犬も歩けば棒に当たる   作:政影

49 / 99
一か月以上放置されてた本編0の続きです。


本編0-7:桃李言わざれども下自ずから蹊を成す

「あ、その角材こっちにお願いします」

 

「うん」

 

 麻弥さんの指示に従い大道具用の角材を運ぶ。

 米俵を運んだ事があるのでこれ位なら一人で十分。

 

「ここに置けばいい?」

 

「はい。組み立てちゃいますね」

 

 傷防止の保護シートの上に置いた角材に対して、麻弥さんが手際よく部品を電動ドリルで結合していく。

 実に鮮やかな手並みで見入ってしまう。

 

「フヘヘ、ワンコさんが手伝ってくれるお陰で良いペースっす!」

 

「力仕事ならいくらでも。まあ今は生徒会の強制奉仕だけど」

 

 この前のハイキングで犬助けとはいえ勝手な行動を取った罰としての奉仕活動。

 今日は人手不足の演劇部の手伝い。

 他にも色々と押し付けられているのでバイトは当分控えめな感じ。

 羽沢珈琲店は新規で何人か増えたのが不幸中の幸い。

 新人教育とかでつぐみちゃんの負担が増えなければいいけど。

 

「演劇部は人気の部活だと思っていたのでちょっと意外」

 

「……実は今の部長が結構スパルタでして」

 

「成程」

 

「そんな中一年で早くも存在感を見せているのが大和と瀬田だな」

 

「ぶ、部長!」

 

 麻弥さんの後ろに立って凄みのある笑顔を浮かべているのが部長か。

 確かに風格を感じる。

 

「犬神も奉仕ご苦労。だが中途半端な仕事なら帰ってもらう」

 

「お役目果たします」

 

「よし、励め」

 

 そう言い放つと他の部員に声を掛け指示を飛ばす部長。

 無駄口即鉄拳制裁じゃないだけ優しいと思う。

 ……怒らせたらやばそうだけど。

 

「私も手伝おうじゃないか」

 

「薫さん! あ、ワンコさんこちらが瀬田薫さんです」

 

「初めまして」

 

「よろしく、ワンコ」

 

 この人が麻弥さんと双璧をなす演劇部期待の新人か。

 長身に整った顔立ち、確かに華がある。

 大勢の取り巻きを引き連れて歩いている姿を何回か見た気がするけど本人は意外と気さくそう。

 思い込みは良くないね。

 

「すみません、大道具の制作が遅れちゃって」

 

「麻弥はよくやっているさ。それに『天は自ら行動しない者に救いの手をさしのべない』つまりそういうことさ」

 

 芝居がかった発言。

 内面を悟らせない立ち居振る舞い。

 うーん、似たような人を知っているような。

 

「さあ、儚くいこうか」

 

 

 

 

「お、やってるねー」

 

「あ、氷川さん」「日菜さん」

 

 私とは別の奉仕活動を受け持っている氷川さんが顔を出した。

 

「今日は花女にお使いだっけ?」

 

「うん。……おねーちゃんに会えると思ったんだけどな」

 

 少ししょんぼりした様子の氷川さん。

 相変わらず「おねーちゃん」絡みになるといつもの騒がしい雰囲気が一変する。

 一体どんな人なんだろう?

 

「暇なら手伝って」

 

「えー、演劇部はワンコちゃんの担当だよね?」

 

「元はと言えば――」

 

「で、ではそろそろ立ち稽古が始まるので見学とかどうっすか?」

 

 私の不平の言葉を麻弥さんが遮る。

 本当に頼りになるね。 

 

「何それ面白そう!」

 

「ワンコさんもその塗装で今日のノルマは達成なので見学しません?」

 

「うん、ありがとう」

 

 乾くまで一晩はかかりそうだからここまでか。

 刷毛を洗ったら立ち稽古とやらを見学させてもらおう。

 

 

 

 

「るんっ♪ てきたー!」

 

「……凄い」

 

 立ち稽古とはいえ演劇初心者の身にも迫力が伝わってきた。

 上級生はもちろんだけど瀬田さんも同等かそれ以上。

 一年生で唯一役を貰っているのも頷けた。

 

「私の演技どうだったかい?」

 

「薫くん凄いね♪」

 

「まるで別人になったかと」

 

「フフ、また子猫ちゃん達を虜にしてしまったようだね」

 

 演技を見てからだと瀬田さんの大仰な発言にも納得がいく。

 常に役者の様な立ち居振る舞い。

 常在戦場、イヴちゃんならそう言うかも知れない。

 

 それなら彼女の本質は一体どこに?

 

 ……隠されると見つけたくなるのが私の悪い癖。

 手伝いの身なので大人しくしていないと。

 それでも――

 

「よし今日の部活はこれまで。部室閉めるからとっとと帰れ!」

 

 私の思索は部長の大声に遮られた。

 

 

 

 

「お待たせしました」

 

「麻弥さん、お疲れ様」

 

 校門の脇で立っていると部室の鍵を職員室に返しに行っていた麻弥さんが来た。

 この後千聖さんと羽沢珈琲店で進捗確認会議という名のお食事会。

 リサさんはバイトで不参加なのが残念。

 

「へー、薫くんって中一から演劇部なんだ」

 

「『何もしなかったら、何も起こらない』つまりそういうことさ」

 

「あははー、面白♪ みんなでもっと話したいな」

 

 ……余計な二人もいるけど。

 この後もついてくる気満々だし。

 氷川さんだけなら問答無用で追い返すけど瀬田さんは麻弥さんと関りがあるわけで。

 穏便にご帰宅いただける言葉が思いつかない。

 

「ワンコさん……」

 

「ごめん、捕まっちゃった。どうしよう?」

 

「ちょっと確認を」

 

 麻弥さんが少し離れた位置でスマホで千聖さんに確認を取り始めた。

 秘密特訓の事が広まるのは本人のプライド的に避けたいし。

 二人とも千聖さんと面識は無い筈、さてどうなる事やら。

 

「構わないそうです」

 

 ……これで一件落着かな?

 

 

 

 

「薫……」

 

「千聖……」

 

 全然一件落着じゃなかった。

 羽沢珈琲店に入って千聖さんと瀬田さんが顔を合わすなり重苦しい雰囲気に。

 つぐみちゃんなんてオーダーも取れずに固まってるし。

 面識があるどころか由々しい関係みたいだ。

 

「失礼、用事を思い出したわ」

 

 一万円札をテーブルに置き私達をすり抜け店の外に出ていく千聖さん。

 

 誰も動けない。

 

「……ワンコさん!」

 

「うん、任せて」

 

 最初に硬直の解けた麻弥さんの言葉で私も硬直が解け店を飛び出す。

 すぐに辺りを見回すけど見当たらない。

 既にタクシーを拾った?

 急いで携帯に電話してみたけど電源が切られている。

 

 

 ……よし、賭けてみるか。

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……ただいま」

 

「っ!? ……お帰りなさい」

 

 賭けは的中、全力疾走で戻った我が家には予想通り千聖さん。

 まあいなかったら自宅に突撃してたけど。

 プロ意識の高い千聖さんなら暗くなってから闇雲に徘徊しないというなんちゃって推理。

 

 取り合えず水道水で喉を潤すとシャワーで汗を流して部屋着に。

 麻弥さんに発見の報告も入れておく。

 あっちは麻弥さんが何とかしてくれると信じて。

 

 

 

 

「……何も聞かないのね」

 

「私はワンコなので。話すも話さないのも千聖さん次第」

 

「そう……」

 

「で、私は瀬田さんに対してどんな態度を取れば? 噛みつくのはちょっと気が引けますけど」

 

「別にいいわよ、普通で。ただ……」

 

「ただ?」

 

「困っていたら手を差し伸べてあげて」

 

「うん、必ず」

 

 

 

 

「昨日はすまなかったね」

 

 翌日登校すると一年B組の前に人だかり、その集団の中から声が掛かる。

 

「いえいえお気になさらず」

 

 普通を心掛けて返答しすぐに教室に入る。

 言外の「これ以上巻き込まないで」の意を汲んでくれたのか、それ以上話しかけられることは無かった。

 

 まあ取り巻きに睨まれたけど。

 

 

 

 

「いよいよ来週っすね!」

 

「うん、楽しみ」

 

「良いのかな、アタシまでチケット貰っちゃって」

 

「楽しみだな~♪」

 

「リサさんにはいつもお世話になってるし。え、氷川さんも来るの?」

 

「え、なにそれ酷い!」

 

 あれから演劇部の手伝いが続き、なんと麻弥さんからチケットが手渡された。

 部長からの手伝ったご褒美らしい。

 氷川さんも瀬田さんの練習に付き合っていたので当然行く権利がある。

 余ったのでリサさんもご招待。

 

「冗談だよ」

 

「んぐ!」

 

 最近お気に入りのチョココロネを氷川さんの口にねじ込む。

 

「ワンコ仲直りしたの?」

 

「別に喧嘩してないよ。仲が良いかは微妙だけど」

 

「フヘヘ、相変わらずっすね。……ところでワンコさんお願いが」

 

 いつもの朗らかな笑顔から一転、麻弥さんが神妙な顔つきになる。

 どう考えても厄介事。

 

「これを千聖さんに」

 

 取り出したのはファンシーな封筒。

 受け取り中身を見ると……まあ公演のチケットだよね。

 

「瀬田さんから?」

 

「はい……出来ればでいいそうなので」

 

 前に言われた「困っていたら手を差し伸べてあげて」が完全にブーメラン。

 何とか良い案は無いかな……。

 

 

 

 

「千聖さん、今度の羽丘演劇部の公演のチケット――」

 

「行かないわよ。とんだお節介ね」

 

 言い終える前ににべもなく断られる。

 白鷺家に乗り込んでの真っ向勝負、予想通りまずは黒星。

 だけど約束は守らないと。

 

「瀬田さんが困って――」

 

「私に関わることは対象外よ」

 

 う、条件追加とは。

 言質が役に立たない。

 こうなったら――

 

「……私の渾身の大道具見てくれないんだ」

 

「えっ!?」

 

 瞳を潤ませ上目遣いでの必死の懇願。

 私的女の子の最終奥義。

 女の子相手に効くかは分からないけど。

 

「麻弥さんも頑張ったのに……」

 

「ず、ずるい言い方ね。麻弥ちゃんの名前まで出すなんて」

 

「くぅーん」

 

「レオンまで!?」

 

 いつの間にか私の横に来ていたレオンくんも切なげに鳴く。

 思わぬ援護射撃に最後の一言を続ける。

 

「……駄目?」

 

「はぁ、分かったわ」

 

 観念した様に頭を振る千聖さん。

 心の中でガッツポーズ。

 

「あくまでも大道具の出来を見るだけでそれ以上は期待しないでよ?」

 

「うん、ありがとう。千聖さんはやっぱり優しい」

 

「わんわん♪」

 

「全く……嘘泣きなら私に匹敵するわね」

 

 優しく私とレオンくんを抱きしめる千聖さん。

 多分心のどこかには観に行きたいとの思いがあった筈。

 そうでなければ私の言葉だけでは動かないと思う。

 

 チケットを手渡すと微笑を浮かべ、チケットをじっと見つめる。

 

「良かったわね。『たまたま』スケジュールが空いていて」

 

「あっ!」

 

 多忙な千聖さんなので下手をすれば仕事が入っていて行けない恐れもあった事に今更気付く。

 当然仕事の方が優先なわけで……。

 

「……試した?」

 

「あら、心外ね。あなた達の懇願に折れただけよ。まあ次はもっとよく考える事ね」

 

 悪戯が成功した子供のような笑顔。

 私の行動も思考も読まれていたという事か。

 

 

 ……君のご主人様は意地悪だよ、レオンくん。




感想、評価、誤字報告などありましたらよろしくお願いします。

アンケートにご回答をお願いします。


<備考>

白鷺千聖:(ほんの少し)楽しみ。

氷川日菜:るんっ♪ てくる位楽しみ。

大和麻弥:問題なく終わるか不安。

瀬田薫:儚い。

ワンコ:楽しみ。

今後読みたいシーズンは?

  • シーズン0(一年生)
  • シーズン1(二年生)
  • シーズン2(三年生)
  • 連載終了
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。