犬も歩けば棒に当たる   作:政影

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こんなクラス編成を考えました。

1年A組 氷川日菜
1年B組 今井リサ 犬神一子 大和麻弥
1年C組 瀬田薫
1年D組 湊友希那


本編0-2:論より証拠

「待ちやがれ!」

 

 赤髪の少女に追いかけられ商店街をひた走る。

 単純な足の速さには自信があるがこの地域はまだ不慣れ、それに人も多く中々逃げ切れない。

 このまま体力勝負に持ち込もうか……いや時間を掛けて騒ぎが大きくなると後が不味い。

 

 何かやり過ごせそうな場所は……工事現場見っけ。

 

 

 建設中のビルの工事現場、私はH形鋼の隙間で息を潜める。

 割と危険な賭け。

 日頃の行いは……可もなく不可もなく。

 

 誰かが近付いてくるのが足音で分かった。

 距離は数メートル、どうなるかな?

 

 

「やっと見つけたぞ! って、誰!?」

 

「フヘヘ……こんにちは」

 

 資材の隙間から顔を出したのはクラスメイトの大和麻弥さん。

 狭い場所が好きらしい。

 

「ジブン犬に追いかけられてここに逃げてきました。もういませんでしたか?」

 

「あー、うん、見ませんでした。ところで、眼帯の女は見ました?」

 

「隠れていたので見てはいませんけど足音は聞きました。駆け抜けて行った感じですね」

 

「そうですか、ありがとうございます」

 

 そう言うと赤髪の少女は反対側の出口へ向かって駆けて行った。

 

 念の為もうしばらく待つか。

 

 

 完全にいなくなったのを確認すると、天井になる予定のH形鋼から大和さんのいる床に降りる。

 敵機直上急降下、頭上注意。

 

「あれで大丈夫でしたか?」

 

「うん、ありがとう。女優になれるよ」

 

「フヘヘ、持ち上げすぎですよ」

 

 嬉しさと恥ずかしさが入り混じった笑顔、可愛い。

 

「それにしても何をやらかしたんですか?」

 

「……不幸なすれ違いというか」

 

 匿ってもらった手前、大和さんにこれまでの経緯を話すことにした。

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

「……はぁ」

 

 ガラケーに届いたバイトの不採用通知を見て溜息を漏らす。

 ハンバーガーチェーン店を皮切りにファミレス、居酒屋、カラオケ店も不採用という結果。

 ちなみに今井さんのコンビニは既に募集を打ち切っていた。

 

 施設時代は強制的に仕事をあてがわれていたから知らなかったけどバイト探しって難しい。

 新高校生が一斉にバイト戦線に投入された時期だしなぁ。

 本当は引っ越しを早めて入学式前に決めたかったけど施設の方も色々あったし。

 

「あ、美味しい」

 

 気分転換に奮発して喫茶店に入り注文したコーヒーはいつもの缶コーヒーの数倍美味しい。

 つい一気に飲み干してしまった。

 

「おかわりいかがですか?」

 

「うん、ありがとう」

 

 可愛らしい店員さんがすぐにコーヒーを注いでくれた。

 熱々のコーヒーから立ち上る香りが心を癒す。

 ……こういう気配りが私には足りないのかも。

 

 カランカラン

 

「いらっしゃいませ」

 

 新しいお客さんが来たようで行ってしまった。

 ちょっと残念。

 

 さて、またバイト情報誌と睨めっこでも――

 

「こ、困ります!」

 

「うるせー、俺はお客だぞ!」

 

 酔っぱらいおじさんが店員さんに絡んでる。

 ランチタイムが終わりティータイムまでの人が疎らな時間帯、ホールには彼女一人しかいない。

 ……美味しいコーヒーのお礼はしないとね。

 

「きゃっ!」

 

「おっと」

 

 酔っぱらいに突き飛ばされた彼女をすんでのところで抱きとめる。

 店員さんの顔はすっかり青ざめて見えた。

 ちょっとこれは……。

 

 力の入らない店員さんをその場に座らせると酔っぱらいにゆっくり近付く。

 久しぶりにムカついたけど何とか冷静さを保とうとする。

 先に手を出したらいけない。

 

「コーヒーを飲む時はね、誰にも邪魔されず自由で「何言ってやがる!」」

 

 予想通り私が話している途中で掴みかかってきた。

 

 回避と同時に足を払う。

 

 

 ガシャン!

 

 

 予想以上に見事に決まりテーブルに突っ込んだ。

 その衝撃で食器が床に落ち砕ける。

 ……これは不味い。

 

 

 カランカラン

 

 

「つぐみ、今大きな音が……って、あんたつぐみに何したの!?」

 

 騒動の中入店してきた女子四人組。

 先頭の赤いメッシュを入れた女の子が怒りに満ちた瞳で拳を握り締め近付いてくる。

 店員さんを見るとまだ座り込んだまま。

 それの原因が私だと……まあ半分当たっているか。

 

「ヘイ、パス」

 

「はっ!?」

 

 現金しか入っていない財布を赤メッシュさんに投げる。

 呆気にとられた瞬間に駆け出し、半開きになっていたドアから外に転がり出る。

 後は逃げるだけ。

 

「と、巴、追って!」

 

「任せろ!」

 

 そして四人のうちの一人の赤髪ロングの少女に追われ今に至った。

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

「……逃げないで事情を説明すれば良かったのでは?」

 

「まあそれが理想なんだろうけど、とてもそんな雰囲気じゃなくて」

 

 店員さんは回復まで時間がかかりそうだったし、赤メッシュさんは殴る気満々だったし。

 意図しない相手から憎悪されると無条件で逃げたくなる。

 

「機械オタクなジブンの長話にも付き合ってくれる良い人なのに……」

 

「それは大和さんの話が面白いから。あとB組で話しかけてくれるのは大和さんと今井さんくらいだし」

 

 入学式から数日経ったけど避けられ感が半端ない。

 苛められているわけではないけど、なんだかなぁ。

 

「多分醸し出す雰囲気が……ジブン、バンドのサポートとかやってるので多少は人馴れしてますから!」

 

 凄く気を遣われている。

 うん、頑張ろう。

 

 

「ジブンはそろそろ行きますけど、犬神さんはどうしますか?」

 

「んー、もうちょっと暗くなってからにする。今日はありがとう」

 

「いえいえ、ではまた教室で」

 

 遠ざかる大和さんに手を振る。

 さてバイト探しでも……あ、情報誌は喫茶店に忘れた。

 財布も失うし今日は散々。

 

 

 

 

 日が落ち灯りもまばらな裏通りをとぼとぼと歩く。

 流石にもう探してはいないと思うけどさっさと家に帰ろう。

 気休めにフードを被っておく。

 

「ちょっと放してよ!」

 

「いいじゃん、少しくらい」

 

「そーそー」

 

 聞き慣れた声がしたのでそちらに向かうと今井さんと男が二人。

 表通りから少し入った脇道で大胆なことで。

 これ以上揉め事は避けたいけど足が言うことをきかず向かってしまう。

 

「そんな派手な格好で誘ってないとか嘘でしょ?」

 

「ち、違うよ!」

 

「俺達と楽しもうぜ」

 

 嫌だ嫌だ、こういう場面はイケメンヒーローの出番でしょ?

 か弱い女子高生には無理だって。

 

 

 ……でもここで見捨てるのはもっと無理。 

 

 

 算段を立てつつ落ちていた鉄パイプを拾う。

 眼帯を外す。

 

 後は……まあなるようになるだけ。

 

 

 腹を括った私は「北沢」と書かれた金属製のごみ箱を男に向かって蹴り転がした。

 

 

 

「やめて!」

 

「大人しくしないとこの場で犯すぞ? 痛っ! ゴミ箱!?」

 

「待て~♪」

 

 男に当たって止まったゴミ箱に笑いながら鉄パイプを振り下ろす。

 

 見る見るうちにひしゃげていく。

 

「あは、楽しい~」

 

 アドレナリンのお陰か手に痛みはない。

 

 男達の顔が引きつるのを盗み見て、止めに鉄パイプをゴミ箱に突き立てる。

 

 中身が臓物だったのか引き抜いた鉄パイプに肉片が付着していた。

 

「綺麗……あ、三匹もおかわりがいる。ボーナスステージだ♪」

 

「はぁ、ふざけんな!」

 

 男の一人が折りたたみナイフを取り出したが鉄パイプですぐに跳ね上げる。

 

 数秒後少し離れた場所に乾いた音を立てて落下した。

 

「いいよ、いいよ。もっと抵抗してくれないと詰まらないからね~」

 

 白濁した右目を過剰な程見せつける。

 

 ……さあ手札は全て切った。

 

 これで逃げないなら退学覚悟で素敵なパーティーだ。

 

 

 …………。

 

 

「くそっ、化け物が!」

 

「おい一人で逃げるなよ!」

 

「きゃっ」

 

 今井さんを突き飛ばし逃げる二人。

 

 ……助かった。

 

 そう思ったもののあたりに散らばった臓物やら金属片やらを見て途方に暮れた。

 流石に片付けないとなぁ。

 

 

 

 

「今井さん、ありがとう」

 

「それはこっちの台詞だって」

 

 あの後二人でゴミ箱の所有者である北沢精肉店に謝りに。

 事情を正直に話すべきという今井さんの意見に素直に従った。

 弁償して手打ちにしてもらうつもりが何故か褒められて、何故かお土産にコロッケまで持たされたのは謎。

 ……また何か買おう。

 

 そして本来ならそのまま帰るはずが、お礼という事で今井家で夕食を食べることに。

 その前に「臭い」という事で風呂場に叩きこまれた。

 思い返せば走ったり潜り込んだり暴れたり……臭くもなるわけだ。

 

 

 一時間も経たずに食卓に並んだ筑前煮、サラダ、干物、みそ汁、白米、漬物、そして温めなおしたコロッケ。

 ギャルっぽい見た目とのギャップが激しいけどしっかりとした献立で嬉しい。

 ご両親は不在という事で二人で食卓を囲む。

 

「たくさん食べてね♪」

 

「ありがとう、いただきます」

 

 言うが早いか早速食べ始める。

 見た目に劣らずどれも美味しい。

 おかわり三杯目はそっと出したがニコニコと大盛りにしてくれた。

 

「ふう……ご馳走様でした」

 

「お粗末様でした」

 

 せめて洗い物でも、と申し出るもやんわりと断られ緑茶とお煎餅を出された。

 一緒に暮らしたら確実に骨抜きにされる。

 

「横いい?」

 

「うん」

 

 洗い物を終え自分の分の緑茶を持った今井さんがソファーの私の横に座る。

 

「今日はごめんね」

 

「もういいって。今井さんは美人なんだからこれから気を付けてね」

 

「あはは、ありがと♪」

 

 人のことをとやかく言えるほど真っ当には生きていないので釘を刺す程度に留める。

 誰にだって言いたくないことの一つや二つあるだろうし。

 

「ちょっと甘えていい?」

 

「どうぞ」

 

 両腕で頭を抱きしめられた。

 胸の感触は柔らかいが震えの方が気になる。

 

「おかしいね。今になって怖くなってきた。一子は怖くなかったの?」

 

「今井さんが傷つくのと傷害事件になって退学になるのは怖かったかな」

 

「ふふっ、強いんだ」

 

「守りたいものが今回は今井さんだったから。今井さんもそういう相手がいるんじゃない?」

 

「!? そうだね……ちょっと距離は出来ちゃったけど」

 

「じゃあ強くなれるよ、絶対」

 

「そっか……ベース続けよっかな。いつか力になれるかもしれないし」

 

「力ならいつでも貸すよ。入学してから初めてできた私の友達」

 

 陽だまりのような匂いに包まれていつしか私は眠りに落ちていた……。

 

 

 

 

「セ、セーフ……」

 

 翌日今井家で目を覚ました私は急いで帰宅して全速力で登校した。

 入学早々遅刻は避けたい、一応特待生なので。

 

「犬神さん、ちょっと……」

 

 自席で呼吸を整えていると大和さんに呼ばれ教室の隅へ移動する。

 

「商店街で眼帯の少女を探しているという噂が」

 

 大和さんの話す眼帯以外の特徴も見事に私と一致。

 噂になるの早すぎない?

 

 

 ……当分商店街には近寄らないでおこう。




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<備考>

犬神一子:得物によって属性が変わる。

大和麻弥:犬に好かれる。

今井リサ:突っ込まない優しさ。

羽沢つぐみ:ホールにいるかいないかで売り上げが違う。

宇田川巴:アフロ一の快足。

下記の中で一番好きな話は?

  • 犬が西向きゃ尾は東
  • 論より証拠
  • 掃き溜めに鶴
  • 握れば拳開けば掌
  • 惚れて通えば千里も一里
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