を救ってくれたお礼らしいお礼が出来ていなかったから」
「う~ん」
居候どころか養女にしてもらうというだけで感謝しきれないのに。
さらに珠玉の音源までもらったばかり。
すごく悩む。
「じゃあ……ご褒美に撫でてもらえますか?」
「撫でる? それだけかい?」
「はい、父親に撫でられた記憶が無いので」
「そうか……頭をこっちに」
「はい……」
お父様の方へ頭を傾けると抱きしめられ頭を撫でられる。
大きくて温かな手が安心感をくれる。
……これが父親。
「書類上はまだだが君はもう娘だ。これからはいくらでも甘えなさい」
「……はい」
「……お父様はもう音楽はやらないんですか?」
「っ!?」
私の唐突な発言に抱きしめてくれている腕の強張りを感じた。
「気に障ったらごめんなさい。でも……友希那さんも……」
「……ああ、分かってるさ」
「家族の為に大切なものを諦めた辛さ、私にはとても想像できませんが……」
気付けば私も動かせる右腕でお父様を抱きしめていた。
いつの間にか涙が溢れる。
「……友希那がね、馬鹿なバンドマンの無念を晴らそうと動き出してから今まで何もしてやれなかった」
「…………」
「娘の必死に頑張る姿を見てしまうと、その先に苦難や危険が待っていたとしても動けなくてね」
「…………」
「ははっ、父親失格だな」
「信じていたんでしょ、友希那さんなら乗り越えられるって?」
「……そうかもしれないな。道半ばで挫折した父親を乗り越えてほしいと期待しているのかな」
「大丈夫ですよ。貴方の娘には何度でも立ち上がる信念と最強の仲間、最高の両親がいますから」
「……そうだな。それに……素敵な妹もいるからな」
そう言うと頭を抱きしめていた腕を放し真正面から向き合う。
栄光と挫折を味わった男の顔、娘を見守る事しかできなかった男の顔、家族を何よりも愛する男の顔……。
「素敵な顔ですね。私もそんな顔が出来るようになりますか?」
「大丈夫さ」
お父様は短くそう言うと私の髪をかき上げ、おでこに口づけ。
顔が火照る。
体の奥が熱い。
狂い咲いてしまいそう。
「私、決めました」
「何をだい?」
火照りが治まるまで待ってからお父様に向かって言い放つ。
もう大丈夫……正気に戻った、筈。
「いつか友希那さんとお父様が同じステージに立てるように全力でお節介します!」
「!? ははは、それは面白いな」
私の独善的な宣言に一瞬キョトンとしたお父様は大爆笑。
私自身明確な道筋や方法が見えているわけじゃない。
でも……やり遂げなければいけない気がした。
過去と今が交差する未来。
義理や恩義もあるけど、それ以上にその光景を私が見たい。
きっとそれは今感じた胸の熱を凌駕するものだから……。
「だから……それまで腕を磨いて待っていてくださいね♪」
コンコンコン
「美竹だが」
「どうぞ」
今度のお見舞い客は蘭ちゃんのお父さん。
華道の家柄という事もあり和服を普段着として着こなしている渋いおじ様。
……入院してからモテ期を無駄に消費している気がする。
羽沢店長や山吹店主も来てくれたし。
あ、お見舞いのお花ありがとうございます。
「やあ美竹さん」
「どうも湊さん」
何気に二人とも娘さん達のライブ会場で一緒になったりする間柄。
悪い虫対策という名目で友希那さんと蘭ちゃんには何とか黙認してもらっている。
「RoseliaのFWF.出場決定おめでとう」
「ありがとう。Afterglowも最近どんどん注目を集めているね」
……私そっちのけで会話が弾んでいる。
他に話せそうな人がいないからかも。
いっそのことガールズバンド保護者懇親会とか企画しようかな?
学校が分かれていると会う機会がない人達もいるだろうし。
ガラガラガラ
「ワンコ、お見舞いに来た、わ!?」
「ちょっと湊さん、ノックくら、いっ!?」
相変わらずノック無しで入ってきた友希那さんが父親二人を見て固まる。
後に続いた蘭ちゃんも同様。
「奇遇だな」
「やあ二人とも」
父親二人は特に気にせず娘達の話題で盛り上がり続ける。
これだから男って……。
「次のライブこそ蘭はやってくれますよ?」
「いやいや、うちの友希那も更に進化しますから」
何この空気。
目の前で親馬鹿っぷりを発揮する両名、娘さん達は居たたまれない。
「ワンコ、外の空気を吸いに行くわよ」
「そうですね。屋上にでも行きましょう」
「うん……」
その日見た夕焼けの赤さは筆舌に尽くしがたかった。
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<備考>
ワンコ:為せば成る精神。
湊父:職業不詳。
美竹父:おやばかどう家。
湊友希那:赤いわね。
美竹蘭:湊さんこそ。
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