犬も歩けば棒に当たる   作:政影

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今年最後の投稿です。

来年もよろしくお願いします。


その他-7:年末(シーズン1)

「と、と、よっと」

 

 既に昼過ぎ。

 臨時で呼ばれた神社のバイトから解放され石段を駆け降りる。

 冬のこの時期はインフルやらノロやらであちこちで欠員が出るので大忙し。

 朝一でやまぶきベーカリーを手伝いその足で神社、次は羽沢珈琲店。

 猫の手も借りたい気分。

 

 

 

 

「ワンコ先輩~」

 

「ワンコ師匠!」

 

「悪い遅れた」

 

 後ろ髪を一つ結びにしてエプロンを着けホールに入る。

 既につぐみちゃんもイヴちゃんも疲労困憊のようだ。

 

「五分休んで」

 

「はい」「承知です」

 

 ランチタイムを乗り切った二人を一旦バックヤードに下がらせる。

 五分間を一人で凌げば回復した二人が復帰する。

 後は交替で休みを取りつつ万全の状態でティータイムを迎えるだけ。

 今年の集大成といきますか。

 

 

 

 カランカラン

 

 

「ワンコ先輩!」「ワンコちゃん!」

 

「いらっしゃいませ」

 

 扉が開くと同時に競い合うように入ってきたのは蘭ちゃんと日菜ちゃん。

 後ろにはAfterglowとパスパレの面々が見えるので、働いている二人と合わせて二バンド揃い踏みで超豪華。

 ティータイムには少し早いので席は……大丈夫そう。

 

「忙しそうね」

 

「お陰様で。ところで何かの集まりですか、千聖さん?」

 

「たまたまよ」

 

 意味深な笑みを浮かべる千聖さんにドキッとさせられる。

 最近は直接会う機会が減ったけど元気そうで何より。

 まあテレビとか広告とかで見かけない日は無いので寂しくはないけど、うん。

 

「ワンコ先輩、いつもの」

 

「あたしも!」

 

「蘭ちゃんはブラックコーヒーにビターチョコレートケーキだね。日菜ちゃんは毎回注文違うでしょ?」

 

「そうだっけ? じゃあるんっ♪ とするやつ」

 

「はいはい。……季節のケーキセットかな?」

 

 今ある商品の中だと私が一番好きだし。

 春の苺も良いけど冬の苺も特別感があって好き。

 紅茶は……ダージリンがいいかな?

 

「私は――」

 

「ヒマリさんはフューチャーワールドパフェですね!」

 

「ひーちゃん、かっこいー」

 

「お、流石ひまり。ソイヤっ! なカロリー量だな」

 

「軽く成人男性二日分はあるっすね」

 

「ひまりちゃん、写真だけ撮らせて」

 

「何で頼む前提なの!」

 

 ……頑張れAfterglowのリーダー。

 ちなみに一人で完食できたのはモカちゃんとまりなさんだけらしい。

 私はその時いなかったのでどんな食べっぷりだったか興味あるけど。

 

 

 

 

「お先に失礼します」

 

 二バンドが帰った後ディナータイムの仕込みが終わる夕方まで働き羽沢珈琲店を後にした。

 みんな出会った時より色々な意味で確実に成長してる。

 私も負けてられない。

 

「あ、ワンコ先輩!」

 

「おっと」

 

 抱き着いてきたのは香澄ちゃん。

 毎回抱きつかれているような気がするけど、悪くない。

 髪型的には猫だけど犬属性。

 

「これからハロハピと合同ライブやるのでどうですか?」

 

「へー」

 

 辺りを見ると数時間前には無かった筈のステージが駐車場に組み立てられていた。

 よく見るとあちこちに黒服の人達がいるし。

 

「ちなみに決まったのはいつ?」

 

「ついさっきまでCiRCLEで練習してて、外に出たらこころん達も丁度終わったっていうから――」

 

 あ、これ、その場のノリで決まったやつだ。

 黒服さん達毎回お疲れ様です。

 ステージの横で有咲ちゃんと美咲ちゃんが頭を抱えながらも何とかしようと頑張ってる。

 なら答えはひとつ。

 

「うん、私も手伝う」

 

 

 

「ライブやるよ~♪」

 

「わーい!」

 

 青いミッシェル(通称:ミッシェル妹)の着ぐるみを黒服さんに用意してもらいライブ告知のビラを配る。

 ライブ内容については手伝いようがないし、関係各所への根回しは黒服さん達がやってくれている筈。

 なら私のする事は一人でもお客さんを集める事。

 

「あ、ミッシェル妹だ」

 

「ああ、なんて儚い青さなんだ」

 

「まあ、あなたも手伝ってくれるのね。ありがとう!」

 

 誰が言ったか「ハロハピの3バカ」登場。

 この顔ぶれを見るとつい笑顔になってしまうあたり私も毒されていると思う。

 

「ワンコちゃん、だよね?」

 

「うん、出来る限り協力するから」

 

 小声で聞いてくる花音さんを安心させるように頭を撫でる。

 着ぐるみ越しだと力加減が難しい。

 

「私も一枚欲しい」

 

「おたえちゃんが配ってるのと同じだよ」

 

「お疲れ様です」

 

 ポピパのみんなも元気そうで。

 たえちゃんの安定っぷりに安心する。

 

「みんな、有咲と美咲ちゃんがセトリ出来たって」

 

「さすが美咲と有咲ね! それじゃあ世界を笑顔にするわよ」

 

 私とハイタッチを交わしステージに向かう面々。

 何かやってくれそうなハラハラとドキドキがたまらなく気持ち良い。

 着ぐるみも中身も目がキラキラ。

 

 

『ポピパ』

 

『ピポパ』

 

『スマイル』

 

『イエーイ!』

 

 

 ポピパとハロハピ、演奏者と観客の声が入り混じった開幕の合図。

 さあビラ配りも終わり、存分に楽しもう。

 

 

 

 

「遅かったわね」

 

「お帰り~♪」

 

「お邪魔してます」

 

「おかえり……なさい」

 

「地獄の番犬の帰還ぞ!」

 

「にゃー」

 

 一時間程度のライブを堪能し片付けを少し手伝ってから帰宅したところ、何故か私の部屋にはRoseliaの面々が。

 ちなみにユキは友希那さんの膝の上で丸くなっていた。

 とりあえず湊家で唯一の長方形炬燵の空いている場所に入る。

 暖かい。

 

 

  リ友

  ――

ワ|  |紗

  ――

  燐あ

 

 

「友希那、みかんの白い筋は栄養豊富だから食べなきゃ駄目だよ」

 

「分かってるわよ」

 

「はい、お茶」

 

「ありがとう、リサさん」

 

 かいがいしく働くリサさんの淹れたお茶で喉を潤す。

 今日も忙しかったな……。

 

「で、なんでみんな集まってるの?」

 

「……別にいいでしょ」

 

「もう、友希那ったら。今日が年内の最後の練習だったのにワンコがいなかったからご機嫌斜めなんだよね?」

 

「ちょ、リサ!?」

 

「ごめん、友希那さん」

 

「……別にいいわよ」

 

 拗ねた顔も可愛い。

 ……口にしたら怒られそうだけど。

 

「はい、みんなに」

 

 アレの存在を思い出し鞄の中を漁る。

 そして数時間前に私が作ったものを取り出す。

 

「無病……息災」

 

「お守りですか?」

 

「うん、正式な作法で私が心を込めて作ったものだから普通のより良いと思う」

 

 まあ中身の木片は印刷っぽいけど。

 鰯の頭も信心から、って言うし。

 種類は何にするか悩んだけど努力で何とかしちゃいそうなやつと関係ないやつを除いたら無難な結果に。

 ……病気や怪我でメンバーが欠けるのは嫌だし。

 

「そうですね。修羅場を潜り抜けてきたワンコさんだけにご利益がありそうです」

 

「あこ一生の宝にしますね!」

 

「本当は一年毎に新しくした方が良いんだけどね」

 

 効力が切れるとか、穢れが溜まるとか。

 

 

「一年かぁ……来年は何してるのかな、友希那?」

 

「当然頂点を目指して研鑽を続けているわよ」

 

「来年度で高校卒業ですし。進学、就職、またはプロデビュー……今のままとはいきませんよね?」

 

「そうだよね~。友希那はRoselia以外でやりたい事はある?」

 

「そうね……音大に進んで真摯に音楽と向き合うのも……いえ忘れて頂戴」

 

 そっぽを向く友希那さんの顔は赤い。

 将来の事を色々と考えているみたいで何か嬉しい。

 一般科目なら手伝うから。

 頑張れ、自慢の姉。

 

「紗夜は何かやりたい事はあるかしら?」

 

「いえ……今まで日菜に負けたくないの一心でギターに打ち込んできたので」

 

「にゃーん」

 

 ユキが起き上がり表情の陰った紗夜さんに擦り寄る。

 湊家で一番優しく行動的な女の子。

 

「大丈夫ですよ、ユキさん。必ず自分の道を見つけますから」

 

「にゃ」

 

 優しくなでられてユキもご満悦。

 紗夜さんは回り道をした分報われてほしい。

 笑顔にさせたいおねーちゃん。

 

「白金さんはどうですか?」

 

「私は服飾関係を……Roseliaの衣装作りが……楽しかったので」

 

「りんりんならランナウェイ間違いなしだよ!」

 

「あこちゃん、それだと逃亡。ランウェイね」

 

 確かに燐子さんが作った衣装って抜きん出ている気がする。

 着る人への愛も感じられるし、素敵。

 その溢れ出る情熱を持ち続けて。

 

「ワンコ……さんは?」

 

「私? 卒業したら就職するつもりだったけど、湊夫妻に『学費は出すから大学に行って見聞を広めなさい』って言われて」

 

「そうね、ワンコなら高みを目指せるわ」

 

 経営学を学んで個人事務所の立ち上げ……そんな単純なものでもないか。

 とりあえず自分のやれる事を増やさないと。

 「狂犬」を卒業したら何になるのかな?

 

「リサさんは調理師学校?」

 

「それもいいんだけどね。最近は看護とか保育とかにも興味がね~」

 

「流石Roseliaの母」

 

「ちょっと現役JKに向かって酷くない!?」

 

「リサなら問題ないわ」

 

「事実ですしね」

 

「今井さん……オカンスキルマ」

 

「リサ姉じゃなくてリサ母?」

 

「にゃ~」

 

「ちょっとみんな、ユキまで!」

 

 リサさんのお腹をふみふみするユキ。

 ちょっと羨ましい。

 私の……憧れ。

 

「も~、ちなみにあこは高等部に入ったら何したい?」

 

「あこは……自分の想いを言葉に出来るようになりたいかな」

 

「……素敵」

 

 あこちゃんの手を取り嬉しそうな燐子さん。

 今は語彙力不足を擬音語で補ってるし、姉は「ソイヤっ!」だし。

 もし言葉で正確に表現出来たら……楽しみ。

 最年少で青薔薇の一人、ある意味一番可能性を秘めている存在、見守りたい存在。

 

 

「ではまず冬休みの宿題ですね。湊さんは大丈夫ですか?」

 

「と、当然よ」

 

「へー」「ほー」「にゃー」

 

 言い淀む友希那さんに疑いの目を向けるリサさんと私とユキ。

 まずい、最近忙しくてチェックが漏れてた。

 

 

「将来の事よりまずは進級しないとね」




感想、評価、誤字報告などありましたらよろしくお願いします。

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<備考>

湊友希那:買ってきてもらう。

今井リサ&ワンコ:サーチケ入場で手分けして買う。

氷川紗夜:綿密な計画を立て始発。

宇田川あこ:おねーちゃんとのんびり参加。

白金燐子:通販。

下記の中で一番好きな話は?

  • 今井リサ誕生日(8/25)
  • 紗夜視点(一寸の光陰軽んずべからず)
  • 白金燐子誕生日(10/17)
  • 今井リサの弟
  • 湊友希那誕生日(10/26)
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