犬も歩けば棒に当たる 作:政影
「……やまぶきベーカリーはすげーな」
「ふふ、ありがと有咲」
今日はワンコ先輩のお見舞いという事で沙綾と病院に来ていた。
病室に行く前に沙綾のお願いで売店に寄ると何故かやまぶきベーカリー特設コーナーが。
「前にワンコさんと話してた時に『小麦アレルギーの友達にも食べて欲しい』って言っててね」
「なるほど、それで米粉パンが多いのか」
「うん、お父さんも張り切っちゃって。ワンコさんが燐子先輩経由で販売スペースも押さえてくれたんだ」
定番のチョココロネやあんパン、メロンパン等が米粉で作られている。
普通に美味そうだし。
やべーな、やまぶきベーカリー。
「店舗の方の分もあるから毎日は販売できないのがネックかな」
「それは仕方ねーな。店の方の商品が減ったらりみやモカちゃんが暴動起こしそうだし」
「あはは、確かに」
熱烈なファンが多いよな。
まあ、私も嫌いじゃねーし。
ばあちゃんのご飯の次位には認めてる。
「有咲が嫁に来てくれると嬉しいんだけどな~」
「ばーか」
冗談でもそんなこと言われたら意識しちゃうだろ。
「でも、二号店を出す時になったら資金援助を考えなくも……やっぱ今の無し!」
「ふふっ、パンで世界を笑顔にする位に頑張らないとね」
コンコンコン
「はーい」
「沙綾と有咲です。失礼します」
「失礼します」
沙綾に続いてワンコ先輩の病室に入るとワンコ先輩と燐子先輩がいた。
若干引き気味の表情のワンコ先輩と心なしか楽しそうな燐子先輩。
手には小瓶っぽい何か。
……嫌な予感しかしねーし!
「お土産のパンここに置きますね」
「ありがとう。退院したら全力でバイトするから」
「期待してますね。あれ、燐子先輩の持っているのって香水ですか?」
おい沙綾、そこに触れるな!
全力でスルーしようと思ってたのに。
「はい……ワンコネスフレグランス、通称『ONENESS』……です」
……燐子先輩のドヤ顔って初めて見た。
どこにドヤるポイントがあったのかは謎だけど。
「燐子さんその名称は流石に恥ずかしい」
「ワンコさん由来なんですね」
「へ、へ~」
興味津々の沙綾とは反対に生返事な私。
いやどう考えてもやべー香水だろ!
「山吹さんも……使ってみます?」
「え、いいんですか? ありがとうございます」
喜んで受け取る沙綾。
どうなっても知らねーぞ……。
「えいっ♪」
プシュ、プシュ、プシュ
「はぁ!?」
何を思ったのか沙綾は私の髪に三噴射。
ちょまま!?
「う~ん、あんまり香りませんね」
「おい、自分で試せよ!」
「相変わらず仲良いね」
「……ふふっ」
私達の掛け合いを微笑ましく見つめるお二人。
あー、恥ずかしいな!
「全く、香澄じゃあるまいし悪ノリし過ぎだろ」
「有咲、ごめんってばー」
病院からの帰り道愚痴をこぼす私。
ポピパの面倒枠は香澄とおたえで間に合ってるんだよ!
「で、なんで沙綾は私と腕を組んでんの?」
「何となく~」
誰だお前状態。
こんなに甘えてくる沙綾なんて見た事ないぞ。
というか左腕に当たる感触が柔らかくて……。
「有咲照れてる~」
「照れてねーし!」
まじで香澄かおたえと入れ替わってるんじゃないか!?
「あら、あなた達」
「ありさやだ!」
ばったり氷川姉妹と遭遇。
ありさやとか言うなー!
「この香り……」
「るんっ♪ ってきたー!」
いきなり両方のツインテールを氷川姉妹それぞれに持たれ匂いを嗅がれた……えっ!?
何してんのこの人達!?
「ちょっと止めてください、有咲は私のものですよ!」
沙綾まで何言ってるの!?
カオス過ぎんだろ、この状況……。
「……失礼したわ。日菜、さっさとお見舞いに行くわよ」
「うん。じゃーねー」
足早に去っていく氷川姉妹。
思い当たる事って……あの香水か!
「大丈夫だよ、有咲。安心して」
安心できる要素が見当たらねー。
早く帰りたいと心底思った。
「その香り、悪くないね」
「ブシドーを感じます!」
「フヘヘ……いい匂いです」
「あーちゃん、少し食べていい?」
「わん♪」
「にゃー♪」
「ぽっぽー♪」
色んな人(+動物)に追いかけられ銭湯「旭湯」に逃げ込んだ……ホラー映画か!?
香澄とおたえとりみに出会わなかったのが唯一の救いだな。
沙綾ですらこの状態なのに……想像しただけで頭が痛い。
……流石に洗い流せば効果も消えるだろ。
「大丈夫だよ、洗い流しても有咲への思いは変わらないから」
「ちょ、髪位自分で洗えるし!」
「悪い虫が付かないように念入りに、ね」
「どさくさ紛れて前も洗おうとするんじゃねー!」
「ふふ、有咲かわいい♪」
この後無茶苦茶洗髪した。
「……有咲ごめん」
「いいって」
念入りに洗い流したお陰か効果は消えた模様。
我に返った沙綾は休憩所の隅で体育座り姿で項垂れている。
「でも……」
「あー、うぜー!」
「きゃっ!?」
問答無用で頭を抱きしめる。
……シャンプーに混じった微かな沙綾の香り。
折角入浴で火照った体を冷ましていたのにまた熱くなるじゃねーか。
「香澄やおたえでこれ位慣れっこなんだから落ち込むなよ」
「…………うん」
「沙綾は抱え込みやすいんだから少しはあの二人を見習えって。……見習い過ぎても困るけど」
「……ふふ、やっぱり有咲は優しいね。それに胸も大きい」
「胸は関係ねーだろ!」
沙綾だって大きいじゃねーか!
「青春ね~」
「いいわね、若いって」
「キース! キース!」
ちょ、そこのご老人方、煽るのやめてくれませんか!
「有咲……しちゃおっか?」
潤んだ瞳で見つめてくる沙綾。
まだ効果が残ってんのか?
雰囲気に呑まれそうになるけど、彼女の両肩に手を置いて一言。
「私そんなにチョロくない!」
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<備考>
市ヶ谷有咲:おまえが長く深淵を覗くならば、深淵もまた等しくおまえを見返すのだ。
山吹沙綾:愛が深い。
白金燐子:改良の余地あり。
ワンコ:静観。
氷川姉妹:残りを購入。
下記の中で一番好きな話は?
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プラチナは砕けない
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ファントムブレッド
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銭闘漂流
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アイアンオーシャン
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スターダストクマセイダース