犬も歩けば棒に当たる 作:政影
○猫(シーズン1夏)
『この珈琲店では現在コピ・ルアクフェアを行っており――』
食後にリビングでくつろごうとテレビをつけたら気になる単語が。
確かにゃーんちゃんの――
「ジャコウネコが出した未消化コーヒー豆から作るコーヒー、だっけ?」
「ありがとう」
ワンコが用意してくれた、いつも飲んでいるコーヒーに砂糖を入れかき混ぜる。
羽沢珈琲店でバイトしているだけあって相変わらず美味しいわね。
「ワンコは飲んだことあるの?」
「無いかな。一度飲んでみたいけど高いし」
私の横に座りコーヒーにミルクだけ入れるワンコ。
一杯五千円という言葉がテレビから聞こえてくる。
Roselia六人のファミレスでの一食分に匹敵、そう思うと高いわね。
「にゃー」
「あら、ユキが作ってくれるの? でも駄目よ、お腹を壊してしまうわ」
私の膝の上に乗りアピールしてくる愛しの義妹(猫)のお腹を撫でる。
相変わらずふかふかで温かくて安心できる撫で心地。
確かにゃーんちゃんを撫でると脳内に幸せホルモンが分泌されるとか。
全くもって当然の調査結果ね。
羽丘にもアニマルセラピーとして保健室に導入されないかしら?
実現したら保健委員にでも飼育委員にでも立候補するわ。
『ジャコウネコを見られる動物園は――』
「どう見てもにゃーんちゃんじゃない」
「ハクビシンに近いかな?」
テレビに映ったジャコウネコは……私の知っているにゃーちゃんとは別物だった。
愛嬌のある顔立ちと言えなくはないけど……。
命名者に抗議したいわ。
○イニシャル(シーズン1夏)
「それでですね、さーや、おたえ、有咲、りみりんのイニシャルを繋げると『STAR』になるって気付いたんですよ!」
「それは素敵ね」
興奮気味に話す戸山さんに思わず笑みがこぼれてしまう。
たまたま同じ時間にスタジオ練習を終えたRoseliaとPoppin'Party、折角だからとファミレスに誘われてしまった。
メンバー達、特に紗夜が行きたがっていたからあえて反対する理由もない。
「完全に偶然だろ……」
「もー、そこは運命だと言ってよ有咲~。キラキラドキドキだよ♪」
「夏なのに人前で抱きつくな!」
相変わらず戸山さんと市ヶ谷さんは仲良しね。
……リサ、真似したいオーラがだだ漏れよ。
「友希那さん、Roseliaも負けてないよ」
「えっ?」
ワンコの発言に首を傾げる。
Roseliaにイニシャルに関係する事なんてあったかしら?
私の疑問を他所にテーブルに置いてあった紙ナプキンにアンケート記入用意の鉛筆を走らせるワンコ。
「燐子さんのR、紗夜さんのS、リサさんのL、あこちゃんのA、ついでに私のI」
「あ、本当だ!」
興奮し身を乗り出して覗き込む戸山さん。
私はそんな事を考えもしなかったのでワンコの閃きに感心した……二文字足りないけど。
「…………奥沢さん、イヴ」
「市ヶ谷さん、何か言ったかしら?」
「いえ、何でもありません!」
「そう?」
何かぶつぶつ言っていた気がするけど。
……もしこの六人から誰か欠けたら、私はどうするのかしら?
「紗夜さん、またポテト頼むんですか? 太りますよ?」
「宇田川さん、ここの店はヘルシーな油を使っているうえに高温で揚げているから実質ゼロカロリーよ」
「ゼロカロリー!? さ、流石紗夜さん、あこももっと食べますね♪」
「……純真無垢なあこちゃん……天使」
○よくあるRoselia最大の危機(シーズン1夏)
「――――今のは良い感じだったわ」
「うんうん♪」
「異論はありません」
「あこも感激です!」
「……胸が……熱いです」
ある日のスタジオ練習、休憩前の最後の一曲に私もメンバー達も手応えを感じていた。
一歩ずつ確実に頂点を目指して。
それが未熟な私、いや私達にできる最良の方法だと信じているから。
「それじゃあ休憩にしよっか? 外のカフェで新作スイーツ始まったって♪」
「わー、あこ楽しみ~。ね、りんりん?」
「……うん……楽しみだね」
張り詰めた空気が一気に緩む。
休憩が大事なのはバンドを組んでから痛感した。
パフォーマンスの落ちた状態で練習しても意味が無いから。
自分一人だと気付けない事でも指摘してくれるメンバー達がいるからもう間違えない。
フッ
「え、停電!?」
いきなり照明が消え暗闇に包まれた。
落ち着いて深呼吸。
まずは内線電話で受け付けのまりなさんに連絡を――
「きゃあっ!」
「友希那!?」
暗闇の中、何かに足を引っかけて転んでしまった。
しまった、この辺にマイクのシールドを束ねて置いていたのを忘れていた。
「友希那、どこ!?」
「今井さん落ち着いて、無闇に動いては」
「きゃっ!」
「あっ!」
体を起こしシールドを外そうとしたところ上から圧し掛かられ再び床に突っ伏す。
この感触はリサね。
「ごめん、友希那。大丈夫?」
「え、ええ。それよりあまり動かないで……ひゃん!」
衝撃そのものよりリサの手が会心の演奏で火照り、敏感になった私のあそこに制服越しに触れてしまい……。
不覚にも気持ち良さを感じてしまい顔が熱くなるけど暗闇だから大丈夫、多分。
「私の鞄からスマートフォンを出してライトで照らしますから待っていてください」
こういう時冷静な紗夜がいると助かるわね。
大人しく待って――
「きゃっ!?」
「えっ!?」
「あんっ!」
足に巻き付いたシールドが引っ張られリサの下腹部に顔が密着してしまう。
息苦しい。
「ちょ、友希那、息が……」
「ん……我慢して。紗夜、ライトは?」
「シールドが解けなくて、このっ!」
「んっ!?」
絡みついたシールドが股の間で前後に動く。
感じた事の無い金属による強い刺激。
それ以上されると……私……。
「ありがとう、燐子」
「……無事で……良かったです」
結局四つん這いで自分の鞄からスマホを取り出した燐子が照らしてくれたお陰でシールドからは解放された。
どう動いたら三人が緊縛される状態になるのかしら?
何はともあれ早くまりなさんに伝えないと。
「あー、内線電話は通じないみたい」
「あれ~、りんりんドアも開かないよ?」
「えっ……」
「どいてください、宇田川さん」
ドアの窓ガラスから明かりが漏れているという事は停電はこの部屋だけみたい。
スマホで足元を照らしながら慎重にドアに向かう紗夜。
一番最初に私がシールドに躓いた時に盛大に蹴飛ばしたようで広範囲に広がってしまったらしい。
「ふんっ! ふんっ! ……駄目ですね。前々から調子は良くありませんでしたがまさかこんな時に」
「スマホも……圏外です……」
「困ったわね。予約時間は後三時間、ワンコのバイトも大体それ位に終わると言っていたし」
「まりなさんも今日はワンオペって言ってたから、地下の一番奥のこの部屋まで様子を見に来るのは期待薄かな」
「あのー、エアコン止まってません?」
「…………暑い」
かなり絶望的なみたいね、色々な意味で。
「各自の飲み物は……各々ペットボトル半分位ですか」
紗夜の提案でドアの傍に集まり残った水分の量の確認をする。
最悪これを分け合って三時間耐えなければいけない。
リーダーとして何か良いアイデアを出さないと。
大切なメンバー達を熱中症にするわけにはいかないから。
「あなた達、今日水泳の授業はあったかしら?」
「湊さん何を……まさか!?」
「制服のままより熱中症になるリスクは下げられるはずよ。それとも下着姿の方が良い?」
「わ、わかりました。白金さん、着替えますよ!」
「……はい」
使用済みの湿り気のある水着を着るのは少し抵抗があったけど、制服より露出が多い分過ごしやすいわね。
「プールでもないのに水着を着るなんて……」
「大丈夫だって、紗夜。暗くて良く見えないし♪」
「りんりん、触ってもいい?」
「……少し……だけだよ」
それから一時間位、停電が復旧することは無く誰かが扉の前まで来ることは無かった。
体力を温存するため床に横になる私達、清潔さはともかく冷たくて気持ち良いわね。
だけど次の問題は……。
「友希那、もしかして調子悪い?」
「そうなのですか、湊さん?」
「ええ……できれば言いたくないのだけれど」
流石幼馴染、暗闇でも私の異変に気付いたらしい。
だけど……いくら大事なメンバー達だと言っても口に出すのははばかられる事。
女の子なら誰でもそう思う筈。
「友希那さん、あこ達を信じてください! Roseliaはイチレンチクショーです!」
「あこちゃん……一蓮托生だよ……」
「今更何を。恥ずかしがるような仲ではないのでは?」
「そうそう。何があっても友希那は友希那だよ♪」
「あなた達……」
メンバー達の言葉に目頭が熱くなる。
そうね……『Roseliaにすべてを賭ける覚悟はある?』と聞いておきながら私が怯んだら不誠実よね。
分かったわ、たとえどんな結果になっても後悔しない。
あなた達を信じているから。
「……漏れそうなのよ」
『…………………………』
「ドラムぶつけて開かないかな?」
「マイクスタンドで……蝶番を破壊した方が……」
「今井さん、ライターで火災報知機を炙りたいのですが」
「見た目はギャルでも煙草は吸わないから! メンテ用のスプレー吹き付ければワンチャンあるかも」
私の為に必死になってくれるメンバー達。
ああ、恵まれているわね、私。
ガチャガチャ、ドンドンドン!
「友希那さん無事?」
「ワンコ、どうして!?」
「話は後、蹴り破るから下がってて」
「分かったわ!」
そうよね、Roseliaにはもう一人いたわよね。
頼りになる忠犬が。
「本当にごめん!」
頭を下げるまりなさんに困惑気味の私達。
今日使用した部屋は故障中で元々週末に修理が入る予定だったとか。
昨日のスタッフが引継ぎを忘れたのが原因らしい。
これでは怒るに怒れないわよ。
普段お世話になっているし。
私としては間に合ったので今の気分は爽快の一言。
さっきまでは空のペットボトルを使うべきか真剣に悩んでいたのに、ね。
「まりなさんにはいつもお世話になっていますから、ワンコが壊したドアの修理費で相殺していただければ」
「うんうん、それは勿論だよ。それとは別にオーナーに掛け合って絶対埋め合わせはするから!」
誠実なまりなさんの事だからきっと大丈夫よね。
とりあえず今日練習できなかった三時間分をあの部屋以外で予約しよう。
「はー、今日は危なかったね♪ 特に友希那――」
「リサ、忘れなさい。それにしてもワンコ、予定より二時間位早かったわね」
「うん、胸騒ぎがしたから早めに上がらせてもらった」
全員へとへとだったので今日は反省会無しで解散。
リサとワンコと一緒に家路についている。
「助かったわ。……下手をすれば全員熱中症になっていたから」
「どういたしまして。で、何で二人ともそんなに離れてる?」
「……汗臭いから」
「流石にね~」
一緒にいて同じくらい汗をかいているリサならともかくワンコには嗅がれたくない。
本当なら走って帰りたいぐらいだけど……多分倒れるわね。
「二人とも良い匂いだと思うけど」
「相変わらずデリカシーが無いわね」
「そういうとこだぞ♪」
「難しい」
私とリサの言葉に困り顔のワンコ。
そんな様子が可笑しくて私もリサも笑ってしまう。
それにつられてワンコも笑顔に……。
すっかり日も長くなりまだ夕日に染まったままの世界。
去年とは違いもう一人じゃない、横には大切な存在達。
来年の春に花を咲かせるため、今は一歩ずつ確実に頂点を目指して。
それが私の見つけた答えだから。
感想、評価、誤字報告などありましたらよろしくお願いします。
アンケートにご回答をお願いします。
<備考>
湊友希那:猫を撫でて癒される。
今井リサ:友希那と同じ空気を吸って癒される。
氷川紗夜:犬の番組を見て癒される。
宇田川あこ:燐子を撫でて癒される。
白金燐子:あこを撫でて癒される。
下記五名で読みたい視点は?
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市ヶ谷有咲
-
羽沢つぐみ
-
白鷺千聖
-
松原花音
-
氷川紗夜