犬も歩けば棒に当たる   作:政影

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B級映画のノリなので頭を緩くしてお楽しみください。


本編4-4:大激突五秒前(シーズン1夏)

「…………ふぁ」

 

 体が海中から浮上するような感覚と共に目が覚めた。

 頭は少しぼやけているものの先ずは体を起こ……動けない、何かに押さえつけられてる。

 顔を動かして状況を確認すると真横には気持ち良さそうに眠る燐子さんのご尊顔。

 寝息まで控え目なので気付かなかった。

 布団の隙間から見える白い肌が眩しい。

 

 抜け出そうとするも柔道の寝技のように脱出不能。

 無理やりしたら怪我しそうだし、こうなったら――

 

 

 ペロッ

 

 

「ひゃん!」

 

 頬を舐められたことで目を覚ました燐子さん。

 何が起きたか分からず慌てる表情が可愛い。

 

「おはよう、燐子さん」

 

「……おはよう……ございます?」

 

 混乱しながらも礼儀正しく挨拶を返してくれた。

 拘束が緩んだので上半身を起こす。

 今度は布団に覆われた下半身にも何かがしがみついているようで立ち上がれない。

 布団を捲ってみると――

 

「すーすー」

 

 下着姿のあこちゃんが熟睡していた。

 髪を下ろしているのでいつもより大人びて見える。

 それでも今だけは「かわいい」扱いしてもいいかな。

 

 というわけで撫でる。

 右手でひたすら撫でる。

 ……巴ちゃんが自慢するのがよく分かる撫で心地の良さ。

 

 

「んーんー」

 

「あ、ごめん」

 

 

 燐子さんが私の脇腹に頭を擦りつけてくるので左手で彼女の頭を撫でる。

 朝から可愛いと可愛いのコンボ、まさに両手に花。

 

 

 

 さて、撫でながら状況を整理してみよう。

 確かにここは私の部屋、いるのは私と燐子さんとあこちゃんと――

 

 

「く、苦しい……」

 

「えへへ……日菜ちゃん可愛い……」

 

 うなされている紗夜さんと布団の上から彼女に覆い被さって頬ずりしている寝惚け彩さん。

 いやその人日菜ちゃんじゃないから。

 あと流石アイドルだけあって引き締まってる体。

 千聖さんが間食に目を光らせているだけのことはある。

 

 

 なお全員下着姿。

 エアコンが省エネ運転で助かった。

 風邪をひかれても困るし。

 

 

 

 ……いや、どういう状況?

 

 

 落ち着け、私。

 学力だけは羽丘二年ナンバーツー。

 やればそれなりにできる子。

 がんばれ、がんばれ。

 

 

 ……先ずは昨日のことを思い出してみよう。

 

 

 

 

『あこ、急に悪かったわね』

 

『全然ダイジョーブです! Roselia全員集合♪』

 

 ファミレスで紗夜さんと燐子さんとばったり会ったので、どうせならとあこちゃんも呼ぶことに。

 Roselia+Afterglow+彩さんという大所帯。

 パスパレから単独参戦の彩さんだけど普通に馴染んでるのは流石。

 音楽に対して突っ込んだ話のできない私の為に、さり気なくそれ以外の話題を振ってくれたりと気遣いも。

 日菜ちゃんが気に入るのも頷けた。

 

 

 

『湊さんと話してたら新曲作りたくなった。みんな、あたしの家で曲作りするよ』

 

『Roseliaも負けていられないわね。あなた達、行くわよ』

 

 ヒートアップした蘭ちゃんと友希那さんが作曲宣言。

 まあ、明日から夏休みだから少しくらいは。

 やる気満々の友希那さんには弱い私。

 そういうわけで湊家で突発作曲合宿……何故か彩さんも一緒に。

 各々一旦家に戻りお泊りの準備をして湊家に集合。

 

 

 

『キミが噂のユキちゃんか~。はい、チーズ♪』

 

『にゃーん♪』

 

 Roselia全員で新曲について意見を戦わせる中、彩さんはユキと遊んだり自撮りしたり。

 

 

 

『二人きりで入浴するのは久しぶりですね』

 

『うん、紗夜さんは相変わらず奇麗』

 

 くじ引きの結果、紗夜さんと一番風呂に入ったり。

 

 

 

『これなら次のライブで披露できそうね』

 

『アイスティー淹れたよ』

 

 折角なので千聖さんからもらったハーブティーをみんなに……あれ、そのあたりから変な気分に。

 

 

 

『それじゃあリサさんとごゆっくり』

 

『気を遣わせて悪いわね』

 

 確か友希那さんの部屋に友希那さんとリサさんを残してみんなで私の部屋に。

 床一面に布団を敷いてまるで旅行気分。

 ……心なしかみんなの顔が赤い。

 

 

『りんりん……触ってもいい?』

 

『……うん……いいよ、んっ』

 

『ちゅっ♪』

 

 

『……紗夜ちゃんって良い匂いするよね♪』

 

『ま、丸山さん!? そういうことは日菜に……あっ』

 

『お肌もすべすべ~』

 

 じゃれ合う二組の子猫ちゃん達をぼんやり眺めていると次第に意識が遠のいて……。

 

 

 

 

 うん、私は何も覚えていない。

 

 起きた燐子さんに後は任せてバイトに行こう。

 

 

 

 

 出掛ける前に友希那さんの部屋をこっそり覗くと……。

 二人とも同じベッドで気持ち良さそうに寝ているので音を立てないように静かにドアを閉めた。

 

 

 友希那さんからは週に一回演奏を聞いて問題点を指摘してくれれば、後は基本自由にしていいとのお達し。

 合宿やライブの手配は一通り終わっているので間近になるまであまりすることはない。

 なので……念願のRoseliaマスコットキャラ作成の為に使おう

 そのために参考になるバイトといえば――

 

 

「ミッシェル隊にようこそ」

 

「よろしくお願いします」

 

 

 これしかない。

 ミッシェル運用のノウハウを学びつつお給料まで貰える理想的なお仕事。

 美咲ちゃん経由で黒服さんにミッシェルのバイトをお願いしたら何故か直ぐに採用が決まった。

 今度美咲ちゃんにお礼しないと。

 仕事内容の詳しい説明は当日って聞いていたけど、ミッシェルランドのキャストくらいしか思いつかない。

 美咲ちゃんのピンチヒッターでDJやれとか言われても困るけど。

 

 

「ではこちらにお着替えください」

 

「はい」

 

 

 おー、ウェットスーツみたいな服。

 美咲ちゃんはタンクトップだったけどこっちが正式なのかな?

 体のラインがもろに出て少し恥ずかしい……主に控え目すぎる部位が。

 

 

「機体の最終調整が終わるまでマニュアルをご確認ください」

 

「分かりました」

 

 

 表紙に『極秘』と書かれた冊子を渡され目を通す。

 ……『上上下下左右左右BA』とか『下R上LYBXA』とかどこかで見たことのある文字が。

 いやそれ以前に操縦方法とか緊急脱出方法とかとても着ぐるみのマニュアルとは思えない文言が。

 

 

「準備が整いましたのでこちらへどうぞ」

 

「あ、はい」

 

 

 困惑しつつもマニュアルを一読したタイミングで呼ばれた。

 黒服さんに続いて入った場所は様々な機器が並んだ格納庫らしきところ。

 そこに鎮座するのは……青いミッシェル。

 そして――

 

 

「ワンコちゃん、今日はよろしく♪」

 

「え、日菜ちゃん!?」

 

 

 いきなり抱き着いてきたのは昨日も普通に顔を合わせた日菜ちゃん。

 その後方には麻弥さんの姿も。

 理解が追い付かない。

 

「実はジブン達、弦巻エレクトロニクスの一部門を手伝っていまして」

 

「こころちゃん達には内緒なんだけどねー」

 

「うん、分からないけど分かった」

 

 ……こういう時は深く考えないようにするのが私の処世術。

 突っ込んでも疲れるだけなのは目に見えてるし。

 それに、二人とも楽しんでそうだから。

 

 

 

 

「どう? 試験的に水平・垂直三百六十度モニターを搭載してみたけど」

 

「視界良好、見えすぎて何も身に着けてないみたい」

 

 モフモフの機体各所にこっそり搭載されたカメラのお陰で鮮明な映像。

 指の操作で振り向かないで後方も確認できる。

 

「動き辛さはありませんか?」

 

「軽快そのもの。よっと」

 

 片足で立ちくるっと回ってみる。

 うん、良い感じだ。

 

「じゃあグラウンド十週走ってきて♪」

 

「はぁ!?」

 

 

 

 

「流石に……辛い……」

 

「走ってて何か問題あった?」

 

「エアコン……付けて…………」

 

「お、お疲れ様です」

 

 炎天下を着ぐるみで四百メートルトラック十週……。

 何で高機能なのにエアコン付いてないの!?

 頭部ユニットを外して麻弥さんから渡された携帯扇風機で意識を保つ。

 

「というか、これって何のバイト?」

 

「え、ミッシェルの新装備のテストパイロットだよ? 聞いてないの?」

 

「……想像していたのと違った」

 

「あはは、大丈夫次は涼しいから♪」

 

 あー、この日菜ちゃんスマイルは絶対に信じちゃいけないやつだ。

 給料分はしっかり働くけど。

 

 

 

 

「確かに涼しい……って外気温マイナス五十!?」

 

「エベレストより高いんだから当たり前でしょ?」

 

 表示された数値に驚いていると日菜ちゃんから冷静な突っ込み。

 特製スーツと機体のお陰でそこまで寒くはないけど……穴でも開いたら凍死しそう。

 

 ここは高度一万メートル、飛行機で来たことはあっても着ぐるみで来るのは初めて。

 弦巻驚異のメカニズムで上りのみのジェットコースターみたいな装置で打ち上げられたけど詳細は不明。

 日菜ちゃんもこころちゃんも天文部だしもしかしたら宇宙進出の為の技術かも。

 

「で、普通に落ちてるんだけど」

 

「ハッピーフライトモードやっちゃって」

 

「はいはい」

 

 マニュアルに書かれていた通りに『上上下下左右左右BA』と入力……脚部にロケットが内蔵されているとか技術レベルおかしくない?

 

 ……燃料が切れるまでに帰るとしますか。

 

 

 

 

「お疲れ様、良いデータが取れたよ♪」

 

「それは何より」

 

「流石ですね、ワンコさん」

 

 帰りは黒服さんが車で送ってくれるそうで日菜ちゃんと麻弥さんと一緒に帰ることに。

 Roseliaのマスコット作成の参考になったかと聞かれると微妙だけど、個人的に良い経験になったのは確か。

 それに……目の前の二人の手伝いが出来て嬉しい。

 更に付け加えると……バイト代がおいしい。

 続ければ燐子さんがお金を気にせずに思う存分着ぐるみ制作に取り組めそう。

 

 

「あ、馬だ」

 

「そんな馬鹿な……馬」

 

「馬ですね」

 

 日菜ちゃんの言う通り誰も乗せていない馬が反対車線を駆け抜けていく。

 

「あ、薫くんだ」

 

「今度は流石に……薫さん」

 

「薫さんですね」

 

 今度は白馬に乗った薫さんが駆け抜けていく。

 

「運転手さん追って!」

 

「ジブンからもお願いします!」

 

「かしこまりました」

 

 日菜ちゃんと麻弥さんの言葉に見事なドライビングテクニックで応える黒服さん。

 ドリフト走行で一瞬で車の向きが変わり反対車線に入り加速。

 みるみる先行する二頭に近づいていく。

 

「取りつくので並走してください」

 

「かしこまりました」

 

「ジブンのサスペンダーで作った簡易投げ縄です」

 

「効くか分からないけどハンカチに熟睡するアロマオイル垂らしたよ」

 

「ありがとう」

 

 二人から渡されたものを見て算段をつけ、シートベルトを外し窓を開け車の上にしゃがんで待機。

 薫さんを追い抜く寸前アイコンタクト、やるだけやると。

 

 

 まるでカウボーイ……相手は馬だけど。

 

 

 そんなことを考える程度には余裕がある。

 高度一万メートルから落ちるよりは気が楽。

 

 

「今っ」

 

 

 私の言葉に黒服さんが車を馬に寄せ、そのタイミングで麻弥さん製投げ縄を投げる。

 

 首に掛かると馬は全力で振り切ろうと速度を上げたので、その勢いを利用して飛び移る。

 

 何とか取りついたものの鞍も鐙も付いていないので投げ縄だけが頼り。

 

「ヒヒーン!」

 

 もらった。

 

 私を振り落とそうと急停止からの立ち上がり、予想済み。

 

 左手に巻き付けた投げ縄に力を籠めそれを起点に飛び上がり馬の鼻先に日菜ちゃんのハンカチを押し付ける。

 

 一、二、三……暴れる馬にしがみ付きながらその時を待つ。

 

「ブル……」

 

 ようやくアロマオイルが聞いたのか動きが鈍重に。

 あれ、これってどうやって降りよう。

 下手をすれば下敷きに。

 

「お疲れ様、子猫ちゃん」

 

「どういたしまして」

 

 丁度到着した薫さんに馬上で抱きかかえられる。

 馬体を馬体で押し怪我の無いように寝かせる薫さん……これで一安心。

 

「ふふっ、じゃじゃ馬な子猫ちゃんも魅力的だね」

 

「幕引きありがとうございます」

 

 炎天下馬で駆けてきたのにその疲労を表に出さない役者魂、恐れ入る。

 私は……早くどこかで涼みたいかな。

 

 

 

 

 夏休み初日からドタバタ騒ぎ、今年の夏は忘れられないものになりそう。




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<備考>

丸山彩:深まるひなあや疑惑。

氷川紗夜:クラスメイトは野獣系。

氷川日菜:いつか宇宙へ。

瀬田薫:偶然馬脱走の現場に遭遇して協力を申し出る。

ワンコ:念願のミッシェルだけど何か違う。

偶然出会ったのは?

  • ボーカル組
  • ギター組
  • ベース組
  • ドラム組
  • キーボード+DJ組
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