犬も歩けば棒に当たる   作:政影

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長くなったのでまずは前編です。


<イベント発生条件>

(キャラ:好感度)
燐子:高
あこ:高
紗夜:高
Roseliaの好感度が中以上


本編X-9:温泉前編(シーズン1夏)

「温泉に……行きましょう……」

 

「唐突ね、燐子」

 

 夏休みでも妥協は許さないRoseliaの練習が終わりファミレスでの反省会、開始早々燐子さんの爆弾発言が飛び出した。

 他のメンバーの表情を盗み見るが事前に聞かされてはいなさそう。

 私も初耳だ。

 

「Roselia結成前に……温泉旅行しようってワンコさんとあこちゃんと氷川さんと約束していたので……」

 

 思わず紗夜さんの方を見ると眉間に皺を寄せて考え込んでいた。

 確か日菜ちゃんの件で悩んでいた紗夜さんの気を紛らわす為に咄嗟に私が提案したような。

 まあ、結果的に姉妹仲は修復方向にあるので忘れていたけど。

 どうしてこのタイミングで言い出したのか。

 

「……それに一学期色々あって……リフレッシュした方が良いと」

 

「うん、それには同感。私は賛成」

 

 家が焼けたり、居候したり、死にかけたり、入院したり等々。

 最高の出会いもあったけど、少し旅行でもして気分転換したい気持ちもある。

 それにRoseliaの練習は素人の私から見ても厳しいし息抜きは必要。

 普段は気配り上手なリサさんも燃えてくると若干周りが見えなくなるし。

 

「アタシも賛成♪ スタジオに籠ってばっかりだと友希那も良い曲作れないでしょ?」

 

「はーい、あこも温泉で回復してもっと上手くなりたいです!」

 

 ノリの良いリサさん、あこちゃんが予想通り賛成派に回る。

 後は友希那さんが賛成すれば紗夜さんも……。

 

「湊さん、楽器と一緒で私達にもメンテナンスは必要だと思います」

 

「……そう。各々がRoseliaの為に必要だと思うのなら私も賛成よ。燐子、当てはあるの?」

 

「はい……大丈夫です……」

 

「任せたわ」

 

 意外にもすんなり決定。

 予想外だった紗夜さんの言葉、真意を問おうと思ったけど既にポテトに夢中だったので断念。

 星四スマイルの無駄遣い、日菜ちゃんが嫉妬するレベル。

 

 それならと提案者の方を向けば既に燐子さんはあこちゃんとドリンクバーへ。

 魔界味のドリンクは作られないと思いたい。

 

「まさか燐子からこんな発言が出るなんてね~」

 

「そうね。でも悪くないわ」

 

「うん、『 随処に主となれば立処皆真なり』流石燐子さん」

 

「ワンコそれはどういう意味?」

 

「要約すると、どんな時でも主体的に行動する事が大事。国語の授業でやったでしょ?」

 

「……憶えてないわ」

 

 友希那さんには夏休みの宿題の前に一学期の復習をやらせないと。

 相変わらず目を離すと音楽と猫にしか目が行かなくなるし。

 ……そんなところも魅力的に見えるあたり、リサさん程ではないけど私も重症。

 

 

「みなさん、反省会という事を忘れていませんか?」

 

 一皿目のポテトを食べ終えた紗夜さんが冷静なツッコミ。

 ポテトの追加オーダーをしていなければもっと格好良かったけど。

 常識的な色のドリンクを持ってきた二人が腰を下ろし、ようやくRoselia反省会が始まった。

 

 

 

 

「まりなさん、本当にありがとうございます」

 

「CiRCLEが消防設備の定期点検日だしお安い御用だよ。でも私まで泊めてもらっていいの?」

 

「はい……丁度七人部屋が空いていましたので……」

 

 あれから数日後、燐子さんが予約した旅館までの移動手段をCiRCLEのロビーで話していたところ、まりなさんが運転手役を買って出てくれた。

 当日は各人の家まで迎えに来てくれるというありがたさ。

 助手席に座った私はカーナビに燐子さんから聞いた目的地をセットした。

 高速を使って一時間半もあれば着くかな。

 

「じゃあ最速で、最短で行くよ!」

 

『えっ!?』

 

 カーオーディオから流れる軽快なユーロビートと共にホイルスピンからの急加速。

 体がシートに押さえつけられる。

 まだ市街地の一般道なのに迷いも容赦もない運転。

 操作を誤れば横転しかねない速度でのカーブ突入でタイヤが悲鳴を上げる、やるなまりなさん。

 

「いやー!!」

 

「きゃー!!」

 

「………………」

 

「まりなさん、カッコイイ!」

 

「ええ、ロックだわ」

 

 ……後ろの席は楽しそうだ。

 

 

 

 

「はー、すっごく楽しかった~!!」

 

「ええ、刺激的で面白い体験だったわ」

 

「ふふっ、ありがとう♪」

 

 ホテルに到着し各々車から降りる。

 あこちゃんと友希那さんはまりなさんを褒め称え、残りの三人はその場に声もなくしゃがみ込んでいる。

 一時間半掛かるところを一時間で走破した代償。

 荷物は私達で持つとしてさっさとチェックインして部屋で休んでもらおう。

 昼前にチェックインできるとか燐子様様。

 

 

「にゃあ」「にゃーん」「なー」

 

「にゃんーちゃんのお出迎え!?」

 

 ホテルに入った途端ウェルカムドリンクならぬウェルカムキャット。

 友希那さんは思わず荷物を放り出し駆け寄った。

 流石リーダー、ぶれない。

 

 ちなみにウェルカムドリンクは炎が描かれた缶ジュースだった。

 ライブブーストが回復しそう……。

 

「白金さん、チェックインの手続きをお願いします」

 

「はい……」

 

「友希那、私も撫でて!」

 

 飲んだ途端ダウンしていた三人が元気になったので深く考えないでおこう。

 

 

 

 

「わー、畳だ!」

 

「宇田川さん、行儀が悪いですよ」

 

 部屋に入った途端畳の上で寝そべるあこちゃんとそれをたしなめる紗夜さん。

 何となく姉妹っぽい。

 猫に夢中の友希那さんと付き添いのリサさんはロビーに置いてきた。

 

「かぁ~っ! キンキンに冷えてるね!」

 

「……お茶……淹れました」

 

「ありがとう、燐子さん」

 

 早速部屋の冷蔵庫からビールを取り出して飲んでいるまりなさんを尻目に、燐子さんが淹れてくれた緑茶と置いてあったお菓子を頂く。

 あ、この最中美味しい。

 みんなへのお土産に後で買っておこう。

 

「あら、この近くに犬をレンタルして散歩が出来るテーマパークがあるみたいですね」

 

 観光案内を読んでいた紗夜さんがいかにも今気付いた様に切り出す。

 犬派を公言しているだけに事前に知ってそうだけど。

 

「NFOとコラボしてるところですよね。みんなで行きません?」

 

 実は調べてたであろうあこちゃんは上手く乗った感じ。

 それも良いかな、と返事をしかかったところで燐子さんから服を引っ張られる。

 となると――

 

「今日は温泉を堪能するのでパス」

 

「……私も……パスかな」

 

「よーし、そこだ! 仕事しろ!」

 

 燐子さんとスマホで競馬中継を見ているまりなさんも行かない模様。

 日頃のストレスの一因になっているだけに何も言えない。

 

「仕方ありませんね。宇田川さん、行きますよ」

 

「はーい!」

 

 嬉しさをあまり表に出さない紗夜さん、全身で表現するあこちゃん。

 対照的だけど良いコンビだと思ったり。

 紗夜さんに言うと軽く流されそうだけど。

 

「先に……着替えてきます……」

 

「うん」

 

 まりなさんがいるから燐子さんは部屋の浴室で着替える模様。

 私は暫く待つか。

 

「あっち向いてるからそこで着替えても良いよ」

 

「あ、はい」

 

 別に見られて困るほどのものでもないからいいか。

 ……ちょっと釈然としないけど。

 

 

「お待たせ……しました……あれ?」

 

「こっちも準備万端」

 

 髪をアップにして浴衣を着た燐子さん……。

 縞模様の入った浴衣に赤い羽織というオーソドックスなスタイルなのに目が離せない。

 胸の無い私より絶対に似合っている。

 

「……変……ですか?」

 

「全然。見とれてた」

 

「…………もう」

 

 小さく抗議の声が聞こえたが顔は笑っているので良しとしよう。

 

「まりなさん留守番お願いします」

 

「はーい。おつまみあったらよろしくね」

 

「もう少ししたら昼飯なので我慢してください」

 

 

 

 

「では、お先に」

 

「…………うん」

 

 手早く体を洗い早速温泉に浸かる。

 右目が失明のまま安定したのと火傷痕が薄くなったお陰で眼帯もラッシュガードも無しの入泉。

 

 

 とろけそう。

 

 

 早い時間帯という事もあって他にお客さんがいないので、貸切状態で気分は更に高揚。

 少し遅れて体を洗い終わった燐子さんも温泉に浸かる。

 ……水面に浮かぶひょうたん島からはそっと目を逸らす。

 

「……眼病や火傷に……効くそう」

 

「もしかして今回の旅行って私の為?」

 

 見えない右目を瞼の上から撫でながら聞くと少し困った顔を浮かべた。

 ちょっと自意識過剰な意地悪な質問だったかも。

 

「半分は……純粋にRoseliaのみんなの疲労が気になったから……。……残り半分は……私の我儘、かな?」

 

 蠱惑的な表情を浮かべる燐子さん。

 口調も仕草もえっちなモードに。

 

「そっか。何にせよ主体的に動く燐子さんが見れて私は嬉しい」

 

「……ありがとう」

 

「こちらこそ」

 

 横に並んで座ったまま温泉の中で手を重ねる。

 荘厳な旋律を奏でるこの手、指を絡めると優しさが伝わってくる気がした。

 

 

 ちゅっ

 

 

「……えへへ」

 

「大胆さもレベルアップ……」

 

 頬に触れた柔らかい感触。

 二人きりになると甘えん坊さんになるから困る、いや困らないか。

 

「んっ…………」

 

 お返しに柔らかな唇を塞ぐ。

 着いて早々、盛りのついた犬か、私。

 

「実は……貸切風呂も予約しちゃった……」

 

「手回しの良い子は大好き」

 

 さて二人で軽く汗を流しますか。

 

 

 

 

「紗夜さん、大丈夫ですか?」

 

「はい……お見苦しいところ……」

 

 温泉でのぼせて布団の上で横になっている紗夜さんを扇ぐ。

 

 燐子さんとの入浴後、全員でホテル内のレストランで昼食を取りまた温泉へ。

 入泉後しばらく経って紗夜さんがダウン。

 私が申し出て部屋まで運び布団を敷き寝かせた。

 

 弱っている紗夜さんを見るのは久しぶりだけど、症状も軽そうだし前とは原因が違うのであまり心配はしていない。

 羽目を外せる位みんなと絆を深めたと感じているから。

 

 ……犬達と全力で戯れてきたんだろうね、体力を使い切る位。

 

「全然。貴重な紗夜さんを見れて役得」

 

「…………日菜には内緒ですよ」

 

「うん」

 

 上気した顔に潤んだ瞳、いつもの凛々しい表情も好きだけどたまにはこんな表情も。

 ……でもちょっと刺激が強すぎる。

 

「このまま安静にしていれば治りますので……付き添わなくても大丈夫ですよ?」

 

「私がしたいから、じゃ駄目?」

 

「…………いいえ」

 

 額のおしぼりを洗面所で冷やしまた額に。

 何だか施設にいた頃に年下の看病をした時の事を思い出した。

 元気にしてると良いな。

 

「私は……『仲間』という言葉が嫌いです。同じ物事をする集団、それだけで『仲間』という単純なくくりになってしまう」

 

 熱に浮かされたのか唐突な発言だけど、実に紗夜さんらしい考え方。

 そんなところが毅然とした生き方に繋がっているのだろう。

 

「最近悩むんです。ワンコさんと私、いえ私達の関係を何と呼べばいいのか」

 

 私はステージに上がるわけではないから厳密な意味だとバンドメンバーとは呼べないか。

 こんな時でも眉間に皺を寄せて考える真面目な紗夜さんが可愛らしい。

 

「『同志』でも『群れ』でもお好きなように。立つ位置は違っても見続けるから」

 

「……はい」

 

 ほっとした表情になる紗夜さん。

 妹の気楽さを半分くらい分けてやりたい。

 

「『群れ』……良いですね。ワンコさんが姉犬なら私は妹犬です」

 

「まあ、誕生日的にはそうかもね」

 

 確か狼の群れだと血縁関係が多いから姉妹でも間違いじゃないか。

 今まで考えたこともなかったけど紗夜さんが妹……可愛い。

 姉と妹の面倒を甲斐甲斐しく見つつも自分を律する頑張り屋さん。

 たまに姉に甘えたくなるけど中々言い出せずに抱え込んでしまったり。

 そんないじらしい姿を見つけて思わずハグしてしまったり。

 

 

 ……自分勝手な妄想に巻き込んでしまい反省。

 

 

「姉犬は妹犬が病気の時は寄り添うらしいですよ」

 

「うん、分かった」

 

 紗夜さんの言わんとしている事が分かったので私も布団の上に寝転ぶ。

 アイスグリーンの長い髪を手に取り弄ぶ。

 サラサラで良い触り心地。

 

「気に入りましたか?」

 

「うん、すっごく紗夜さんだな、って」

 

「ふふっ、何ですかそれ」

 

 

 

「あー、ワンコ先輩ばっかりズルい!」

 

 障子を勢いよく開いて現れたのは浴衣姿のあこちゃん。

 髪を下ろしている姿も中々似合う。

 少し大人っぽく見えるし。

 

「ドーンッ!」

 

「おっと」

 

 私の上にダイブしてきたので咄嗟に受け止める。

 抱きしめたあこちゃんの体から伝わってくる質感。

 体の方も順調に成長している様で何より。

 

「宇田川さん!」

 

「まあまあ。あこちゃん、ちゃんと髪拭かなきゃ駄目」

 

「はーい!」

 

 こんな時でも注意を欠かさない紗夜さんを宥めつつ、あこちゃんの首からタオルを取る。

 身を起こし私の股の間に座らせて丁寧に水気を奪っていく。

 姉妹だけあって巴ちゃんの髪と似ている。

 

「さっきの紗夜さん凄かったんですよ! 犬の種類は鳴き声だけで全部当てちゃうし、獰猛な犬も躾けちゃうし」

 

「あ、あれくらい当然です!」

 

「そう、流石紗夜さん」

 

 片手で髪を拭きつつ片手で紗夜さんの頭を撫でる。

 犬好きに磨きがかかっている……将来は犬関係の仕事、とまではいかなくても犬を飼ったら大事にしてくれそう。

 犬を大事にする人は信用できる。

 

「あこも躾けたいなぁ……。紗夜さん、コツとかあります?」

 

「……信頼関係ですよ。そうですよね、ワンコさん?」

 

「うん、まずは相手を理解する努力。それでも無理なら……秘密」

 

「えー、教えてよ!」

 

「私も知りたいですね」

 

 何で二人揃ってノリノリなのか。

 ドン引きするような答えしか用意してないのに。

 ……まあさっきの燐子さんとのやりとりで既に私も羽目を外しているので。

 

「こうする」

 

「えっ!」

 

「なっ!」

 

 髪を乾かし終わったあこちゃんを紗夜さんの横に押し倒す。

 

 そして、覆い被さる。

 

「さて、どうする聖堕天使あこ姫?」

 

「あ…………くっ、殺せ! 魔犬風情に屈しない!」

 

「止めなさい! 彼女に手を出すなら私にしなさい!」

 

 ……何この流れ、落としどころが見えない。

 とりあえず――

 

「あんっ……」

 

「一舐めしただけで可愛い声。聖堕天使様は首筋が弱点かな?」

 

「くっ、彼女から離れなさい。このケダモノ!」

 

 やばい、あこちゃんの嬌声も紗夜さんから罵声も気持ち良い。

 旅先で身も心も開放的に。

 こうなったら――

 

「……そこまで……です!」

 

「「「RinRin!」」」

 

 ここにきて名うてのウィザードが参戦。

 私も体を起こし身構える。

 

「……体は汚せても……心までは汚せません」

 

 するすると服を脱いでいく燐……いや、RinRin。

 温泉で上気した肢体は先程十分に堪能したというのに飽きさせない。

 それではお望み通りに。

 

 

 ガシッ!

 

 

「三対一なら負ける道理はありませんね」

 

「あこ達のチームワーク見るがいい!」

 

「……ふふふ……油断しましたね」

 

 紗夜さんには羽交い絞めにされ、あこちゃんには足首を押さえられ、燐子さんには正面から迫られる。

 

 

 ……温泉旅行一日目、どんな時でもRoseliaは元気いっぱいだ。




感想、評価、誤字報告などありましたらよろしくお願いします。


<備考>犬について

白金燐子:……お可愛いこと。

氷川紗夜:愛です、愛ですよ。

月島まりな:犬はエサで飼える。人は金で飼える。

Poppin'Partyで読みたい視点は?

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