犬も歩けば棒に当たる 作:政影
今回は山吹沙綾さんのお話です。
アンケート結果&途中経過:
Poppin'Partyで読みたい視点は?
(4) 戸山香澄
(4) 花園たえ
(0) 牛込りみ
(10) 山吹沙綾 ☆
(8) 市ヶ谷有咲
Afterglowで読みたい視点は?
(14) 美竹蘭
(3) 青葉モカ
(3) 上原ひまり
(0) 宇田川巴
(8) 羽沢つぐみ
Pastel*Palettesで読みたい視点は?
(6) 丸山彩
(10) 氷川日菜
(8) 白鷺千聖
(5) 大和麻弥
(1) 若宮イヴ
〇ファーストライブ(シーズン0)
「げ、親ホントに見に来てるし!」
商店街の秋祭りがファーストライブになる私の所属するバンド「CHiSPA」。
他の三人は控室から外を盗み見て家族の存在を確認して更に緊張してるみたい。
でも、私の家族――母さん達も来る筈なのに全然連絡がつかなくて……。
思い切って電話をしたら聞こえてきたのは――
「姉ちゃん……姉ちゃん!!!」
弟の悲痛な叫び。
私は……ナツ、マユ、フユカの三人を裏切った。
三人に言われるがまま自宅へ。
幸いな事に病院に搬送された母さんの症状は軽く当日中に帰宅できた。
三人はライブの後に自宅に駆けつけてくれて「また一緒にやろう!?」と声を掛けてくれたけど……私は……。
「あれ……今何時?」
昨日は確かナツ達に謝罪した後自分の部屋へ。
泣き疲れて眠っちゃったみたい。
いつの間にか掛けられていた布団をどけて時計を見れば既にお昼近く。
あ、今日はお母さんの検査があるから病院に行かないと!
急いで階段を下りるとそこには――
「おはようございます」
「……誰?」
眼帯をしたエプロンドレス姿の少女がいた。
「えっと……」
「お風呂を沸かしてありますので、先にお入りください。詳細は後程ご説明します」
「う、うん」
有無を言わせぬ圧を感じて言われるがままにお風呂場に向かう。
昨日はシャワーも浴びずに眠ってしまったので正直ありがたいけど。
でも……あの少女は一体誰だろう?
微かに見覚えが……。
「ふぅ……」
湯船に浸かると僅かだけど心が休まった気がする。
でも……昨日の事を思い出してまた涙が。
私が母さんの体調に気を使っていればこんな事には。
私が上手く立ち回っていればCHiSPAのファーストライブも全員でできた筈。
純や紗南も辛い目にあわしちゃった……。
全然駄目だな……私。
って、落ち込むよりもまずは状況を整理しないと!
お母さんの検査は!?
純や紗南は何処へ行ったの!?
そしてあの少女は誰!?
「湯上りにアイスハーブティーは如何でしょうか?」
「あ、どうも」
火照った体に染みわたる……じゃなくて!
「どちら様ですか?」
「申し遅れました。商店街の紹介で来ました家政婦の犬神です」
「えっ」
「他のご家族は千紘様の検査の為病院へ行かれましたが、沙綾様はどうされますか?」
「ええっと……」
ぐ~~~
「少しお時間を頂ければ何かお作りしますが」
「あ、はい、お願いします」
「承りました」
盛大にお腹が鳴ってしまい恥ずかしかったけど、母さんが無事検査に向かったと聞いて一安心した。
検査が終わるまでしばらく掛かるだろうし……しっかり準備してから向かえばいいかな。
あれ……何でこんなに落ち着いているんだろう。
食卓の上には見覚えのないアロマポット、そこから香る不思議な香り。
これのお陰だったりして。
まさか、ね。
「そう言えば犬神さんって前に羽沢珈琲店でバイトしてた事あります?」
「ええ、春先に少し。色々ありまして最近はたまにですけど」
「やっぱり! つぐから聞いていますよ。頼りになる一個上の先輩だって」
直接接客を受けたわけではないけど店の外からチラッと見た記憶が蘇る。
「それは光栄ですね」
「それと、私の方が年下だから敬語じゃなくていいですよ。私もその方が落ち着きますし」
「…………了解、沙綾ちゃん。じゃあ私の事もワンコって呼んで」
「はい、ワンコさん♪」
「……美味しいです」
「うん、ありがとう」
ワンコさんが作ってくれたのはフレンチトースト。
ふんわりしっとりとした食感と控えめな甘さ、特別な要素は無い筈だけど優しい味。
昨日の昼食から何も食べていないのを体が思い出したみたいで直ぐに完食しちゃった。
「良かった……寝顔がとても辛そうだったから」
「えっ、もしかして私の部屋に!?」
「亘史店長から時間があったら様子を見てくるように言われてたので」
酷い寝顔を見られたと思ったらまた恥ずかしさで顔が熱く。
髪の毛もボサボサだったし……。
うん、忘れよう。
「ところで今回の事どれくらい聞いてます?」
「一通りは。ライブは残念だったけど、急いで戻ったおかげで千紘さんも無事病院へ搬送できたと」
「でも……弟と妹に怖い思いをさせてバンドメンバー達には迷惑をかけて。もっと私がしっかりしていたら!」
言葉を発する毎に昨日の事を鮮明に思い出す。
お姉ちゃんである私、バンドの要であるドラマーの私、どちらも失格だ。
自分の無力さが嫌になる。
「気負い過ぎ」
「ふぎゅ!?」
両頬をつままれ変な声が出ちゃった。
いきなり何するのこの人!
「私も昨日のライブ観たけど三人とも何とか全力でやりきってた」
「っ!?」
つまんでいた両頬を放され吐息のかかる距離まで顔を近付けられる。
「今日の山吹家の人達も落ち込んで眠っている沙綾ちゃんを気遣ってそのまま病院へ行った」
「……それって、私がいなくてもいいって事じゃ」
「そうじゃないでしょ」
静かに片目で見つめられる。
「本当は分かっている筈、沙綾ちゃんがみんなを大切に思っている以上に大切に思われている事を」
「…………」
分かっているよ……。
でもそれでみんなに迷惑を掛けるなんて!
「と、ほぼ初対面の人間が憶測で言ってみた、ごめん」
「えっ」
ぱっと離れたと思ったら深々と頭を下げられた。
突然の行動に呆気にとられる私。
「まあ関係者に確認した上なので百パーセント当てずっぽうってわけじゃないけど」
「はぁ……」
何と言うか……行動が全然読めない。
そう言えばつぐも「ある意味『狂犬』だから気を付けてね」とか言っていた気も。
「謝りついでにもう一つ、お姉ちゃんだからって抱えすぎは良くない。周りを頼って」
言われてみて自分の言動を振り返ってみる。
もしかして無意識のうちに長女という立場に縛られていたのかも。
でも私がしっかりしないと……。
「家族のいない私が言うのもあれだけど、思いは言葉にしないと伝わらないよ」
「…………」
家族がいないという言葉に息を呑む。
そして父さん、母さん、純、紗南の顔が頭に浮かんだ。
会いたい……会って自分がどれだけ家族を好きなのか伝えたい。
そしてもうこんな思いをしなくて済むように一緒に考えたい。
その為にも早く会いたい……けど。
「ふぅ……」
大きく息を吐いて私から視線を逸らさないワンコさんを改めて見つめる。
私に何かを強いるのでもなく求めるのでもなくただ言葉を発するのを待ってる、という穏やかな表情。
忠犬、もとい姉的、と言えばいいのかな?
あの「つぐ」が頼りにするくらいだから……うん、私も頼っちゃおう。
「お店の方はどうなってます?」
「戻り次第開けるそうなので焼きあがったパンの陳列まで完了」
「ありがとうございます。ちなみにパン屋の仕事を手伝ってもらっても?」
「勿論。でも、いいの病院は?」
「はい! 私が……パン屋の娘として今すべき事は店を開ける事だと思いますので。言いたい事は今夜にでもぶつけます!」
「うん、良い表情。私も全力でサポートする」
今やるべき事は決まった。
解決しないといけない問題はあるけどまずはできる事から。
取り合えず頼りにしますよ、ワンコさん?
〇試食会(シーズン1)
「どう……かな?」
「さーや、すごーい!」
「いいんじゃねーの?」
「商品化したら私絶対買うよ♪」
「名付けてヤマブキパン」
「あはは、ありがとう」
フライドポテト、ゆで卵、薄切り肉、ハンバーグ、チーズ……ポピパの好きな物だけを集めたポッピンパン19号。
今までの中で一番高評価かも。
でも――
「巡り巡ってハンバーガー?」
「ですよねー」
ワンコさんの冷静なツッコミにがっくりと肩を落とす。
やまぶきベーカリーの新商品を作るべく数々の失敗作を経てようやく完成した、と思ったのに。
「そのままだと既存のチェーン店に勝てないだろうし」
「う~ん」
彩先輩や花音先輩がバイトをしている某バーガーチェーンとハンバーガーで正面からやりあっても勝てないよね。
また考え直しかぁ。
「例えばだけど同じハンバーガーでもあっちの客層に含まれない層を狙ってみるとか。はい、コーヒー」
「ありがとうございます」
ワンコさんのコーヒーは羽沢珈琲店仕込みというのもあって中々美味しい。
初めて会った時と比べても成長してるんだね。
私も負けてられないな。
閑話休題、チェーン店が想定していない客層となると……。
「ワンコ先輩のコーヒー凄く美味しいです! あ、有咲のおばあちゃんの淹れてくれる緑茶も美味しいから安心して♪」
「誰も心配してねーよ!」
相変わらず香澄と有咲の掛け合いは面白いね。
最初は水と油だと思ってたけどハンバーガーとコーヒーみたいに相性ばっちり。
……ん?
それって、つまり……!
何か閃いたかも。
「みんな、ポッピンパン20号のコンセプトが決まったんだけど」
「やったね、沙綾ちゃん」
「ありがとうございます」
ポッピンパン20号のコンセプトは緑茶に合う高齢者をターゲットにした和風ハンバーガー。
食べやすい小さめサイズで高齢者に不足しがちなたんぱく質も摂れるというセールスポイント。
歯が弱っていても食べられるように父さんには頑張ってもらった。
これならチェーン店と正面からは競合しなくてすむかな?
「でも似たような商品って調べたらそれなりにあるみたいですね」
画期的なアイデアを思いついた! と思ったのになぁ……。
「まあね。でも食べ比べたら緑茶に一番合うと思ったのは確か」
「あはは、そう言ってもらえると嬉しいです」
「それに、『あのやまぶきベーカリーが自分達高齢者の為に開発した』なんて聞いたらご老人方みんな買うよ」
悪ぶった笑みを浮かべつつ新たなポッピンパン20号に手を伸ばすワンコさん、かなり気に入ったみたい。
分かりやすい時は有咲並だけど分かりにくい時はおたえ以上、本当に面倒な人。
でも……一緒にいると肩の力が抜けるというか…………ふふっ♪
さーて、ポッピンパン21号はどんなのを作ろうかな?
気が付けば初投稿から1年経ってました。
誰にも読まれなかったら本編3で終わっていたのに凄いですね。
内容の重複とマンネリ化に怯えながらこれからも頑張ります。
感想、評価、誤字報告などありましたらよろしくお願いします。
アンケートにご回答をお願いします。
<備考>
山吹沙綾:アンリミテッドサンライトイエローブレッドワークス。
ワンコ:年下には甘い。純と紗南を甘やかして沙綾に怒られる事も。
アロマポット&中身:日菜からのやべーもらい物。
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