犬も歩けば棒に当たる 作:政影
〇出会い(シーズン1)
最初の出会いは偶然だった。
……の痛みが強かったのでお医者さんに診察してもらった後のエレベーター。
閉じ始めた扉の向こうに少し怖そうな眼帯の少女が近付いてくるのが見えたので咄嗟に「開」ボタンを。
普段のわたしだったら逆だったのに、不思議。
「きゃっ」「おっと」
エレベーターの急停止にバランスを崩した私を抱きしめるように支えた彼女。
間近で見るその顔は意外と涼やかで、怖さより凛々しさを感じた。
暫く待ってエレベーターがそれ以上動かない事を確認すると、わたしの体を離しテキパキと外に連絡を取った。
わたしを心配させない為の明るい振る舞い、お陰で人見知りで怖がりなわたしでもパニックを起こさずに済んだ。
何故かしりとりをする事になったけど。
驚く事に彼女も明日から高等部二年生、でも学校が違うから会う事はもうないかも知れない。
それがたまらなく嫌だったので本を貸すという名目で連絡先を交換した。
アドレス帳の名前が増えるのはあこちゃん以来、かな。
「……はぁ……はぁ」
今までに感じた事の無い感覚。
彼女とのしりとりの途中から感じていた違和感、下腹部が熱い。
帰宅早々冷たいシャワーを頭から浴び続けたけど中々収まってはくれなかった。
「……犬神……一子」
ベッドの上に寝転びながらアドレス帳の文字を読み上げる。
「……ワンコ……さん」
恩人に付けてもらった愛称だとか。
そう言った彼女は一瞬寂しげな表情を浮かべたけど直ぐ元の表情に戻った。
何故か胸がざわざわする。
彼女の事をもっと知りたい。
早速メッセージを送る?
ううん、それはちょっと恥ずかしい、それにガツガツしていると思われたくない。
こういう時はネットの力に頼ろう。
急いでパソコンを立ち上げ彼女の名前を打ち込む。
SNSは……やっていないみたい。
それならと羽丘の学校裏サイトを見つけパスワードを解析し閲覧開始。
去年の四月あたりは彼女に対する誹謗中傷がたくさん書き込まれていたけど急に減少、ついには完全に消滅した。
……凄い、何をしたんだろう?
その事には興味を持ったけど、残念ながら彼女自身の情報は全く得られなかった。
そうだ、羽丘中等部のあこちゃんに聞けば何か分かるかも。
翌日あこちゃんと一緒に彼女のバイト先のコンビニに行ったら、クラスメイトの氷川さんと遭遇。
そして何故か全員で友希那さんのライブに行く事に……人生って本当に不思議。
でも、悪い予感は全然しなかった。
〇図書委員(シーズン1)
遠ざかるRoseliaのメンバー達。
必死に伸ばすわたしの手は届かなくて、振り絞っても声は出なくて。
わたしの何がいけなかったのだろう……何が足りなかったのだろう。
気が付くと足から真っ黒な地面に沈んでいく。
何とかして逃れようと藻掻くけど沈む早さは変わらなくて。
ああ……このまま……一人で…………。
『私がいるよ』
その言葉と共に手を掴まれ引っ張り上げられる。
よく知っている感触。
ふふっ……夢の中まで手を差し伸べてくるなんて本当にお節介、だね。
「…………あっ」
「うん、おはよう」
気が付くとそこは学校の図書室。
夢の中と同じようにワンコさんの手を握り締めていたので直ぐに離す。
記憶を辿ると確か図書室のカウンターで受付をやっていて……寝落ちしたみたい、恥ずかしい。
確かワンコさんは羽丘の生徒会の手伝いで花女に来ていて、ついでにわたしに会いに来た筈。
それなのに寝ちゃうなんて……。
「受け付けは代わりにやったから大丈夫」
「……えっ!?」
「そこに燐子さんのマニュアルがあったから」
受付で緊張しても問題なく業務をこなせるように作ったマニュアルがまさかこんな形で役に立つなんて。
過去のわたしを褒めてあげたい。
「うなされてたけど怖い夢でも見た?」
「…………はい……沈む夢を」
ハンカチで目尻に軽く触れられた。
もしかしたら泣いていたのかも……。
「沈む夢は不安の表れ。でも心の持ちようで逆転出来るから。燐子さんを信じてる」
「…………」
「昔読んだ本の受け売りだけどね」
悪戯っぽく笑うワンコさん、すっと胸が軽くなる。
ああ、この笑顔を前にすると自分が抑えきれなくなってしまう
あこちゃんに抱く感情に似ているけどもっと直接的な……。
見つめ合う彼女の片目と私の両目、ああ、吸い込まれそう。
体が自然と動き唇同士の距離が縮まって――
ガラッ!
「っ!?」
「あ、紗夜さん」
開く音が聞こえてきた扉の方を見るとこちらの状態を察して気まずそうな顔の氷川さんの姿が。
わたしも……気まずい……。
「まだ残っているようでしたら白金さんと帰ろうと思って……」
「は、はい……」
微妙な空気、立場が逆だったら同じ反応しそうだし。
助けを求めてワンコさんの方を向くと――
「私も一緒に帰って良い?」
「え、ええ、私は構いません」
「わたしも……」
「じゃあ、そろそろ下校時刻みたいだし戸締りして帰ろう?」
何事も無かった様な見事な対処。
……手慣れているみたいでちょっとモヤモヤする。
流石に氷川さんの前だと恥ずかしくて手を繋いでは帰れなかった。
でも、寄り道して買ったクレープの食べ掛けを二口三口食べれたので大満足。
〇就任祝い(シーズン2)
「……羽織……ですか?」
「はい! ワンコ師匠が羽丘の風紀委員になったのでお祝いの品に羽織を贈りたいです。つきましてはご助力を!」
「若宮さんは相変わらずですね」
生徒会室に現れた若宮さんの申し出に困惑するわたしと氷川さん。
確かにRoseliaの衣装担当はわたしだけど和服はあまり仕立てた事が無い。
でもわたしが生徒会長に就任した時にパンダのぬいぐるみを貰ったからお返しはしたい。
「サヨさんもお揃いの羽織を着れば『羽丘の狂犬』『花女の狂犬』の二頭体制です!」
「誰が狂犬ですか!」
「う~、おかしいですね。前にそんな噂が」
「……氷川さんは……忠犬」
可哀そうな氷川さんの頭を撫でる。
そんな酷い事を言う人は見つけ次第……。
「ちょっと白金さん、人前で」
「おお、生徒会長のリンコさん、王者の風格です! お手伝いできる事があれば是非!」
恥ずかしがる氷川さんと何故か感動している若宮さん。
二人とも犬っぽいかも。
羽織…………。
ステージ衣装に和のテイストを取り入れたら面白いものが出来上がるかも知れない。
その為の腕試しだと思えば十分に意味がある。
勿論やるからには今のわたしの全力で挑むつもりだけど。
「分かりました……若宮さんも一緒に頑張りましょう……」
「合点承知!」
元気の良い返事に顔が綻んでしまう。
うん、わたしも頑張ってみよう。
「……で、これがその羽織?」
「はい! お似合いです!」
「私まで着る必要はありますか?」
「二つで一つ……なので……」
羽丘の生徒会室で制服の上から羽織を羽織ったワンコさんと氷川さん。
見た目は新撰組のものとほぼ変わらないけど、背中の文字を「誠」から「羽」と「花」に変えてある。
「着心地は中々、得物を持っての動きも問題無し。でも燐子さんの事だからそれだけじゃないでしょ?」
「はい……某ルートから入手した素材を使って防刃と防弾に優れます……」
「あははー、燐子ちゃんも面白いね♪ やっぱりRoseliaだね~」
「ちょっと、日菜。それだとまるでRoseliaが面白集団の様に聞こえるんだけど?」
「え、ああ、うん」
「大丈夫です、サヨさん! サヨさんも十分面白いです!」
「……くっ」
無邪気な若宮さんにそう言われると反論を飲み込むしかない氷川さん。
わたしは……誉め言葉だと思っておこう。
だって当のワンコさんがまんざらでもなさそうな顔だから。
「問題は浅葱色が日菜ちゃんのイメージカラーに似てる点」
「そうですね……これだとまるで氷川日菜親衛隊のような」
〇初体験(シーズン2)
「…………緊張……します」
「力を抜きなさい燐子。とても美しいわ」
友希那さんの言葉に握りしめた手を解くと酷い手汗。
もしかしたらライブの時より緊張しているのかも。
深く息を吐きリラックスしようとしても中々上手く行かない。
それに引き換え横の友希那さんも初めての筈なのに自然体、流石リーダー。
「……時間です」
「さあ、私たちの手作りマーケットを始めましょう」
最初の切っ掛けは今井さんが奥沢さん達と手作りマーケットに参加したとRoseliaのみんなに話した事。
自作の羊毛フェルトや編み物、詩集等が驚くほど売れたという話。
そしたらあこちゃんもわたしの作品で参加したいと言い出して……。
結局全員で参加する事になったけど、一部不安なメンバーもいるのでペアで製作する事に決まった。
わたしはあこちゃんのイメージにアレンジを加えたヘアアクセサリーやコサージュ、ブローチ。
氷川さんと今井さんは一冊丸々ポテトに焦点を当てたレシピ本。
ワンコさんと友希那さんは羊毛フェルトの猫。
どれもみんなの努力が伝わる作品達。
用事で開始には間に合わなかった四人の為にも頑張らないと。
設営は経験者の今井さんが細かく指示書を作ってくれたおかげで問題無し。
後は……友希那さんとわたしの手腕に。
「あ、ネコちゃん!」
「良かったら触ってみてね」
「ポテト神かよマジパネェ……オネーサンこれくださーい!」
「はい、ありがとうございます」
初対面の相手ばかりなのにさっきから友希那さんの応対が凄い。
わたしは女の子ならともかく男性相手は……。
「この青薔薇のコサージュは貴女が?」
「いいえ。こちらの者です」
「は、はい! ……何か問題が?」
突然話を振られて声が裏返る。
お客さんに変に思われてないかな?
「とても丁寧なつくりだと思ってね。じゃあ、これを頂くわ」
「あ、ありがとうございます!」
代金を受け取り深々と頭を下げる。
売れたんだ……嬉しい……。
「やったわね、燐子」
「……はい」
わたしの手を取り、まるで自分の事の様に喜んでくれる友希那さん。
思わず泣きそうに。
「本物は必ず誰かの目に留まる。当然の結果よ」
「ありがとう……ございます……」
「さあ、Roseliaはステージ上だけでじゃなくても輝ける事を示すわよ」
「は、はい!」
「あ、友希那、みーつけた♪」
しばらくして今井さんを筆頭にこちらに向かってくるRoseliaの残り四人の姿が見えた。
「遅いわよ、あなた達。丁度燐子が燐子とあこの作品を売り切ったところよ」
「やったね、りんりん!」
「うん……」
喜びのあまり飛びついてきたあこちゃんを抱きとめる。
あこちゃんにも見てほしかったな……。
「燐子ならトーゼン♪」
「おめでとう、白金さん」
「流石は燐子さん」
口々に褒めてくれるのでちょっと恥ずかしい。
「さあ店番は交替、燐子一緒に回るわよ」
「はい……友希那さん……」
わたしの手を取り猫グッズ目掛けて今にも走り出しそうな友希那さん。
きっと彼女、いや彼女達となら何処までも駆け続けていけそう。
だってRoseliaの青薔薇は「不可能を成し遂げ、更にその先へ進んでいく」ものだから。
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<備考>
白金燐子:着実に一歩ずつ成長。
ワンコ:経験に学ぶ系。
氷川紗夜:巻き込まれ体質。
若宮イヴ:我以外皆我師。
湊友希那:不器用さを猫愛でカバーして何とか完成。
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