犬も歩けば棒に当たる   作:政影

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折角投票してくれたのでアンケート二位のキャラも書いた方が良いのかな?


番外編X-16:???な日々(シーズン1)

〇ある日町の中(シーズン1冬)

 

 

「…………くそっ」

 

 夕暮れの帰り道、あたしの気分は最悪だった。

 原因は……今日のライブも不完全燃焼だった事。

 あたしが本気を出すとステージ其の物が破綻する、そう言われたからかなり抑えた。

 それで結局中途半端な演奏……満足できる筈がねぇ。

 

「痛ッ!」

 

「あっ、わりぃ」

 

 怒りを押し殺して下を向いて歩いていたら誰かの肩とぶつかった。

 とっさに謝ってやり過ごそうとしたら――

 

「それで謝ってるつもり?」

 

「反省してる顔に見えないんだけど?」

 

「痛いんですけどー」

 

 囲まれた、相手はタメ位の女三人。

 ていうかこの顔は生まれつきだから文句を言われてもどうしようもないだろ。

 だけど、通ってるお嬢様学校の手前大ごとにはできねぇ。

 

「……土下座でもすりゃいいのか?」

 

「なっ、舐めてるの!?」

 

 どういうわけか相手は怒り心頭。

 いっその事、強行突破して逃げるか?

 

 

「はーい、そこまで♪」

 

 

「「はぁ!?」」

 

 

 いきなりあたしの視界が青いものに遮られた。

 何かが近付く気配は無かったぞ!?

 

「誰よ、あんた!」

 

「通りすがりの熊さん、かな?」

 

 横にずれて改めて見ると……熊の着ぐるみだった。

 一瞬、秘かに注目してるハロハピのミッシェルかと思ったけど色が違う、濃い青色。

 

 

 でも……こいつもかわいいな。

 

 

 

 

「悪かったわね」

 

「こっちもすみませんでした」

 

「うんうん、一件落着♪」

 

 場が白けた上に通行人が集まってきたので、あっちも毒気が抜かれたみたいだ。

 あたしは目の前のモフモフに心を奪われてそれどころじゃないが。

 

「ありがとよ」

 

「どういたしまして♪」

 

 着ぐるみ越しだから表情は分からないが多分笑顔だな。

 あたしのかわいいセンサーにビンビンきてるし。

 

「なぁ……抱き着いても良いか?」

 

「勿論♪」

 

 許可が出たので遠慮なくいくぜ。

 

 

 …………やべぇ…………まじやべぇ…………。

 

 

 全身を包み込む感覚にささくれ立った心が癒されて………………ぐぅ。

 

 

 

 

「…………あれ?」

 

 気付けば自分の部屋。

 もしかして今までのは夢だったのか?

 

 ……悪くねぇ。

 

 妙に頭はすっきりしてるし。

 だけど逆に腹はペコちゃんだから……ラーメンでも食いに行くか。

 時計を見ると夕飯にしちゃちょい遅めだけど。

 

「あ、ますき」

 

「父さん」

 

 部屋の扉を開けたところで父さんと鉢合わせ。

 

「さっき熊の着ぐるみがお前を連れてきてくれたぞ」

 

「はぁ!?」

 

「あとこれを渡された」

 

「ライブのチケット?」

 

 ……夢じゃなかったか。

 それにしてもライブのチケットとか皮肉かよ。

 

 

 

 

「……結局来ちまった」

 

 行こうか行くまいか悩んだが、恩人に貰った以上行かないのは失礼だと思い行く事にした。

 あのRoseliaも出るし、シークレットゲストも気になる。

 場所はCiRCLE、うちのGalaxyの五倍のキャパはある。

 

 それにしても……かわいい少女ばっかりであたしはかなり浮いている。

 目が合うと逸らされるし。

 

「あ、ますきちゃん、あの後大丈夫だった?」

 

 誰だ、この人?

 あたしに眼帯の知り合いなんて……。

 

「路上で寝ちゃうなんて、ちゃんと寝ないと駄目だよ」

 

「もしかして着ぐるみの!?」

 

 人差し指を口の前に立て悪戯っぽい笑み、間違いないな。

 

 それにしても……着ぐるみを脱ぐと一気に縮んだ感じが。

 口調も大人しめになってるしオンオフの切り替えってやつか。

 

 

 

 

「ワンコさんって銀河青果店でバイトしてたんですか!?」

 

 衝撃の事実に売店で買った紅茶を吹き出しそうになった。

 あたしがライブハウス内で居心地が悪そうにしているのを見かねて冬空の下でティータイム。

 お陰で周りに人はいないけど……寒い。

 ラーメンが欲しくなってきたぞ。

 

「うん。店長にますきちゃんの写真を見せてもらったことがあるから知ってたけど、中々直接会う機会が無くて」

 

「あー、うちの学校が遠い上に放課後もあちこちでドラム叩いてたんで」

 

 その所為で商店街の連中ともつるむ機会が無くて、商店街の応援ソングがいつの間にかできてたのには驚いた位だし。

 学校じゃ下級生に慕われてても地元じゃ……。

 

「今日は着ぐるみじゃなくてごめんね」

 

「とんでもないっス! 改めてあの時はありがとうございました!」

 

「ビラ配りしてたらたまたま見かけてね。私も『狂犬』なんて呼ばれてよく突っかかられたから見過ごせなくて」

 

「『狂犬』っすか……あたしと一緒だ。ただ全力でぶつかりたいだけなのに……」

 

 ポツリと漏らす。

 妥協せず自分の演奏を追い求めた結果付けられた仇名。

 理不尽だとも自業自得だとも……でも、このままでいいのか?

 

「私の知っているギタリストは、一年以上自分の全てをぶつけられるバンドを探し求めて幸運にも巡り合った」

 

「……………………」

 

 ワンコさんの突然の言葉に困惑する。

 一体どういう意味が?

 

「別のギタリストはメジャーデビューした後に不運にも他人の音楽を強制されて……結局音楽を諦めた」

 

「……………………」

 

「努力が実を結ばないかも知れないこの世界、それでもドラムに全てを賭ける覚悟はある?」

 

 ワンコさんの真剣な眼差しがあたしを射抜く。

 ほぼ初対面の相手なのに半端な答えじゃ許されない気がする。

 それなら全力でぶつかるだけ!

 

「当然! あたしには……音楽しかないから!」

 

「……はぁ、何で私の周りには音楽馬鹿しかいないんだか。微力だけど必要なら手を貸すよ」

 

 張り詰めた空気が一気に弛緩した。

 ワンコさんも言葉とは裏腹に満足そうに笑う。

 あたしも釣られて笑ってしまう。

 

「『狂犬』じゃなくて『馬鹿犬』って名乗りますか?」

 

「もう犬はいいよ……」

 

「今、犬って言いましたか!?」

 

 いきなりギターを背負った少女が会話に割り込んできた。

 どこかで見た気が。

 

「紗夜さん落ち着いて、本物の犬はいないから」

 

「そうですか……」

 

 しょんぼりするギタリスト。

 叱られた大型犬みたいでかわいい。

 

「あー、こちらRoseliaのギタリスト氷川紗夜さん」

 

「初めまして、佐藤ますきっス!」

 

「初めまして、氷川紗夜です。もしかしてドラマーの?」

 

「紗夜さん知ってるの?」

 

「ええ、バックバンドのドラマーの中でも屈指の腕前ですが、正式なメンバーとして迎え入れるには相応の実力が無いとバンドが瓦解するとか」

 

「光栄っス!」

 

 ガールズバンドでも有名なRoseliaのメンバーに名前を憶えられているのか。

 今までの努力が少し報われた気がした。

 

「ごめんますきちゃん。釈迦に説法だった」

 

 両手を合わせ謝罪するワンコさん。

 逆にこっちが慌てる。

 

「そんな事ないっスよ。こういう話ができるのって中々いないもんで」

 

「そう言ってもらえると助かる。でもそれだけ有名なのに引く手が無いとすると」

 

「動画でも上げますか?」

 

「令王那ちゃん」

 

 今度は長髪をピンクと水色で染めたインパクトの強い少女が。

 こいつも……かわいいな。

 

「お、今日はあやひなカラー?」

 

「はい♪ 丸山彩ちゃんに氷川日菜ちゃんのカップリング、私の一押しです!」

 

「こちら鳰原令王那ちゃん、パスパレの熱狂的なファン」

 

 熱狂的……ああ、うん。

 そんな言葉じゃ済まない気がするけどな。

 

「妹の応援ありがとうございます」

 

「まさか日菜ちゃんのお姉さんご本人!? こちらこそありがとうございます!」

 

 うちの学校でも通用するような綺麗なお辞儀、侮れねぇ。

 エキセントリックな見た目とのギャップが激しいな。

 

「話戻すけど動画を上げるって、ますきちゃんの演奏を録画してネット上で公開するって事?」

 

「はい、もしかしたらますきさんのドラムの腕を必要としている人に見てもらえるかも知れませんし」

 

「……だといいな」

 

 あたし一人では思いもつかなかった方法。

 何か良いよな……こうやって一緒に考えてくれる人がいるのって。

 

「撮影なら任せて。演劇部で鍛えた撮影テクニックがあるから」

 

「私もお手伝いします。他人事と思えませんので」

 

「私もエレクトーンで参加しようかな?」

 

 へへっ、何だか楽しくなってきたぜ。

 

 っと、まずは今日のライブを楽しまないとな!

 

 

 

 

「次のパスパレで最後か」

 

「はい♪」

 

「はぁ、はぁ、楽しみっス」

 

 正直、今終わったRoseliaの演奏で膝はガクガクだ、横の二人は余裕そうだけど。

 一人一人の技術もすげぇがそれが一つにまとまった時の破壊力。

 頂点を目指すってのは伊達じゃねぇな。

 確実にあたしの知らない世界を見てやがる。

 

 

 羨ましくて流した涙を汗と一緒にこっそりタオルで拭った。

 

 あたしもいつか最強の仲間と一緒にステージに立てたら……。

 

 

「まっ、間に合いました……」

 

「紗夜さん、お疲れ。汗拭いて水分取って酸素吸って」

 

 え、この人ついさっきまでステージ上にいたよな?

 どうやってこのドミノ倒し一歩手前の最前列まで?

 

「紗夜さん、変装は?」

 

「そうでした。今日はこのサングラスで……完璧ですね」

 

「素敵」

 

「大物歌手みたいです♪」

 

 おいおい全然変装できてねー!

 でも何て言うか――

 

「……かわいい、っス」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 

 

「みなさん、トイレは済ませました? ケミカルライト折りは? 最前列で命をすり減らす心の準備はオーケー?」

 

「当然」

 

「当たり前」

 

「えっと……常識! 常識!」

 

 令王那に合わせ謎のやりとり。

 意味が分からないが、すげぇ楽しい。

 

「ようこそ、ソイヤの世界へ」

 

「おうっ!」

 

 手がライトで塞がっているのでワンコさんと腕タッチ。

 スタジオミュージシャン時代から憧れてた麻弥さんのステージ。

 全力でやり切るしかねぇ!

 

 

 

 

「父さん……ただいま」

 

「おかえり。その様子だと楽しめたみたいだな」

 

「ああ!」

 

 パスパレの演奏で燃え尽きた後まさかの控室訪問。

 実際の麻弥さんも演奏と同じで丁寧で気配りが上手で感激した。

 あたしの演奏を褒めちぎってくれた時には思わず涙が溢れた、畜生!

 後サインまで貰っちまったし、額縁買ってこねーと。

 

 令王那の奴は興奮しすぎて鼻血出しやがったな。

 あいつも普段は色々と溜め込んでたりするのか?

 意外と似た者同士だったりかもな。

 

 他にもRoseliaとか色々いたけど、どのバンドも「やり切った」感じで表情が明るかったのにも驚いた。

 あたしにもあんな表情ができるのか?

 

 

 うし、あたしもバンド探し頑張らねーと。

 ワンコさんも紗夜さんもRoseliaという居場所を得たのが高二の春だって言うから、諦めるにはまだ早いよな。

 

「良い顔になったな」

 

「そうかな? それよりも父さん、もしかしてワンコさんにあたしの事お願いした?」

 

「…………」

 

「……ありがとう」

 

 あたしの口下手なところは絶対父さん似だよな。

 

 

 そしてドラムの腕も……だけど絶対超えてやるからな。

 

 

 ドラマーとしても、バンドとしても!




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<備考>

佐藤ますき:ソイヤの世界に入門。

氷川紗夜:ソイヤな変装。

鳰原令王那:イエス、ソイヤ♪

佐藤父:苗字の通り娘に甘い、元ソイヤ。

ワンコ:半分はソイヤ任せ。

下記五名で読みたい視点は?

  • 市ヶ谷有咲
  • 羽沢つぐみ
  • 白鷺千聖
  • 松原花音
  • 氷川紗夜
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