犬も歩けば棒に当たる   作:政影

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お誕生日おめでとうございます。

※6/28加筆修正


番外編X-11:イヴの誕生日(シーズン0)

○誕生日(シーズン0)

 

 

「……よし、これで終了。もう帰っていいよ」

 

「ありがとうございました!」

 

 カメラマさんに深々と頭を下げて感謝の意を表します。

 そして壁際で私を待っていてくれていたワンコ師匠に小走りで駆け寄ります。

 

「お疲れ様、最後まで良い表情だったよ」

 

「えへへ、ありがとうございますっ!」

 

 ダークスーツ姿に眼帯のワンコ師匠はちょっぴり威圧感がありますが、いつも通りとても優しいです。

 差し出された麒麟のロゴのアイスティー、まさに勝利の美酒です!

 

「タクシー呼ぶから着替えてきて」

 

「はい!」

 

 無駄のないその動きはまさに『兵は拙速を尊ぶ』ですね♪

 

 

 

 

「ふぅ……」

 

 更衣室で一人になると急に疲労感が襲ってきました。

 機材トラブルや撮影スケジュールのミスにより、大分待たされましたのも一因ですが……。

 事務所の担当さんがコロコロ変わった挙句、アルバイトのワンコ師匠に押し付けた形になったのは師匠に失礼です!

 慣れないながらも必死に仕事をこなすワンコ師匠にはブシドーを感じます。

 

 ……本当にこの事務所で大丈夫でしょうか?

 『忠臣は二君に仕えず』と言いますが『七度主君を変えねば武士とはいえぬ』とも言います。

 

 むむむ、ブシドーは複雑怪奇です!

 

 

 

 

「なるほど、招き猫で有名な豪徳寺も一時間くらいで行けるのですね!」

 

「うん、予定が合えば一緒に行きたいけど」

 

「うー、中々難しいですよね。ワンコ師匠は常にトーホンセーソ―してますし……」

 

「そういうイヴちゃんも仕事は順調だしね」

 

 タクシーの中での会話、友達の少ない私にとっては至福のひと時です。

 運転手さんが間者かもしれないのであまりプライベートな事は話せませんが、日本の事やフィンランドの事について話すのはとても楽しいです!

 シートベルトは絶対なのでハグできませんが、手を握ってくれているだけでとても安心できます。

 そう言えば昔読んだ本によるととある浄土では手を握る事が房事だとか…………。

 

「顔が赤いけど大丈夫?」

 

「は、はい、イヴは大丈夫です!」

 

「? 大丈夫ならいいけど。体調管理も私の仕事だからね」

 

「ありがとうございます! ところで私の家へ向かう道とは違う気が」

 

「ちょっと寄り道。家の人には言ってあるから大丈夫」

 

 あ、分かりました。

 今日はアノ日ですからね!

 私も時代の移り変わりに思いを馳せましょう。

 

 

 

 

『ハッピーバースデー、イヴちゃん(さん)!』

 

「え…………キートス!?」※ありがとう

 

 羽沢珈琲店に入った瞬間盛大に祝われました。

 

 ……あ、そう言えば今日は私の誕生日でした!

 

「もしかして気付いてなかった?」

 

「……はい、てっきり戊辰戦争の終結日(グレゴリオ暦)の事だと思っていました。若しくは伊達政宗公の命日」

 

「今時そんな勘違いする人……まあそれだけイヴちゃんが日本が好きって事か。ありがとう」

 

 少し複雑な笑顔でワンコ師匠が頭を撫でてくれました、えへへ。

 

「イヴちゃんらしいわね。改めておめでとう」

 

「ありがとうございます、チサトさん!」

 

 事務所の先輩であるチサトさんが『本日の主役』と書かれたタスキを掛けてくれました。

 まさに日本のパーティーの風物詩です!

 

「あはは、イヴは相変わらず面白可愛いね♪」

 

「チサトさんとリサさんとジブンからの誕生日プレゼントです」

 

 前に数回お会いしただけのリサさんとマヤさん、祝っていただけるなんて凄く嬉しいです!

 渡されたのは短刀くらいの大きさのラッピングされた棒状の物。

 

「ありがとうございます! 早速あけてみても!?」

 

「もちろん♪」

 

 包装紙を破かないように慎重に。

 中から姿を現したのは扇子、広げてみると紫陽花の描かれた薄い紫を基調としたデザイン……素敵です。

 

 でも、何故か故郷フィンランドの風景が脳裏をよぎりました。

 

「だ、大丈夫ですか!? 涙が!」

 

「あ……本当ですね」

 

 目尻に指で触れると確かに涙が……。

 

「多分、ちょっとしたホームシックです。心配しないでください」

 

 慌てるマヤさん達ににっこりと微笑みます。

 主役が泣いていては駄目ですからね。

 

「フィンランド料理ならリサさんが作ってくれるから」

 

「ちょ、いきなり無茶振り!? うーん、マッシュポテトとかニシンの塩漬けとかのイメージしかないけど調べてみるかな」

 

 真剣に悩むリサさん、見た目は傾いていてもやはり心優しき大和撫子です!

 でも、伝統的なフィンランド料理はイギリス料理並みに評判が……。

 むしろ和食が食べたいです!

 

「ほら、寂しかったらハグしなさい。フィンランドのお友達に似ているのでしょ?」

 

「ありがとうございます!」

 

 ハンネに雰囲気が似ているけど大分小柄なチサトさんにハグします。

 優しくて、友達想いで、しっかり者で……。

 そう言えば日付が変わった瞬間に彼女からお祝いの電話をもらっていました。

 多忙とはいえ一生の不覚です!

 『忙』という漢字は心を亡くすと書きますし……もっと精進しないと!

 

「私からは誕生日ケーキとホットコーヒーだよ。フィンランドってコーヒー大国って聞いたけどうちのコーヒーはどうかな?」

 

「はい、みんなよく飲みます。それでは失礼して……とても美味しいです! フィンランドにお店を出しても絶対繁盛します!」

 

「ふふっ、ありがとう」

 

 急に故郷を思い出したのも羽沢珈琲店に香るコーヒーの匂いと優しい雰囲気が共通しているからかもしれません。

 ハンネがもし来日したら絶対に連れてきたいです。

 

「モデルを辞めたくなったら羽沢珈琲店で雇ってもらったらいいよ」

 

「ちょっとワンコちゃん、大事な後輩を引き抜かないで頂戴」

 

「イヴちゃんと一緒にお仕事かぁ……お父さんに相談してみよう」

 

 私の事で三者三様、まさに修羅場ですね!

 

 

 

 

「そう言えばワンコに言われたやつ持ってきたよ。重いし職質されないか心配で大変だったんだから」

 

「ありがとうリサさん。はい、私からの誕生日プレゼント。昔私が使っていたやつ」

 

「恐悦至極……うっ」

 

 ワンコ師匠から渡されたのはズシリと重たい木刀でした。

 私が既に持っている物が玩具に思えるくらいの業物です!

 

「無駄に重たいから気を付けてね。今のイヴちゃんが素振りしたら確実に肘と肩を壊すから」

 

「……振れるようになりますか?」

 

「少しずつ慣らしていけば一年くらい、覚悟はある?」

 

「はい!」

 

「うん、良い返事。特訓メニューは今度渡すから」

 

 木刀といえども刀は武士の魂、それを贈られたという事は……実際の木刀の重さよりも重たく感じます。

 必ずや使いこなせるようになります!

 

 

「女子中学生に木刀って昔の不良じゃないんだから……」

 

「変に筋肉がついたらモデルができなくなるわね」

 

「なるほど……今度の舞台の小道具は金属バットよりも木刀の方が良いですね」

 

「店内に危険物は持ち込まないでくださーい!」

 

 

 

 

「とても楽しかったです!」

 

「それは良かった」

 

 私の誕生日会が無事終わり、家まで送っていただいたワンコさんを引き留め今夜泊っていってもらう事に……。

 お風呂は別々でしたが今は同じベッド、同じ布団の中にいます。

 ……はしたなく思われていないか不安です。

 

「撫でてもらっていいですか?」

 

「うん、勿論」

 

 触れられた部分からワンコ師匠の優しさが伝わってきます。

 幸せ過ぎて言い知れぬ、先程とは別の不安が……。

 

「……こんなに優しくしてくれるのは仕事だからですか?」

 

「否定はしないけど……今はそれ以上の感情の方が大きいかな」

 

「えっ!?」

 

「異国で一人戦場に赴く青い目のサムライ。日本人離れした美貌と誰よりも日本人らしい内面、そんな子が苦境に立っていたら優しくしたいと思うのは当然」

 

「あぅ……」

 

 ストレートな誉め言葉に顔が熱くなり思わず布団の中に頭まで潜り込んでしまいます。

 

「それに犬っぽくて可愛いし」

 

「コイラ、犬ですか!?」

 

「うん、優しくて賢くてみんなが大好きな大型犬かな?」

 

「う、嬉しいけどちょっと複雑です……」

 

「ふふっ、布団に隠れて見えないけど困った顔もきっと可愛いよ」

 

「……そんな事言う師匠はハグの刑です!」

 

 布団の中で思いっきり抱きついてやります!

 絶対に離しませんよ!

 

 ……お風呂上がりの良い匂いです。

 

 

 

「ちょっとお節介な発言してもいい?」

 

「っ? はい、喜んで!」

 

 布団に潜ったままワンコ師匠の発言に耳を澄まします。

 真面目な声色に少し緊張します……。

 

「……人の目に映る仕事をする以上、辛い事や悲しい事、身に覚えのない非難を受ける事もあると思う。もう合ってるかもしれないけど」

 

「………………」

 

「最悪な選択をする前に私を呼んで。私を呼べなかったら千聖さんや他の誰かでもいい」

 

「………………」

 

「忠臣蔵はそんなに好きじゃないんで」

 

「………………」

 

「うん、こんなところかな。相変わらず説教臭いな、私」

 

「そんなことありません! 忠言痛み入ります!」

 

「う、うん」

 

 私を想っての言葉に思わず布団から顔を出しワンコ師匠の顔を覗き込みます。

 私の行動が予想外だったのか声が上擦っています。

 してやったりです!

 

 

「ワンコ師匠も何かあったら私を呼んでください! 池田屋でも薩摩藩邸でも斬り込んで見せますから!」




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<備考>

若宮イヴ:サムライガール。

ワンコ:色々と多忙。

白鷺千聖:色々と暗躍。

今井リサ:和食を振る舞ったら今井筑前守と崇められる。

大和麻弥:こっそり雑誌でイヴが着た服を買うも箪笥の肥やし。

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