犬も歩けば棒に当たる 作:政影
『――以上、Roseliaでした』
「……友希那さん素敵。ね、ユキ?」
「にゃー♪」
真夏の午前中、エアコンの効いたリビングで膝の上に乗せたユキと共に夏祭りのライブ映像をテレビで視聴。
夏の暑さに負けないRoseliaの音楽、そして友希那さんの歌声。
前のライブよりも力強くなっていて嬉しい。
生で堪能したかった、との思いはまだ燻ぶっているけど。
「にゃ」
「うん、大丈夫」
気を遣ってくれているような仕草をするユキの頭を撫でながら未練をコーヒーで飲み下す。
今日、明日の予定はないのでのんびりモード。
休める時に休んでおかないと。
バイトはたくさん控えているし。
さて、そろそろお昼の準備。
今日は友希那さんと私、とユキしかいないから素麺、付け合わせはサラダでバランス良く――
「ワンコ、キャンプ場に行くわよ」
「うん……えっ!?」
二階から降りてきて言い放った友希那さん。
私とユキは困惑して顔を見合わせた。
「全く、突然過ぎます!」
「いいじゃない紗夜。元々今日明日は休養日に充てていたわけだし」
「そーだよ、おねーちゃん。あ、ポテト買っておいたから食べて♪」
「……仕方ないわね」
パスパレ写真集の撮影で予約していたコテージで空きが出たという事でRoseliaがお呼ばれ。
夜はバーベキューからの花火でお代は無料という……。
この前の埋め合わせについてはまだ千聖さんとは話ができていないけどいいのかな?
旅行と気持ちの準備もそこそこにマイクロバスに乗せられた。
【燐】【あ】 通 【紗】【日】
【ユ】
【リ】【友】 路 【千】【彩】
【麻】【ワ】【イ】
うん、何気に凄い面子。
こんなバスツアーだったら幾らでも払える。
っと、浮かれる前に千聖さんに事実確認をしないと。
「これってこの前の埋め合わせですか?」
「埋め合わせとは別よ。高校二年生の夏は一度きりなんだから……思い出作りをしては駄目かしら?」
少し不安げな表情……多分半分は本心だと思う。
逆に言えば半分は演技、付き合いが長いのも善し悪し。
「それにあの後パスパレのみんなに叱られて大変だったわ」
「!?」
「……」「……」
隣の麻弥さんとイヴちゃんの顔を交互に見るも顔を背けられた。
……千聖さんを二人が叱る光景なんて想像できない。
「えっと……思い出作りなら薫さんや花音さんの方が相応しいのでは?」
「あの二人とは連絡が付かないの。美咲ちゃんも音信不通だから、ハロハピのみんなで南極にペンギンでも見に行ってるんじゃない?」
「……あり得るかも」
冗談のような事でも容易に想像できるのがハロハピの恐ろしいところ。
美咲ちゃんの全てを諦めたような顔が目に浮かぶ、強く生きてくれ。
「にゃあ」
「車酔いは大丈夫みたい」
友希那さんの膝の上にいたユキが私の膝の上に飛び乗ってきた。
猫用ハーネスを着けているとは言え一緒に旅行なんて千聖さんに感謝。
「ユキさんはふわふわですね!」
「お世話が行き届いている証拠ですね」
「ゴロゴロ」
普段から友希那さんのスキンシップを受けているお陰で、こんな状況でも喉を鳴らして気持ち良さそう。
良くできた猫さんだ。
もし過去の私もこれくらいフレンドリーだったら……。
「お弁当配ります」
スタッフさんがお弁当とお茶を配り歩く。
Roseliaの分まで用意してくれるなんて至れり尽くせり。
後で改めてお礼を言わないと。
「――師匠、ワンコ師匠、お疲れですか?」
「……あぁ、イヴちゃん。ごめん、ちょっと意識飛んでた」
お腹が膨れてちょっとウトウトしていたらしい。
いけない、いけない。
「まだ先は長いです! 横になりますか?」
「……ん、ありがとう」
「イヴさんの膝枕。フヘヘ、良い写真が撮れそうです」
「にゃ~」
「ふふっ、ユキさんもお眠ですね」
「ジブンの膝の上にどうぞ」
「にゃん」
「まんまるお山に~」
「青薔薇を!」
「るんっ♪ ってきたー!」
バスを降りるなり、彩さん、あこちゃん、日菜ちゃんが元気そうに飛び跳ねた。
一時間以上バスに乗っていたのに元気すぎる。
彼女達三人と熟睡していた私とユキ以外は大なり小なり疲れが見えるのに。
特に――
「う~、未熟でした」
「ごめんね、イヴちゃん」
「い、いえ、私の精進が足りなかったせいです!」
私の重たい頭を載せていたせいで足が痺れている模様。
歩き辛そうなので責任は取らないと。
「ちょっと失礼」
「えっ」
前に紗夜さんにしたように抱き上げる。
うん、モデルだけあって良く引き締まってる。
「あぅ……」
「迷惑?」
「きょ、恐悦至極!」
寝汗が臭うとか言われないでよかった。
逆にイヴちゃんの匂いは……仄かに香る香水に隠れたイヴちゃんらしい匂い。
表情が緩みそうになるので引き締めておかないと。
バスから降りてしばらく歩くとコテージのあるキャンプ場に着いた。
都会の喧騒も暑さも忘れる、湿度も高くなくとても過ごしやすい。
夏でもこんな気候だったらエアコン代が節約できるのに。
そうなると喫茶店のメニュー的には――
「……ワンコちゃん、そろそろイヴちゃんを降ろしてもらってもいいかしら?」
千聖さんの冷たい笑顔に思考を中断して我に返った。
抱きかかえたままのイヴちゃんの顔は少し赤い気がする。
バイトの犬散歩で帰りたがらない大型犬を抱っこして帰るイメージが重なって注意不足だったか。
「ごめんイヴちゃん。私と密着してたから熱かったよね?」
「だ、大丈夫です! シントウメッキャク!!」
私を気遣ってくれる優しい弟子、という名のバイトの後輩。
これ以上赤くなる前に降ろして水分補給をさせないと。
「じゃあパスパレは撮影頑張るぞー♪」
「Roseliaは撮影の邪魔にならない範囲で自由行動ね」
リーダー二人の言葉に各々頷き移動を開始する。
さて、Roseliaのみんなは――
「ユキ散策するわよ」
「にゃ」
「アタシも行くよ♪」
「りんりんあっちに闇のオーラをバーンな洞窟があるって!」
「うん……あこちゃんにぴったりだね……」
さて、私は――
「……ワンコさん」
「うん?」
「その……」
いつもの凛々しい紗夜さんとは違い、何かを言い淀んでいる可愛らしい紗夜さん。
チラチラと視線を向けている先は――日菜ちゃん。
ああ、なるほど。
「折角だから撮影の見学でもしない?」
「……はい」
控え目な返事。
それでも平静を装った表情の裏に喜色が隠れているのは分かった。
「はーい、目線こっちで」
カメラマンの女性の指示に従ってポーズをとり順調に撮影を進めていくパスパレのメンバー達。
多少ぎこちなかった麻弥さんも千聖さんと彩さんが二言三言アドバイスしたら格段に表情が良くなった。
驚いたことに日菜ちゃんがカメラマンさんやスタッフさんに積極的に改善点を伝えていたこと。
……立派にアイドルしてるじゃん。
「おねーちゃん、ワンコちゃん、どうだった?」
自分の撮影が終わったのかこちらへ駆けてくる日菜ちゃん。
笑顔満面ぶりに私と紗夜さんは顔を見合わせ軽く微笑む。
「問題を起こさなくて安心したわ」
「紗夜さんに同じ」
「もー! もっと褒めてくれてもいいんだよ♪」
冗談めかした膨れっ面、はいはいあざと可愛いよ。
「撮影で汗をかいたでしょ? しっかり拭きなさい」
「はーい♪」
何だかんだで日菜ちゃんの世話を焼く紗夜さん。
空気を読める私はバーベキューの準備でも手伝ってくるか。
「ゲストなのにすみません」
「いえいえ、お世話になりっぱなしでは申し訳ないので」
スタッフさんに許可を貰いお手伝い。
食材を切ったり、薪を割ったり、灯油ランタンに給油したり……色々バイトをしているとこういう時に役に立つ。
ついでに良い機会だから聞いてみるか。
「答えられたらでいいのですが、パスパレを傍で見ていてどう思います?」
「……アイドル好きが高じてこの仕事をしていますが、一緒に仕事ができて最高です!」
「私も~♪」
「全力で推せます!」
「それを聞いて安心しました」
熱い称賛の言葉、去年バイトした時とは違い全員目が生き生きとしている。
これなら安心、かな?
きっと千聖さんの頑張りが実を結んだ証拠。
安堵と共に豚肉を切っていると撮影に参加していたスタッフさんがこちらに駆けてくる。
あんなに慌てて……嫌な予感が。
「猪が出たから屋内に避難して!」
……安堵したらこれか。
パスパレも紗夜さんも戻ってきていないから行くしかないよね。
「ブシドー!」
「プギッ!」
木刀を手に大きめの猪と対峙するイヴちゃん、後ろには千聖さんと彩さんか。
他のメンバーやスタッフさんはじりじりと後ずさり中、良い判断。
……残りのRoseliaのメンバー達もそこにいたのは幸か不幸か。
さあ、ここからは私の番だ。
ゆっくりと鉈を左手に横から猪に近づくとあちらもこっちに気付いて向きを変えた。
嬉しいことに私の方を脅威に感じてくれた模様。
興奮しているがまだ理性は残っている……ならやりようはある。
ほぼ無風の理想的な条件。
「フゴッ!」
猪の突進を右に跳んで躱し振り向いたところへ――
「プハッ!」
「ッ!?」
「火!?」「トゥリ!?」「アゴーニ!?」
眼前を覆いつくす炎。
右手に握りしめていたライターで口から吐いた灯油に着火させたもの。
当然猪を丸焼きにする程の火力は出せないけど熱を感じさせ――目論見通り焼かれる恐怖を与え戦意は削げた。
「ピギーッ!」
再び向きを変えた猪は全速力で森の中に消えていった。
鉈でやり合うなんて御免こうむりたいから上々の結果かな?
「うわ、灯油臭っ! これでうがいして」
いち早く駆け付けたリサさんから渡されたペットボトルの中身を口に含み、口内に残った灯油と共にその場に吐き出す。
甘い、凄く甘い。
「ありがとう、リサさん。アックスコーヒーじゃなかったらもっと良かったけど」
「文句言わないの。とりあえずお疲れ様?」
「師匠、お怪我はありませんか!?」
「うん、大丈夫。イヴちゃんもよく持ちこたえた」
続いて抱き付いてきたイヴちゃん、半泣きが不謹慎ながら可愛い。
あやす様に頭を撫でる。
「お見事でした。とりあえず警察には連絡しましたよ」
「ありがとう、麻弥さん」
「……本当に怪我してないわよね?」
「大丈夫ですよ、千聖さん」
さて、猪が戻って来ると不味いから早くコテージに入らないと。
同じ手は多分効かないから再戦は勘弁。
狩猟免許も無いから色々と面倒だし。
「お肉美味しい~♪」
「彩ちゃん食べ過ぎは駄目よ。ごめんなさいね、リサちゃんに調理を任せてしまって」
「パスパレは撮影とかで疲れてるんだから任せてって。それに料理は好きだからね♪」
リサさんがコンロ三台を駆使してバーベキューで使う筈だった食材を調理していく。
相変わらずの手際の良さ、配膳が捗る。
猪の危険があるので屋外のバーベキューと花火は中止、残念。
更にテント客の安全確保の為Roseliaの方のコテージを提供することになったので、今はパスパレの方のコテージに全員集まっている。
折角食材があるということでリサさんがスタッフさんに調理を申し出て許可を貰ったので、招待のお礼に夕飯はRoseliaが担当することに。
まあ、リサさんが調理を譲ってくれないので他のメンバーが交代で配膳する形になったけれど。
一番料理上手のリサさんには流石の紗夜さんも異議申し立てはできなかった。
「ふふっ、良い食べっぷりね」
「にゃん♪」
……友希那さんはアレなのでユキのお世話をしてもらっている。
お気に入りのキャットフードまで用意してるなんて今のスタッフさんは優秀、麻弥さんあたりに聞いたのかな?
「ワンコ、スペアリブ焼きあがったよ♪」
「うん、テーブルに運ぶね」
バーベキューコンロ用のポークスペアリブもカットしてフライパンで焼き上げ。
絶妙な火加減で美味しそう。
置く場所は勿論――
「はい、頑張ったイヴちゃんに今井筑前守からのご褒美」
「かたじけないです! ……でも、もしワンコ師匠が来なかったら」
「木刀一つで猛獣から仲間を守り通した、古の侍にも劣らない武功。さあもっと食べて私より強くなって」
「ガッテンショウチノスケです!」
元気を取り戻し勢い良くスペアリブにかぶりつくイヴちゃん。
うんうん、ワイルドな君も可愛いよ。
「ワンコちゃん、あまり焚きつけないで頂戴。ただでさえ素振りで筋肉が付きすぎなのに」
千聖さんの小言は頭の片隅に入れておこう。
「……熱い」
あまりの熱さに目を覚ますとあたりはまだ真っ暗。
確か……食事の後お風呂に入って湯上りのフルーツ牛乳をキメてトランプやボードゲームで遊んで。
ベッドの数の関係でパスパレは洋室、Roseliaは和室で就寝した筈。
目が暗闇に慣れてきて横を見ると――
「ブシドー……」
「フヘヘ……」
二人とも寝言まで可愛い、じゃなくてなんでイヴちゃんと麻弥さんが?
「……うーん」
「……るんっ♪」
うん、日菜ちゃんが紗夜さんに夜這いするのは予想してた。
うなされているからどいてあげて。
……他に大きな布団の膨らみが二つあるけど見なかったことにしよう。
すっかり目が冴えちゃったから何か飲もうかな?
リビングに行くとソファーには先客が。
「あら、ワンコちゃん」
「千聖さんも起きました?」
「ええ、気付いたら部屋には彩ちゃんしかいなくて驚いたわ」
「……和室に三人います」
「ふふっ、旅行は人を開放的にさせるわね」
「ですね」
キッチンでグラスに水を注ぐと千聖さんの対面のソファーに……座ろうとしたけど、手招きされたので横へ。
水で乾いた喉を潤し静寂に身を任せる。
「……ごめんなさい。偶然とはいえ今回も巻き込んでしまって」
「千聖さんの所為じゃないですし、いつものことですよ」
「っ! そうやってあなたはいつも笑って!」
「『犬も歩けば棒に当たる』つまりそういうことです」
「…………馬鹿。狡いわよ。そんな風に言われたら突き放せられないじゃない……」
「人生シロサギ、クロサギだけじゃないですから」
「全然上手くないわよ。罰としてベッドまで私を運びなさい」
「運ぶだけでいいんですか?」
「…………意地悪」
「レオンくんの代わりに添い寝しますね」
「言わなくていいから!」
翌朝一騒動あったけど……他言無用とのこと。
墓場まで持っていく事が多過ぎるね。
感想、評価、誤字報告などありましたらよろしくお願いします。
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<備考>
白鷺千聖:もう一度、向き合いたい。
若宮イヴ:若宮イヴもかくありたい。
今井リサ:諦観からのフォロー専念。
大和麻弥:こんなこともあろうかと不発。
丸山彩:朝起きたら……見なかった事にして二度寝。
偶然出会ったのは?
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