犬も歩けば棒に当たる   作:政影

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質問文:
本編4を始めるとしたら?

回答:
(2) シーズン0夏
(7) シーズン1夏
(6) シーズン2春
(17) どれでも

というわけで「シーズン1夏」を始めていきたいと思います。


本編4(シーズン1夏)
本編4-1:七夕作戦第一号(シーズン1夏)


「はい、そこまで」

 

 

 先生の試験終了の言葉に教室の空気が一気に緩んだ。

 一学期の期末試験もこれで終了、夏休みまで大きな行事はないから少しは気が楽に。

 でも、一つ気がかりなのは――

 

「友希那さんは赤点は回避できそう?」

 

「……分かる問題は全部答えたわ」

 

 振り返って後ろの席の友希那さんに尋ねると机に伏したままそう返してきた。

 今回は私が入院してたこともあって少し不安。

 リサさんが指導役を買って出てくれたけど……友希那さん相手だと甘々だし。

 

「友希那にワンコ、テストどうだった?」

 

「問題ないわ」

 

「そこそこ」

 

 そんなことを考えていたら野生のリサさんが現れた。

 相変わらず隣のクラスから来るのが早い。

 こういう場合高確率でもう一人も。

 

「……はぁ」

 

「他のクラスまで来て溜息つかれても困る」

 

 私の机に顎を乗せる日菜ちゃん。

 少し髪が乱れていたので整えてあげる。

 

「あ、ワンコちゃん……今回も勝たせてもらうよ?」

 

 いつも通りの勝利宣言、だけどどことなく元気がない。

 

「紗夜さん絡み?」

 

「あはは、お見通しか」

 

 いつも無駄に元気な日菜ちゃんがこんな表情をするなんてそれ以外ありえないし。

 私じゃなくても気付くって。

 

「今週末に七夕祭りがあるんだけど……」

 

「ああ、商店街の……紗夜さんと行きたいとか?」

 

「え、何で分かったの!?」

 

 わからいでか。

 

「復縁したんでしょ?」

 

「言い方! そう……だと思うんだけど。バンドとかギターで忙しいかもしれないし……」

 

 歯切れの悪い言葉、もし断られた時のことを考えると躊躇してしまうのは少し分かる。

 私くらい面の皮が厚くなれば気にならなくなるけど。

 

 日菜ちゃんがこれだけ気を使っている現状を見ると紗夜さんの方も――

 

 

『七夕祭り? いいわね、勿論行くわよ! 屋台でポテト買ってあげるわ♪』

 

 

 とは絶対にならなそうだし。

 と言うかそんな紗夜さん逆に怖い。

 こころちゃんあたりなら違和感ないけど。

 

 うーん、何か良いアイデアは浮かばないかな。

 そもそも紗夜さんの予定を確認しないと。

 

「友希那さん、今週末のRoseliaの練習って休みだよね?」

 

「そうよ。私もリサと七夕祭りに行く予定だから」

 

「友希那~♪」

 

「暑いから今は抱き着かないで頂戴……日菜、先ずは直接言いなさい」

 

「友希那ちゃん!?」

 

「今日のCiRCLEでの練習が終わったタイミングで入室して紗夜にお願いするのよ」

 

「で、アタシ達がフォローするんだね♪」

 

「あー、確かにその状況だと断りにくそう」

 

 少し卑怯だけど一緒にお祭りに行ったという実績を作れば次の機会のハードルは下がるだろうし。

 最低でもRoselia+日菜ちゃんでお祭りに行ければ……。

 紗夜さんには悪いけど今回はこれでいかせてもらおう。

 友希那さんが乗り気なのは少し意外だけど。

 

「というわけで日菜ちゃん、この作戦で行くけど問題ない?」

 

「う、うん! ありがとうみんな♪」

 

 今日一番の笑顔で答える日菜ちゃん。

 この笑顔は曇らせたくないな。

 

 

「あなた達、『七夕作戦第一号』行くわよ」

 

「お~♪」「おー♪」「おー!?」

 

 

 …………友希那さん、楽しんでない?

 

 

 

 

「……そろそろ時間ね。今日の練習はこのへんにしておきましょう。ワンコから何かある?」

 

「備品購入のレシートは早めに出すこと、くらいかな。後は――」

 

 スタジオ練習が終わりいつも通り私が業務連絡、そしてドアを開け日菜ちゃんを中に入れる。

 

「日菜!?」

 

「おねーちゃん……今週末あたしと……七夕祭りに行ってください!」

 

 困惑している紗夜さんにお願いを口にした日菜ちゃんは最敬礼を意味する四十五度の奇麗なお辞儀。

 相変わらず覚えるのが早い。

 

「わ、私は……」

 

 対する紗夜さんは……複雑な表情。

 前の犬カフェの時とは違って本当の意味で二人でのお出掛け。

 そこには多分双子にしか分からない葛藤。

 

 ここまでは想定内。

 次の策としてリサさんが――

 

 

「紗夜、自分に素直になりなさい」

 

「湊さん!?」「友希那さん!?」

 

 そう言うと友希那さんはまだ包帯の巻かれた私の左手を取り軽く口付け。

 想定外の事態に混乱、仕掛けようとしていたリサさんは口をパクパク。

 

 

 こうなったら……友希那さんを信じる。

 

 

「あの地震の時ワンコに救われて思い出したの……命の儚さを」

 

「儚さ、ですか?」

 

「ええ、先代ワンコとの別れも唐突だったし、運が悪ければ今のワンコともこうして一緒にいられなかったかもしれない」

 

 声を少し震わせながら私を抱きしめる友希那さん。

 ……ちょっと泣きそう。

 

「だから……できるだけ素直になろうと思ったの」

 

「友希那さん……ありがとう」

 

 リサさんの前だけど友希那さんの背に手をまわし抱きしめ返す。

 私より小柄なのに今は頼もしく感じる。

 

「……分かりました。日菜、今週末七夕祭りに行くわよ」

 

「う、うん、ありがとうおねーちゃん!」

 

「良かったね、ヒナ。よしアタシも素直になろうかな?」

 

「えーっと、あこも欲望に忠実に生きます!」

 

「……そうだね、あこちゃん……ふふっ」

 

 何はともあれ目的は達成したし口下手な歌姫の思いがみんなに伝わってめでたしめでたし、なのかな?

 何となく一部のメンバーからピンクなオーラを感じるけど。

 

 

 

 

「じゃあ今頃紗夜さんは日菜先輩と一緒に回っているんですね」

 

「うん。つぐみちゃんも回りたかった?」

 

「流石に今日は遠慮しますよ。お店も大盛況ですから」

 

「そうだね」

 

 七夕祭り当日、私は羽沢珈琲店で働いていた。

 入院中シフトに穴を開けてしまった埋め合わせ、というのが建前。

 つぐみちゃんと同様に今年くらいは姉妹水入らず、幼馴染水入らずにさせてあげたい気分だったので。

 

 その代わり後でここに集まって夜のお茶会でも、と。

 あこちゃんと人ごみの苦手な燐子さんも来る予定なので楽しみ。

 

 

 さて、それまではお祭り効果で大混雑の店内を捌き切りますか。

 

 

 

 

 プルル♪ プルル♪

 

 

「あ、私が出ますね」

 

 お客さんの第一波が落ち着いた頃、一本の電話がお店に掛かってきた。

 宅配の依頼じゃありませんように。

 

「え、日菜先輩? あ、はい、ワンコ先輩ですか?」

 

 つぐみちゃんに手招きされ電話を代わると――

 

『短冊が持ってかれちゃったの!』

 

 耳がキーンとした。

 流石アイドルの声量。

 受話器から少し耳を離し通話再開。

 

「分かるように説明して」

 

『だから、あたしが書いた短冊が――――』

 

 ツーツーツー。

 

 突然切れた電話に不穏なものを感じ、バイト中は電源をオフにしていたスマホから日菜ちゃんに掛け直す。

 

 

『お掛けになった電話は、電波の届かない場所にある、または電源が入っていないため掛かりません』

 

 

 ……おい。

 ただのバッテリー切れならいいけど……とりあえず一緒にいるであろう紗夜さんに架電。

 

 

『お掛けになった電話は、電波の届かない場所にある、または電源が入っていないため掛かりません』

 

 

 こっちもか!

 毎日フル充電しそうなイメージの紗夜さんだけに不安になってきた。

 だけど今はバイト中だし……。

 

「行ってください」

 

「えっ?」

 

「紗夜さん達がピンチなんでしょ? 早く行ってあげてください!」

 

「……ありがとう」

 

 エプロンをつぐみちゃんに預けて店の外へ。

 

 

 ……で、何処へ向かえば?

 

 とりあえずグループチャットで聞いてみる。

 並行して聞き込み。

 人出はそこそこだけど障害物競争はお手の物。

 裏道、脇道も把握済み。

 

 

「紗夜先輩と日菜ちゃん? 見てないよ。あ、はぐみ特製フランクフルト持ってって!」

 

「う~ん、見てないな。良かったらお祭り限定のチョコバナナコロネをどうぞ♪」

 

「さっき雨宿りしてたけど……もういないみたいだね。あっ、今ポテトの増量キャンペーンやってるの!」

 

「水色の髪の双子姉妹? 見てないな。りんご飴持ってけ」

 

 

 手当たり次第に聞いてみるも戦果無し。

 そしてどんどん渡される食べ物の数々。

 緊急事態でも貰いものを断れない貧乏性な自分が憎い。

 

 

「あ、それなら何かを追いかけてる感じであっちの方に行ったよ」

 

「ありがとう」

 

 まりなさんが示した方向だと……公園だ。

 絶対に間に合わせる。

 

 

 

「見つけた!」

 

「ワンコちゃん!?」「ワンコさん!?」

 

 公園に飛び込むとそこには日菜ちゃんを羽交い絞めにした紗夜さん。

 他には……ベンチに座り短冊のついた笹を食べてる――

 

「パンダ?」

 

「うん、パンダ」

 

「パンダだと思います」

 

 ネコ目クマ科の正式名称ジャイアントパンダ……絶滅危惧種がなんで住宅街のど真ん中に?

 その前に――

 

「何で羽交い絞め?」

 

「あのパンダから短冊を取り返すの!」

 

「止めなさい、日菜。相手は雑食性よ!」

 

 把握した。

 パンダから笹を取り返すミッション、流石に初体験。

 身長的には私と同じくらいかな。

 氷川姉妹を襲ってないから好戦的ではなさそうだけど……。

 

「ちょっと待ってて」

 

「えっ、どうするつもりですか!?」

 

「犬猫の相手は慣れているので」

 

 まあ……なるようになるだけ。

 ヒグマよりは弱そうだし。

 

 

 

「よいしょっと」

 

 目を合わせずにパンダが座っているベンチの横の横のベンチに腰を下ろす。

 距離は五メートル、こちらが風上、良い塩梅。

 貰いものが詰まったポリ袋を開け中をごそごそ。

 取り出したのは、はぐみちゃん特製のフランクフルト、凄く太い。

 まだ温かく暴力的な香りも健在、しばらく香りを堪能した後に一口。

 

「うん、美味い」

 

 思わず声に。

 さて二口目を――

 

「キュー!」

 

「おっと」

 

 右頬に生暖かい吐息。

 ちょっと臭い。

 

「欲しい?」

 

「キュ♪」

 

「分かった」

 

 フランクフルトを棒から引き抜いて口元に持っていくと口で挟んだので手を放す。

 両手を使い起用に食べていく。

 育ちは良いのかも。

 

「キュー」

 

「はいはい」

 

 次に取り出したのは銀河青果店のりんご飴。

 木の棒を引き抜いてから……っと二つにねじ割って片方を渡す。

 

「キュッ、キュッ♪」

 

 バリバリと気持ちの良い食べっぷり。

 甘いのもいけるのか。

 

 そしてやまぶきベーカリーのチョコバナナコロネ。

 今更だけど食べさせても大丈夫なのか不安になってきた。

 

「キュー!」

 

「おっと流石にただじゃあげられない。それと交換」

 

 コロネと地面に置かれた笹を交互に指差して交換の意を伝える。

 辛抱強く繰り返すとパンダも分かったらしく笹を拾い手渡してくれたのでコロネを食べさせる。

 

「日菜ちゃん」

 

 パンダがコロネに夢中になっている間に日菜ちゃんを呼び短冊の付いた笹を渡す。

 

「ありがとう、ワンコちゃん!」

 

「肝を冷やしましたが見事な手際ですね。……この後はどうしましょうか?」

 

 流石に絶滅危惧種を夜の公園に残して帰るわけにもいかないか。

 でも真っ当な方法で連れて来られたとは思えないし。

 公権力に頼るのが普通だけど奇麗事だけじゃ済まないのが世の常。

 

「キュ~♪」

 

 私のことを気に入ったのか体を密着させてじゃれつくパンダ。

 どこかの誰かさんみたい。

 

 ……まぁ、氷川姉妹が関わった以上四の五の言ってられないのも事実。

 スマホを取り出し連絡先一覧から目的の名前を選ぶ。

 

 

「こころちゃん、迷子がいるんだけど――」

 

 

 

 

「ごめんね、急なお願いで」

 

「大丈夫よ、パンダさんは絶対おうちに届けるわ!」

 

「キュー♪」

 

 パンダにまたがったまま公園前に停められた大型トラックに乗り込むこころちゃんと黒服さん達。

 多分彼女の傍が日本で一番安全だから心配はしていない。

 私個人としても結果的に弦巻家と繋がりが……いや流石に打算的過ぎるか。

 だけど今後何かあった時の為に使える手札は多いに越したことはない。

 

「もしかしてワンコちゃん、お別れして寂しい?」

 

「えっ」

 

「しょんぼりしてるように見えたから。えいっ♪」

 

 日菜ちゃんに背中から抱き着かれる。

 二人とも雨上がりの道を全力疾走したまま着替えていないわけで。

 まあ……振り払うのも面倒なのでそのままにしておく。

 

「ワンコさん、お疲れ様でした。折角みなさんに背中を押してもらったのにとんだ七夕に……」

 

「私としては最後に紗夜さんが笑ってくれれば満足なんだけど」

 

「…………ずるいですよ」

 

 その瞬間見えた紗夜さんの笑顔で心のモヤモヤは一気に吹き飛んだ。

 どっちがずるいんだか。

 

 

「あっ! あのパンダちゃんがカササギだったんだ!」

 

「ごめん、意味が分からない」

 

「分かるように言いなさい」

 

 何かを思いついたように素っ頓狂な声をあげた日菜ちゃん。

 紗夜さんも分かっていないようで私の方が普通だと確認できて一安心。

 

「ほら、カササギって七夕の日に織姫と彦星が会えるように橋渡しをするでしょ?」

 

「この前の合同部活動でこころちゃんに教えてもらった……ああ、白と黒」

 

「そうそう♪ カササギもパンダも白と黒だからきっとそうだよ! おかげでおねーちゃんとるるるんっ♪」

 

「……まあ、日菜と一緒に走り回ったのは子供の時以来だけど」

 

「それにこの公園! おねーちゃんと小さい頃よく遊んだ公園なんだ」

 

「そうね……」

 

 おそらく過去を思い出して正反対の表情を浮かべる二人。

 心配になって紗夜さんを見つめていると目を閉じ……開いた時には力強い眼差し。

 うん、大丈夫そうだ。

 

 

「そういえば日菜ちゃんの書いた短冊ってどれ?」

 

「あ、これこれ『おねーちゃんと七夕祭りを回れたよ。ありがとう♪』」

 

「願い事じゃないじゃない」

 

 頭を抱える紗夜さん、私も一本取られた気分。

 

「だってこんなに幸せなのにこれ以上願い事なんてできないよ」

 

 困惑する織姫様の顔が目に浮かぶ。

 相変わらず破天荒だ。

 

 

 

「あら、あなた達こんな所で何をしているの?」

 

 公園に現れたのは手を繋いだ友希那さんとリサさん。

 頼りない電灯しかないけどリサさんの顔の赤さはよく分かる。

 普段からは想像できないほど大人しいし。

 

「色々あって。友希那さんの方は?」

 

「小さい頃七夕祭りで疲れたらここでリサとおしゃべりしてたの。思い出して寄ってみたわ」

 

「そうなんだー。もしかしたら小さい頃に友希那ちゃんとリサちーとニアミスしてたのかもね♪」

 

 その言葉に顔を見合わせる四人。

 浮かべる表情はバラバラだと嫌な雰囲気じゃない。

 

 

 過去があるから今があって未来がある。

 当然のことだけど大切な人達のそれを想像するだけでワクワクしてくる。

 できれば最後まで、見届けたいな。

 

 

 

 

「遅い……です……」

 

「ごめん」

 

 羽沢珈琲店に戻ったら一瞬で燐子さんに詰め寄られた。

 普段の彼女からは想像できない素早さで。

 

「それに……獣臭い……」

 

「あー、ちょっと野良猫に懐かれて」

 

「…………心配…………させないで」

 

「うん、気を付ける」

 

 心配させたお詫びに今度丸一日付き合うことに。

 逆にご褒美かも。




感想、評価、誤字報告などありましたらよろしくお願いします。


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<備考>

湊友希那:素直クール度上昇。

氷川紗夜:ポテトは責任をもって完食。

氷川日菜:織姫ちゃんに自動織機をプレゼントしたい。

パンダ:時速三十kmで走る肉食系の女の子。

ワンコ:眼帯に包帯が加わってやべー制服姿。

下記五名で読みたい視点は?

  • 市ヶ谷有咲
  • 羽沢つぐみ
  • 白鷺千聖
  • 松原花音
  • 氷川紗夜
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