犬も歩けば棒に当たる   作:政影

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UA40,000&お気に入り230件突破ありがとうございます。

今回は資料があまり見つからず、何時にも増して解像度が低めでごめんなさい。


ステータス異常:感想欠乏


番外編X-10:ゆりな日々(シーズン0~1)

○特訓(シーズン0夏)

 

 

「……はぁ」

 

 先輩方の最後の夏が終わり、私を部長とした水泳部の新体制がスタートした。

 花女の部活だとダンス部と剣道部とかが全国を狙えるレベル……水泳部もそれに続きたい。

 

 それで誰もいない夏休みのプールで自主練に励んでみたけど、自由形・平泳ぎ・背泳ぎ・バタフライの四泳法のどれもしっくりこない。

 グリグリの活動や夏休みの課題でちょっと体が鈍っちゃったかな?

 

 

「お疲れ様」

 

「七菜?」

 

 

 プールから上がり持ってきたペットボトルに入ったスポーツドリンクで水分補給、そこにやって来たのはグリグリのメンバーであり生徒会の一員でもある親友の鰐部七菜だった。

 今日も眼鏡とおさげが可愛らしい。

 

「ちょっとこの子に泳ぎ方の指導をしてほしいの」

 

「はぁ!?」

 

「よろしくお願いします、牛込先輩」

 

 七菜が連れてきたのは右目をつぶり他校の水着の上から半袖のラッシュガードを着た少女。

 見覚えは……無かったと思う。

 

「羽丘一年の犬神一子、ワンコちゃんって呼んであげて」

 

「羽丘の生徒?」

 

「色々あるのよ」

 

 七菜必殺の悪い笑顔、追及するのは止めておこう。

 誰かに迷惑を掛ける話じゃないし、多分。

 

 改めてワンコちゃんと向き合う。

 何か運動をしていそうな引き締まった体、教えがいはありそうね。

 私に対して深々と頭を下げるあたり、外見と違って礼儀正しそうだし。

 

「水泳部部長の牛込ゆり、よろしくね」

 

「はい!」

 

 うん、良い返事♪

 

 

 

 

「じゃあ、高校に入るまで水泳の授業受けてこなかったんだ」

 

「はい。一応水泳の映像教材で泳ぎ方は頭に入れてありますけど、実際に泳ぐとなると……」

 

「そうね。確かに上半身と下半身の動きがちぐはぐね」

 

 試しに泳いでもらった後、プールサイドに上がったワンコちゃんにペットボトルを渡しながら率直な感想を言う。

 一つの存在としての違和感、力強いけど筋力頼りの歪さ、バランスの悪さ。

 でもコツさえ掴めば一気に伸びそう。

 

 幾つかアドバイスしたけど言葉だけだと上手く伝えられないなぁ。

 こうなったら――

 

「私が泳いでみるからプールサイドと水中の両方からしっかり見ててね」

 

「はい!」

 

 ワンコちゃんが見学位置に着いたのを見計らい、スイムキャップを被りなおしゴーグルを着け壁を蹴る。

 基本に忠実にゆっくりと。

 いつもはタイムばかり気にしているけど、今は形を意識して。

 

 

 

 ワンコちゃんのキラキラとした片目を見てたら、ふと泳ぎ始めた頃を思い出してしまった。

 

 あの頃はフォームもダメダメでタイムも全然で。

 でも、今よりもっと自由な気持ちで泳いでいたっけ。

 

 久しぶりに人の声の聞こえない、水の音しかしないプール。

 そこにあるのは見果てぬゴール。

 昔はその先にある景色が見たくて泳いでいたような。

 

 

 やりきらないとね♪

 

 

 

 

「どうだった?」

 

「自然体というか洗練されているというか……とにかく感動しました」

 

「感動!? 大袈裟ね、でもありがと♪」

 

「あう……」

 

 りみが私に向ける熱い眼差しに似ていたせいかつい撫でてしまった。

 でも満更でもなさそうな紅潮した顔。

 油断したのか閉じていた右目が開き白濁した目が見えたけど、不思議と嫌悪感は感じなかった。

 

「よし、次はワンコちゃんの番。私みたいに泳いでみて」

 

「は、はい!」

 

 ワンコちゃんをプールへ送り出し私はペットボトルに口を付ける。

 ……よし、今日は徹底的に鍛えてあげよう。

 泳ぎ始めた頃を想い出させてくれたお礼にね。

 

 

 

 

「………………」

 

「ごめん、やり過ぎた」

 

 プールサイドでぐったりしたワンコちゃんを膝枕。

 つい楽しくなって手取り足取り教えているうちに、水泳部の特訓メニュー(大盛り)以上に泳がせてしまった。

 ……ギブアップしない方も悪いって!

 

「それにしても良い筋肉ね」

 

 無抵抗なのをいいことにあちこちを撫でまわす。

 水泳用に鍛えたわけじゃないだろうけど、今日の特訓で結構バランス良く泳げる様になったと思う。

 本人もしごかれて体で覚えるタイプって言ってたし。

 羽丘の水泳部に入られたら強力なライバルになるかな?

 そうなったら……ふふっ、それはそれで楽しそうね。

 

 

「なんで泳ぎを教わりたかったの?」

 

「……負けたくない人がいるから、です」

 

 色々な感情が入り混じった複雑な表情。

 だけどそんな表情も一瞬だけ、一転して澄み切ったものに変わった。

 

「でもこんなに気持ち良いなんて思いませんでした」

 

「そうね。私も久し振りに気持ち良く泳げたわ」

 

「部長ともなると大変でしょう?」

 

「まだ引き継いだばかりだけど大変大変。でも、『やる事やって、やりたい事もやる』そう胸を張っていきたいから、ね」

 

「恰好良いです……」

 

「惚れちゃってもいいんだよ?」

 

 ワンコちゃんの頬をぷにぷにしながら冗談めかして言う。

 部員達には絶対に見せられない光景ね……りみにはたまにしてあげてるけど。

 

 

 それにしても暑いわ。

 ペットボトルに口を付ける度に何故か体が火照って……。

 

 

「そろそろシャワー浴びて帰るわよ」

 

「あ、はい」

 

 ワンコちゃんの顔をぺちぺちと叩き帰宅を促す。

 膝の上の重さが消え私も立ち上がろうとしたら――

 

「あっ」

 

「おっと」

 

 足が痺れていたせいでバランスを崩しワンコちゃんを押し倒す形に。

 そんなに身長差は無いので――

 

 

 顔が……近い……。

 

 

 十センチも離れてないよね?

 

 

 ワンコちゃんの吐息を感じる度に体が熱く、疼く。

 

 気付けば体を擦り付けていた。

 

 何度も、何度も。

 

 

「牛込先輩?」

 

「んっ……ゆりって呼んで」

 

「えっと……ゆり先輩、体調悪いんですか?」

 

「…………馬鹿」

 

 私の悪態に不思議な顔をすると何を思ったのか、左腕で抱きしめ右手で私の頭を撫で始めた。

 

「きっとお疲れなんですね。施設にいた時、年下の子にこうやると落ち着いてくれたんです」

 

「……はぁ」

 

 鈍感な彼女に思わず溜息。

 まあ出会って数時間しか経ってない他校の下級生に劣情を催してるなんて知ってほしくはないけど。

 

 そっちに関してグリグリのメンバーとはご無沙汰だったから溜まってるのかな?

 

 でも……もうちょっとだけ遊んでみよう、と邪な感情が生まれる。

 

 

 ペロッ

 

 

「ひゃん! いきなり首筋舐めないでくださいよ」

 

「期待の新人には唾を付けておかないと。それにマーキングだから問題無いし」

 

「うー、スキンシップじゃ負けませんよ」

 

 そう言うと抱きしめていた左手を放し、指先で腰から首まで撫でてきた。

 ゾクゾクっとした快感を感じ声が漏れそうになる。

 

「ん……くっ……」

 

「我慢は体に毒ですよ」

 

「べ、別に……」

 

 さらに水着の中に手が入ってきて腰を撫でられ始める。

 撫でられた箇所から熱が伝播していく。

 触れてほしいところに触れてくれないもどかしい感覚に思わず自分で――

 

 

「そろそろ下校時刻よ」

 

「七菜!?」

 

「鰐部先輩、了解です」

 

 

 七菜の言葉に手を止め、私の下から事も無げに這い出るワンコちゃん。

 体に力の入らない私を抱き上げシャワー室へ。

 ナチュラルにお姫様抱っこしないでよ……。

 

「続きはまた今度ということで」

 

「…………次は負けないから」

 

 私が発した負け惜しみの言葉は自分でもびっくりするくらい艶っぽかった。

 

 

 

 

○引退(シーズン1夏)

 

 

「紗夜さん頑張って!」

 

「日菜ちゃん負けるなー!」

 

 急遽決まったバンドメンバーによる花女VS羽丘の水泳リレー対決。

 声援からも分かるように違う学校の泳者を応援していたり割と自由……実に私達らしい。

 泳ぎ方も参加するもしないも自由、それでも良い勝負になっているあたり調整に奔走した人達の努力が分かる。

 多分その中心人物は――

 

「で、アンカーの私の相手がワンコちゃん?」

 

「そうなりますね。微妙な立場ですが、やるからには全力で行きます」

 

 一年前に比べて確実に成長が見て取れる強い眼差し。

 彼女の活躍? は時々耳にするし。

 少しだけ手助けをした身としては素直に嬉しい。

 

 だからこそ、こっちも全力で泳がないとね♪

 

 

「日菜ちゃんがリード、お先に行きます」

 

「うん、直ぐに追い抜いてあげる」

 

 

 日菜ちゃんの壁タッチと共に綺麗に水面へ飛び込むワンコちゃん。

 

 そして数秒遅れて紗夜ちゃんの壁タッチで飛び込む私。

 

 

 数日前に引退したけどこっそり泳ぎに来てたりするので鈍ってはいない。

 一掻き毎に僅かずつ縮まるワンコちゃんとの距離。

 

 

 そして並んだ。

 

 

 勝負はここから……さあ、あなたの全力を見せて!

 

 

 

 

「引き分けか~」

 

「お疲れ様です」

 

 有終の美を飾りたかったのでちょっと残念。

 でも手加減なしの全力勝負、乱れた呼吸とは裏腹に気分は清々しい。

 

「お手をどうぞ」

 

「うん」

 

 先に上がったワンコちゃんに引き上げられプールサイドに上がる。

 勢い余ったふりをして頬に軽い口づけ。

 数人から鋭い視線を感じたけど受け流す、まさに先輩特権。

 

 指定された場所に立つと三十人を超える女の子達から拍手、そして――

 

「お姉ちゃん、水泳部引退お疲れ様でした」

 

「ありがとう、りみ。それにみんなも」

 

 大切な妹のりみから手渡された花束、感極まって思わずハグしちゃった。

 りみも香澄ちゃん達とバンドを始めてから立派になったよね。

 部員による引退式とは別の感慨深さを感じちゃった。

 

 見渡せばポピパをはじめとした大ガールズバンド時代の最前線を行くバンドのメンバー達。

 来年には海外の大学に進学するからグリグリは活動休止、なので彼女達とステージで共演できるのも精々あと半年。

 

 

 ちょっと残念だな……。

 

 

「お姉ちゃんが留学中はメールや動画、一杯送るからね」

 

「ふふっ、ありがとう。でも気が早いよ♪」

 

 私の内心を察してくれた優しい妹の頭を全力で撫でる。

 まったく妹は最高。

 おかげで不安が一つ減ったわ。

 

 

 

 

 残された時間、やる事、やりたい事、しんみりしている暇は無さそうね♪




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<備考>

牛込ゆり:花女で姉にしたい人グランプリ優勝。

鰐部七菜:ワンコと繋がりをもつ陰の実力者。

ワンコ:海で遭難しても大丈夫な体に。

牛込りみ:仲良し姉妹(意味深)

ペットボトル:濃厚接触。

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