犬も歩けば棒に当たる 作:政影
そろそろ本編0を進めませんと。
カリカリカリ
ペラッ
カリカリカリ
ペラッ
無音の部屋にシャープペンの筆記音と問題集を捲る音だけが響く。
炬燵の反対側の友希那さんを盗み見ると真剣な表情。
ステージ上の格好良さとは別の趣がある。
「……私の顔を見ている暇があるの?」
「うーん、そろそろ終わりにしない?」
「あら、もうそんなに経ったかしら」
「飲み物持ってくるね」
立ち上がり一階へ降りる。
夜も遅いしカフェイン入り以外だと……牛乳でいいか。
冷蔵庫から取り出しマグカップに入れ電子レンジで温める。
……この時間帯だし流石に砂糖無しでもいいよね?
二階の自分の部屋に戻る。
友希那さんは猫頭型猫用クッションの中で丸くなっているユキを眺めて幸せそう。
買って良かった。
掃除したり天日干したりする手間はあるけど。
「……にゃあ」
「起こしちゃったかしら」
目を覚ましたユキは座っている友希那さんの足に体を擦り付ける。
そんなユキの背中を優しく撫でる友希那さん。
両者とも可愛い。
「はい、ホットミルク」
「ありがとう」
両手でマグカップを持ち「ふぅふぅ」と冷ます友希那さん。
離乳期を過ぎたユキはお皿の浄水器で濾過した水道水をちびちびと飲んでいる。
水分が足りないと病気になるので気を付けないと。
「来て」
「うん」
友希那さんは炬燵から少し体を離し隙間を作ると私に手招きする。
私は隙間に頭を……つまり膝枕。
華奢な友希那さんの太ももに横から頭を載せた。
目と目が合い互いに微笑む、幸せ。
「眼帯取るわよ」
「ん」
外される右目の眼帯。
瞼を開けるが私の視界に変化は無い。
濁って用をなさない眼球はあんまり人に見せるものじゃないけど。
「悔しいわね」
「ん?」
「半分しか私の事を見てもらえないなんて」
ちょっと拗ねたような言い方。
言葉とは裏腹に優しく頭を撫でられた。
「左目で二倍見るので許して。それにワンコの耳は良いから」
「許すわ」
即答すると友希那さんは細い指先を耳に侵入させてきた。
人差し指で内側を親指で外側を。
丹念に丹念に、何だか不思議な気分。
「……何か困っていることは無い?」
「全然」
「そう……」
表情に少しの翳り。
自惚れかもしれないけど、多分私だけに見せる弱さ。
寝ころんだままそっと片手で友希那さんの頬を撫でる。
「こんなところに迷える子猫。人生相談ならいつでも受け付けてるよ?」
「……ふふっ、そうね。じゃあ今の私はワンコから見て『間違ってない』かしら?」
私を見つめる真剣な眼差し。
その奥に隠された微かな不安。
本当は熟考した方が良いかもしれないけど言葉が抑えきれない。
叫びたがってる。
「ワンコ的には『間違ってない』よ。だって友希那さんも私も毎日笑えてるし」
「……単純ね」
少し呆れたような表情。
それでも安堵したような空気を感じる。
「うん、私は単純だからこの瞬間の幸せを一番享受できる」
「羨ましいわ」
髪をくしゃくしゃされる。
狂犬も今やすっかり愛玩犬だ。
「間違ったらRoseliaのみんなが止めてくれるって知ってるくせに」
「当然よ」
あ、ドヤ顔可愛い。
こうやってコロコロと変わる表情を楽しめるのも妹の特権。
「で、質問の意図は?」
「……私の一年生の時の事ってリサから聞いてる?」
「少しだけ」
つれなくされても話しかけ続ける様子を本人から聞かされてたし。
嬉々として語るその様子にちょっとマゾかもと若干引いてた。
まあこうして友希那さんの傍にいると理解できた。
放っておけない、傍にいたくなる。
「闇雲に一人で突っ走って。少しは実力もついて有名になったけど危ない目にも遭って……」
「でも今は私達がいる」
辛そうな表情につい言葉を遮ってしまう。
私も甘くなった。
「一人で頑張ることも大事。でも一人だけだと限界がある」
「……そうね。これからRoseliaがどこまで行けるか私が一番楽しみにしてる」
「うん、私も楽しみ」
自信に満ちた表情。
いつもの友希那さんに戻ったみたいだ。
弱さを見せてもらえるのも信頼の証。
このポジションは譲れない。
「にゃー」
私もいるよ、とユキが私の胸の上に乗り鳴く。
平らな胸に感じるそこそこの重量。
多分生後一年くらいなのでこれ以上重くはならない筈。
「あら、ユキも楽しみにしてくれるの?」
「にゃん♪」
「ふふっ、任せなさい」
本日最高の笑顔でユキの顎を撫でる友希那さん。
……ちょっと悔しいかな。
「今日は一緒に寝ない?」
寝返りで潰さないようにユキをケージに入れた後、友希那さんにそんな事を言われた。
ちょっと胸が高鳴ったけど冷静に振る舞う。
「……リサさんに悪いような」
「それはそれ、これはこれよ。一緒に寝るだけだし」
「じゃあお言葉に甘えて」
炬燵を端に寄せ布団を敷く。
布団は一つ、枕は二つ。
……ちょっと刺激的な絵面。
「おやすみ」
「おやすみなさい」
気にした様子もなく布団に入り眠りに就く友希那さん。
信頼されているからだろうけど、ちょっと無防備すぎる。
……別に何もしないけど。
ユサ、ユサ
「――起きて」
「……ん、あれ?」
体を揺すられて目を開けるとどこかで見たような銀髪の幼女。
確か……。
「私よ。友希那よ」
「えっ!?」
思い出した。
確かに前に見たアルバムの幼少期の友希那さんだ。
それに十年位前に病院の屋上で私の為に歌ってくれた――
「可愛い」
「えっ、ありがとう……。そうじゃなくて」
体の前で腕をバタバタさせる子供っぽい仕草で否定の意を示す幼い友希那さん。
今も昔もそれぞれ魅力的。
「夢って事でいいの?」
「理解が早くて助かるわ。まあ私も自分が湊友希那だという認識があるから、ワンコが私の夢の一部かも知れないけれど」
「そっか。じゃあ取り合えず」
「えっ!?」
幼女友希那さんの小さな体を抱きしめる。
今よりももっと華奢な体。
私を救ってくれた恩人。
「急に何?」
「十年前は体が自由に動かせなかったから出来なかった事。私に光をくれてありがとう」
「……お礼なら前にも聞いたわ」
「うん、でも今の姿を見て、また言いたくなっちゃった」
「……好きにすればいいわ」
そっけなく言う幼女友希那さん、だけど顔は赤い。
嗅ぎ慣れた優しい香り。
「いつまでいちゃついてるの、いい加減にしろ!」
「ん……友希那さん?」
怒鳴り声のした方を見ると二人目の幼女友希那さん。
何故か猫耳と尻尾を付けている。
「あら、前にも会ったわね。なんでそんな愉快な格好なの?」
「あなたが言ったじゃない!」
「……そう言えばそうね。可愛いわ」
「可愛いって言うな!」
二人の幼女友希那さんが言い争う光景。
リサさんが見たら鼻血出して倒れそう。
カメラが手元にないのが悔やまれる。
「あのー」
「何よ!?」
「何て呼べばいいの?」
「ふぇ……白友希姫」
「ぷっ!」
思わず噴き出す幼女友希那さん。
それに対して顔を真っ赤にした白友希姫。
完全に赤友希姫かも。
「何笑ってるのよ! 私はあなたの無意識から生まれたのよ!」
「あら、私って意外と少女趣味なのかしら?」
「ぐぬぬ」
幼女友希那さん自分相手に容赦ないね。
むしろいつもより生き生きとしてる。
「なるほど、友希那と白雪姫を掛けたのか」
「変なタイミングで分かり切った解説をするな!」
怒られちゃった。
「怒りっぽいなぁ。友希那さん、ストレス溜めすぎ?」
「おかしいわね。毎日ユキを撫でてストレス解消しているのに」
「……自分でも気づかない内に溜まってるのよ」
少し辛そうな表情で語る白友希姫。
本人が言うのならそうなんだろうね。
やっぱりこの子も友希那さんだ。
「ありがとう、私」
「なっ!?」
白友希姫に正面からハグを敢行する幼女友希那さん。
「じゃあ私も。いつも友希那さんの心を守ってくれてありがとう」
「ちょっ!?」
白友希姫の後ろからイヴちゃん直伝のハグ。
「新年で浮かれてると思って説教しに出てきたのに何なのよ!」
「あら私はいつでも通常運転よ」
「まあまあ。白友希姫さんも今年一年よろしくお願い」
感謝と親愛の意を込めて首筋にキス。
まあ夢だしいいよね。
表に出すのが苦手なだけでリサさん並みに優しい天使に祝福を。
「……覚えてる?」
「二人とも可愛かった」
「忘れ……いえ、何でもないわ」
翌朝の空気は実に微妙なもの。
折角忠告しに出てきてくれたので気を引き締めていこう。
Roseliaに油断や慢心は不要。
あとキスマークがばっちり残っていたので怒られた。
感想、評価、誤字報告などありましたらよろしくお願いします。
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<備考>
湊友希那:自分を省みる程度には余裕がある。
ワンコ:バイトは一段落。
ユキ:日中は窓辺、夜は炬燵の傍かクッション。
【傲慢】友希那→白友希姫:割とメルヘンな無意識さん。
下記の中で一番好きな話は?
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今井リサ誕生日(8/25)
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紗夜視点(一寸の光陰軽んずべからず)
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白金燐子誕生日(10/17)
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今井リサの弟
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湊友希那誕生日(10/26)