犬も歩けば棒に当たる   作:政影

7 / 99
R-15タグ付きなら問題ないレベル。


番外編1-3:白金燐子と香辛料

「あのー、そろそろ離してもらいたいかな、燐子さん」

 

「…………」

 

 ワンコさんの困惑気味の言葉を無視して、わたしは彼女の出血した指を口に含んだまま舌を這わせる。

 

 頭では今すぐ止めて謝罪しないと彼女に嫌われてしまう、と分かっていても体が言うことを聞かない。

 そんな自分が酷くおぞましいものに思えて涙が溢れる……どうしてこんなことに。

 

 

 

 事の始まりは十数分前、CiRCLEでの練習後に自室で新衣装を二人で作っていた時、彼女が不注意で指先を切ってしまったことから始まる。

 滴る赤い液体がとても魅惑的に見え、無我夢中で押し倒すような体勢のまま指先を口に含んだ。

 口内に広がるその液体の味は頭を痺れさせ、下腹部を熱くさせた。

 

 

 ……過去に二度経験した現象、一度目は彼女と閉じ込められたエレベーター、二度目は彼女の涙を拭き取ったハンカチの匂いを嗅いだ時。

 これ以上の快感をわたしは知らない、が彼女に嫌われることが確定した以上もう味わうことは出来ないだろう。

 友人関係と快感、本当はどちらの喪失を恐れているのか……もうこの頭では判断できない。

 

 

「よいしょっと」

 

「!?」

 

 

 彼女は事も無げに指先を咥えたままのわたしを抱え上げると、体勢を変え互いに向かい合うように座らせた。

 

 

「燐子さんに舐めてもらうのは嫌じゃないけど、理由は知りたいかな」

 

「……ごめん……なさい」

 

 こんな事態にもかかわらずわたしを傷つけまいと優しく接してくれる彼女に思わず指から口を離し謝罪する。

 いっそのこと罵るなり手を上げるなりすれば良いのに、と思う反面彼女ならそんなことはしないだろという打算が心のどこかにあった気がして自己嫌悪に苛まれる。

 

 

「あー、怒ってるわけじゃないから…………えいっ」

 

「ひゃん!」

 

「……お返し」

 

 わたしの汚い涙を舐め取り、少し頬を染めた彼女の悪戯っぽい笑みにまた新たに涙が溢れる。

 彼女なら……わたしの全て受け止めてくれるかもしれない。

 

 

 

「つまり私の体液に興奮する、と」

 

「……はい」

 

 一通りの経緯を話した後、身も蓋も無い言い方をされたが事実その通りなので素直に肯定する。

 ちなみに指の出血は既に止まっており、水で私の唾液を流した後に絆創膏を貼った。

 「燐子さんのお蔭で治りが早そう」との言葉に顔が火照るのを感じた。

 

「喜んでいいのかな?」

 

「……どうでしょう」

 

「嫌われるよりは百倍いいですよ」

 

「…………」

 

「それと、出来れば次はここにしてほしいかな?」

 

 そう言って彼女は唇を指さす……絶交を覚悟していたわたしの頭は話についていけない。

 本来ならば責められるべき場面であろう。

 

「……いいの……ですか?」

 

「時と場所を考えてくれればいつでも」

 

「では……失礼します……」

 

「うん」

 

 もう我慢できなかった。

 

 彼女の唇に自分の唇を押し付け舌を潜り込ませる。

 

 舌と舌が絡み合い彼女の熱に胸が熱くなる。

 

 混ざり合う唾液が卑猥で情熱的な音楽を奏でる。

 

 今度は幸せすぎて涙が止まらない。

 

 

「……実は人生初のディープキス」

 

「わたしは……秘密です」

 

 あまりに熱中してしまい呼吸困難になる寸前でなんとか唇を離した。

 お互いに微笑を浮かべながら息を整える。

 

「普段の落ち着いた燐子さんも素敵だけど、積極的な燐子さんもアリだと思います」

 

「わたしも……こんな自分がいるなんて、初めて知りました」

 

「これからも色々な燐子さんを見せてね」

 

 少し乱れた髪を優しくすいてくれる彼女の言葉に臆病な自分も変われそうな気がしてくる。

 

 

 

「それでは……二回目もわたしがいただきます」

 

 ……どうやらわたしの体は物足りないらしく続きを求めてしまう。

 

 

 ガタン

 

 

「……りんりん?」

 

「あこちゃん!?」

 

 物音のした方を見ると茫然とした表情のあこちゃんがいた。

 ……キスに夢中で全然気づかなかった。

 

 

「あこちゃん……これは「ずるいよ!」」

 

「あこも契約に参加させて!」

 

「……えっと、その」

 

「うん、燐子さんに任せた」

 

 助けを求めてワンコさんを見ると笑顔で丸投げされた。

 信頼の証だと思うことにしよう。

 

「あこちゃん……上級契約は高校生以上が対象だよ」

 

「そっか~、じゃあ来年絶対だからね?」

 

 ……あこちゃんだけは綺麗な心と体のまま大人になってほしいと思うのは身勝手だろうか。

 

 

 

 

「燐子さん、ちょっとお願いが一つ」

 

「……何でしょうか?」

 

 忘れ物を回収したあこちゃんを送っていくということでワンコさんも帰るとのこと。

 帰り際に耳で吐息を感じる距離でお願いをされる……また体が疼く。

 

「私の体液を精密検査出来ないかな。燐子さん達に問題が出ても困るし」

 

「そうですね。信頼できる親戚の病院に……依頼してみます」

 

「ありがとう。検査費用は絶対に払うから」

 

「……手付金、欲しいです」

 

 元々お金をもらうつもりは無かったけど彼女は納得しないだろう。

 それならばまたあの快感を味わいたい。

 わたしの意図を察した彼女はゆっくりと顔を近づける。

 

「うん、それではお口を拝借」

 

「……どうぞ」

 

 

 どうやらわたしの身も心も既に狂い咲いているようだった。




感想、評価、誤字報告などありましたらよろしくお願いします。


<備考>

白金燐子:本能のままにがんばりんこ。

ワンコ:扱いに困るマクガフィン。

宇田川あこ:穢れなき聖堕天使。

番外編2で扱ってほしいバンドは?

  • Roselia
  • Afterglow
  • Poppin'Party
  • Pastel*Palettes
  • ハロー、ハッピーワールド!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。