犬も歩けば棒に当たる   作:政影

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投票ありがとうございました。
今回は奥沢美咲さんのお話です。


アンケート結果&途中経過:

ハロー、ハッピーワールド!で読みたい視点は?

(5) 弦巻こころ
(2) 瀬田薫
(1) 北沢はぐみ
(9) 松原花音
(12) 奥沢美咲 ☆


Roseliaで読みたい視点は?

(6) 湊友希那
(5) 氷川紗夜
(4) 今井リサ
(2) 宇田川あこ
(12) 白金燐子


本編4を始めるとしたら?

(1) シーズン0夏
(5) シーズン1夏
(3) シーズン2春
(11) どれでも


番外編X-13:美咲な日々(シーズン1)

○羊毛フェルト(シーズン1秋)

 

 

「うーん、迷うな~」

 

 ハロハピの活動もテニス部の練習も無い麗しき休日、あたしはショッピングモールの手芸店に来ていた。

 お目当ては羊毛フェルトの材料、前のを作り終わってから大分経つしそろそろ新作に取り掛かろうかなー。

 最近はこころ達の所為で毎日がお祭り騒ぎ……たまには心置きなく創作活動に没頭――

 

 

「あ、美咲ちゃん」

 

「本当ね、こんにちは」

 

「げっ」

 

 振り向けばワンコさんと友希那さんの羽丘犬姫コンビ。

 

 ……さよなら、あたしの平穏な休日。

 

 

「今、『げっ』って言わなかった?」

 

「いいえ、全然」

 

「そうよ、ワンコ。奥沢さんがそんな事を言う筈ないわ」

 

 二人に自然に距離を詰められ逃げ道を塞がれるし。

 というか友希那さんのあたしに対する信頼の高さは何なの?

 

「おっ、もしかして羊毛フェルトの材料選び?」

 

「ええ、まあ。……あれ、あたしが羊毛フェルトやってるの言いましたっけ?」

 

「花音さんとかはぐみちゃんとかから聞いた。売り物と遜色ないレベルだって」

 

「えー、買いかぶり過ぎですって」

 

 直ぐに反論、趣味でやってることなのでそこまで褒められると恥ずかしいって。

 ……ちょっとは嬉しいけど。

 

「赤面する美咲ちゃんも可愛い」

 

「わざとですか!?」

 

「?」

 

 うわー、この天然たらしが!

 羽丘二年だと薫さんやリサさんは花女でも人気だけど、スペック的にはこの人も結構侮れないと思う。

 日菜さんと一緒に奇行に及んだって噂もあるし。

 そういうのはこころ達で間に合ってるから勘弁して。

 

「あ、あれ、友希那さんも羊毛フェルトに興味ありますか?」

 

「……少しね」

 

 熱心に店内を眺めている友希那さんに気付いたので強引に話題を変える。

 矛先逸れろ。

 

「色々あるね」

 

「そうね」

 

 友希那さんに寄りそうワンコさん……やっぱり犬だ。

 悪い意味じゃないけど。

 

「……美咲ちゃん、この後時間ある?」

 

「え、まあ……特には」

 

 ハロハピで鍛えた脳内アラートがけたたましく鳴り響くも、嘘のつけないあたしは正直に答えてしまう。

 あたしって、ほんとバカ……。

 

 

 

 

「第一回湊家羊毛フェルト祭り」

 

「よろしくね、奥沢さん」

 

「あ、はい」

 

 結局手芸店で材料を買い、湊家のワンコさんの部屋へ。

 あー、あたしって流され過ぎ!

 

 ……まあ、飲み物も出してもらったし自分の作業も進められるからいいか。

 こころだったら最悪牧場に拉致られて羊の毛を刈るところからやる羽目になったかも知れないし。

 これ位だったら許容範囲だよね。

 ワンコさんが淹れてくれたハーブティーも美味しいし、飾り気はないけど心休まる部屋、癒されるなー。

 

 

 ……はっ、いきなり他校の先輩の家に連れて来られたのに寛いじゃった。

 恐るべしRoselia!

 

 

 

 始める前に飼い猫は誤飲すると危険なのでケージに入れたもらった。

 大人しそうな子猫だったから後で撫でさせてもらおうかな。

 

 

「こんな感じ?」

 

「そうそう、ニードルの使い方が上手いですよ。そのまま続けてください」

 

「固くて刺さらなくなったわ」

 

「ちょっと深く刺し過ぎましたね。ハサミでカットして羊毛を追加で被せましょう」

 

 時々質問に答えながらチクチクとニードルを突き刺し羊毛の形を整えていく。

 ただの毛玉があたしの手で目的の姿に変わっていく……ちょっと不思議で凄く楽しい気持ち。

 

 まあ、中々共感は得られないと思うけど。

 

 

「……………………」

 

「……………………」

 

 

 って、会話が無いと思ったら二人とも凄く真剣な表情!

 流石意識の高さで定評のあるRoseliaの二人……進捗の度合いは全然違うけど。

 

 

「痛っ!」

 

「大丈夫? 羊毛に血が付く前に手当て」

 

 

 あー、友希那さんって意外と不器用なんだ。

 そう言えば勉強の方も紗夜先輩が愚痴を漏らしてたし見た目とのギャップが。

 ちょっと失礼だけど親近感が湧いたかも。

 

 同じ155cmでもこころと友希那さんとじゃ真逆のイメージ。

 太陽と月というか……。

 でもこうして失敗しながらも熱中する彼女を見ると真っ直ぐなところは同じかも。

 

 

 少し捻くれてるあたしからすれば……眩しいな。

 

 

 

 

「完成」

 

「お、早いですね」

 

 二時間も経たずにワンコさんの方は完成、出来も初めてとは思えない程綺麗だ。

 あたしのはそこそこの難易度なので半分程度、友希那さんの方は……先は長そうだ。

 

「そろそろ休憩しない?」

 

「あー、そうですね。あたしも賛成です」

 

「分かったわ。ワンコ、お茶を頼めるかしら? 戸棚にクッキーが残っていた筈だからお願い」

 

「うん、了解」

 

 あたしも手伝います、と言う間もなく取り残され友希那さんと二人きりに。

 ちょっと気まずい……。

 

「それにしても流石奥沢さん、伊達にあの格好でステージに上がっていない器用さね」

 

「あ、はは……練習の賜物というか」

 

 音楽への向き合い方がストイックなRoseliaのリーダーに言われると冷汗が。

 そんなつもりはないけど、傍から見ればふざけていると思われかねないハロハピのパフォーマンスだし。

 ……いや飛んだり跳ねたりはともかく着ぐるみって時点でアウトな気も。

 

「去年までの私だったら到底受け入れられなかったわ」

 

「へっ!?」

 

「でも今は違う。『音楽は自由』ハロハピはまさにその体現ね。次はどんな驚きをくれるのかしら?」

 

 友希那さんの予想外の言葉と悪戯っぽい笑みに呆気にとられた。

 えーっと褒められたって事でいいんだよね?

 こころにも教えてあげようっと。

 

「それに弦巻さん達のイメージを楽曲に落とし込むなんて、他に出来そうな人を知らないわよ?」

 

「あー、そこは波長がたまたま合ったというか、偶然の産物で」

 

「更に言えば――」

 

 本心からの賞賛の嵐に顔が熱くなる。

 この人ってこんなに素直な人でしたっけ!?

 

 

 

「お待たせ。あれ、美咲ちゃん悶えてどうしたの? 友希那さん、何かした?」

 

「別に。思っていた事を言葉にしただけよ」

 

 しれっと言う友希那さん。

 昨日までとは別に意味で苦手になったかも……。

 

 

 

 

「遅くまでありがとう」

 

「にゃー」

 

「いえいえ、あたしも楽しかったです。ユキちゃんとも遊べましたし」

 

 結局休憩後もチクチク、間に夕飯を挟んでチクチク、ごちそうさまでした。

 羊毛フェルト指導のお礼ということで二人(ほぼワンコさん)の手作りカレーは美味しかった。

 少し甘めだったけど普通に美味しかったので、貰ったレシピを基に今度妹に作ってあげよう。

 

 それにしても出来はどうであれ白猫を作り上げた友希那さんの執念は凄かった。

 次があったら一段階難易度の高いキットを薦めてみようかな?

 

 

 

 玄関で別れを済まして我が家へ向かう。

 暗くなったのでワンコさんに送ってもらう事になったけど……彼女も一学年しか違わないような。

 まあ彼女に喧嘩を売る様な命知らずがいない事を祈ろう。

 

「どうしたの?」

 

「あー、ワンコさんって信頼されてるんだなーって」

 

「送り狼の心配?」

 

「そっちじゃないです! ……まあ、狼並に心強いですけど」

 

 相変わらず冗談なのか本気なのか分かり辛い……。

 悪い人じゃないんだけど天然だったり気が利きすぎたり。

 ハロハピだと薫さんに近い感じかな。

 

「何か困ったことは無い?」

 

「何ですか急に?」

 

 突然の質問に思わず質問で返してしまった。

 いや、唐突でしょ?

 

「身近で苦労してそうな年下の上位ランカーだし」

 

「……否定できないのが悔しいです」

 

 市ヶ谷さんも上位に入ってそうな予感が、主にバンド関係の苦労で。

 

「確かにハロハピの活動には苦労させられっぱなしですけど、最近はそれを心待ち……って何言ってるんだ、あたし!?」

 

 口をついて出たのは普段なら絶対に言わない言葉。

 やっぱりワンコさんといるとペースが乱される。

 

「『楽しんでやる苦労は、苦痛を癒すものだ』つまり――」

 

「薫さんの真似は禁止でーす」

 

 手で大きく×を作る。

 ミッシェルの時のくせでたまにオーバーアクションを取ってしまう。

 ……もしかしてミッシェルに侵食されてたりして。

 

「『奥沢美咲』と『ミッシェル』、二つの顔を持つ美少女って格好良いよね?」

 

「……取り合えず美少女は恥ずかしいんで止めてください」

 

 全くこの人は。

 恥ずかしい事でも照れずに言っちゃって。

 でも……二つの顔、か。

 どっちが本当の自分なんだろう?

 

「そういう言い回しってどこで習うんですか?」

 

「うーん、リサさんとか麻弥さんとか薫さんとか。一緒にいると勉強になるよ?」

 

 確かにその三人には出会い頭に褒められたことがあるし……。

 でも褒めるには褒める相手の事を良く知らないといけないわけで。

 更に相手との関係性や羞恥心とかも関係してきて……結構難しくない?

 

「私みたいに取っつきにくい外見だと誤解されやすいから、積極的に話しかけろってリサさんが」

 

「リサさんすげー」

 

 いくらワンコさん自身の為とは言っても嫌われるかも発言を……。

 それを素直に聞き入れるワンコさんも器が大きい。

 というかこんな話あたしなんかにしていいの?

 羞恥心とか無いの?

 

「話を戻すと困ってる事は特に無いです。これでいいですか?」

 

「うん、大丈夫そうだね。半日一緒にいても問題なかったし」

 

 今日一番の優しい笑みに思わず足が止まる。

 胸の内まで覗かれそうな隻眼、本当に一学年違い?

 

「…………もしかしてそれを確認するために家に呼んでくれたんですか?」

 

「それはたまたま。今日の目的はあくまで羊毛フェルト作り、ごめんね」

 

 ちょっとがっかり……でも、まあいいか、今は。

 気に掛けてくれただけで嬉しいし。

 

 

 だけど、もう一人のあたしはそれだけじゃ物足りないみたい。

 

 

 気持ちの赴くままにガードレールの上に飛び乗ると、体を一回転させてワンコさんに向き直る。

 少し驚いた彼女の目を見つめると言いたい言葉が自然と浮かんできた。

 

 

「『奥沢美咲』と『ミッシェル』、両方のあたしで最高の笑顔にしてあげますから覚悟しておいてください♪」

 

 

 月明かりの下、あたしは最高の笑顔で挑戦状を叩きつけた。

 

 

 あたし達はあたし達のままで、あなたの前に立ち続けてみせる。




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<備考>

奥沢美咲:身体能力向上。

ミッシェル:侵食?

湊友希那:不器用ながら頑張った。

ワンコ:元祖多重人格。

本編4を始めるとしたら?

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