犬も歩けば棒に当たる 作:政影
〇語りたい(シーズン1)
「はぁ……」
みんなから疎まれたり嫌われないように優等生を演じる毎日。
本当は大好きなパスパレさんについて朝まで語り合いたい。
でも……そんな「私」はみんなが求めている「私」じゃないから……。
夜、溜息をつきながら窓から外を見ているとキラリと光るものが。
流れ星かな?
秘密を打ち明けられる友達、が無理ならパスパレさんの次のライブのチケットが当たるようにお願いでも。
でもその光は一直線に夜の海へ落ち水柱が!
更に数秒後、さっきよりも数倍大きな水柱が!
「……私のお願いの所為じゃないよね?」
あまりの出来事に意味の分からない事を呟いた私は、心の赴くままに海岸目掛けて家を飛び出した。
「はぁ……はぁ……」
息を切らせて浜辺まで下りてきたものの特に異常は無し。
懐中電灯で海を照らしても飲み込まれそうな夜の海しか見えない。
何かが落ちたのは沖合、それなのに何を期待してたんだろう。
さあ、早く帰ってパスパレさんの録画した番組をまた見よう。
明日からの鬱屈とした日々を乗り切るために――
バシャッ、ザッ、ザッ
「え……何…………」
家に向かい歩き出してすぐ後ろから水音と砂の上を歩く音。
急いで振り返るとウェットスーツの様なものを着た人物、顔は暗くてよく見えない。
ナイトダイビングにしてはシュノーケルや酸素ボンベといった装備が見当たらない事に違和感を覚える。
流れ星に見せかけた宇宙船でやってきた宇宙人、ということは流石に無いだろうけど。
何かの工作員だったり犯罪に関係する人だったら……。
恐怖で足がもつれ尻餅をついてしまう。
こんな事になるなら我慢しないでオタクな私をみんなに曝け出せば良かった!
授業をサボってパスパレについて語り合えば良かった!
手芸部に入部するんじゃなくてアイドル同好会を立ち上げれば良かった!
距離が縮まり最後の時が近付く。
喧嘩なんてしたことがない私が抵抗しても無意味だろうと目を閉じる。
せめて来世ではパスパレさんが着る衣装になりたい、な。
「あのー」
「ひっ!!」
「怖がらせてごめんね。電話貸してもらえないかな?」
思いもよらない言葉に目を開けると困り顔の女の子がそこにいた。
「ごめんね。電話だけじゃなくてシャワーと着替えまで借りちゃって」
「いえいえ、困った時はお互い様ですから」
冬の海でびしょ濡れの彼女をそのままにしておくことは出来なかったのでこっそり家に連れ帰った。
人も集まって来そうだったので。
……「私」の事を全く知らない彼女だったら素の「私」で接しても問題無いから、そんな打算もあったかもしれない。
単純に突然の来訪者という非日常に興奮していたのも大きいけど。
とりあえず彼女の事情については聞かないでおこう。
真っ当じゃない事は確かだから。
あ、シャワーを終えた彼女をオタク趣味、というかパスパレ一色の自室にそのまま入れちゃった。
壁どころか天井まで貼られたポスター、棚に鎮座する初回盤CDとぬいぐるみ、カーテンに切り抜きを貼り付けて作った巨大なハートマーク。
変に思われませんように!
「お、パスパレだ」
「知ってるんですか!?」
「うん、一応ライブにも何回か行ったよ」
良かった~。
パスパレ好きに悪い人はいないからね♪
少し残っていた恐怖心も払拭された。
「あれ、このぬいぐるみって……もしかして手作り?」
「はい! 公式のが手に入らなかったので見様見真似で。良かったら手に取って見てください」
「それじゃあ遠慮なく……おお、細部まで丁寧に。愛を感じる」
「ありがとうございます♪」
ぬいぐるみを見つめる優しい表情、この人もパスパレが大好きだと確信させるには十分。
やっぱり凄いアイドルグループなんだな。
「パスパレさんの曲だと何が好きですか?」
「難しい質問だね。しゅわどりは基本としても――」
こんな夜中に自分の部屋でパスパレさんの話ができるなんて……数時間前の私に言っても信じてもらえないと思う。
……っと、大事なことを聞き忘れていた。
「遅くなりましたが、私の名前は鳰原令王那です」
「犬神一子。友達からはワンコって呼ばれてる」
愛称! 可愛くていいなぁ。
……愛称を付けて呼んでくれる友達がいない事を思い出して軽く泣きそうだけど。
同じパスパレさんのファンでもこんなに差が……。
「……こんな私でも友達になってくれますか?」
「…………ちょっとこっち来て」
「あ、はい」
彼女に呼ばれ近付くといきなり抱きしめられた。
咄嗟の事に頭がボーっとしてしまう。
いつも使っているシャンプーの香りにちょっとだけ混ざった彼女の匂いが鼻孔をくすぐる。
「イヴちゃん直伝の親愛のハグ。今のわたしにできるのはこれ位」
「……温かいです」
久しく感じていなかった他人の温もりに気持ちが楽になっていく。
今まで誰ともちゃんと向き合ってこなかったから……。
「令王那ちゃんが行動したから私が今ここにいる。それに麻弥さんも言ってたよ。『こんな私』なんてどこにもいない、いるのは、なにかに向かって毎日少しずつ成長していく『私』だけ、と」
「そんな発言が……」
ワンコさんのハグもだけど、ファンとして発言を網羅できていなかった事の方にも軽くショックを受ける。
でもパスパレのメンバーなら言ってもおかしくないと思えた。
最初は見ていてハラハラドキドキだったけど、支え合い高め合い今では立派な人気アイドルグループに成長。
……たまたまテレビで見かけてから目が離せなかった。
私には無いものを持っていて、不可能な事を成し遂げていったから。
彼女達の成長物語に感動すると共に自分の不甲斐なさに泣きたい時もあった。
それでも……何時か……私も……。
「お、良い表情になった」
「えっ……」
私の頬を優しく撫でるワンコさん。
黒の左目と義眼と言っていた金の右目でじっと見つめられると不思議な感じに。
「幸か不幸か何度か女の子が自分の殻を破る瞬間に立ち会ってきたけど今がそんな感じ」
「…………」
「ダイヤモンドの原石、そのままじゃ勿体無いと思うけど?」
「……分かりました。少しずつでも成長してみせます」
「うん、それがいい。人生挑んで楽しまないとね」
燻っていた私の心に火が着いた瞬間だった。
「で、第一歩がこれ?」
「はい! 夢だったんです。パスパレさんの映像を見ながら語り明かすのって♪」
「まあいいけど。あ、このおにぎり美味しい」
「お茶もどうぞ」
「ありがとう」
両親は全国干物総会に行っていて不在だったので、夜食のおにぎりを用意してTV画面の前へ。
発売されている映像類は勿論、テレビの特番も可能な限り録画してある。
いつも一人で見ているのに今日は二人……嬉しいな。
「日菜ちゃんの演奏いつ聴いても凄い」
「ですよねー。あ、アイドルダンスきました!」
「彩さん……まあオンリーワンと言えばそうだけど」
「これぞアイドル! ですね♪」
そんなこんなで楽しい時間は過ぎ……。
「…王那ちゃん、令王那ちゃん、ごめん迎えが来た」
「……はっ! ごめんなさい、落ちてました」
テンションが上がり過ぎて法被を着てブレードを持ってはしゃいでいたらまさかの寝落ち、不覚です。
ワンコさんは既にウェットスーツ姿に着替えて帰る様子。
楽しい時間ももう終わり……。
そう思うと胸が締め付けられるようで。
「ちょっとスマホ貸して」
「は、はい」
ロックを解除したスマホを渡すと高速で何かを入力。
「私のアドレス入れておいたから気が向いたら連絡頂戴」
「はい、絶対にします!」
見送りは結構という事で玄関でお別れ。
遠ざかる車の音……残ったのはスマホの中のアドレスだけ。
でも……一緒に過ごした一夜は夢でも幻でもない。
走り出すには十分な理由だ。
「ふぁ……」
「鳰原さん眠そうだね」
結局ワンコさんと別れてから殆ど寝ないまま学校へ。
折角クラスメイトが話しかけてくれたんだから返事をしないと。
でも、駄目……眠くて頭が回らない……。
「……パスパレさん……大好き…………」
「起きて鳰原さん。次は移動教室だよ」
「はっ!?」
体を揺すられて覚醒、周りを見回すとみんな移動を始めている。
私も急がないと。
「ありがとう、起こしてくれて」
「ううん。同じパスパレファンなら当然だよ」
「あはは……えっ!?」
彼女の言葉に頭が真っ白になった。
クラス内で一度もファンであることを言ったことは無かったのに。
「寝言でパスパレ愛を語るなんてなかなかできないよ」
「流石は鳰原さんです」
「え、私何か言っちゃいました?」
私の発言に顔を見合わすクラスメイト達。
賞賛と困惑が混じったような複雑な表情。
「まあ、ね。続きはお昼休みにでも」
「そうそう、じっくり聞きたいしね♪」
「う~、気になります」
どうやら、決意を固める前に本当の私がフライングしてしまったみたい。
…………よし、こうなったら全部曝け出そう!
パスパレファンとしての矜持、見せてあげます!!
〇おまけ(鴨川駅≠安房鴨川駅)(シーズン1)
「おかしいわね、花音。乗換案内通り電車に乗ったのに鴨川シーワールドが見当たらないわ」
「ふえぇ~! 千聖ちゃん、無料送迎バス乗り場があるのは鴨川駅じゃなくて安房鴨川駅だったよ……」
「……折角だからうどんでも食べていきましょう」
「うん!」
「私のフラグ力が迷子力に負けた気がする」
「ワンコさん、言っている意味が分かりません」
感想、評価、誤字報告などありましたらよろしくお願いします。
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<備考>
鳰原令王那:後の房総トップヲタ。
ワンコ:お礼に全員のサイン入り色紙とチケットを送る。
白鷺千聖&松原花音:驚異の行動力。
高機動型ミッシェル(MC-06R-1):試験飛行中にアンノウンと遭遇、攻撃を受けやむなく海面に叩きつけるも自爆に巻き込まれ喪失。
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