犬も歩けば棒に当たる   作:政影

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四連休でも執筆は(ry


番外編X-15:湊さんな日々(シーズン0~1)

○出会い(シーズン0夏)

 

 

『助けて』

 

 

 久し振りに届いた娘からのメールにソファから瞬時に立ち上がった。

 いくら最近は微妙な関係とは言え、冗談でこんな文章を送る子ではない。

 すぐにスマホのアプリで娘の居場所を特定すると車の鍵を持って家を飛び出す。

 

 無事でいてくれ!

 

 

 

 スマホが指し示したのは商店街から少し離れた雑居ビル。

 

 危ない橋は何度も渡ってきたからこそ分かるキナ臭さ。

 

 念の為に車に積んであったバールを手に取り正面から乗り込む。

 

 娘の為だったら何でもやってやるさ。

 

 

 

 

「増援……じゃないか」

 

 

「…………っ!?」

 

 

 

 この場の不穏な空気にそぐわない明るい声。

 発したのはエレベーター横の階段から降りてきた狐面を被った、恐らくは少女。

 パーカーの左肩が赤く染まっている。

 

 思わずバールを持つ手に力が入る。

 

「少女達なら無事ですよ」

 

 こちらの心を読んだような優しい言葉。

 普通に考えたら信用できない、が。

 

「何階へ行けばいい?」

 

「四階です。そのうち警察が来ると思うのでそれまでならお好きにどうぞ」

 

「ありがとう」

 

 

 怪しい狐面の少女をそのままにしてエレベーターで四階へ向かう。

 

 微かに甘い匂いが漂う廊下を進むと扉が開いたままの部屋に辿り着いた。

 数人の気を失い縛られた男達を踏み越えて奥に進むと、目隠しをされベッドに縛り付けられた三人の少女達が見えた。

 

「友希那!」

 

 その内の一人に駆け寄り目隠しを外し拘束を解く。

 

「……お父……さん?」

 

「よしよし、もう大丈夫だ」

 

 起き抜けの様なトロンとした眼差しの友希那を抱きしめる。

 一旦離して友希那の全身を確認するも着衣の乱れも目立った傷もない。

 無事で良かった……。

 

 

 数分後に到着した警察に事情を聞かれたが、娘のメールで駆けつけた事だけを話し仮面の少女については話さなかった。

 

 

 その後の捜査で犯行グループは某芸能事務所と繋がりがあり、それを利用して少女達を集め裏で流通させるAVの撮影を行おうとしていたらしい。

 遠慮せず殴っておけば良かったな。

 

 

 

 

○発覚(シーズン1春)

 

 

「少し付き合わないかい?」

 

「喜んで」

 

 数日前から居候させている火事で家を失ったワンコくん。

 風呂上がりで何故か今は体操着姿の彼女にソファへの着席を促す。

 決して変な意味ではない。

 

「学校での友希那はどうかな?」

 

「制服姿も可愛いです」

 

「当然だな……ってそうじゃなくて」

 

「授業もほぼ真面目に受けてますし、交友関係も問題ないですよ」

 

「そうか……」

 

 去年は色々あったから心配していたが進級して好転したらしい。

 隣でホットミルクを美味しそうに飲んでいる彼女と、ケージの中で寝息を立てている子猫のユキのお陰で家庭内の雰囲気も良くなった気がする。

 

「体育の授業の剣道で直ぐに息切れするのはちょっと不安ですけど」

 

「……音楽ばかりじゃなくてスポーツもやらせた方が良かったか」

 

 子供の頃から一緒にやった事と言えば音楽だけ。

 幼馴染のリサちゃんがあんなに多才な現状を見ると……。

 

「でもあの歌声は友希那さんにしか出せません」

 

「それは……嬉しいな」

 

 急に真剣な表情で話すワンコくん。

 最初は冷めた印象を受けたが、意外とコロコロ表情が変わって飽きない。

 まあ、何を考えているのか読めない時もあるが。

 

「駄目なところは私とリサさん達でビシバシしごいていくので安心してください」

 

「ははっ、それは心強いな」

 

 嘘偽りない言葉、過去に騙されて自分の音楽を失った人間がそう言い切れるかは疑問だが。

 だけどこの少女達ならきっと友希那が自分の道を歩けるように……。

 

「ちなみにリサさんが友希那さんの写真を撮り溜めてます」

 

「今度リサちゃんも湊家に呼んでくれないかな?」

 

 

 

 

「もしかしてワンコくんとは前にどこかで会ったかな?」

 

「うーん、記憶に無いですね」

 

 その言葉が嘘とは思えないが確かにどこかで。

 顔を憶えているというより……そうか、声か、伊達にバンドマンをやっていたわけじゃない、耳は確かだ。

 目を閉じ過去の記憶からワンコくんの声と合致するものを探す。

 顔を見ずに言葉を聞いた相手となると電話や音声メモ、デモテープ……思い当たらない。

 

 

 …………そうか、狐面の少女!

 

 

「変な事を聞くようだが狐のお面は持ってたりするかい?」

 

「よく分かりましたね。火事で焼けちゃいましたけど」

 

 普通に驚いた様子の彼女。

 何かを隠している様子ではないが。

 

「左肩を見せてくれないか?」

 

「いいですけど」

 

 体操着を捲ると何かを抉ったような傷跡。

 どうやら間違いなさそうだが。

 

「この傷は?」

 

「去年の夏頃に気付いたらできてました。バイト三昧で記憶が飛び飛びだったので、多分どこかで引っ掛けたと思います」

 

 恥ずかしそうな表情、嘘とは到底思えない。

 というか嘘を吐くならもう少しマシな言い訳になるだろうし。

 ……やはり「いちこ」ちゃんのような別人格、か。

 

 

 全く……去年から友希那が世話になっていたとは。

 

 

 

「ワンコとベタベタして……変態」

 

「友希那!?」

 

「あ、友希那さんだ」

 

 ワンコくんの傷口に触れながら物思いに耽っていると、友希那に蔑んだ表情で罵倒された。

 慌ててワンコくんから距離を取ると間に友希那が座った。

 

「変な事されなかった?」

 

「古傷を見てもらっただけで別に」

 

「女の子の傷を見て喜ぶなんて最低ね」

 

「いや、友希那さん違」

 

「可哀そうなワンコ、一緒に寝てあげるから先に私の部屋で待ってなさい」

 

 ワンコくんから「どうしましょう?」という視線が送られてきたので頷いてやると、コップを片付け歯を磨き階段を上って行った。

 それを確認してから友希那が口を開く。

 

「……過去を聞くのはまだ早いわ」

 

「聞いていたのか。すまん……つい点と点が繋がりそうだったから」

 

「ああ見えて私より繊細なんだから気を付けて」

 

「……分かった」

 

 友希那の慈愛に満ちた表情に思わず息を呑む。

 他人の為にこんな顔ができる子だったのか……。

 

「随分とワンコくんの事がお気に入りなんだね」

 

「ええ、足がすくんで助けに動けなかった私の代わりにユキを助けた時から目が離せなくなったの」

 

 ケージの方を見て軽く微笑む友希那。

 

「まあ危なっかしいというのもあるけど」

 

「……そうだね」

 

 狐面の少女を思い出し相槌を打つ。

 何か策を用いたのかは知らないが、大の男数人相手に単身で乗り込むのは非常識だ。

 

「いきなり居候させたいと連絡を貰った時は驚いたよ」

 

「ごめんなさい、でも許可してくれてありがとう。言葉にするのは難しいけれど……彼女を一人にはしたくなかったの」

 

 娘からの素直な感謝の言葉にあの時の自分を褒めたくなる。

 

「友希那」

 

「何?」

 

「大事にしろよ」

 

「当然よ。もう好きは隠さない」

 

 迷いのない笑みを浮かべると友希那は立ち上がり階段を上って行った。

 

 

 さて、ここからは大人の仕事だ。

 彼女をどうするかは情報を集めてから。

 少し気が引けるが知り合いの興信所に過去を洗ってもらおう。

 

 

 どんな結果が出ても結論が変わらないような気がするのは、娘の泣き顔が見たくないからかもな。

 

 

 

 

○手料理(シーズン1夏)

 

 

「楽しみね」

 

「ああ」

 

 今日は友希那達が晩御飯を作ってくれる日。

 娘の手料理は父親にとって憧れなのだが……。

 

 

「友希那さん、にゃんこの手は抑える方!」

 

「こ、こう? にゃーん」

 

「友希那、包丁がまな板に刺さってる!」

 

「力加減が難しいわね」

 

 

 不安しかない……三人とも頑張れ。

 

 

 

 

「出来たわ、湊友希那渾身のカレーよ!」

 

 本来は和食だった気がするが細かい事は言うまい。

 ワンコくんとリサちゃんがげっそりしているのは見なかった事にする。

 

 食卓に並んだのはカレーライスとサラダとコーヒーというオーソドックスな組み合わせ。

 まずはサラダ……流石に生野菜をちぎってドレッシングをかけただけだから安心。

 

 ではなかった。

 

 皿の下の方に溜まっていたのは野菜から出た水分ではなくオリーブオイル、追いオリーブか?

 サラダにしてはかなり辛い仕上がりとなった。

 

 

 一旦コーヒーでリセット。

 流石に自分の分以外には砂糖を投入していなかったようで助かった。

 

 

 そして主役のカレー……本当は肉じゃがになる筈だったもの。

 緊張しながらルーとライスをスプーンですくい口へ。

 

 甘い、そして甘い。

 

 林檎やら蜂蜜やらチョコレートやらが隠し味どころか前面に出てきている。

 それでいて不味いかと聞かれたら返答に困る微妙なライン。

 甘いものが好きな子供にだったら喜ばれるかも知れないが……。

 

 友希那は平然と食べているがワンコくんとリサちゃんは困惑した表情。

 想定した味とは違った様子。

 

「友希那、美味しいわね」

 

「そう? ありがとう。最後にこっそり隠し味を入れてみたの」

 

「次はもう少し辛いのを食べてみたいわね」

 

「分かったわ」

 

 流石母親、傷つけないように言葉選びが慎重だ。

 こちらも続くとしよう。

 

「お父さんはどう?」

 

「ああ、美味しいよ」

 

「♪~」

 

 友希那の嬉しそうな顔を見たら甘すぎるなんて言えるわけが無い。

 手伝った二人が申し訳なさそうな顔をしているが大丈夫だとウインクする。

 

 よし、ラストスパートだ。

 一気に完食――

 

 

「おかわりはたくさんあるから遠慮しないで食べてね」

 

 

 ……どうやら父親の意地を見せる時が来たようだな。




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<備考>

湊父:インディーズ時代はギターとバールの二刀流。

湊友希那:独特な料理センス、健康診断に喧嘩を売る系。

湊母:娘と料理したい。

今井リサ:シャッターチャンスを逃さない為にスマホはカメラ性能で選ぶ。

ワンコ:歯磨きは大事。

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