犬も歩けば棒に当たる   作:政影

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八月ももう終わりですね。


※こっそりとあらすじに挿絵追加、便利な世の中になったものです。


番外編X-20:燐子な日々2(シーズン1)

○夏祭り(シーズン1夏)

 

 

「わー、りんりん綺麗~♪」

 

「そ、そうかな……あこちゃんも格好良いよ……」

 

「でしょー! 闇の僕たる蝙蝠を……」

 

「……宿した衣」

 

「宿した衣を纏い、いざヴァルハラへ!」

 

「ふふふ……」

 

 黒地に白い蝙蝠を配した浴衣でポーズを取るあこちゃん、いつもより格好良い気がする。

 今すぐにでもお持ち帰りしたいくらいに。

 

「お、二人とも決まってる~♪」

 

「そのままステージに立てそうなくらいよ」

 

「あ、リサ姉に友希那さん!」

 

「お二人とも……素敵です……」

 

 薔薇の友希那さんと椿の今井さん、Roseliaへの熱い思いが伝わってきた。

 きっと二人で色々と話し合ったと思う。

 胸圧、じゃない胸熱。

 

「……本当はにゃーんちゃん柄が良かったのに」

 

 聞かなかったことにする。

 

 

 

 

 今日はRoseliaのうち四人で近所の神社の夏祭りに来ている。

 残りの二人はというと、氷川さんは仕事終わりの日菜さんを駅で待っていてそのあと合流する予定。

 ワンコさんは――多分そのうち会える筈。

 

「でも燐子、そこそこの人出だけど本当に大丈夫?」

 

「……はい……皆さんと一緒ですから」

 

「りんりんはあこが守るから大丈夫だって♪」

 

「あこも立派になったわね」

 

 しっかりとわたしの右手を握りしめてくれるあこちゃん、凄く心強い。

 夏の暑さよりも熱くなりそう。

 

「そっか、でも無理しないでね。友希那も」

 

「勿論よ」

 

 いつになくやる気の友希那さん。

 今日行く事を決めたのも「リアリティこそが歌に生命を吹き込むエネルギー」だと言っていたし。

 …………どこかで似たような台詞を聞いたような。

 でもわたし程ではないけれど人混みは苦手だと今井さんが。

 それでも挑戦する姿勢にわたしの心も奮い立つ。

 

 

「あなた達、行くわよ!」

 

 

 

 

「いやー、友希那と一緒に夏祭りに来れるなんて思わなかったよ♪」

 

「これくらいではしゃがないでよ、リサ」

 

「えー、テンション上がりまくりだって♪」

 

 いつになく楽しそうな今井さん。

 友希那さんと手を繋ぐどころか腕まで組んで……流石コミュ力の申し子。

 わたしも見習いたい。

 

 日は落ちたけれどここは昼間のように明るい。

 神社の参道の両側には金魚すくいや輪投げといった遊技系から、りんご飴やわたあめ等の飲食系の屋台があって賑わっている。

 事前の情報だとそんなに混雑しない筈だったのに……。

 

 

「あ、猫のお面――」

 

「行くわよリサ」

 

「ちょ、ちょっと友希那~」

 

 自分より少し大柄な今井さんを引きずっていく友希那さん。

 流石Roseliaのリーダー……って早く追いかけないと。

 

「あ、りんりん射的があるよ!」

 

「え」

 

 あこちゃんに引っ張られ今井さん達とは別の方向へ。

 もしかして今井さんと友希那さんを二人っきりにする為?

 いつの間にそんな気遣いができるように――

 

「ふっふっふー、今宵の魔弾は……ドーン! バーン!」

 

 ……考えすぎかな。

 一応集合場所と時刻は決めてあるからそのまま自由行動にしよう。

 

 

 

 

「えー、今ので落ちないなんて!」

 

「……惜しかったね」

 

 あこちゃんのコルク銃の最後の一発もドラゴンのぬいぐるみを撃ち落とすには至らず。

 多分客寄せの為の景品だから正攻法だと難しいと思う。

 あこちゃんは諦めきれないようだけど……。

 

「ここにいましたか白金さん、宇田川さん」

 

「あー、射的楽しそう~♪」

 

「紗夜さんにひなちん!」

 

「……こんばんは」

 

 氷川姉妹は揃いの犬柄で少し色が違う浴衣、一度家に帰ったのかな。

 わたしがじっと見つめていると「日菜にお願いされたから仕方なく」と少し照れながら答えてくれた。

 満面の笑みの日菜さん、良かった。

 

「紗夜さん、あのぬいぐるみ取ってくださいよ~」

 

「全く……一筋縄ではいかないみたいね。日菜手伝いなさい」

 

「うん♪」

 

 一瞬で攻略法を考えると二人分の料金を屋台主のお姉さんに渡す氷川さん。

 片方のコルク銃を日菜さんに渡し二言三言話し構える。

 

「三」

 

「二」

 

「一」

 

「「零!」」

 

 全く同時に放たれた二つの弾丸はドラゴンの首のほぼ同じ場所に命中、見事台座から奈落へ撃ち落とした。

 ……数か月前まで不仲だったとか信じられないコンビネーション。

 

 

「ありがとうございます!」

 

「これくらい当然よ」

 

「良かったね……あこちゃん……」

 

 ぬいぐるみをもらってご機嫌なあこちゃんの感謝の言葉にすまし顔で答える氷川さん。

 だけど続けて撃ち落とした犬のぬいぐるみを抱きかかえ頬が緩みかけている。

 そんな氷川さんをこっそりスマホで撮影している日菜さん。

 後でRoseliaの活動中に撮影した氷川さん画像と交換してもらおう。

 

「お礼にたこ焼きをご馳走しますよ♪」

 

 ……あ、最後の一人を忘れてた。

 

 

 

 

「ワンコ先輩大繁盛ですね――って一人ですか!?」

 

「うん、店主が挨拶回りから帰ってこない」

 

 Roselia最後の一人――ワンコさんは屋台でたこ焼きを焼いていた。

 ねじり鉢巻きに法被姿、相変わらず何を着てもそこそこ様になっている。

 わたし達と雑談を交わしながらも金型に生地を流し込み各種食材を入れ生地で蓋、そして二本のピックで一つ一つひっくり返していく。

 手先は本当に器用なのに。

 

「はい、特製肉かす入りたこ焼き青のり抜き」

 

「るんっ♪ ってきたー!」

 

「……良い匂い」

 

 早速机と椅子のある食事エリアに移動して食べ始める。

 いつの間にか氷川さんが烏龍茶を買ってきてくれていた。

 こういうところに姉力を感じる。

 

「美味しい~♪ ところでりんりん、肉かすって何?」

 

「豚の背脂をこして……ラードを作った時に残ったもの……だったかな」

 

「へ~、つまりソイヤ! なんだ」

 

「……そうなの……かな?」

 

 こういうところはやっぱり巴さんの妹だなって思う。

 弾けるような笑顔に思わず自分の分のたこ焼きを口で冷ましてあこちゃんの口元にもっていく。

 一瞬キョトンとしたけど少し照れ笑いを浮かべながら食べてくれた。

 

「おねーちゃん、あたし達も――」

 

「やりません」

 

 日菜さん、そんな恨めしそうな目でこちらを見ないで。

 

 

 

 

「さて、では私はワンコさんを手伝ってきます」

 

「あ、あたしもー。燐子ちゃんとあこちゃんはお祭り楽しんでね♪」

 

 返事を待たずにワンコさんの元へ向かう氷川姉妹。

 本当はわたしも手伝いたかったけれど、作業スペースが限られているからこれ以上はかえって邪魔になるかも。

 ……あと一歩が踏み出せないわたし。

 

「……りんりん、次は絶対あこ達が手伝おうね」

 

「……うん」

 

 やっぱりあこちゃんは格好良い、な。

 握られた手がさっきよりも熱い。

 

「……今日は……お祭り楽しもう?」

 

「勿論!」

 

 今日はいつもより食べちゃおうかな。

 ライブまでに元の体形に戻せばいいし。

 

 

 

 

「あ、燐子さんこっちこっち」

 

「は、はい……」

 

 集合場所の芝生にはレジャーシートが敷かれわたし達以外の五人とたくさんの食べ物が載っていた。

 色々屋台を回っていたからわたしとあこちゃんが最後。

 ワンコさんの屋台は完売したとの事で。

 

「挨拶回り先で酔いつぶれていた店主のお詫び、良かったら食べて」

 

「わーい♪」

 

 早速焼きトウモロコシに噛り付くあこちゃん。

 わたしの方は限界が近かったのでベビーカステラをゆっくり食べる。

 氷川姉妹はポテトに夢中、友希那さんと今井さんはかき氷を食べていた。

 ワンコさんは……フランクフルト、焼きそば、唐揚げ、お好み焼き、焼き鳥、じゃがバター、とにかく手当たり次第に。

 夏バテとは無縁そうで何より。

 

「どうかした?」

 

「……ワンコさんは元気だなって」

 

「うん、大好きな人達と夏祭りに来ることができてかなり浮かれてる」

 

「ふふっ……」

 

 ストレートな言葉に思わず笑いが。

 勇気を出して参加して良かったな。

 

 

「皆さん、時間です」

 

 氷川さんの言葉に一斉に夜空を見上げる。

 

 

 

 ドーン! バーン! ドーン! バーン!

 

 

 

 夜空を彩る大輪の花。

 普段は気が向いたら自宅から一人で見る程度だけど今日はみんながいる特等席。

 空気が肌にまとわりつくような蒸し暑さも今は気にならない。

 

 

 

 …………綺麗、こんなに綺麗だったんだ。

 

 

 

 新しい衣装のイメージも浮かびそう。

 それに――

 

 

「燐子さん」

 

「えっ」

 

 横に座っているワンコさんからハンカチを手渡された。

 目を指さすジェスチャー……気づいたら涙が流れていたみたい。

 動揺を押し殺して受け取り何でもないように拭う。

 

 

 花火より わたしを見つめる ワンコさん

 

 

 何故か一句浮かんだ。

 ……今夜くらい浮かれてもいいかな。

 

 

 

 

「……すみません」

 

「ううん、全然」

 

「ごめんね、りんりん」

 

 祭りも終わりRoseliaプラス日菜さんとの帰り道。

 慣れない下駄で歩き回った所為で鼻緒ずれを起こしてしまいワンコさんに背負われている。

 残念だけど入浴は無理かな。

 折角みんなでわたしの家にお泊りだというのに。

 

「元々燐子さんの家に泊まる予定だから問題なし」

 

「あこも今日の為に夏休みの宿題終わらせたんだから!」

 

「湊さんも当然終わってますよね?」

 

「……リサとワンコが無理やり」

 

「いやー、今年は憂いなく新学期を迎えられるね♪」

 

「あたしは課題なんて初日に終わらせたけどね~」

 

 

 賑やかな一団、その中にわたしも含まれているなんて不思議。

 

 

 だけどもうわたしの日常になりつつある。

 

 

 来年のわたしに笑われないように成長しないと、ね。




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<備考>

白金燐子:舐めてもらったら翌日には完治。

宇田川あこ:筋トレを始める。

氷川紗夜:ほとばしる姉力。

氷川日菜:焼き方をマスター。

今井リサ:緩みっぱなし。

湊友希那:頑張った。

ワンコ:背負うのは希望か絶望か。

下記五名で読みたい視点は?

  • 市ヶ谷有咲
  • 羽沢つぐみ
  • 白鷺千聖
  • 松原花音
  • 氷川紗夜
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