犬も歩けば棒に当たる   作:政影

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投票ありがとうございました。
今回は白金燐子さんのお話です。


アンケート結果&途中経過:

Roseliaで読みたい視点は?

(6) 湊友希那
(5) 氷川紗夜
(4) 今井リサ
(2) 宇田川あこ
(13) 白金燐子 ☆


本編4を始めるとしたら?

(1) シーズン0夏
(6) シーズン1夏
(5) シーズン2春
(12) どれでも


番外編X-14:燐子な日々2(シーズン1)

○挑戦(シーズン1秋)

 

 

「燐子さん、本当に大丈夫?」

 

「……はい……頑張ります」

 

 ドア越しにわたしを気遣うワンコさんへ可能な限り力強く言葉を返す。

 これは自分からお願いしたこと。

 逃げるわけにはいかない。

 

 意を決してドアを開け更衣室の外に出る。

 

「……お待たせしました」

 

「うん、良い感じ」

 

 服装に乱れが無いか全身をチェックされたけれど問題は無いみたい。

 ……サイズ、特に胸の辺りがきつくて見っともなく見えてないか心配だったけれど。

 

 でもじっくり見られると……恥ずかしい。

 

「ほら、笑顔笑顔。背筋を伸ばして堂々と歩くだけでも燐子さんは華があって最高に可愛い」

 

 このタイミングでそんな事言わないでほしい。

 顔が真っ赤になっちゃう。

 ……ばか。

 

「勇将の下に弱卒無し、なんてね。基本的には羽沢珈琲店と同じだから私の指示に従って」

 

「……はい」

 

 以前に羽沢珈琲店をお手伝いした時の事を必死に思い出すも手の震えは止まらない。

 

「あっ……」

 

 それに気付いたワンコさんがわたしの手を取り、お祈りするような形で優しく包み込んでくれた。

 

 一秒、二秒……きっかり十秒、震えは止まった。

 

「それじゃあ我らが戦場へ赴こうか、リンリン後輩?」

 

「はい……ワンワン先輩」

 

 クラシックな白黒のメイド服に身を包んだワンコさんとわたし。

 メイドネームはワンワンとリンリン、胸の名札にでかでかと書いてある。

 響きが少し似ていて嬉しい。

 

 不安は完全には消えてないけれど……やるしかない。

 

 

 

 

 ――事の発端は愛用のPCキーボードが壊れた事だった。

 同じ型の物をネットで探したけれど見つからなくて。

 どうせ別のを買うならしっくりくるものが良いけれど、品揃えのありそうな電気街の大型店舗だと人も多そう……。

 そこでワンコさんに相談したら一緒に行ってくれる事に。

 本当はあこちゃんとも一緒に行きたかったけれど部活があるから駄目だった。

 

 買い物当日、一時間位で納得いくものが見つかって目的達成。

 人は多かったがワンコさんが傍にいてくれたおかげで耐えられた。

 そのまま解散というのも勿体なかったので、近くにあるワンコさんの昔のバイト先で昼食を取る事に。

 

 ……メイド喫茶で働いていたんだ。

 ワンコさんのメイド服姿、見たかった。

 そんな風に考えながらお店に入ったら――修羅場だった。

 

 後で聞いたら店員の半分が病欠、悪い事にフロアリーダーもその中に含まれていて。

 当然お店は回らず、店長が臨時休業の決断をしようとした時にわたし達が入店してきた、と。

 

 わたしの事を気にして「手伝う」と言い出せないワンコさんの背中を押すために、つい「二人で手伝いましょう」と言ってしまった。

 ……Roseliaに入る前よりは多少改善したけれど引っ込み思案はまだ直らないのに。

 どうして手伝うなんて言っちゃったんだろう?

 

 

 

 

「クロちゃんは二番テーブル片付けて、香子ちゃんは五番テーブルのオーダー取り」

 

「ウィ」「了解どす」

 

「あ、お帰りなさいませ、お嬢様♪」

 

 フロアの指揮を引き継いだワンコさんが次々に指示を飛ばし、本人も普段とは違うご奉仕モードで接客に当たっている。

 その間にわたしは皿洗いをしつつキッチンの調理の様子やフロアの状況を観察して自分以外の仕事の流れを把握する。

 入店、誘導、着席、水出し、注文、伝達、調理――羽沢珈琲店と同じ、手順通りに。

 フロアからキッチンが丸見えなのでお客様と目が合ったりするけれど、その頻度が多いのは何故?

 頑張って笑顔を返すようにしよう。

 

 

 ここでのわたしはメイドのリンリン。

 地元ではないので知り合いに会う心配はいらない、筈。

 うん、きっと大丈夫。

 

 

 暫くして店内が満席になり、わたしは調理まで手伝うように。

 調理は苦手ではないけれど知らない人の口に入るものを作るのは緊張する。

 

 

 

「リンリン、フロア入って」

 

「は、はい……」

 

 ランチタイムが一段落した頃、ついにフロアデビューの時が来た。

 休憩に入るメイドさんとハイタッチを交わし一礼してフロアへ。

 ワンコさんに導かれ入店してきたお客様の元へ、お母さんと幼稚園くらいの娘さんかな?

 

「……お帰りなさいまふぇ」

 

 いきなりかんじゃった……。

 丸山さんでもこんなミスしないだろうし、恥ずかしい。

 

「おっぱいのおおきなおねーちゃん、おもしろい!」

 

「こら、失礼でしょ!」

 

「……すみません……こちらです」

 

 逃げ出したい気持ちを堪えて胸を隠しながら席に誘導、続いて何とか溢さずにお水を出す。

 でも、注文を聞きキッチンに伝えたところで安堵からか躓いてしまい――

 

 

「…………きゃっ」

 

「おっと」

 

 

 床に倒れるところだったのをワンコさんに抱きしめられるように受け止められた。

 それだけでも恥ずかしいのに何故かお客様から拍手が起こり顔がさらに熱く。

 

「少し休む?」

 

「……まだ……いけます」

 

 冷静さを装ってワンコさんから体を離し一人で立つ。

 来店を告げるドアベルが鳴ったので今度は転ばないように背筋を伸ばし堂々と向かう。

 もうミスは許されない、今度こそ完璧に。

 

 

「お帰りなさいませ、お嬢……えっ!?」

 

「燐子ちゃん!?」「白金さん!?」「るんっ♪ ってきたー!」

 

 

 入店してきたのは丸山さんと氷川さん姉妹。

 地元じゃないから遭遇しないと油断していたわたしは、彼女達の困惑と好奇が入り混じった視線に頭が真っ白に……。

 

 

「…………もう無理」

 

 

 意識を失う寸前、大好きな匂いが鼻孔をくすぐった気がした。

 

 

 

 

「…………えっ!?」

 

「あ、燐子ちゃん、もう大丈夫?」

 

「……丸山さん……はい」

 

 目を覚まし辺りを見回すとそこは先程着替えを行った更衣室。

 わたしはソファに寝ていた。

 丸山さんは傍の椅子でスマホを弄っている様子。

 

「あの後ね――」

 

 丸山さんの話によると気を失ったわたしをワンコさんが受け止め、ここまでお姫様抱っこで運んできてくれたとの事。

 原因の一端が自分にあると思った丸山さんはわたしの付き添い、氷川さんはお店の手伝い、日菜さんは……売り上げで貢献だとか。

 事務所所属のアイドル二人は気軽にバイトもできないそうで。

 氷川さんは金銭を受け取らない事を条件にして、学校への無届バイトという事態を回避したとか。

 こういう時でもとても氷川さんらしい。

 

「……メイド服姿の燐子ちゃんも素敵だね」

 

「あ、ありがとう……ございます……」

 

 スマホをしまいわたしの姿をまじまじと見つめる丸山さん。

 気恥ずかしくなり思わず胸を手で隠す。

 

「それだとこっちが無防備だよ♪」

 

「あっ!」

 

 ソファの横に座った丸山さんにタイツの上から太ももを指でなぞられた。

 いきなりの事に思わず大声が出てしまう。

 

 学校でもたまにあるスキンシップ。

 パスパレだと普通だからと言われ受け入れてしまっているけれど。

 

 

 でも……こんな所でされたら…………。

 

 

「あ、彩ちゃんずるーい!」

 

「日菜ちゃんか」「日菜さん!?」

 

 音も無く開かれたドアから入ってきた日菜さん。

 何を思ったのか丸山さんとは反対側に座ってきた。

 

「へー、おねーちゃんと同じサイズのメイド服なのにまるで別物だね♪」

 

「……氷川さんに……失礼です」

 

「あはは、別に悪い意味じゃないから。ところで、触ってもいい?」

 

「えっ……」

 

 突然の発言に真意を測りかねる。

 拒否しようと思ったけれど先程は目の前で気絶するという醜態をさらしたし。

 それにあこちゃんみたいな純粋な瞳には逆らい難く……。

 

「……す、少しなら」

 

「やったぁ♪ じゃあ早速」

 

 揉みしだかれたり肌に直接触れたりはされなかったけれど……。

 弾力を確かめるように指で押されたり、重さを量るように下から持ち上げられたり。

 大事な部分をわざと外すように撫でまわされた。

 

 それと呼応するように丸山さんも上は足の付け根、下はふくらはぎまで手を動かしてきた。

 恥ずかしくてきつく股を閉じるもそこに割り込んでくる丸山さんの細い指。

 普段よりも積極的なスキンシップに声を押し殺す。

 

 

 そんな……状況は氷川さんが様子を見に来る直前まで続けられた。

 

 

 

 

『行ってらっしゃいませ、お嬢様♪』

 

 

 最後のお客様が退店して店内の空気が一気に緩んだ。

 最後の方はわたしも氷川さん達も目まぐるしく働いて、更衣室での事とか恥ずかしいとか考える余裕なんてなかった。

 結局暇を持て余した日菜さんが丸山さんを巻き込んで、仮面メイド一号&二号として参戦してかなり混沌とした状況だった。

 

 

「はい、お疲れ様」

 

「あ、ありがとう……ございます……」

 

 ワンコさんから大好きなホットミルクを手渡され勧められるままに席に着く。

 全員分の賄い料理を用意するからと氷川さん達共々出来上がりを待つ。

 ……メイド服姿のワンコさんは勿論素敵だけどメイド服姿の氷川さんも格好良いな。

 パスパレの二人は……いつもとそんなに変わらないと思う。

 

「それにしても意外でしたね。白金さんがこういった仕事をするなんて」

 

「……成り行きで……その……」

 

「別に責めてませんよ。苦手な事に挑戦する姿勢は大切ですから」

 

「へー」

 

「何よ、日菜?」

 

「食事の時にニンジン抜きにしてもらってるのは誰かなーって」

 

「日菜っ!」

 

「そうなんだ~、紗夜ちゃんって可愛いところあるね♪」

 

「ま、丸山さんも乗らないでください!」

 

「……ふふっ」

 

 赤面する氷川さんが可愛くてつい笑ってしまう。

 それに気づいた氷川さんに軽く睨まれたけれど、そんな態度も今の流れでは可愛く見えてしまう。

 

 

 

「はい、お待たせ」

 

 ワンコさんが持ってきてくれたのはオムライス。

 ……だけどケチャップが掛かっていない。

 

「そしてここからが特別サービス」

 

 大きなケチャップの容器を持つと目の前でお絵描きが始まった。

 わたしのはパンダ、氷川さんのは犬、日菜さんのは猫、丸山さんのは……山。

 絵は苦手だと聞いた事があるけれど単純な物なら造作も無いみたい。

 オムライス自体もふわふわでとろとろなのは勿論、隠し味に何かが入っているみたいでとても美味しい。

 

「ワンコちゃん酷いよ!」

 

「うーん、じゃあこれで」

 

 ワンコさんが追加で花丸を描いたら納得した模様。

 相変わらず丸山さんのセンスは計り知れない。

 

 

「なるほど、紗夜さんは楽器を見に御茶ノ水に」

 

「はい。と言っても良さそうなのはことごとく予算オーバーだったので試奏だけでしたが」

 

「で、『たまたま』秋葉原でイベントをやってたあたしと彩ちゃんと合流してお茶をする事になったんだ♪」

 

「全く……本当はそのまま帰る筈だったのに」

 

 言葉とは裏腹に氷川さんの表情は楽しげ。

 ……日菜さんがどうやって氷川さんの所在地を把握していたのかは気になるけれど。

 

「それで『たまたま』私と燐子さんが働いていた店に来たと?」

 

「そう♪ 『たまたま』ね」

 

 ワンコさんの疑惑の眼差しにも平然と笑みを返す日菜さん。

 九割九分嘘だとは思うけれど確証が……。

 

「燐子ちゃんごめんね。驚かせちゃって」

 

「……いいえ……日菜さんが悪いわけでは」

 

「日菜ちゃん、今度燐子さんが被害を被ったら容赦しないから」

 

「……はーい」

 

 ワンコさんの強めの発言に渋々反省の態度を見せる日菜さん。

 釘を刺してくれたのにはホッとしたけれど、少し日菜さんが可愛そうな気も。

 

「……手伝ってくれた事に関しては感謝してる、ありがとう」

 

「るんっ♪」

 

 わたしが心配する事でもなかったみたい。

 

 こうしてわたしのメイド喫茶体験は終わりを告げた。

 バイト代は逆に迷惑をかけたので固辞したけれど、どうしてもという事だったので今日着たメイド服を貰った。

 何に使うかと言えば――

 

 

 

「ワンコさん……今日はわたしの部屋に……泊っていきませんか?」




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<備考>

白金燐子:本人的には満足。

氷川日菜:麻弥さんと比較。

丸山彩:リーダーは伊達じゃない。

氷川紗夜:今回は被害なし。

ワンコ:ある意味元凶※番外編3-4で噛みつかれている。

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