犬も歩けば棒に当たる 作:政影
アンケート結果:
偶然出会ったのは?
(13) ボーカル組 ★
(2) ギター組
(5) ベース組
(3) ドラム組
(14) キーボード+DJ組 ☆
「大丈夫よ、私は信じてる」
微かに震える私の手を取り微笑む友希那さん。
伝わるってくるのは彼女の体温以上のもの。
それだけで私の怯えは消えていく。
そして気付く他のみんなの思いがこもった視線。
ああ……尊敬する歌姫達に見守ってもらえるという幸福。
是非もない、この三分五十三秒に私の全てを────
それはある春の日のこと。
今日は白鷺家にレオンくんを迎えに行き、多忙な千聖さんの代わりに散歩の相手を務めるお仕事。
ちゃんとバイト代はもらっているので不平不満は無いんだけど……妹さんに今日も会えなかったのは残念。
どうも避けられているみたいで、千聖さんに理由を聞いても意味深な笑みを浮かべるだけで答えてはくれなかった。
……卒業までに会えるのかな?
「で、本当に良いんですか?」
「勿論よ。新曲のヒントが掴めるかもしれないわ」
何故か今日は友希那さんも同行の模様。
新曲作りで悩んでいるのは知っているけど──
「ただの犬の散歩ですよ?」
「あら、『犬も歩けば棒に当たる』と私に言ったのは誰だったかしら?」
「……私は過去を振り返らない女なので」
過去の自分の恥ずかしい台詞に思わず顔を背ける。
退院して浮かれてたからって何てこと言ったんだ、私。
「冗談よ。たまにはいいでしょ?」
「好きにしてください」
リードを持っていない左腕にいきなり腕を組まれ少しドキドキ。
一つ屋根の下で暮らしているといっても、家の外での彼女からのスキンシップはまた別なので。
「リサさんに教わりました?」
「さあ? どうかしら」
微笑んではぐらかす友希那さん。
最近また可愛く、美しくなったその笑顔、ちょっと反則。
またリサさんのYドライブが捗ってそう。
「わん!」
「待たせてごめん。行こうか」
解放された左手でレオンくんの頭を軽く撫でつつ散歩コースを頭の中で組み立てる。
さて、どこに行けば面白いことが起きるかな?
「あ、ワンコ先輩♪」
「先ずは香澄ちゃんか」
「そのようね」
「わん♪」
「?」
開始早々ポピパのギターボーカルの香澄ちゃんとばったり、というか抱き着かれた。
こういう場合慌てて引き剥がしにかかる相方の有咲ちゃんを探してしまうけどいない模様、残念。
二人の掛け合いはいつ見ても面白いのに。
更に他の三人が加わると話が何処へ飛躍するか予想がつかなくて楽しい。
「レオンくんのお散歩ですか?」
「うん。香澄ちゃんは……キラキラドキドキ探し?」
「はい! 春のキラキラドキドキを歌詞にできたら、って思ったら外に飛び出してきちゃいました♪」
「素敵な考えね」
「わん!」
「ありがとうございます!」
友希那さんとレオンくんに褒められて弾けるような笑顔の香澄ちゃん。
釣られて私も表情が緩む。
この笑顔を向けられる度に赤面して、照れ隠しに走る有咲ちゃんが思い浮かんだり。
やはり女の子の笑顔は正義、そして正義。
「私も一緒にお散歩していいですか? キラキラドキドキな予感がするので!」
「ええ、構わないわ」
「やったー♪」
「わん♪」
私が答えるよりも早く返事をした友希那さん。
私に向けた悪戯っぽい笑みが「ほら、当たったでしょ」と言っているように見えた。
「あ、蘭ちゃんだ。おーい!」
「香澄……それにワンコ先輩!?」
「じっと桜を見上げる儚げな美少女、花の妖精かと思った」
「は、恥ずかしいこと言わないでください!」
むぅ、事実なのに怒られた。
実際余分な力が抜けて真っ白な心で桜と向き合っているように見えた蘭ちゃんは神々しくさえあったけど。
これ以上言うとメッシュより赤くなりそうだから自重。
「美竹さんも曲作りかしら?」
「いえ……今度の華道の作品で悩んでいて」
「そう……」
予想が外れて少し残念そうな友希那さん。
まあ裏を返せば美竹家の親子仲が良好ということなので勘弁して。
「邪魔しちゃってごめんね」
「ワンコ先輩が謝ることじゃないですよ。今日はお揃いでどうしたんですか?」
「レオンくんの散歩プラスα」
「わん!」
「プラスαが気になるんですが……まあ悪くない面子ですけど」
「美竹さんも一緒にどう?」
「えっ」
友希那さんによるまさかの勧誘、蘭ちゃんも驚いてる。
私から見ると二人の仲は悪いわけではないけど、微妙に意識し合っているライバルの様な。
進んで遊びに誘うような間柄ではない筈だけど。
当然蘭ちゃんも素直に参加するとは──
「別にいいですけど」
……素直に参加した。
「やっぱり春らしく新しいドキドキを込めた方がいいですよね♪」
「そうね。春は様々な花が咲き乱れる季節、新鮮さと力強さが欲しいわ」
後ろでは香澄ちゃんと友希那さんが新曲のイメージについて意見を交わしている。
曲作りに関しては相変わらず素人だけど、こうして友希那さんがRoseliaのみんな以外とも曲について話せているのは進化だと思う。
特に色々と対照的な香澄ちゃんとなら……どんな化学反応が起こるのかな?
「……嬉しそうですね」
「うん、とっても」
「はぁ……何というか相変わらずですね」
左隣を歩く蘭ちゃんからは溜息がこぼれる。
感心なのか呆れなのか曖昧な感じ。
うーん、こういう時は。
「腕組まない?」
「はぁ!?」
「あー、彼女に嫉妬されちゃうか」
「今モカは関係な、あっ」
嘘のつけない性格だなぁ。
私の中の「吾輩」がちょっかいを出したがるのもよく分かる。
不本意だろうけど普段のクールで大人びた表情が崩れてあわあわしてる様子も魅力的。
やりすぎると拗ねちゃうから気を付けないといけないけど。
「それじゃあ、あたしが組むわ!」
「おっ」「はぁ!?」
私の左腕に生じた柔らかな感触──金髪の天使か。
「まぁ、ワンコの腕は頼りがいがあるわね! ミッシェル妹みたいだわ!」
「うん、鍛えてるから」
腕を組む、というか腕に抱き着いてきたのはこころちゃん。
近付く気配を全く感じなかったのは流石。
そしてミッシェル妹の中身が私なのはまだ気づかれていない……のかな?
元祖ミッシェル共々クールな立ち回りが求められる日々。
「あら、レオンは今日も素敵ね!」
「わん♪」
腕に抱き着いたままレオンくんの頭を撫でるこころちゃん。
自由奔放というか天真爛漫というか……とりあえず予測不能。
美咲ちゃんも大変だ。
「こころちゃんも一緒にお散歩する?」
「それはとっても楽しそうね!」
即答。
ただの散歩にそこまで期待に満ちた笑顔を向けられても困るけど。
……まあこころちゃんは何でも楽しさに変える天才だから大丈夫か。
「うーん、もうちょっと角度を付けて……ここ!」
「あら、彩が美味しそうな物を持っているわ!」
「……彩さん、そのサイズのタピオカはカロリー的にちょっと」
こころちゃんがキッチンカーの傍に見つけたのは、前にリサさんに選んでもらった「バリバリ芸能人オーラ出てるお忍びコーデ」の彩さん。
……凄いよリサさん、下手したらアイドル衣装の時より芸能人っぽい。
血統書付きのトイプードル飼ってそうなイメージ、何となくだけど。
左手に持っているのは大ジョッキ、中身はぱっと見タピオカミルクティーにアイスやらプリンやら小豆やらのトッピングマシマシ。
美味しさもカロリーも凶悪そう。
右手には愛用の自撮り棒、ああなるほど。
「こころちゃんにワンコちゃんにみんな!?」
「スマイルお散歩隊よ!」
「イエーイ!!」
「わん!」
いつの間にか隊名が決まっていた。
こころちゃんも香澄ちゃんもレオンくんも楽しそうだからいいか。
……友希那さんと蘭ちゃんは微妙に距離を取っているけど。
「ち、違うの、これは……ほ、ほら、一緒に自撮りしたら小顔に見えるかなって!」
「まあ、彩は賢いわね!」
「うう……」
こころちゃんの賞賛の言葉にばつの悪そうな彩さん。
全肯定の彼女に下手な言い訳は御法度だよ?
「彩さんお薦めのタピオカで休憩しません? レオンくんにもおやつあげたいし」
「そうね、私は構わないわ」
「あたしも甘さ控えめなやつがあれば」
友希那さんと蘭ちゃんに話を振り彩さんに目配せ。
「っ! だったら私のもシェアするね。ちょっと多いかなって思ったんだ……あはは」
「彩は本当に優しいわね!」
「やったー!」
笑顔が引きつっているけど、後で千聖さんに怒られるよりはいいかと。
さて、白鷺家で預かった犬用クッキーの出番。
「あら、美味しそうね!」
「レオンくん用なので食べちゃ駄目」
「それなら仕方ないわね」
「今度クッキー焼くけど食べる?」
「まあ、それならミッシェルがいいわ!」
……ミッシェルの型を用意しないと。
商店街の長老さん達に金型製作の伝手があるか聞いてみよう。
「はぁ……」
「あれ、レイちゃん?」
「丸山さん!?」
休憩を終え散歩を再開してしばらく、交番の前でうなだれる少女に彩さんが声を掛けた。
背負っているのは……ベースケース?
この子もバンドマンか。
「あ、この子は和奏レイちゃん。事務所の他のアイドルのバックバンドを担当したんだ♪」
「初めまして、和奏レイです」
「『Poppin'Party』の戸山香澄です!」
流石香澄ちゃん、ぶれない。
「『ハロー、ハッピーワールド!』の弦巻こころよ!」
続くお嬢様。
「『Roselia』の湊友希那です」
「『Afterglow』の美竹蘭です」
何この流れ。
「まんまるお山に彩りを! 丸山彩でーす!」
いや、彩さんは自己紹介しなくてもいいでしょ。
交番の婦警さんも笑ってるし。
……これがアイドル魂ってやつなのかな?
私は無難に済ませるけど。
「で、レイちゃん暗い顔してどうしたの?」
「実は財布を落としてしまって交番に遺失届を……あれが無いと今月の生活が」
割と重大だった。
公園の水道で飢えをしのいだ経験者としては見過ごせない。
「失くしたのはどこら辺?」
「改札を出る時まではあったので、駅からライブスタジオの間だと思います。でもさっき探しましたが見つかりませんでした」
なるほど、これならワンチャンある。
とりあえずみんなの了解を──
「探すわよ」
「当然です」
「宝探しね!」
「頑張るぞー!」
「SNSで拡散希望しとくね♪」
みんなの意気込みに私もやる気が湧いてくる。
本当にみんなカッコイイんだから。
「みなさん初対面なのにどうして?」
「バンドマンのよしみってことで。あ、この名犬に少し匂いをかがせてね」
「わん!」
困惑しながらもレオンくんに手を差し出すレイちゃん。
頼りにしてるよ、レオンくん。
とりあえずレオンくんを先頭に私とレイちゃんがその後を歩く形で捜索するも──
「レイのお財布どこかしら~♪」
「まんまるっとお見通しだ♪」
「ピコっと! パピっと!! 見つけちゃうぞ♪」
……うん、予想通り後ろが騒がしい。
一応本人達は真面目に探しているけど周りからの視線は温かい。
レイちゃん、なんかごめん。
「あなたは知らないかしら?」
「にゃー」
友希那さん、流石に野良猫は知らないと思うけど。
「あー、つぐみ忙しいところごめん」
『任せて蘭ちゃん』
つぐみちゃん経由で商店街ネットワークを使う蘭ちゃん、流石。
「いつもこんな感じなんですか?」
「まあ普段はね。でもステージ上だとみんな凄い」
「なるほど」
半信半疑だろうと予想したけどレイちゃんは信じてくれたみたい。
分かる人にはわかるのかな?
「くぅーん」
「どうしたの?」
突然座り込み上を向いて鳴くレオンくん。
上というと街路樹……もしかして。
「レイちゃん、リード持ってて」
「は、はい」
レイちゃんにリードを預けて木登り。
こういう時パンツスタイルだと肌を擦り剥かずに済む。
三、四メートルくらいであまり太くなければ器具無しでもスルスルと。
多分枝の付け根らへんに──あった、鳥の巣。
中を確認すると、
「あった」
「カァ!」
「っと!?」
財布を見つけ手を伸ばした瞬間襲い来る黒い影。
この巣の主のカラスか。
片手両足は木から離せない上に法律上手出しができない。
ちょっと不味いかも。
「任せて!」
「こころちゃん!?」
垂直の木を駆け上り瞬く間に財布を掴むと勢いそのままに躊躇なく宙返り落下──そして華麗な五点着地。
流石のカラスも呆気に取られたのでその隙に私も降下。
「はい、レイ」
「あ、ありがとうございます!」
「流石こころちゃん」
「ワンコもレオンもよく気付いたわね!」
「わん!」
「以心伝心、かな」
後で千聖さんにレオンくんの大活躍を報告しないと。
……で、レオンくんを白鷺家に送り届けてお散歩自体は終わったものの──
「それじゃあ『ガールズバンドカラオケパーティー』はっじまっるよー♪」
「「イエーイ!」」
何故かカラオケに来ていた。
お礼代わりに第一線で活躍するレイちゃんの歌を聞きたいという友希那さんの提案で。
まあ、聞く分にはいいんだけど。
「ワンコも歌うのよ」
「いや人前で歌うとか無理」
「前にリサさんの誕生日に歌ってませんでしたっけ?」
「蘭ちゃん、それは忘れて。あれも割とギリギリだったし」
どうも人前で歌うと吐き気が。
リサさんの時は短めだったので決壊寸前で何とかなったけど。
というかボーカル陣の前で歌えとか公開処刑過ぎる。
「大丈夫よ。ここにはあなたの歌を咎める人なんていないわ」
友希那さんの真剣だけど優しい眼差し。
それでも歌を禁止された過去の呪縛から解放されるには──
「思いっきり暴れてください。音楽は自由なんですから」
「レイちゃん!?」
「会って間もないのにすみません、つい。でも昔の自分を思い出しちゃって」
……今日会ったばかりの人にまで励まされるなんて、ね。
これ以上渋ると他のみんなからも応援の言葉が飛んできそう。
怖がってる場合じゃない、か。
それに、これじゃあ狂犬の名が廃るし。
「後悔しても知らないから」
可能な限り不敵な笑みを浮かべてタッチパネルから曲を選んだ。
さて、一年近く聞いてきた曲なんだからやりきらないと。
そして歌い切った。
振り付けも多分完璧。
心地良い疲労感、もう思い残すことは──
「って、何で『しゅわりん☆どり〜みん』なんですか!」
蘭ちゃんに突っ込まれた。
「いや、この面子全員が知ってて私が歌えてカラオケに入ってるのってパスパレの曲しかないし」
「じゃあ『Y.O.L.O!!!!!』にしてくださいよ!」
「あー、ごめん。じゃあ一緒に歌ってくれる?」
「は、はい!」
本当に嬉しそうな笑顔。
やっぱり自分達が手掛けた曲を愛してるんだね。
「全く……心配し過ぎだったかしら?」
「あら、友希那はワンコのことが大好きなんだからいくらでも心配していいのよ!」
「こころん、おっとな~♪」
「うぅ……ワンコちゃんの方が動きにキレが……」
「丸山さんの方が華がありますから!」
何か外野は外野で盛り上がってるけど……まあいいか。
折角血反吐を吐かずに歌えるようになったんだ。
今この瞬間を全力で楽しもう。
「──透子ちゃん、飲み物持ってきた……ひぃ! 間違えました!」
扉が開いて一瞬少女が入りかけたけど直ぐに出ていった。
部屋を間違えたからといって悲鳴を上げるなんて……あぁ、確かに。
「みんな寝不足なのね! さあ、ワンコ次の曲を歌いましょ!」
「うん、何にしようかな?」
私とこころちゃん以外力尽きて倒れていた。
まさに死屍累々。
私は声を張り上げる系のバイトで喉が鍛えられているからまだいけそう。
それに……いつの間にかここにいるみんなの曲が選べるようになっているので全部歌わないと。
ありがとう、黒服の人。
ちなみに閉店まで延長手続きが済んでいたと知ったのは終了五分前だった。
JASRACメンテで歌詞は使えませんでした。
感想、評価、誤字報告などありましたらよろしくお願いします。
特に感想をいただけるととても喜びます。
半年以上感想ゼロだと流石にアレなので……。
<備考>
湊友希那:新曲ヒント獲得
戸山香澄:キラキラドキドキ獲得
美竹蘭:新作ヒント獲得
弦巻こころ:スマイル獲得
丸山彩:いいね獲得
和奏レイ:生活費獲得
???:トラウマ獲得
偶然出会ったのは?(バンド編)
-
Roselia
-
Afterglow
-
Poppin'Party
-
Pastel*Palettes
-
ハロー、ハッピーワールド!
-
RAISE A SUILEN
-
Morfonica
-
Glitter*Green