犬も歩けば棒に当たる 作:政影
曲が終わり体から力が抜ける。
早朝とは言え夏真っ盛りこの時期、既に汗ばんでいて服が肌に張り付いている。
それでも風が吹く度に一時の清涼を感じる。
っと、余韻に浸っている場合じゃない、お仕事お仕事。
「スタンプ押すからカード持ってきてね」
『はーい!』
元気でよろしい。
今日は、というか今日も商店街朝のラジオ体操のお手伝い。
場所は公園、参加者は主にここら辺の子供達、可愛い。
青年部の沙綾ちゃん、巴ちゃん、はぐみちゃんに混じって前で模範の体操をして、その後子供達のスタンプカードにスタンプを押すお仕事。
仕事とは言っても無給だし、いつもお世話になっている分の恩返し的意味が強いけど。
「はい、ワンコおねーちゃん♪」
「うん、頑張ってるね」
参加している幼稚園児や小学生は朝から元気で圧倒されそう。
こっちも負けていられない。
「はい、ワンコ」
「うん、友希那さんも頑張ってるね」
「当然よ」
……小柄とは言え小学生よりは身長があるので否応なしに目立つ友希那さん。
スタンプを溜めても高校生には特に景品もないけど、バンドの為の体力作りという名目で参加中。
しかして、その実態は――
「ふふっ、にゃーんちゃんのスタンプがまた増えたわね」
スタンプカードに押された猫スタンプに満面の笑み。
周りの子供達からも微笑ましく見られている。
本人は気付いていないようだけど。
「はぁ……ラジオ体操をする友希那も素敵……」
友希那さんとラジオ体操に通うのは小学生以来ということでカンキワマリなリサさん。
表情はもう少し自重してくれても。
「まあ、お利口な子ですね」
犬連れで来ている保護者さんや犬の散歩をしている人達に、積極的に話しかけて撫でさせてもらっている紗夜さん。
コミュ力アップの特訓だそうで。
「りんりん、お水!」
「ありがとう……あこちゃん……」
ベンチで横になっている燐子さんに水の入ったペットボトルを渡すあこちゃん。
……夜更かしして衣装作りでもしてたかな?
ラジオ体操に参加しないでRoseliaの練習まで寝てればいいのに。
「はい、濡れハンカチ」
「……すみません……ワンコさん」
「あこちゃん、膝枕してあげたら」
「あっ、ワンコ先輩頭良い!」
「えっ……」
私の言葉に素直に従ってその華奢な太ももに燐子さんの頭を載せるあこちゃん。
いつもとは逆の絵面が新鮮。
燐子さんの顔がさっきより赤いのはこの際無視で。
「相変わらずRoseliaは楽しそうですね」
「あ、巴ちゃん。お疲れ様」
「うちの香澄も大概ですけどRoseliaの方々も中々……」
「沙綾ちゃん、やべーって続けても良いよ」
「わーくん、これが有頂天を目指すバンドなんだね!」
「頂点だよ、はぐみちゃん」
その言い間違いは色々と危険なので即行で訂正。
どうやら三人のスタンプ押しも終わった模様。
私の列が一番早く終わったのは……他の三人の方が人気があったという事で。
「それじゃあ、いつも通り軽く公園のゴミ拾いをしたら帰るね」
来た時よりも美しく。
直接のポイ捨てはなくても風で飛んできたり、落とし物もあったりするから私的には重要。
怪我猫や病気猫もいるかもしれないし。
「あ、ちょっとワンコさん、というかRoseliaにお願いが」
「ん?」
「実は――」
「商店街の夏祭りで野外ライブ、ね」
「はい! 今週末なんですけど都合がつかなくなったバンドがあって……でも急には」
「別にいいわよ」
「えっ!?」
「あなた達も問題ないわよね?」
「オッケー♪」「問題ありません」「あこやっちゃうよ!」「……頑張ります」
友希那さんの言葉にやる気満々の四人。
さっきまでの愉快な姿とは別人過ぎる。
……そんなところも魅力なんだけど。
元々週末はスタジオ練習だったからスケジュール的にも問題ないか。
「ワンコはバイトだったかしら?」
「うん、野球場の売店」
「終わり次第駆け付けなさい」
「了解」
デーゲームだから多分間に合うでしょ。
「ソーセージテラ盛で」
「ありがとうございます」
大量のソーセージを袋から鉄板の上にまき散らし加熱。
焼きあがったものから提供係が容器に盛って手渡し。
ケチャップとマスタードはセルフサービス。
ここは野球場の場内売店。
そして試合開始前の一番混む時間帯。
焼いても焼いても終わらない。
二軍戦なのに売店にこの行列、原因は――
「へいラッシェーイ!! なに握りやしょーか!」
「イヴちゃん、それ違う」
パスパレコラボデーという事でメンバーそれぞれが売店で笑顔を振りまいている。
ソーセージ店担当のイヴちゃんなんか普段バイトで鍛えているだけあって、会計も提供も完璧にこなしている。
一部不安なメンバーもいるけど……多分大丈夫、きっと。
「イヴちゃんかわいー♪」
「ありがとうございます! 『腹が減っては戦はできぬ』です!」
戦……まあ応援も体力使うし間違ってはいないか。
「イヴちゃんこっち向いて」
「はい?」
メイクが崩れないよう気を遣いながらイヴちゃんの額の汗をタオルで拭き取る。
何だか羽沢珈琲店で働いている感じ。
イヴちゃんも楽しそうだしピッタリなイベントだと思う。
「ふふっ、ありがとうございます!」
「どういたしまして」
それにしてもよく売れる。
このペースなら完売して早上がりも……。
♪~♪~♪~
「あ、はい……若宮さん、スタッフが迎えに来るので犬神さんと一緒に控室に向かってください」
「はい! ……えっ」
「私もですか?」
内線を受けた店員さんの言葉に顔を見合わせ首を傾げる。
何か用がありそうだけど、書き入れ時に店を抜けちゃって大丈夫かな?
「待っていたわ、ワンコちゃん」
「何用ですか?」
控室に着くと圧迫感のある笑みを浮かべた千聖さんが出迎えてくれた。
嫌な予感しかしない。
「実はね、マスコットの着ぐるみの人が熱中症で搬送されちゃったの」
「……それは大変ですね」
「それで適任な人が近くにいるのを思い出したの」
「売店に戻っていいですか?」
「だ、め、よ♪」
回れ右で退室しようとするも肩を掴まれる。
この人こんなに握力あったっけ?
「今日は花音と美咲ちゃんを招待しているのよ。マスコット不在なんて花音が悲しむわ」
「うっ……」
「あなただけが頼りなの」
半分演技だとは分かっていても千聖さんの真剣な表情。
逆らえるはずもなく――
「分かりました。バイト代弾んでくださいね」
「そう言ってくれると思っていたわ」
今度は嘘偽りのない笑みを浮かべた千聖さん。
そういうところがずるいんだから……。
「へー、そうやって頼めばいいんだ~♪」
「ちょっと日菜ちゃん!」
「駄目ですよ!」
雰囲気を壊す日菜ちゃんの発言に慌てる彩さんと麻弥さん。
やっぱりチョロいよね……私。
「せ、清濁併せ呑むこともブシドーです!」
「ありがとう、イヴちゃん」
イヴちゃんの必死のフォローが逆に胸に刺さる。
千聖さんなりの友情表現だから気にしてない、と自分に言い聞かせた。
マスコットのペンギンの着ぐるみに着替えてグラウンドに出る。
ミッシェルの方が暑かったからこれならいけそう……適度に水分を補給すれば。
そして最初の仕事はプレゼントバズーカ。
ガス式のバズーカでTシャツの入ったカプセルを観客席に打ち込む簡単なお仕事だけど――
「絶対に花音に届かせなさいよ」
「(コクコク)」
横でカプセルの装填をしてくれている千聖さんの、ドスの利いた小声が着ぐるみ越しに耳に突き刺さる。
外したら後が怖い。
「ライトスタンド、一塁側スタンド、バックネット裏に一発ずつ、花音がいるのはバックネット裏よ」
「(コクコク)」
一発、二発と撃ち飛距離と風の影響を確認、そして問題の三発目。
バックネットが厄介……高めに打ち上げて垂直に落とす感じで。
「あ、風で!」
「!?」
千聖さんの言葉通り突風でカプセルの軌道がずれる、やべー。
「ソイヤ!」
「美咲ちゃん!?」「!?」
まさかの美咲ちゃんの横っ飛びからの回転受け身。
完全にソイヤの世界の住人、ありがとう。
「まぁ……結果オーライよね。スタッフに怒られているけど」
「(コクコク)」
今度何か奢るよ、美咲ちゃん。
「さーて、次のコーナーは『こんなパスパレは嫌だ!』です!」
スタジアムDJのお姉さんに呼ばれ日菜ちゃんに手渡されたスケッチブックを持ってグラウンドへ。
何が書いてあるのか知らないけど捲ればいいんでしょ?
ちゃんと捲りやすいように端が折ってあるし。
……スケッチブックなのにフリップ芸とはこれ如何に。
「先ずは『飼い犬の前だと赤ちゃん言葉になる白鷺千聖』……あはは、流石にこれはないでしょ」
ノーコメント、というか着ぐるみは喋ってはいけないので次を捲る。
「『撮影で段ボールに入ったまま熟睡してしまい国外に送られそうになった大和麻弥』」
「『先輩アイドルにサルミアッキを持って行ってノックアウトした若宮イヴ』」
「『たまに双子の姉と入れ替わっている氷川日菜』」
「『台詞を噛んでいるのは実はキャラ付けな丸山彩』」
どう考えても日菜ちゃんがノリノリで書いたとしか。
DJお姉さんからは困ったような表情を向けられたのでお手上げのポーズ。
「(フリフリ)」
「…………以上『こんなパスパレは嫌だ!』でした~」
「(パチパチパチ)」
おお、無理やり締めた。
お仕事お疲れ様。
スタンドからも拍手と怒号が飛んでいたから、盛り上げ的には成功なのかな?
始球式は五人同時、あの千聖さんですら山なりながらもノーバンとかなり練習してきたのが分かって嬉しい。
……打者に当たらなくて本当に良かった。
それじゃあそろそろソーセージ焼きに戻るかな。
「あ、ホームラン打った後の出迎えとかイニング間のパフォーマンス、勝った時のヒーローインタビューもあるから待機で」
……マジですか。
ごめん、店長。
試合はまさにノーガードの乱打戦。
ビールの売り子だったら稼げただろうね。
酔っぱらいを軽くあしらうテクニックが必要だけど。
「これは長引きそうね」
「えー、こっそりおねーちゃんのライブ見に行きたかったのに~」
「試合後のトークショーの時間を考えると無理そうですね」
「代わりに見てくるから任せて」
「その事なんだけど……代わりの人の手配が間に合いそうにないから最後までいてくれない?」
「えっ…………美咲ちゃんが代わりじゃ駄目?」
「花音を一人にする気かしら?」
「…………迷子確定」
「遅かったわね」
「ごめんなさい」
夏祭りのライブ出演者控えテント、友希那さんと目が合った瞬間地面に額を打ち付ける勢いで土下座。
これ以上の謝罪の方法を私は知らないから。
「そこまでしなくていいわよ。ほら……顔を上げなさい。額に土が付いてるわ」
「友希那さん…………」
「あなたが来るまでに白鷺さんから謝罪の電話を貰ったわ。私の歌を聞かせられなかったのは残念だけど最善を尽くしたんでしょう?」
「うん……でも」
「私が許すと言ったんだから問題ないわよ。ね、あなた達?」
「勿論♪」「当然です」「おっけーです!」「……はい」
「みんな……」
Roseliaみんなの温かい言葉に目頭が熱くなる。
約束を破った私なのに……。
「落ち着いたら白鷺さんに電話してあげてください。丸山さんから彼女も相当負い目を感じていると送られてきたので」
「紗夜さん……分かった、絶対」
「湿っぽい話はこれでお終い! 商店街の人から差し入れ貰ったから早速食べよ♪」
「紗夜さん、ポテトもたくさんありますよ!」
「仕方ありませんね」
「ふふふ……飲み物注ぎますね……」
明るく振舞ってくれるメンバー達のお陰で心が軽くなる。
良かった、この人達で。
ここが私の居場所だって自信を持って言える。
そして……こんな事は二度と起こさないように。
「それから、ワンコ」
「何、友希那さん?」
「埋め合わせはしっかりしてもらいなさいよ。あなたに聞かせる機会を一回奪ったのだから」
「うん、それは必ず」
悪戯っぽい笑みの友希那さんに思わず私も笑ってしまう。
千聖さんに誰に借りを作ったのか思い知らせてあげないと。
ちなみにテントの外にいたポピパとAfterglowの面々には聞かれていたとか。
感想、評価、誤字報告などありましたらよろしくお願いします。
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<備考>
白鷺千聖:プロ意識を優先させるも自己嫌悪。
若宮イヴ:羽沢珈琲店のメニューにソーセージ盛を提案。
奥沢美咲:後方から跳ね返ってきたファールボールもキャッチ。
松原花音:マスコットのペンギン目当てに来るもメガホン叩きに目覚める。
湊友希那:コーヒーに砂糖を入れ忘れるほど動揺。
ワンコ:パルクールを駆使するも間に合わず。
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