犬も歩けば棒に当たる 作:政影
「愛称?」
「そうそう、一子ってクラスで浮き気味でしょ? だったら親しみ易いような呼び名が必要かなって」
いつもは大和さんと食べる昼飯に今日は今井さんも加わった。
人気者の今井さんは日替わりで食べるグループが違うようで女子力が凄い。
「ジブンも人の事を言えた義理ではないですけどそんな気はするっす」
あいまいな笑みを浮かべながらも同意する大和さん。
まあ大和さんもそう言うなら。
「じゃあアタシから『犬神一子』でイニシャルは『I.I.』……『あいあい』とかどう?」
「……何となく恐れ多い感じが」
背筋がゾクッとした、なんでだろう。
「名字的に『スケキヨ』とかどうです?」
「末路がアレなのでちょっと」
逆立ちするとネタにされた思い出が。
「いちこだから……『チコちゃん』」
「もっとアウト!」
何故か頭がボーっとして嫌な汗が出てきた。
ごめんなさい。
このままだとやべー愛称になりそう。
「『ワンコ』じゃ駄目?」
「「あっ!?」」
私の提案に顔を見合わせる二人、悪くはなさそうな感じ。
そんなに凝った愛称じゃないけど、捻り過ぎて思い浮かばなかったパターンか。
「この前友人が付けてくれたんだけど……どうかな?」
「うん、良いよ」
「良いと思います」
「じゃあワンコでお願いします」
「ついでにアタシのことは『リサ』って呼んで」
「じゃあジブンも『麻弥』でお願いします」
「リサさん、麻弥さん……おおっ、親友っぽい」
「いちいち大げさだなぁ。麻弥もそう思うでしょ?」
「フヘヘ、ジブンも嬉しいですよ。リサさん」
名前で呼び合う同級生なんていなかったしちょっと感動。
「そう言えばこの前のテストの結果が張り出されてるから見に行く?」
「おっ、ワンコさんの見せ場ですね」
「まあ特待生なのでそこそこ」
答案用紙は先に戻ってきたけど順位はどんな感じなんだろう?
まあ満点さえ取られなければ学年一位もあり得るけど。
「……満点取った人いるんだ」
「ヒナ、『氷川日菜』中等部からずっと満点だったかな」
「ワ、ワンコさんも二位なんて凄いっすよ!」
「麻弥さん、フォローありがとう」
二位なら特待生の資格を剥奪されることも無いので問題はないけれど。
ちょっと対抗心は湧いたかも。
「はーまた一位かつまんないのー……」
凄く聞き捨てならない台詞を聞いた気が。
声のした方を見ればミントグリーンの髪の少女。
「あ、リサちーだ」
「ヒナじゃん。一位おめでとう」
「んーいつも通りだしねー」
この人が一位の氷川さんか、リサさんとは仲が良さそう。
そして……どこか浮世離れした感じを受けた。
「相変わらずだね。ついでだから紹介しておくよ、ワンコに麻弥」
「どうも」
「よろしくっす」
「よろしくー。へ~」
「?」
何故かジロジロと全身を見られる。
「ふ~ん、くんくん」
臭いまで嗅がれた。
「変なの~♪」
「喧嘩売ってる?」
初対面の人間に見られて嗅がれて酷い言われよう。
流石にイラっときた。
「ちょっとヒナ! ワンコも抑えて、この子変わってるから!」
「……リサさんがそう言うなら」
「悪気はないんだけどなぁ」
一触即発の状況にリサさんが割って入った。
周囲はざわつき注目を集める。
またクラスで浮きそう。
「ワンコさん、次の体育の準備が!」
「うん」
麻弥さんに腕を引かれその場から離れる。
流石親友、ナイスタイミング。
前に背中の火傷痕でドン引きされてからトイレで着替えているので急がないと。
「40-0。ゲームセットアンドマッチ、ウォンバイ氷川。スコアイズ4-0」
A組B組合同体育は今日からテニス。
曇り空の下、基本練習に続いて試合形式。
氷川さんは運動もできるらしくテニス部のリサさんが為す術もなくストレートで負けた。
「お疲れ様」
「あはは、みっともないところ見せちゃったね」
「最後まで全力だった。みっともなくないよ」
「ありがと♪」
私から受け取ったタオルを顔に当てた。
……悔しくないわけはないよね。
「あーあ、るんっ♪ ってこなかったなー。つまんなーい」
「何しに来たの?」
私を不快にさせる言葉を放ちながらやってきた氷川さん。
私の軽く怒気を込めた視線を意に介さず笑みを浮かべている。
「友達とお喋りするのは駄目なの?」
「友達に掛ける言葉には聞こえないんだけど?」
「つまらなかったのは事実でしょ?」
「事実だったら何でも口にしていいと思ってるの?」
「嘘をつくよりは良いと思うけど?」
「その言動で何人傷つけて、何人離れて行ったのかな?」
「っ!」
「そんなんじゃ親兄弟も苦労してるんじゃない?」
「…………」
「私だったら願い下げ」
泣きそうな顔になる氷川さん。
…………図星なの?
「……あたしだって……あたしだって」
うん、完全に私が悪者だ。
二クラス分の非難の視線を感じる。
もしかしたらリサさんや麻弥さんにも嫌われたかもしれない。
「お前たち何をやってる?」
騒ぎすぎたせいか教師まで来た。
怒らせなくても見た目が怖い女の先生。
「揉め事はコートで解決しろ。氷川と犬神、準備しろ」
「……はい」「はい」
「はっ!」
「…………」
技量はリサさん以下の私とメンタル最悪な氷川さんによる決定打に欠けるラリーが続く。
やるからには本気で挑んでいるが、むこうはただ適当に返しているだけ。
それでようやく互角という情けなさ。
ポツ、ポツ、ポツ
雨粒が地面に染みを作る。
そして一気に土砂降りに。
天気の方が持たなかったようだ。
「ここで中止だ。もうチャイムも鳴るから片付けが終わったクラスから終わっていいぞ」
女教師の言葉に急いで片づけを始めるクラスメイト達。
私もネットを緩めて着替えに行こうとするが、氷川さんはコートに立ったまま動こうとしない。
「早くしないと風邪ひくよ」
「…………」
反応がないので腕を掴んで引っ張っていこうとしたけれど――
バシッ!
振り払われた。
「……放っておいてよ」
「いやだ」
「何でよ! あたしのこと嫌いなんでしょ!?」
泣いているのか怒っているのか分からない表情で睨まれる。
胸が痛む。
「リサさんを侮辱したことは許せないけど、明確に嫌いって言えるほど氷川さんのこと知らないし」
「えっ」
「さっきの言葉が氷川さんの事を深く傷つけたなら、ごめんなさい。許せないなら憎んでくれてもいい」
「…………」
「とりあえず判断材料が出揃うまで、元気でいてもらわないといけないので着替えよ?」
「……うん」
我ながら詭弁というか支離滅裂というか、勢いで捲し立てる。
こんな表情見ちゃったら放っておけないと思うのも本心なわけで。
ピカッ!
次の瞬間目が眩むほどの光。
審判台を直撃する雷。
咄嗟に氷川さんを抱きしめ伏せる。
次の瞬間背中に衝撃。
……生傷が絶えないなぁ。
「はーい。沁みるわよ~」
「痛い」
無事保健室にたどり着き保険医から治療を受ける。
幸いなことに落雷の直撃は受けなかったものの、落雷で破損した審判台の部材が飛来して背中に命中した。
打ち身と軽い裂傷で済んだのはまさに僥倖。
「終わり。まあ元の火傷痕に比べれば目立たないでしょ」
「ありがとうございます」
「あと、落雷の時はしゃがんで爪先立ちよ。腹這いは地面との接地面積が大きくなるからだ~め」
「……気を付けます」
マジか。
一歩間違えれば二人ともホットドッグとか洒落にならない。
「じゃあ戻っていいわよ」
「失礼しました」
深々と頭を下げ退室する。
「どうだった?」
「うん、軽傷」
廊下にはリサさん、麻弥さん、そしてリサさんに隠れるように氷川さん。
「ほら、ヒナ」
「う、うん。ごめんね、ワンコちゃん」
「こっちこそ。氷川さんは大丈夫だった?」
「全然へーき」
「それは良かった。じゃあ次は負けないから」
「えっ!?」
「絶対に勝ってリサさんに謝らせる」
「ちょっとワンコそれはもういいって!」
「そうですよワンコさんが手を汚さなくても!」
「麻弥もちょっと黙ってて。そもそもヒナがこういう性格だって説明しなかったアタシが悪いんだし……」
「えっと……リサちーがテニス部なのにものの見事に圧勝しちゃってごめんなさい!」
「…………」
氷川さんのお辞儀と畜生発言のハッピーセットに絶句するリサさん。
どうやら教育が必要のようだ。
「よし、埋めよう」
「ジブンもお手伝いするっす」
「???」
「ちょっと二人とも落ち着いて、アタシは気にしてないから!」
「つまり……コミュ障?」
「え~酷いなぁ」
放課後の食堂、何故か四人で簡単な親睦会をすることに。
氷川さんも大分持ち直したようでなにより。
「ジブンもそのカテゴリーなのでなんとも」
「麻弥は人を傷つけないから問題ないって」
「フヘヘ」
「麻弥ちゃんの笑い方面白いね。あ、褒めてないけど」
「……はぁ。確かに悪気はないんだろうけど」
「あたしも好きで傷つけたいわけじゃないんだよ?」
「とりあえずリサさんを観察して研究したら?」
思考とか感性とかは中々矯正できるものでもないし。
とりあえず見て覚えて。
「ア、アタシ!?」
「そうですね。リサさんはジブンにも普通に接してくれた恩人ですし」
「そっかー、よろしくね、リサちー♪」
これで一件落着……なのかな?
「あ、見つけた!」
「巴、声大きいって!」
聞き覚えのある声がしたと思いそちらを見ると……いつぞやの赤髪とピンク髪。
中等部の制服、羽丘だったのか。
まだ追ってくるか。
「後はよろしく」
「ちょっ!? 待って」
身の危険を感じて即座に逃げ出す。
リサさんが何か言おうとしていたが無視する。
さてどう切り抜ける?
「いた?」
「ううん、でも外には逃げてないはずだし確実に追い詰めてるよ」
校舎内の至る所に中等部の制服が。
相手もかなりの本気のよう。
徐々に上層階に追い詰められている。
正門と裏門にも雨の中人を配置していて恐れ入る。
裏の林を突っ切るか、下水道を逃げるか……考える時間も限られてきた。
屋上まで誘い込んで配管を伝って一気に地上まで下りるか。
そう思い屋上までの階段に足を掛けたところで上に人の気配。
しまった。
「私の話を――」
ピカッ!
「きゃあああああ!」
本日二度目の落雷とともに悲鳴を上げ階段から降ってくる少女。
当然抱きとめるが、勢いを殺しきれずに背中を廊下に打ちつけた。
……日頃の行いかなぁ。
「またなの~?」
「すみません」
再び保健室で治療を受ける。
何やってるんだか……。
「そのうち病院行きよ?」
「気を付けます」
半分本気で言ってるんだろうな。
もう入院生活には戻りたくないし、本気の本気で気を付けないと。
「失礼しました」
保健室から出ると土下座した中等部生が五人とさっきまで一緒にいた三人。
「先輩すみませんでした!」
「もういいから」
「二回も助けていただいてありがとうございます!」
「あー、結果的には。とりあえず立って」
私の言葉に立ち上がる五人。
遠くからチラチラ見られてるしまた悪評が。
「ワンコちゃん大人気だね。るんっ♪ ってきたよ」
「氷川さん、煩い」
「話を聞かないワンコもワンコだけどね。あ、巴はダンス部の後輩だよ」
だからさっき引き留めようと。
でもいきなり大声出されたら逃げるって。
「あの……お財布です」
「食器とかの弁償で使ってよかったのに」
羽沢つぐみちゃんから財布が返ってきた。
「ちゃんと酔っぱらいさんから徴収したので大丈夫です」
良い笑顔、流石看板娘。
「元はと言えばあたしの早とちりで……すみませんでした!」
「ビビって逃げた私も悪いって。お相子お相子」
赤メッシュの美竹蘭ちゃん。
見た目に反して礼儀正しい。
残りの二人――青葉モカちゃんと上原ひまりちゃん――は完全に巻き込まれただけに掛ける言葉が見つからない。
「とりあえず誤解が解けて良かったという事で」
商店街で手配書が出回っているという噂も単に謝罪したいという事だったので一安心。
また商店街で美味しいコーヒーを飲めたりコロッケが食べられると思うと本当に良かった。
商店街でバイトも探せるし。
そんな事を考えているとつぐみちゃんが一歩前に出る。
「リサ先輩に聞いたところまだバイト先を探しいるとの事なので、うち、いえ羽沢珈琲店で働いてみませんか?」
……どうやら問題が一気に解決したみたいだ。
感想、評価、誤字報告などありましたらよろしくお願いします。
アンケートにご回答をお願いします。
<備考>
ワンコ:義理と嫉妬で不安定。
氷川日菜:姉と疎遠で不安定。
羽沢つぐみ:天候次第で不安定。
今井リサ:幼馴染と疎遠だけどそれなりに安定。
大和麻弥:安定。
下記の中で一番好きな話は?
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犬が西向きゃ尾は東
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論より証拠
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掃き溜めに鶴
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握れば拳開けば掌
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惚れて通えば千里も一里