犬も歩けば棒に当たる   作:政影

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二か月以上も感想が付かないと流石に不安になってきたので
今後の方針決めアンケートします。


本編0-8:提灯に釣鐘

「さて、今日は何をしてもらおうかしら?」

 

 場所は羽丘女子学園生徒会室。

 中央に置かれた大きな机とそれとは独立した生徒会長用の机。

 壁際には賞状やトロフィーの数々が鎮座している。

 

 そして目の前には現生徒会長。

 ある意味今の雇用主。

 雰囲気的には……千聖さんが一番近いかな。

 微笑みの仮面被りと怒らせたら怖そうなところが、特に。

 

「るんっ♪ てくるのがいいなあ」

 

 物怖じしない氷川さんには素直に感心する。

 生徒会の手伝いを通達された当初は不平を言っていたのに、驚いたことに今では熱心に取り組んでいたりする。

 

「演劇部の方は良いんですか?」

 

 まあ私も楽しんでるけど。

 バイトとの兼ね合いで毎日フルタイムで参加できないのが心苦しい。

 

「あら、演劇部がお好みかしら? じゃあ園芸部を手伝った後に行ってちょうだい」

 

 ……サラッと追加されたし。

 人使いの荒さもそっくりだ。

 

 

 

「おまたせ、麻弥さん」

 

「あ、ワンコさんお疲れさ……って髪湿ってません?」

 

「氷川さんにやられた」

 

 園芸部の手伝いということで花壇の植え替え。

 夏花壇だと五~六月にやるらしい。

 田植えの時期と大体同じかな?

 

 作業自体は今日の花壇は小さめという事もあって順調に進み苗の植え込みまで終了。

 最後に水を撒く段階で氷川さんが何を思ったか散水ノズルを最大出力に。

 折角整えた花壇の土を抉る気か!

 で、花壇を庇ったらこの有様、ジャージがびしょ濡れになったので制服で演劇部に。

 

「……大変っすね」

 

「うん、全く」

 

「だからごめんってばー」

 

 流石に反省している様子。

 

「あ、プール掃除だったら全力全開でやっちゃってもいいよね?」

 

 ……反省しているよね?

 

 

 ファサッ

 

 

「えっ」

 

 上から何かが被せられ優しい手つきで水気が吸われていく。

 

「濡れている子猫ちゃんも魅力的だけれど、そのままでは髪が痛んでしまうよ」

 

「瀬田さん」

 

 チケットを千聖さんに無事渡すことが出来てから微妙に距離が縮まったような。

 だけどワンコなので子猫ちゃん呼びには慣れない。

 

「制服が汚れしまうから私のジャージを使うといい」

 

「サイズが大きくてぶかぶかになりません?」

 

「ああっ、そんな姿も実に儚い……」

 

 多分褒められているんだよね?

 氷川さん共々会話が成立しているのか時々怪しい。

 

 ……ちなみに瀬田さんのジャージはとても良い香りがした。

 

 

 

 

 そして、公演当日――

 

 

「うわー、満員御礼だね~」

 

「るるるんっ♪ って感じ!」

 

「千聖さん騒がしい面子でごめん」

 

「ふふっ、楽しそうでいいわね」

 

 浮かれるリサさんと氷川さんにちゃんと来てくれた千聖さん。

 瀬田さんとの関係は未だに謎だけど約束を守ってくれてうれしい。

 

「もし大道具が不甲斐ない出来だったらお仕置きよ」

 

「……多分大丈夫」

 

 出演するわけでもないのに緊張してきた。

 

 

「あ、麻弥さんから着信」

 

 マナーモードのガラケーが震え画面には麻弥さんの名前。

 開演間際にどうしたんだろう?

 

「もしもし」

 

『あ、ワンコさん! 控室に来てもらえますか!? 出来れば他の人も一緒に!』

 

「分かった」

 

 普段冷静な麻弥さんの焦りを抑えきれない声。

 電話を切ると聞き耳を立てていた三人は心得たとばかりに立ち上がる。

 全く頼りになる……私は三人を連れすぐに向かった。

 

 

 

 

「季節外れのインフルエンザ!?」

 

「はい、それでヒロインが不在になってしまって」

 

 瀬田さんとヒロインとの恋愛がメインなのに片方がいないなんて。

 これで中止……今まで頑張ってきた麻弥さんや瀬田さん、部員のみんなの努力が。

 

 

「あたしがやろっか?」

 

 

 氷川さんの発言に騒然とした控室が静まり返る。

 言った本人は普段と変わらない表情。

 

「出来るの?」

 

「まあね。台詞も動きも稽古見てて覚えちゃったし」

 

 多分言っている事は本当、悪ふざけはするけどこういう場で嘘はつかない筈。

 だけどそれが部員に伝わるかは――

 

「何と言う儚い提案だ。是非演じてもらおうじゃないか」

 

「ジブンからもお願いします!」

 

「瀬田、大和……」

 

 熟考する部長、他の部員も判断を迷っている。

 

「生徒会の指示は公演の成功なので、氷川さんがやらかしたら責任は取ります」

 

「犬神もか」

 

 便乗して私も……半分はハッタリだけど。

 乗り掛かった船、勝算はある。

 

 

「部長さん、お客様を待たせては駄目ですよ」

 

 

「君は白鷺千里!? ……そうだな、やるか。急いで氷川に衣装を着せて整えろ。十分押しで行くぞ」

 

 千聖さんの言葉で覚悟を決めた部長の言葉で各々が動き出す。

 そこにはもう迷いは無い。

 

「アタシも手伝うね」

 

「ありがとう、リサちー♪」

 

 氷川さんが纏ったヒロインの衣装をフィットするようにリサさんが直していく。

 あ、胸パッド入れてる。

 

「……ここはもう大丈夫そうね。客席に戻るわよ」

 

「うん」

 

 細工は流流仕上げを御覧じろ、ってわけで後は見守るだけ。

 手伝えることがない以上いても邪魔なので戻りますか。

 

「ワンコさんに千聖さん、一瞬も見逃しちゃ駄目っすよ?」

 

「任せて」

 

 麻弥さんの言葉にモヤモヤが吹き飛ぶ。

 しっかり目に焼き付けないと。

 

 

 

 

「……あれで代役?」

 

「まあ……氷川さんは規格外なので」

 

 心配は杞憂に終わり拍手の嵐、千聖さんも私も氷川さんの想像以上の名演ぶりに釈然としない気持ちで手を叩く。

 当然ながら瀬田さんの演技の方が素晴らしかったけど。

 リサさんは不測の事態に備えてか戻ってこなかった。

 

「……ちょっと気になる人材ね」

 

「能力は一流ですけど協調性とかがアレなので取り扱いに注意です」

 

「憶えておくわ」

 

 少し気に食わないけど千聖さんも認める程。

 ……やっぱり私じゃ敵わないのかな?

 

「嫉妬したかしら?」

 

「別に」

 

「ふふっ、レオンがいじけた時の表情にそっくりよ」

 

「むぅ……」

 

 頬をつままれる。

 やっぱり千聖さんの目は誤魔化せない。

 

 

 

 

「それでは公演の成功を祝して乾杯!」

 

『乾杯!』

 

 打ち合わされるグラスの音が響く、中身はソフトドリンクだけど。

 

 公演の後のファミレスでの打ち上げには私達も呼ばれた。

 開始早々私の友達・知人は連れ去られてしまいぼっち。

 

 まあこんなもの。

 少し胃袋に入れたらちょっと外の空気でも吸ってこようかな。

 

 

 外に出ると日はまだ沈んでおらず綺麗な夕焼け。

 

 これで演劇部の手伝いは一段落、次はどこの手伝いだろう?

 ……あれ、奉仕活動っていつまで続ければ?

 

 

「な~に、黄昏てんの?」

 

「ひゃ、リサさん!?」

 

 肩に手を回され耳に息を吹きかけられた。

 心臓に悪いのでいきなりは勘弁してほしい。

 

「もういいの?」

 

「まあ連絡先の交換は終わったしね」

 

 なにそのコミュ力、流石リサさん。

 それに引き換え……。

 

「大成功に終わったのにそんなに暗くならない! まあ美味しいところはヒナに持ってかれたけど」

 

 カーテンコールでは瀬田さんにお姫様抱っこされて現れた氷川さん。

 会場からは悲鳴がちらほら。

 ……別に羨ましくはないけど。

 

「……二人で抜け出しちゃおうか?」

 

 私を気遣ってそんな言葉を掛けてくれるリサさんはやっぱり優しい。

 でもここで甘えてはいけない気がする。

 

「後で千聖さんにお仕置きされるので無理」

 

「あはは、ありそー♪」

 

「申し訳ないけれど二人っきりはまた今度。今日はリサさんのコミュ力を学ばせてもらう」

 

「ふふっ、しっかり学びたまえよ?」

 

 やっぱり小悪魔っぽい表情も似合うリサさん。

 

 ちょっと頑張ってみるか。

 

 

 

 

「ワンコちゃん、水泳で勝負しよ!」

 

「まだ無理」

 

 初回水泳授業の前の休み時間、一年B組に飛び込んできた氷川さんの発言を切って捨てる。

 近くの総合病院での右目再検査は結果待ち。

 感染症じゃないことが分かればプールも温泉も堂々と行けるけど。

 

「つまんないのー」

 

 不満顔の氷川さん、こういう時は放置すると厄介。

 だけどここでクラスの水泳部員に振ったら恨みを買いそう。

 気持ちを切り替えて脳をフル回転させる。

 だったら――

 

「クロールより速い泳ぎ方でも発明したら?」

 

「え……」

 

「自由形がクロールだけっていうの面白くないしね」

 

 まあそう簡単に発明出来るわけないよね、多分。

 私の思い付きの発言に段々と氷川さんの瞳の輝きが増す。

 

「るんっ♪ てきたー!」

 

 教室から走って出ていく氷川さん。

 ……これで当分は大丈夫だろう。

 

「……ワンコ、アタシ嫌な予感しかしないんだけど」

 

「奇遇ですね、リサさん。ジブンもです」

 

「困るのは日本水連とか世界水連だから大丈夫」

 

 自由形に「ヒカワ」なんて泳法で金メダルが取れたら羽沢珈琲店で何でも奢ってあげる。

 

「二人は先に行ってて。私はここで体操着に着替えていくから」

 

 

 

 

「お疲れ、もう戻って良いぞ」

 

「はい、お疲れさまでした」

 

 水泳の時間はてっきり見学かと思ったら、梅雨の晴れ間ということで屋外体育用具倉庫の片付け。

 かなり雑多だったので授業時間丸々片付けに費やしてしまった。

 でも、まあ、綺麗に片付いて良かった。

 

 さて、教室に戻って昼食。

 やまぶきベーカリー全種類制覇まで後少し。

 ランキング表でも作ってみるかな?

 

 

 

 

「どうなってるの?」

 

「あ、ワンコちゃん、お帰り」

 

 教室に着くと私の席の周りに人だかり。

 掻き分けていくと中心には氷川さんと見知らぬ女生徒、いや以前廊下での瀬田さんへの塩対応で睨まれたか。

 そしてぶちまけられた私の机と鞄の中身。

 

「……説明してもらえる?」

 

「この子がね、あたしがおねーちゃんとお揃いで買ったボールペンをワンコちゃんが盗んだって言ったんだ」

 

 胸倉を掴まれた女生徒は青くなって震えている。

 潰れたパンを見て私の手も震えている。

 

「あたしが信じなかったから証拠を見せるとか言ってこの有様。しかも見つからないとか笑っちゃうよね?」

 

 駄目だ頭に血が上る。

 元凶の女生徒、蛮行を許した氷川さん、スマホで写真を撮る野次馬、誰に噛みつけばいい?

 

 でもここで暴力沙汰になればリサさんや麻弥さん、千聖さんにも嫌われちゃうか。

 暴力沙汰にしなければいいじゃん。

 みんな大好き話し合い。

 

「さーて、どんな落とし前を――」

 

「氷川さんちょっと黙って」

 

 発言を遮られて不満げな氷川さんから女生徒を解放し正面から目を合わす。

 ……眼帯を外して。

 

「ひっ!」

 

「どうして嘘をついたのかな?」

 

 顔を逸らそうとするけど両手で固定して逸らさせない。

 白濁した眼球からは逸らさせない。

 さて、少し頭が冷えてきたから丁寧に話を聞いていこうか。

 

「質問を変えるね。共犯者はここにいる?」

 

「っ!?」

 

「あ、そこの四人反応したよ♪」

 

「ありがとう、氷川さん。じゃあ次は犯行動機、話して楽になろうよ」

 

「あ……ん……」

 

 女生徒の脈がどんどん速くなっていく。

 その程度の覚悟で喧嘩売ってきたの?

 もうちょっと頑張ろうよ。

 がんばれ、がんばれ。

 

「そこまでだよ、子猫ちゃん達」

 

「……瀬田さん」

 

 瀬田さんに肩を叩かれ仕方なく女生徒から手を離す。

 バランスを失い倒れ掛かった女生徒は瀬田さんに抱きかかえられた。

 

「『敵のため火を吹く怒りも、加熱しすぎては自分が火傷する』つまりそういうことさ」

 

「……うん、後はお任せしても?」

 

「ああ、お安い御用さ」

 

 図ったようなタイミングでの登場に少しモヤっとしたけど、息を切らせている麻弥さんを見て納得。

 瀬田さんを呼びに行ってくれたのか。

 

 となるとリサさんは。

 

 

「あら、私が出向くまでもなかったかしら」

 

 

 生徒会長まで登場、視界の端には親指を立ててドヤ顔のリサさん。

 

「薫、この前の公演良かったわよ。日菜もいきなりの代役ご苦労様。ワンコの大道具も良い仕事をしてたわ」

 

 現状には触れず公演の話題。

 ここら辺が落としどころか。

 

 

 昼飯は取り巻きの不始末という事で瀬田さんに奢ってもらった。

 

 犯行動機は私と氷川さんが瀬田さんにベタベタし過ぎ……そんなつもりは無かったけど。

 

 

 

 

「これかしら?」

 

「あ、あたしのボールペン!」

 

「落とし物入れに入っていたわ。大切な物なら肌身離さず持ち歩きなさい」

 

「はーい♪」

 

 放課後の生徒会室、ボールペンが手元に戻ってきてるるるんっ♪ な氷川さん。

 思わず生徒会長に不審げな視線を向けると人差し指を口の前に立てた。

 ……この人が入れたのを抜き取ったか。

 

「じゃあ今日は飼育部ね。あ、ワンコは話があるから残りなさい」

 

 昼休みの事かな。

 氷川さんが出て行った後、居住まいを正す。

 

「今回の件、よく耐えたわね。流石だわ」

 

「えっ?」

 

 開口一番褒められて拍子抜けした。

 てっきりお小言をもらうとばかり。

 

「壁に耳あり障子に目あり、生徒会長はなんでもお見通しよ」

 

 盗聴・盗撮を仄めかす発言に緊張が走る。

 通りでボールペンを抜き取ったり状況を把握していたわけだ。

 ……いやこの人も授業中だった筈じゃ。

 怖いので聞かないけど。

 

「何がお望みで?」

 

「生きづらそうな生徒を助けるのも生徒会長の役目よ」

 

 生徒会長席から立ちあがり私に近付くと躊躇なく眼帯を外す。

 私の白濁した目を見ても嫌悪どころか慈愛に満ちた目を向ける。

 

「正式に私の下で働きなさい。卒業する三月までは力になれるわ」

 

「……随分評価してくれますね。生徒会長自身も凄いと思いますけど」

 

「あら、嬉しいわね。でも一人じゃ限界もあるしコレなのよ」

 

 見せられたのは様々な薬が詰まったピルケース。

 一日何錠飲むのだろう……。

 

「これは二人だけの秘密よ。それに私の下に付けば鉄パイプ片手にやんちゃしてもある程度は何とかするわ」

 

 リサさんを助けた時の事まで把握済みとか。

 ……これは断れないな。

 

「お世話になります」

 

「ふふっ、素直な子は好きよ」

 

 そう言うと眼帯を元に戻してくれた。

 

 

「後は人生の先輩から一つだけ、視野を広く持ちなさい、耳をそばだてなさい、最後まで考えなさい」

 

「……はい」

 

 実感のこもった言葉を胸に刻む。

 今回の件も注意深く行動していたら氷川さんに迷惑を掛けずに済んだかもしれないのだから。

 

 

「つまりそういうこと、よ」

 

 会長が勢いよく生徒会室の扉を開くと――

 

「おっと」「きゃ」「フヘッ」「るんっ♪」

 

 見慣れた四人が倒れてきた。

 全く頼もしいことで……私も負けてられない。

 三月までに絶対生徒会長から認められるくらい、みんなを守れるくらい成長してみせる。

 それが自分との約束。

 

 

「本当に今年の一年生は面白いわね」




感想、評価、誤字報告などありましたらよろしくお願いします。

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<備考>

瀬田薫:儚い

白鷺千聖:少しは勉強になったわ

氷川日菜:次やったら殺るんっ♪

大和麻弥:次の公演も成功させます!

ワンコ:食い物を粗末にするんじゃねぇ

生徒会長:番外編3で登場済みよ

今後読みたいシーズンは?

  • シーズン0(一年生)
  • シーズン1(二年生)
  • シーズン2(三年生)
  • 連載終了
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