犬も歩けば棒に当たる 作:政影
カラン、カラン
「いらっしゃいませ」
犬カフェの扉を開けるとドアベルが鳴り、聞きなれた温かい声が出迎えてくれる。
いつもの黒髪ショートボブに眼帯、今日は店の制服であろうキャップと犬の描かれたエプロンを身に付けている。
「あ、紗夜さん……と日菜ちゃん、こんにちは」
「こんにちは、ワンコさん」
「……あたしの扱い雑じゃない?」
「いいえ、全然」
二人のやり取りに思わずに苦笑する。
「前に頂いた割引券を使いに来ました。日菜のアイドルオーディション合格祝いを兼ねて」
「おめでとうございます」
「ワンコちゃん、もうちょっと驚かないの?」
「才色兼備な上に個性的、うん、ぴったり」
「あ、うん……」
珍しい、日菜がちょっと照れてる。
「一番心配なのが人間関係。平気で遅刻しそうだし、共演者にトラウマ与えそうだし」
「それには私も同意ですね」
「二人とも酷いなー……気を付けます」
これ以上被害者が増えないことを祈るばかりだ。
「店のシステムは基本料金の他に三十分毎料金が加算されお散歩は別料金です。ワンドリンクサービスなので、お好きなものを注文してください」
お散歩ができるのね……ぜひ頼まないと。
「……この期間限定イベントって何?」
「店長がテコ入れで考えた企画。今なら追加料金なしで参加できる」
「うーん、おねーちゃん、参加でいい?」
「いいわよ。あなたの合格祝いなんだから」
「わーい」
「では、そこの座布団に座って待ってて」
店の奥に行くワンコさん……一瞬こちらを見たような気がしたけれど。
『第三戦隊、抜錨』
アナウンスとともに現れた四つの影が日菜に襲い掛かる。
「きゃっ、ちょっと、くすぐったい!」
「日菜、大丈……ラフ・コリー?」
襲いかかったのはラフ・コリー四頭。日菜が揉みくちゃにされている……羨ましい。
「Congratulations」
「……撫でてもいいかしら」
「はい、『金剛』『榛名』」
ワンコちゃんの呼びかけに二頭が私の前にやってきてお腹を見せて寝そべる。
「それでは、失礼して」
片手ずつ優しく二頭のお腹に触るとモフモフと撫でまわす……まさに愉悦。
「『比叡』『霧島』」
呼ばれた残りの二頭も私の近くに寝そべりふわふわな毛に包囲される。時間延長決定!
「……こんな楽しそうなおねーちゃん初めて見た」
「……うん」
ひたすらスマホで私を撮影している日菜と、日菜に付いた犬の毛をコロコロで取っているワンコさんが何か言っているが、全然耳に入らなかった。
「素敵な体験ありがとうございました」
「いえいえ。こんなに喜んでいただいて、犬カフェ店員冥利に尽きます」
あれから十二分にモフモフした後、お散歩のオプションも申し込んだ。
私は「金剛」ちゃん、日菜は「比叡」ちゃんを連れ一時間の散歩……盆と正月が一緒に来たようね。
途中でレオンくんを連れた──白鷺千聖──さんに会ったので、ようやくレオンくんに助けてもらったお礼を直接言えた。
「はい、犬のラテ・アート付きカフェ・ラッテ、それと私から」
「えっ?」
注文していないカップケーキに驚いて彼女を見ると人差し指を口に当てている。
「あたしには無いの?」
「……じゃあこれで」
ワンコさんはエプロンのポケットから水色のリボンでラッピングされたクッキーを取り出し日菜に押し付ける。
「味は期待しないで」
「うんうん、期待するね」
「ワンコさんも大変ね」
「そうですね。嫌いじゃないけど、苦手です」
「本人の前でそういう事言うかな?」
「陰口はたたかない主義なんで」
「ふふっ」
仲が良いのか悪いのかよく分からない会話に思わず笑ってしまう。
「それとイベント参加報酬の犬のアクリルキーホルダーです。いくつか種類があるのでお好きなものをどうぞ」
どれにしようか…………。
「……柴犬をお願いします」
「はい、家族思いの紗夜さんにピッタリだと思います」
まっすぐなその言葉に思わず顔が火照るのを感じる。
「……あたしもおねーちゃんと同じのでいい?」
日菜が遠慮がちに聞いてくる。その不安げな顔に過去の自分の態度を思い出し胸が痛くなる。
「ええ、姉妹でお揃いというのも変ではないわ」
「うん! るん♪ ってきた!」
そっけない風を装ってはみたものの二人の笑顔が眩しい。
いつの日にかもっと素直になれるのかしら?
「それでは、お二人のまたのお越しをお待ちしております」
感想、評価、誤字報告などありましたらよろしくお願いします。
<備考>
氷川紗夜:飼うなら犬。
氷川日菜:飼うならおねーちゃん。
ワンコ:飼われたい。
番外編2で扱ってほしいバンドは?
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Roselia
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Afterglow
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Poppin'Party
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Pastel*Palettes
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ハロー、ハッピーワールド!