犬も歩けば棒に当たる 作:政影
お誕生日おめでとうございます。
「ハッピーバースデー、りんりん!」
「あ、ありがとう……あこちゃん、みんな」
パチパチパチパチ!
わたしがあこちゃんから青薔薇の花束を受け取ると他のRoseliaのメンバーから拍手が起きた。
本当は今井さんの時のような大掛かりな誕生会を提案されたけど、誕生日当日は家族で食事に行く予定だったので遠慮した。
その代わり誕生日の近い友希那さんの時に併せて行うという事で納得してもらった。
……ふふっ、Roseliaメンバーは本当に義理堅い。
思い返すと高校生になってから、特に二年生になってから色々あった、な。
「りんりん嬉しそうだね♪」
「……うん、去年のわたしが見たら何て言うかなって」
去年の誕生日は家族以外だとあこちゃんくらいしか祝ってくれる友達がいなかった。
勿論不満というわけではない、あこちゃんは今でも一番の友達。
だけど今年はたくさんの友達に祝ってもらえて……嬉しい。
家族での食事会の後帰宅して直ぐシャワーを浴びる。
昔は男性の視線が嫌で仕方なかったこの体も、今では好いたり羨ましがったりする友達がいる。
それ自体は問題ないけれど――
「ちょっと……食べ過ぎたかも」
お腹周りを撫でるといつもよりぽっこりしている気がする。
それを差し引いても確実に一年前より……。
バンド練習の後にファミレスに寄る事が多いから気を付けないと。
少し前にあこちゃんに後ろから抱き着かれたときに
『りんりんは抱きしめがいがあるね♪』
と言われて地味に傷ついた。
本人に悪意は無いのだろうけど……。
ワンコさんに相談したらダイエット計画を考えてくれるかな?
寝間着に着替えPCを立ち上げる。
日付が変わる前にNFOのデイリークエストを終わらせないと。
「ふぁ……」
ログインしたあたりで眠気が最高潮に達した。
不味い……意識が……。
「――りんりん、そろそろ着くよ」
「はっ、あこちゃん!?」
聞き慣れた声に目を覚ますとあこちゃん……何故かNFOのネクロマンサーの格好をしている。
「突入前でもリラックス、流石はフライクベルト大陸一のウィザードね」
「ええ、私達も見習わなければいけません」
「そろそろ転移ゲートが開く時刻だね~、じゃあ冥界の入り口までひとっ飛びしよっか♪」
バード、タンク、ヒーラーのハイレベル装備をそれぞれ纏った友希那さん、氷川さん、今井さん。
ちょっと理解が追い付かない。
自分の姿を見てみると胸の谷間が強調されたウィザードの衣装、スカートのスリットも再現度が高くかなり際どい。
普通に考えると夢かな。
でも数年前からの流行でゲームの中という可能性も思い浮かんできた。
うん、ちょっとラノベの読みすぎかもしれない。
「友希那さん、リサ姉、紗夜さん、りんりん……そして、聖堕天使あこ姫。最強Roselia相手に冥界の番犬ごとき何するものぞ!」
呼び方は現実世界準拠なんだ。
親切設計で助かる。
「あこ、油断は禁物よ。燐子を見習いなさい」
「はい!」
「頑張ろうね、あこちゃん」
「うん!」
気を引き締めるあこちゃんが装備も相まって凛々しく見える。
わたしも心を落ち着かせると頭の中にいつものゲーム画面が浮かんできた。
使える魔法も装備も同じ、だったらいつも通りにやるだけ。
冥界の番犬と言えばケルベロス、恐らくは闇属性の攻撃をしてくるはず……ゲームによっては火属性も。
光属性の魔法を放つタイミングが重要。
神話通り友希那さんの竪琴で眠ったり、山吹ベーカリーのパンで懐柔できれば楽だろうけどそれはないか。
段々余裕が出来てくるとゲームと同様にはきはきと喋れている事に気付いた。
彼女ともこれ位普通に会話出来たらいいな。
そして彼女もこの世界にいるのだろうか?
一抹の不安を残してわたし達は冥界へ続くゲート前のベースキャンプを後にした。
「標的はあいつらかわん!」
「ボッコボコにしてやるわん!」
「さーて、お仕事がんばりましょ♪」
ゲートを抜けた先、恐らく冥界の入り口に彼女――ワンコさん――がいた。
ワンコさんがケルベロスか……もうちょっと捻ってよ。
両手にはポメラニアンを模したような犬のパペットを嵌め、赤を基調としたビキニアーマーとフサフサの犬耳を装備している。
もしかしたら犬耳は自前かもしれないけれど。
最初の二つの台詞はパペットが喋ったのか腹話術だったのか少し気になる。
だけど敵対するからには容赦しない。
「いつも通りいくわよ」
「オッケー」「分かりました」「はい!」「任せてください」
前衛の氷川さんが今井さんの補助を受けつつ敵の攻撃を防ぎ、後衛のあこちゃんとわたしで魔法を叩きこむ、友希那さんは状況に合わせて歌で支援を行う。
現実世界でもやった事のない連携だけど何故かすんなりと頭に浮かんだ。
「開幕地獄の業火<ヘルファイア>!」
「『FIRE BIRD』で受けさせてもらうわ」
「追っかけヒール!」
ワンコ……ケルベロスの火属性魔法を友希那さんの歌で軽減し、すかさず今井さんが回復魔法を使う。
その間にあこちゃんと私は呪文の詠唱に入る。
「させないよ」
「それはこっちの台詞です」
後衛を狙った突撃を氷川さんが盾で防ぐ。
パペットを付けたままの激しい殴打で盾が悲鳴を上げるが進ませない。
「ミニRoseliaいっけー!」
先に詠唱を終えたあこちゃんから放たれたRoseliaのメンバーをディフォルメした五体の死霊。
ケルベロスに纏わりつき動きを制限する。
「何するわん!」
「邪魔だわん!」
「冥界勢相手に死霊とか面白いね」
数秒と経たずにかき消されるミニRoselia。
だけどわたしの詠唱が終わるまでの時間稼ぎには十分だった。
「パラダイス・ロストッ!!」
無数の聖なる光がケルベロスに降り注ぐ。
わたしの光魔法の中では最強だけどまだ油断はできない。
「『Ringing Bloom』紗夜、今よ!」
「はい!」
友希那さんの補助を受けた氷川さんの青白く輝く聖剣が、わたしの魔法でよろめいたケルベロスを穿つ――
「残念賞、景品はこちら」
バンッバンッバンッ!
「そんな!? きゃぁ!」
聖剣が穿つまで後少しというところで、逆に黒い何かが三回氷川さんを貫く。
ケルベロスの手には禍々しい小銃らしき武器が。
「リサ回復を、きゃ!?」
「ちょ、友希那っ!? ぐっ!」
「容赦しないわん!」
「血祭りわん!」
いつの間にかケルベロスの手から離れていたパペットが、友希那さんと今井さんを頭突きで弾き飛ばした。
「あこちゃん、わたしが魔法でけん制するから死霊でみんなを下がらせて」
「う、うん」
「おっとそうはさせないよ。ミーくん召喚」
いきなり足元に出現した魔法陣から多数の大蛇が現れわたし達五人に絡みつく。
気持ち悪い。
でも、これ位なら無詠唱魔法で
カプッ
「んっ!?」
大蛇に噛まれた途端力が抜ける。
魔法発動に必要な魔力が失われていくと共に体が熱くなっていく。
それでも何とか立ち続けるが、これって……。
「生命力をいただくわん!」
「魔力もいただくわん!」
「代わりに感度を六百六十六倍にしてあげたから♪」
そんな……体の至る所を大蛇に蹂躙されている状態で感度を無理やり上げられたら!
「あっ……だめ……とってぇ……にゃぁ……」
「ゆ、きな……にげ……あんっ!」
「ら、らめぇ……ひなぁ……つぐみぃ……」
「りん……りん……あそこ、が……せつないよぉ」
他の四人を助けるためにも快楽に負けるわけには……んっ!
蕩けそうになりながらも打開策を考える。
「へ~、まだ頑張るんだ。それじゃあこんなのはどう?」
パチンッ!
ケルベロスが指を鳴らすと装備が解除され初期状態のボディスーツに。
露出が増え大蛇から受ける刺激が。
「そん、な……」
「更にサービス」
パチンッ!
今度は現実世界で今日身に着けていた下着に。
当然大蛇の蹂躙は止むことはなく……くっ。
「どこまで頑張れるかな?」
大蛇に加えケルベロスの人差し指が体中をなぞる。
耳、首、腋……精神が限界まで追い詰められる。
「はぁ……はぁ……」
「しぶといなぁ。まだ逆転出来ると? ……ん、髪の中に」
ケルベロスはわたしの後ろ髪の一部を編んで隠してあった小瓶を取り出す。
「かえ……して……」
「エリクサーの類か。おっと顔色が悪くなったね」
邪悪な笑みを浮かべるケルベロス。
わたしの限界も近付く。
そして……小瓶の蓋が開けられる。
「君の絶望した顔を肴にいただくよ」
「ああ……そんな……」
わたしは涙を流し項垂れる。
これで勝負あり、だ。
バタン!
ケルベロスが倒れ大蛇が霧散する。
わたしは直ぐに装備を元に戻しアイテムボックスから以前フェンリル討伐で使ったグレイプニルを取り出し縛り上げる。
次はあこちゃん達を回復させないと。
事後処理は大変だ。
「つまりエリクサーに偽装した睡眠薬入りのお酒で眠らせたと」
「はい。睡眠薬入りの酒に浸したパンで眠らせたという神話もあるので念の為に用意しました」
「流石りんりん!」
「で、この気持ち良さそうに寝ている駄犬はどうするの?」
種明かしも終わりケルベロスの処遇に頭を悩ませる。
恥ずかしい目に遭わせられたので最初は殺意を抱いたけど。
「……もう目は覚めていますよね?」
「あららバレてたか」
簀巻きにされながらも居住まいを正すケルベロス、やはり侮れない。
「お聞きしたいのですが、あなたを殺した場合冥界の入り口の番は誰がしますか?」
「あー、別のケルベロスが湧く事になってるよ」
「拉致した場合も?」
「そうだね」
「ではネクロマンサーのあこちゃんと主従契約結んでもらえませんか?」
「そうきたか」「りんりん!?」
一本取られたという顔のケルベロスと理解が追い付いていないあこちゃん。
冥界の住人ならネクロマンサーが使役してもいい筈、多分。
「前衛が欲しいと思っていたから私は構わないわ」
「友希那がそう言うならアタシも賛成かな」
「銃撃でわざと急所を外された身としてはどちらでも」
「う~、じゃあ、あこと契約してもらうからね!」
「うん、楽しい冒険を期待するよ」
結果的に仮初の世界であってもワンコさんに似た存在を助けられた事に安堵する。
……よく考えるといつでも私達を全滅させられたのにわざと勝ちを譲られた気が。
気のせい、気のせい!
精々こき使ってやることにしよう、うん。
『――りんりん! りんりん!』
「……あこちゃん?」
『りんりん寝落ちしてたよ、数分だけど』
あこちゃんからのボイスチャットでの呼びかけで現実に引き戻される。
どうやら安定の夢落ちだったようだ。
だけど……。
「……あこちゃんごめん……汗かいちゃったみたいだから……離席するね」
『うん、その間ソロでやってるね♪』
WEBカメラとマイクのスイッチを切り浴室へ向かう。
悲惨な状態になってしまった下着を脱ぎつつ、明日必ずワンコさんに嵌める首輪、もといチョーカーを買うことを誓う。
夢の中とはいえ散々に弄んでくれたのだから。
白金家の家訓は百倍返し、覚悟してくださいね。
感想、評価、誤字報告などありましたらよろしくお願いします。
<備考>
白金燐子:決意を新たにした誕生日。
宇田川あこ:わたしの、最高の友達。
湊友希那&今井リサ&氷川紗夜:悪夢にうなされた。
ワンコ:日頃の行い。
入学した年の話って読みたいですか?(リサさん、千聖さん出番多め)
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