犬も歩けば棒に当たる   作:政影

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お誕生日おめでとうございます。


「その他-5:湊友希那誕生日(シーズン1-10/26)」の後の話です。


その他-10:湊友希那誕生日2(シーズン1-10/26)

「今度は私が子供の番かしら」

 

 気が付けば以前にも経験した白い霧の中。

 鏡はないけど手の大きさや触れた髪の長さから昔の私の姿だと分かった。

 全く……ワンコと一緒に暮らすようになってから変な夢を見る機会が増えたわね。

 

 

 十月生まれ合同誕生日会の帰りに猫の集会を堪能していたせいで帰宅してから両親のお説教。

 その後、ワンコと一緒にいつもより遅めの入浴。

 確かさっきまでワンコに髪を拭いてもらっていたから……もしかして寝落ち?

 

 

 まあ……ワンコが風邪をひかないようにしてくれるから肉体の方は問題ないわね。

 

 

 この夢も前みたいに進んでいけばそのうち目も覚める筈。

 

 今度は何が待っているのか、少し楽しみね。

 

 

 

 

「あら、燐子じゃない」

 

「えっ……もしかして友希那さん……?」

 

「そうよ、こんな姿だけど」

 

 いつも通りの燐子の姿に少し安心感を覚えながらスカートの端を少し持ち上げる。

 近付くと身長差もあって下から見上げる形になったけど……凄い迫力ね。

 

「……もしかして……夢?」

 

「多分そうね。私の夢か、燐子の夢か、あるいはその両方か」

 

「……なるほど」

 

 私の仮説に瞳を輝かせている燐子。

 こういう現実離れした話は好きなようね。

 前に曲作りの参考に小説を薦めてもらったけどファンタジーやSFだったし。

 

「……少し……試してもいいですか?」

 

「? ええ、いいわよ。夢なんて目が覚めればすぐに忘れるわ」

 

 何か良いことを思いついた表情の燐子に許可を出す。

 Roselia結成当初よりも積極的になってきたのは感慨深いわね。

 

「……では」

 

「んっ」

 

 抱きしめられ、その豊満な胸に私の顔が埋まる。

 少し息苦しさは感じるけど窒息する程じゃない。

 そして何故か頭を撫でられる。

 

 

「……世の理を変え我が意に従え」

 

 

 燐子の芝居がかった声と共に私の頭、撫でられている部分に熱を感じる。

 

 

「あっ、何なの!?」

 

「ふふふ……大丈夫です……わたしの想像通りなら」

 

 それは甘美な刺激となり全身を何度も電流が走る。

 このままだとおかしくなりそうだと思って燐子から逃げようとするも放してくれない。

 逆に胸への密着度が増してしまう結果に。

 

「次は……ここ……」

 

「ひゃんっ!」

 

 次に燐子が触ってきたのは服の中、お尻のあたり。

 さっきのことで全身が敏感になっている私は思わず恥ずかしい声を上げた。

 

「や、なに、この感覚!?」

 

「えらい、えらい……もう少しの辛抱……」

 

 涙目の私をあやすように優しい声色の燐子。

 ……一瞬サディスティックな笑みを浮かべたように見えたのは見間違いね、きっと。

 

 頭とお尻からむず痒さを感じ不安に思っていると――

 

 

「な、なに、この感覚は!?」

 

「……成功♪」

 

 

 私を解放した燐子がいつの間にか手にしていた鏡を見ると、頭の上にはにゃーんちゃんのような白い耳。

 お尻を向けて首だけ振り向けばにゃーんちゃんのような白い尻尾。

 

 ……まったく、夢の中は最高ね!

 

 

 

「すみません……つい調子に……」

 

「別にいいわよ。むしろお礼を言いたいくらいだわ」

 

 冷静になって恐縮しきりの燐子。

 この耳と尻尾の為だったら多少のことは水に流すわ。

 

「でも……」

 

「だったらしばらく間おんぶしてくれない? この体ならそんなに重くないと思うし」

 

「……はい♪」

 

 歩幅が違って燐子が歩きにくそうだから丁度いいわね。

 自分の歩幅で……逆に教えられた気分だわ。

 

「ふふっ」

 

「……何か……良いことでも?」

 

「良いこと、そうね。あなた達といると毎日が発見の連続だから良いことだらけね」

 

「……私も……同じです」

 

 現実世界では言葉にすると少し恥ずかしい台詞でもここでは、ね。

 

 

 

 

「あ、りんりん! それと……友希那さん!?」

 

「あこちゃん……」

 

「よく私だと分かったわね」

 

 次に出会ったのはあこ。

 その姿は――

 

「ネクロマンサー……かっこいいよ……」

 

「ありがとーりんりん♪ ドーン! バーン! って願ったら変身できたんだ♪」

 

 前にNFOで見た衣装ね。

 私服やライブ衣装にどことなく似ているから違和感はない。

 

「似合っているわよ、あこ」

 

「あ、ありがとうございます! 友希那さんも……かっこ可愛いです!」

 

「ふふっ、ありがとう」

 

「その耳と尻尾どうやったんですか!?」

 

「燐子が生やしてくれたの」

 

「おおっ、流石我が…………相棒!」

 

「うん……そうだね……」

 

 あこの順応力は流石ね。

 それに――

 

「触りますよ~」

 

「んっ! 良い気持ちよ」

 

 尻尾の付け根というデリケートな場所に対する絶妙な力加減。

 普段のスティック捌きが見事に生かされているわね。

 思わずマーキングしかけたわ。

 

「とってもフサフサ、りんりんの魔法も友希那さんの猫力も最高!」

 

 喜んでくれたのなら幸いね。

 

 

 

 

「へー、これって夢なんだ」

 

「……多分」

 

「順番的に次は紗夜かしら?」

 

 ひとしきりあこに撫でられた後再び歩き始めた。

 あこがどうしてもというので今はあこに背負われている。

 筋力増強魔法で私程度の重さは問題ないなんて羨ましいわね。

 回復魔法で喉を回復できればいくらでも歌い続けられそうだし。

 でもリサやワンコに止められるかしら?

 

 

「あ、大きな犬!」

 

「……うん……ふさふさ」

 

「奇麗な水色ね」

 

 

 

「紗夜さん!?」「氷川さん!?」「紗夜?」

 

 

「……くーん」

 

 

 

 か細く鳴くわーんちゃん、中身はおそらく紗夜。

 何があったのかしら?

 

 

「あ、友希那ちゃん、燐子ちゃん、あこちゃん♪」

 

「日菜ね」

 

「うん!」

 

 紗夜犬の陰から飛び出してきたのは水色のにゃーんちゃん、まあ日菜よね。

 Roseliaのメンバー達しか出てこないと思っていたからちょっと意外だったわ。

 

「おねーちゃんの布団に忍び込んだらこんな夢が見れるなんてるるるんっ♪ ってきた!」

 

「わんわん!」

 

 日菜猫に向かって吠える紗夜犬。

 多分忍び込んだことを怒っている、と思う。

 

「日菜は喋れるのに紗夜は喋れないのね」

 

「んーなんでだろう?」

 

「くーん……」

 

 流石にこのままでは紗夜が可愛そうよね。

 解決するかは分からないけれど、ここが私たちの夢の中なら。

 

「紗夜、私の耳と尻尾はどうかしら?」

 

「わん!」

 

「そう、ありがとう。ここは夢の中、私がこの姿になれたのだからあなたも喋れるはずよ」

 

「…………」

 

「固定観念なんて捨てちゃいなさい。あなたは私が最も信頼するギタリスト、できるはずよ」

 

 思いを告げるとそのフサフサの頭を撫でる。

 にゃーんちゃんも良いけどわーんちゃんも良いわね。

 

「……全く、そんな風に言われたら何とかするしかないじゃないですか」

 

 溜息混じりの言葉が紗夜犬の口から発せられた。

 流石は紗夜ね。

 

「流石おねーちゃん♪」

 

「あなたは少し反省しなさい!」

 

 日菜猫にぴしゃりと言い放つ姿がいつもの光景とダブり奇妙な安心感を覚える。

 姿は変わっても安定の双子ね。

 

「湊さんの姿も素敵ですよ」

 

「ありがとう」

 

 

 

 

「なるほど、つまり後は今井さんかもう一人の湊さんを見つければ夢から覚める、と」

 

「多分ね」

 

「えー、じゃあもっと遊ぼうよ~」

 

「……少しだけよ」

 

 私たちの周りで追いかけっこを始める紗夜犬と日菜猫。

 日菜ほどじゃないけど紗夜も意外とアクティブなのよね。

 クールに見えてソイヤ、まさに青い炎。

 

「私達は少し休憩ね」

 

「では……えいっ☆彡」

 

 燐子が指を鳴らすと瞬く間にガーデンテーブルとチェアが現れた。

 もう使いこなしているわね。

 

「もう一つ……えいっ★彡」

 

 もう一回鳴らすとアフタヌーン・ティーのセットが現れ、ティースタンドには色鮮やかなケーキとフライドポテトが並んだ。

 もしかして今なら糖質を気にせず食べ放題かしら?

 

「味は……再現できていないかも……」

 

「じゃあ試しに食べてみるね。あっ、美味しい!!」

 

「そうね、このハチミツティーもとても上品な甘さだわ」

 

「良かった……」

 

 心底ホッとした表情の燐子。

 クリエイターとして夢の中でも半端な出来では満足しないみたいね。

 

「あー、あたしも食べたい!」

 

「……ポテトを取っていただけますか?」

 

 いつの間にか走り回っていた二匹が戻ってきていた。

 人間の食べ物を食べさせるのは良くないけれど……ここは夢の中だから。

 両手を使い器用にポテトを食べる日菜猫と地面に置いたお皿の上のポテトをポロポロこぼしながら食べる紗夜犬。

 ……犬の口だと仕方ないわね。

 

 

 

 ダダダダッ!

 

 

 

「もー、お茶会するならアタシ達も呼んでよ!」

 

「友希那さん酷い」

 

 地響きと共に現れたのは黒い喋る犬に乗ったリサ。

 

「遅いわよ、リサもワンコも」

 

「だって口の悪い猫耳友希那にいきなり襲われたんだよ! ……まあ可愛がってあげたけど♪」

 

「うん、存分に可愛がった」

 

 意味深な表情を浮かべる二人。

 全く私の分身に何をしたのやら。

 

 …………変なことはしていないでしょうね?

 

 これだと目覚めの条件は達成――

 

 

「あ、みなさんの姿が」

 

「うわっ、合流したばっかりなのにもう終わり~!?」

 

 紗夜の言葉通り全員の姿が段々と薄くなっていく。

 燐子やあこが全力で念じているが薄くなる早さは変わらない。

 こういうところは融通が利かないわね。

 

「続きは現実世界ね。忘れたら承知しないわよ」

 

 私の無茶な要求に笑顔で答える面々。

 折角見えたみんなの新しい一面、事実なのか答え合わせしてみたくなったから。

 

 

 青薔薇を宿す者ならこの程度簡単でしょ?

 

 

 

 

「……変な夢だったわね」

 

「うん、確かに」

 

 カーテンの隙間からの光に目を覚ますと、そこにはベッドに腰かけてメモを取っているワンコの姿。

 夢の内容を忘れないようにしているようね。

 そういう几帳面さも好きよ。

 

「友希那さんもメモる?」

 

「そうね。ある意味貴重な体験……曲作りにも使えそうだから」

 

 ふふっ、もし他のみんなも同じ夢を見ていたら楽しいことになりそうね。

 

 

「それと折角だからもう一回。友希那さん、お誕生日おめでとう。あなたが生まれてきたお陰で今の私がある」

 

「ありがとう、ワンコ。あなたの存在が私の歌に力を与える」

 

 嘘偽りのない言葉。

 

 そんなことを言われたら、今にでも歌いたくなってしまうわ。

 

 

 

 

 私の歌がこれからもあなたや他のみんなの心に届くように。

 

 …………ずっと傍にいてね。




感想、評価、誤字報告などありましたらよろしくお願いします。

<備考>

湊友希那:無意識に尻尾があったあたりを触る癖が。

白金燐子:思い出して悶絶、でも白猫衣装は作る。

宇田川あこ:お茶会したいな~。

氷川紗夜:思い出して悶絶、でもポテトは食べる。

今井リサ:次の夢はいつかな~。

ワンコ:リサさん、それ以上いけない。

下記の中で一番好きな話は?

  • 今井リサ誕生日(8/25)
  • 紗夜視点(一寸の光陰軽んずべからず)
  • 白金燐子誕生日(10/17)
  • 今井リサの弟
  • 湊友希那誕生日(10/26)

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