犬も歩けば棒に当たる   作:政影

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氷川姉妹お誕生日おめでとうございます。


だけど本文に紗夜さんは出てきません。


<イベント発生条件>

(キャラ:好感度)
日菜:中以上


本編X-7:双子の誕生日(シーズン0春)

「ありがとうございました」

 

 会計を終え店を出るお客さんに深々と頭を下げる。

 この一年請われるままに色々なバイトを経験したけれど、やっぱり羽沢珈琲店が一番しっくりくる。

 

 優しい店長、頼りになる看板娘、個性的な常連客達。

 

 ピーク時は目が回る忙しさだけど、それも含めて嫌いじゃなかったり。

 今日はランチタイムも無事乗り切れたから、店長にコーヒーの淹れ方を指導してもらおうかな?

 考えただけでもワクワク。

 

 

「ワンコちゃん、やっほ~♪」

 

 

 あ、終わった。

 

 

 

 

「仕事中に話しかけないでよ」

 

「もー、そんなに怒らなくてもいいじゃん!」

 

 お昼休憩に入り賄いの特製ナポリタンを食べつつ氷川さんの言葉を聞き流す。

 いつもはバックヤードで済ます賄いだけど店長の許可を得て氷川さんと相席。

 バイトが終わるまで放置すると煩そうだし。

 

 それにしてもこのナポリタン……家庭の味って言うのかな?

 そんな記憶はないけれど懐かしい感じがする。

 

「るんっ♪ てする味だね」

 

 私の友達という事で店長の厚意により氷川さんも同じものを食べている。

 どうだ、美味しいだろ。

 

「で、何か用?」

 

「あたしに双子のおねーちゃんがいるって憶えてるよね?」

 

「うん」

 

 結構な頻度で自慢されるので嫌でも憶えてる。

 断片的な情報から推測すると姉妹仲は微妙。

 こんな破天荒な妹を持ってさぞかし苦労を……友達になりたいな。

 名前すら知らないけど。

 

「で、春分の日が誕生日なんだ」

 

「ふーん……誕生日プレゼント選びに付き合えと?」

 

「そう!」

 

「リサさんとか麻弥さんとかの方が適任じゃない?」

 

「一応お願いしたけどるんっ♪ てくるものが見つからなくてねー」

 

 その二人で駄目となると厳しいような。

 そもそも「るんっ♪」の定義が難しい……。

 となると返事は――

 

「やるだけやってみようか」

 

「やったぁ♪」

 

 そんな不安げな顔をされたら断れないって。

 優しい人達に囲まれているせいかどんどん甘い性格に。

 昔の私が見たら何て言うかな?

 

「あー、その顔、るんっ♪ てきたー! 何考えてたの?」

 

「別に。ほら、頬っぺたにケチャップ付いてる」

 

「んっ」

 

 顔を突き出してくる氷川さん。

 仕方が無いので紙ナプキンで拭いてあげると……そんな笑顔、私じゃなくて「おねーちゃん」に向けて。

 

 

 とりあえず「おねーちゃん」について好きな物とか改めて聞いてみようか。

 

 

 

 

「先ずは『やまぶきベーカリー』」

 

「おー、るるんっ♪ てくるパン屋だね♪」

 

「ワンコさん、いらっしゃいませ」

 

 ランチタイムの片付けを終えバイトを上がると、最初に訪れたのは「やまぶきベーカリー」。

 丁度沙綾ちゃんが店番をしている。

 去年はバンドで色々あったみたいだけど前みたいな笑顔が戻って嬉しい。

 

「でも、誕生日プレゼントにパン?」

 

「うん。お、まだ残ってた。これを見て」

 

「これって……犬のパンだ!」

 

 そこには犬を模したパンや焼き菓子が。

 チョコやシュガーで可愛く犬を表現したものから犬の顔の形に焼き上げた手の込んだものまで。

 当然味はお墨付き。

 

「沙綾ちゃん、春分の日もここら辺のパンって作る?」

 

「勿論です。結構人気なんですよ♪」

 

「というわけで候補に入れてほしいな」

 

「うん♪」

 

 犬派、ということで選んでみたけど中々高評価で安心。

 

 

 

 

「次はここ『北沢精肉店』」

 

「コロッケで有名だよね♪」

 

「わーくん、いらっしゃい!」

 

 はぐみちゃんは今日も元気、笑顔が眩しい。

 明るいだけじゃなく壁にぶつかってもちゃんと向き合って答えを出せる強さを持っている。

 

「ポテトフライある?」

 

「揚げたてがあるよ!」

 

 紙袋に包まれて出てきたポテトフライ。

 一口大に切ったジャガイモに衣をつけて揚げたもの。

 ハンバーガーチェーン店のフレンチフライとは違った美味しさがある。

 

「あ、この味好きかも♪」

 

 早速爪楊枝で口に運ぶ氷川さん。

 肉屋の揚げ物ってコンビニで買うより美味しい気がする。

 ジャンクフード、特にポテトが好きならいけるはず。

 

 

 

 

 ギターをやっているそうなので江戸川楽器店で消耗品でも、と一瞬思案。

 だけど弾いているところを見せたがらないのって……地雷だと思い除外。

 

 

 

 

「泣く子も黙る質屋『流星堂』」

 

「へー、色々あるね♪」

 

「ちょ、なんで来てるんですか!?」

 

 商品の掃除をしていた有咲ちゃんが驚いて高そうなお茶碗を落としかける。

 あぶねー。

 多分私の一か月のバイト代じゃ買えない額。

 

「弓道やってるなら掛け軸、と思ったけど安直だったかな?」

 

「う~ん、悪くはないんだけど値段がねー」

 

「まあそこそこ有名な人達の掛け軸なんで」

 

 ちょっとドヤ顔の有咲ちゃん、可愛い。

 少しの間家庭教師のバイトをしたけどチョロ、いや優秀で手が掛からなくて助かった。

 内弁慶ならぬ蔵弁慶だけど時間があったら外に連れ出したい。

 高校入学で連れ出してくれる人と運命的な出会いがあるかも知れないけど。

 

「あ、犬の置物だ!」

 

「モチーフは早太郎、狒々退治の悉平太郎か。命を賭して恩に報いる姿、私もかくありたい」

 

「今のご時世、命懸けの場面って滅多にありませんよね!?」

 

 有咲ちゃんに突っ込まれちゃった。

 まあそれなりに修羅場は乗り越えてきたのでスルーするけど。

 

 

 

 

「時間的に最後だけど本当にここで良いの?」

 

「うん♪」

 

 最後は風紀委員的に私も愛用していた特殊警棒、と思ったけど却下された。

 結局着いた先は私のバイト先でもある犬カフェの横のペット用品店。

 

「どう、この首輪私に似合う? 名犬ヒナちゃんをおねーちゃんにプレゼント♪」

 

「……流石に犬の首輪をつけて自分をプレゼントは無いと思う」

 

「えー、良い案だと思ったのになぁ」

 

 ちょっと待って、どういう判断?

 普通の姉だったら間違いなく無視するかキレるよ。

 

「マンション住まいだから犬飼えないんだよね。おねーちゃん犬飼いたいって前に言ってたから」

 

「その代わりに自分を犬だと思って……いやいや流石に無理がある」

 

 四つん這いで散歩する氷川さん。

 四つん這いでドッグフードを食べる氷川さん。

 四つん這いで――

 

 うん、絵面的に通報レベル。

 完全に十八禁の世界。

 鬼畜調教系のエロゲとかAVによくあるやつ。

 

「面白い会話をしているわね」

 

「千聖さん」「千聖ちゃん!」

 

 そこに現れた千聖さん。

 手には幾つかレオンくん用と思われる玩具を持っている。

 どうせならとここまでの流れをかいつまんで話すと――

 

「誕生日プレゼントからそんな発想が出るなんてあなた達面白いわね」

 

「氷川さんと一緒にしないでほしいです」

 

「えー、いいじゃん。一緒に褒められようよ」

 

「今の『面白い』に褒められる意って入ってる?」

 

「ふふっ」

 

 私と氷川さんのやり取りに思わず笑い声を漏らしてしまう千聖さん。

 ちょっと恥ずかしい。

 

「話を戻すと犬好きが犬と一緒に暮らせないのは辛いわね。私も実家を出る時には絶対レオンを連れて行くわ」

 

 レオンくん愛されてるなぁ。

 私もいつか動物と一緒に暮らしたいかも。

 そんな余裕当分無さそうだけど。

 

「あ、思いついた!」

 

 唐突に氷川さんが叫び店内を物色、お目当ての物を見つけて駆け戻ってきた。

 

「これに決めた♪」

 

 差し出された銀色に輝く物体。

 

「犬笛だ」「犬笛ね」

 

「これならおねーちゃんが何処にいても駆けつけるし、将来犬を飼った時にも使えるよ!」

 

 瞳を輝かせる氷川さん。

 納得のいくものが見つかって良かったね。

 手伝った甲斐があった。

 

 脳内有咲ちゃんの「どう見てもお前は猫だろ」とか「数キロ離れたら聞こえないだろ」というツッコミは内に留めておく。

 私は空気くらい読むし。

 

 

「ねえワンコ、私の誕生日にも犬笛が欲しいわ」

 

「あー、考えておきます」

 

 こっちの笑顔は心臓に悪い。

 尻尾が生えていたら股に挟んでしまいそう。

 犬笛の用途は……私の躾け、かなぁ。

 

 

 

 

「でねー、日付が変わった瞬間におねーちゃんの部屋に突撃して渡してきたんだ♪」

 

「やったじゃんヒナ」

 

「日菜さん、おめでとうございます」

 

「まあ、おめでとう」

 

 昼休みにリサさんと麻弥さんと教室で食事をしていると氷川さんが顛末の報告に来た。

 ……突然入ってきたと思ったらいきなり誕生日プレゼント、困惑している様子が目に浮かぶ。

 騒々しくてごめんなさい、と心の中で謝っておく。

 

「そんなお姉ちゃん想いなヒナに私達三人から誕生日プレゼントだよ♪」

 

 リサさんが代表してラッピングされた箱を渡す。

 氷川さんは唖然としたまま受け取った。

 こんな表情もするんだ。

 

「え……そっか、私も誕生日だった!」

 

 おいおい、忘れないでほしい。

 らしいと言えばらしいけど。

 双子の「おねーちゃん」の事で頭がいっぱい、ちょっと可愛い。

 

「早速開けるね……有名ブランドのリップスティック! しかも『HINA』って刻印してある♪」

 

 流石リサさん、安定の女子力。

 ちなみに麻弥さんの案は自作の盗聴機能付き発信機。

 私の案はアロマオイル用の法律には触れないけど一般には流通していないハーブ。

 両方ともリサさんに激しく却下された。

 

「リサちー、麻弥ちゃん、ワンコちゃん、ありがとう♪」

 

 氷川さんのこの笑顔を見るとリサさんの案で正解みたい。

 世界で一つだけの誕生日プレゼント、私ももっと学んで選択肢の幅を増やさないと。

 

 

 

 

 誕生日は誰もが主役になれる日。

 

 

 

 氷川さんの「おねーちゃん」も笑ってくれているといいな。




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<備考>

氷川日菜:放課後パンと焼き菓子とポテトフライを大量購入して姉に渡す。

山吹沙綾:癒される笑顔で接客。

北沢はぐみ:元気に接客。

市ヶ谷有咲:猫を被り接客。

白鷺千聖:笑顔で調教。

ワンコ:当初に比べるとマシになった笑顔で接客。

早太郎:氷川家の玄関に置かれる、いつも綺麗。

読みたい視点は?

  • ワンコ視点
  • ヒロイン視点
  • どちらでも

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