犬も歩けば棒に当たる 作:政影
『ワンコちゃん助けてー!』
「彩さん落ち着いて。まずは深呼吸して」
正月早々電話口から聞こえる彩さんの必死の叫びを聞きつつユキを撫でる。
私の股の上、正確には炬燵の掛け布団の上が丁度良い温度なのかすっかりお寛ぎ。
出会った頃と比べると見違える程大きくなったとは言え、まだまだ軽い軽い。
隣では友希那さんが届いた年賀状を一枚一枚興味深そうに眺めている。
今回は私と連名で年賀状を出したので、人生で一番多くの年賀状が届いたのだとか……私もだけど。
紗夜さんとか薫さんとかはそれぞれに送ってくれたので律儀だな、という感想。
……直接手渡してきたリサさんみたいな剛の者もいたけど。
『すーはーすーはー……ご、ごめんね、急に』
「うん、事情を話してみて」
『実はね――』
事の発端は彩さんが個人で配信している動画の『まるやま*チャンネル』……私も欠かさず見ているやつ。
今回は正月という事でそれにちなんだ内容で撮ることに。
ところが、
・駒回し……絶対何か壊すからと親御さんから却下
・凧あげ……転んだり電線に引っ掛けるからと千聖さんが却下
・餅の早食い……絶対危険なので事務所が却下
……ちょっと面白そうだけど却下されたらしょうがないか。
個人配信でも周囲が全力で止めに入るってある意味凄い。
だけど何で私に白羽の矢?
「他のパスパレメンバーは?」
『みんな用事があるんだって』
……あのメンバーなら喜んで参加しそうだからきっと残念がっている筈。
それなら私が彼女達の分も頑張らないと。
「うん、協力するよ」
『ありがとう!』
「それで何処へ行けば?」
『それじゃあ――』
「こんにちは、ワンコちゃん、友希那ちゃん、ユキちゃん♪」
何故か湊家の私の部屋に来た。
「環境を変えた方が良いアイデアが浮かぶかなーって」
「そうね、でも炬燵の誘惑に耐えられるかしら?」
「ううっ、頑張るよ!」
何故かドヤ顔の友希那さん。
まあ私の部屋とは言え炬燵を一番使っているのは友希那さんだけど。
「友希那さんも彩さんの動画に興味あるの?」
「ええ、アイドルの頂点を目指す丸山さんのファンを楽しませる為に全力を尽くす姿勢、学ぶべきものはある筈よ」
「照れちゃうな~♪」
嘘偽りのない友希那さんの言葉は心に響く。
肝心の動画は……千聖さんが頭を抱えるものが多いけど。
「丸山さんの動画はオチがついてなかったり意味不明だったりするところが魅力的だわ」
「うっ!」
千聖さんのダメ出しとは真逆だけど彩さんにダメージを与える言葉、賞賛の一撃。
事実だからフォローしようがない。
「そう言えば他のパスパレメンバーも彩さんに倣って動画上げてたよね?」
「うんうん、みんなの動画も個性が出てて面白いんだ! 再生数と登録者数は私より多いけど……」
落ち込んじゃった彩さんをよそにノートパソコンでお気に入りからパスパレメンバーの動画を再生。
『今日のちさ散歩は地元の商店街に来てみました』
まずは千聖さんの散歩動画『ちさ散歩』
最初は電車の乗り換えを克服するため途中下車の旅にしようとしたらしいけど事務所から止められたとか。
……本州から出たりきさらぎ駅に行きそうなレベルで苦手なので英断だと思う。
内容は持ち前のトーク力を生かし地域住民と触れ合ったり、地域の新たな魅力を再発見したりと高評価。
番組化のオファーも来ているという噂も。
『それじゃあ今日は冬の星座について話すね♪』
『ちょっと日菜。しっかりマフラーを巻きなさい』
次に日菜ちゃんの星空動画『日菜のるんるんるーんっ♪』
豊富な星にまつわる知識と軽快なトーク、そしてたまにゲスト参加する紗夜さん。
見ているこっちまで楽しくなってくるけど、たまに意味不明な表現……まあそこも魅力だったりするんだろうけど。
寒い中紗夜さんお疲れ様です。
『それでですね。このシリーズのセールスポイントとしては――』
麻弥さんの楽器解説動画『まや*チャンネル』
毎回楽器や機材に関してひたすら麻弥さんが語りつくすという。
緩いタイトルとガチな内容のギャップが激しいけど音楽関係者からの評価は高いらしい。
友希那さんもお気に入りみたいだし。
『いざ……キェーイ!』
イヴちゃんの日本文化挑戦動画『ブシドーイッチョクセン!』
様々な日本文化に挑戦するというコンセプトだった筈が……見事な猿叫。
事務所的にコレはオーケーなの?
フィンランド語字幕付きのこの動画の影響か母国でも剣術がブームになってきたとか。
「……改めて見るとみんな凄いね」
「現状に甘んじない姿勢、流石だわ」
「うん……それぞれ持ち味を生かしてる」
これらと比肩し得る動画ってかなり難しいのでは?
パスパレ恐るべし。
でも一番初めの投稿者としては意地を見せたいところだろうし。
「丸山さんの特徴と言えば……どんな時も笑顔を忘れないアイドル精神かしら」
「うん、彩さんの笑顔に救われたってよく聞くし」
「そ、そうかな、えへへ♪」
約一名ドジっぷりにるんっ♪ てきたとか言ってたけど黙っておこう。
さて、それをどう動画に生かすか。
「路線的には『何々してみた』でいい?」
「うん、いきなり路線変えちゃうと今の登録ユーザーに申し訳ないし」
「……良いことを思いついたわ」
「!」「!?」
自信満々の友希那さんが私達に突き付けたのは……こころちゃんの年賀状。
独特のセンスで描かれたイラストは、富士山の周りを鷹と茄子に乗ったハロハピメンバーが飛んでいるもの。
……こんなライブをしたいとせがまれる美咲ちゃんの姿が目に浮かぶ。
「富士山の頂上でいつもの決めポーズを取るのはどうかしら?」
「友希那ちゃん……天才なの!? それいいかも!」
滅茶苦茶乗り気の彩さん。
ボーカル同士相通じるものが……蘭ちゃんだけは全力で否定しそうな気がするけど。
「でも冬の富士山は危険。登山のプロでも遭難するレベル」
「えー、残念!」
「夏になったらやりましょう?」
「うん!」
友希那さん諦めてないんだ。
まあ日本の頂点から見る景色ってのはRoseliaに必要かもしれない。
……ちょっとソイヤ気味かな?
「ワンコは何か思いつかないの?」
「う~ん」
私も年賀状にヒントを求めて炬燵の上に並べてみた。
餅つき……つくのが彩さんだと合いの手担当の手が心配
羽根突き……アイドルの顔に墨を塗るのはちょっと
福笑い……絵的に微妙
ポテト……おい氷川日菜
空飛ぶポピパ……やっぱりボーカルって
一部フリーダムな年賀状。
彼女達らしさが出ていて悪くはないけど。
「いっそのこと余ったおせちの美味しい食べ方でもやろうかなぁ……」
「興味はあるけど丸山さんの新年一発目の投稿としてはどうかしら?」
「そうだよね~インパクトがね~」
頭を抱える彩さん。
さてはてどうしたものか。
♪~♪~♪~
「あ、電話だ。ちょっと失礼」
炬燵から出て部屋の外へ。
非通知の電話、ちょっと嫌な予感が。
「……もしもし」
『Happy New Year! 元気にしてたドッグ?』
「ああ、マスターお久しぶりです。あけおめ」
『あけおめ? ああ日本のスラングね』
「もしかして日本に?」
『それはもう少し先ね。気が向いたから連絡しただけよ』
「ありがとうございます。優しいマスター」
『フンっ!』
電話の向こうで照れているであろう彼女を想像して口元が緩む。
『こほん、日本だと新年に目上の者が目下の者にプレゼントするって言うじゃない。何か欲しいものはある?』
普段口は悪いのにそういうところは律儀。
大物になる予感しかない。
あ、もしかするともしかするかも。
「そういえば撮影会社に伝手ってあります?」
『唐突ね。面白そうな話なら聞かせなさい』
「実は――」
『えっと……本当に飛ぶんだよね?』
「勿論。彩さんはカメラに向かっていつものポーズを取るだけで大丈夫だから」
通信機越しに聞こえる彩さんの声は緊張からか上擦っている。
彩さんがいるのは高度四千メートル、セスナ機の中。
マスターが電光石火の早業で手配してくれたおかげであっという間に準備万端。
天候にも恵まれてうまい具合に背景に富士山も入りそう。
若鷹軍団のユニフォームと茄子のブレスレットと合わせてギリ正月要素も確保。
マスターにアイドルの配信動画を撮りたいって言ったら大笑いされたけど。
日本のアイドルはコメディアンなのかって……まあ、彩さんは二刀流という事で。
あ、千聖さんへの確認は忘れたけど……まぁ、これ位なら。
「丸山さんならできるわ」
『あ、ありがとう、友希那ちゃん』
私と友希那さんは地上から応援。
二人一組のダンデム・ジャンプなので彩さんとインストラクター、カメラマン、パイロットが搭乗。
次があったら私も友希那さんと一緒に飛びたい。
『よ、よろしくお願いしまふ! ……ううっ、噛んじゃった~』
「あ、飛ぶみたい」
「映像が楽しみね」
彩さんならきっと面、インパクトのある動画にしてくれる筈。
さあアイドルのきらめきを見せて。
『みゃんまるおやまにーいりょどりうおぉぉぉぉっ!!』
「あはは、彩ちゃんの顔面白っ♪」
「流石です、アヤさん!」
「彩さんの髪が逆立って唇が捲れて……ブフッ」
「………………」
数日後の私の部屋。
そこで『まるやま*チャンネル』の最新話上映会が行われていた。
感想は……千聖さん以外はまあまあと言ったところかな。
……日菜ちゃんは笑いすぎ、麻弥さんを見習って。
「彩ちゃん、ワンコちゃん、正座!」
「……はい」「うん」
立ち上がって私と彩さんを見下ろす千聖さん。
圧がやべー。
「彩ちゃん! アイドルがして良い表情じゃないわよ!」
「でも頑張ったんだよ!」
「努力の方向性の問題よ! ワンコちゃんもやり過ぎよ!」
「彩さんの全力に答えないわけにはいかないから」
「っ!」
これだけは譲れないと千聖さんの瞳から目を逸らさない。
千聖さんも普段の営業スマイルとは違う迫力の眼差し。
そんな状態が数十秒続いた。
そして――
「はーい、そこまで。あくまでも個人の動画なんだからあたし達にとやかく言う権利は無いって」
「まあ著しくパスパレのイメージを損なうわけでもないですし、フヘヘ」
「次は私達も飛びましょう! 鯉の滝登りです!」
「もう……みんな彩ちゃんに甘いんだから」
やれやれと腰を下ろして炬燵に入る千聖さん。
話は終わりとばかりに蜜柑を剥き始めた。
だけど……一言言わずにはいられないのが、私。
「……本当は彩さんが心配だったとか?」
「っ!? ち、違うわよ!」
「え、そうなの!? ……ぐすっ、ごめんね千聖ちゃん」
「きゃっ、だから違うって言ってるでしょ!」
「うわーん!」
カンキワマリで泣きながら千聖さんに抱き着く彩さん。
それを優しく見守る他の三人。
今年もパスパレからは目を離せそうにもない、かな。
感想、評価、誤字報告などありましたらよろしくお願いします。
<備考>
丸山彩:目指せ高評価!
湊友希那:にゃーん*ちゃんねるとかどうかしら?
白鷺千聖:誰も私を知らない所を散歩しようとしたら樹海だったわ。
マスター:アイドルのプロデュースも悪くないわね!
ワンコ:頼られると弱い。
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