犬も歩けば棒に当たる   作:政影

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前話の別視点版というかキャラ崩壊回というか。


その他-18:イヌ娘プリティードッグパーティーS(シーズン?)

『最終直線、ここで上がってきてのは漆黒の魔王だ!』

 

 

 記憶にある最初に見たレースはテレビ越しでした。

 たくさんのイヌ娘達を突如画面に現れた黒尽くめのイヌ娘が颯爽と抜き去ってそのままゴール。

 その圧倒的強さに心を奪われた瞬間、朧気ながら一つの目標ができました。

 私もあんな風に走りたいな、と。

 

「おねーちゃんがやるならひなも!」

 

 ……ついでに妹の目標も決まってしまったのかもしれません。

 

 

 

 テレビで見た彼女が事故に遭い引退したと知ったのはそれから暫くしてからのことでした。

 

 

 

 

○朝帰り

 

 

 昨日は散々な一日でした。

 スカウトを受けるべきか受けないべきか悩んで練習していたらオーバーワークだとグラウンドを追い出されました。

 仕方ないので気分転換にポテトを求めてファミレスに行ってみれば……楽しそうに日菜とポテトを食べているトレーナーさんを目撃。

 裏切られた気分になって無我夢中で走れば知らない高台、そしてトレーナーさんに捕まりました。

 そして告げられた真相……あまりの恥ずかしさに穴を掘って隠れたい気分でした。

 

 ……その後トレーナーさんの秘密を知り、眠れぬ一夜を過ごし、夜が明け彼女が起きる前に花咲川寮の自室に戻ったところ──

 

 

「おねーちゃん!」

 

「なんであなたが私の部屋にいるの!?」

 

 昨日の今日で出来れば会いたくない相手──双子の妹の日菜が居ました。

 

 

「あなたは羽丘寮でしょ!」

 

「だって……心配だったから!」

 

「まあまあ紗夜ちゃん、ちゃんと寮長の許可も取ったから許してあげてね」

 

「丸山さん……」

 

 同室の丸山彩さんにそう言われてしまうとこれ以上怒りにくいです。

 牛込寮長の許可を取るという発想も日菜からは絶対生まれないから丸山さんに感謝です。

 

 ただ、日菜が私のことをどれだけ大事に思っているとしても……。

 

「で、どうだったの憧れの人との一夜は?」

 

「な、何を言っているの!?」

 

「もしかしてデートからの朝帰りだったの!? 紗夜ちゃんやるー♪」

 

「ち、違います、丸山さん! 彼女とはこの前会ったばかりで──」

 

「あれ~、おねーちゃん気付いてないの? 昔一緒にテレビで見たじゃん」

 

「えっ……」

 

「走る切っ掛けになって一緒にファンレターも書いたのに酷いなぁ」

 

 日菜の言葉に思わず膝をつきました。

 確かに彼女を見た時、いえ声を聞いた時に不思議な感覚を覚えました、が。

 ウイニングインタビューで聞いた声と同一だとは想像もできず……。

 私の人生に大きな影響を与えた相手だというのに全く気付かず、それどころかあんな醜態を晒してしまうなんて。

 

「おねーちゃんってしっかり者だけど時々鈍感だよね♪」

 

「ひ、日菜ちゃん!」

 

 平常運転の日菜に返す言葉もありません。

 ……こういうところも苦手意識を持つ一因なのですが。

 

「で、どうするの?」

 

「…………」

 

 即答できない私。

 あなたみたいに迷いなく生きられたら……いえ、これはただの愚痴。

 弱くて決断力のない私。

 

 

 

 でも、決断して走り始めないといつまで経ってもあなたに追いつけない…………。

 

 

「真剣に悩むおねーちゃんも素敵♪」

 

「日菜ちゃんは言葉を選ぼうね…………」

 

 

 

 

 後日、憧れの彼女にトレーナー就任をお願いして無事スタートを切りました。

 

 

 

 

○事後

 

 

「それじゃあ、力抜いて」

 

「は、はい……」

 

「こういうの初めて?」

 

「他の人にしてもらうのは……いつもは自分で処理してますので」

 

「そっか。じゃあ私が初めての人か」

 

「へ、変な言い方しないでくだ、ひゃん!」

 

「お、良い反応。次はここを」

 

「んんっ!」

 

「大分溜まってるね。一人では出来ないこともどんどんするから覚悟して」

 

「お、お手柔らかに……あぁ!」

 

 

 

 

「やり過ぎよ」

 

「……でも……気持ち良さそう」

 

「つい熱中しちゃって」

 

 湊さんと白金さんと楽しそうに話すトレーナーさん、私の方はというと──

 

「紗夜大丈夫?」

 

「うわー、練習後より汗だくですよ」

 

「……問題ありません」

 

 力尽きてトレーニングマットの上に突っ伏していました。

 尻尾どころか耳を動かすのすら億劫です。

 

 トレーナーさんとの初練習はグラウンドでの徹底した走り込みでした。

 まだ体が成長期なので基礎練習で徹底的に追い込み自主練は当分禁止、違反したらポテト禁止と言われてしまったので大人しく……いえポテトは関係ありません。

 その後トレーナーさんによるマッサージを受けましたが想像以上に上手でした、想像以上に。

 お陰で確かに蓄積していた疲労はかなり回復しましたが……少々恥ずかしい声を上げてしまったので取り繕うのが大変です。

 

 今井さんには本当に隠したいことを気付かれているかもしれませんが。

 

「次は入浴だね」

 

「はい……えっ!?」

 

 いきなりトレーナーさんに抱き上げられるとそのまま浴場へ運ばれました。

 俗に言うお姫様抱っこ、本来なら断固拒否ですが昔憧れた相手だと思うと……流されやすいです、私。

 

 

「じゃあ脱がすよ?」

 

「それくらいできます!」

 

 

 ……折角思い出した記憶が別のもので上書きされてしまいそうです。

 初日でこれでは先が思いやられます、本当に。

 

 

 

「し、尻尾位自分で洗えますから!」

 

「付け根近くとか見えないでしょ?」

 

「ですが……はうっ!」

 

「尻尾の状態で勝負が決まることもあるんだから任せて」

 

 元イヌ娘の言葉だから重みはありますが……他のイヌ娘達の視線が気になります。

 こんなことをするペアなんて私達位──

 

「友希那~、アタシも洗って欲しいな♪」

 

「頂点を目指す為なら当然よ」

 

「りんりん、あこ達は?」

 

「大丈夫……任せて……」

 

 ……おかしいですね、昨日までの光景とはまるで別物です。

 未だトレーナーのいないイヌ娘同士でも洗い合っていますし。

 

 

「お姉さん痒いところはありませんか?」

 

「耳は自分で洗えますから!!」

 

 

 

 入浴後、ドライヤーでしっかり乾かしてもらったら耳も尻尾も髪も見違えるほど奇麗に。

 心なしか体の状態も絶好調になりました。

 

 これでは断る理由がありません、別に次回も期待しているわけでは。

 

 

 

 コーナリングが上手くなりました。

 

 

 

 

○発情(ヒート)

 

 

「……すみません」

 

「生理現象だから仕方ないよ」

 

「デビュー戦が近いというのに……」

 

 普段ならトレーニングで汗を流している時間帯ですが、今は布団を被り必死に──な衝動を抑えています。

 イヌ娘なら誰もが定期的に経験する発情、いつもならそれ用の薬で抑えられる筈なのですが……。

 

 

「はぁ……んっ……」

 

 

 今回は彼女と出会ってしまったせいか薬では抑えきれません。

 掛け布団の上から私の頭を撫でる手に今すぐにでもしゃぶり付きたいですし、押し倒して首を甘噛みしたいですし、いっそのこと……いけません、淫らな妄想をしてしまいました。

 いくら発情期用の個室で二人きりとは言えトレーナーさんに手を出すにはいけません。

 折角選んでいただいたのに信頼を裏切るわけには……。

 

「ちなみに私が現役時代は半数以上がデビュー戦前にデビュー済み」

 

「えっ……」

 

 彼女の言っている意味が分からず思わず布団から顔を出したところ──

 

「はむっ」

 

「ひゃん!」

 

 耳を唇で挟まれました。

 

「そ、そんな場所汚いです!」

 

「紗夜さんに汚い所なんて無いから」

 

 臆面もなく言ってのけるその態度に吹っ切れました。

 人がこんなに思い悩んでいるというのに。

 

「意地悪……お返しです!」

 

「おっ」

 

 仕返しに彼女を押し倒して頬を舐めます。

 薄い化粧の味より濃厚な彼女の味……頭がくらくらしてきました。

 最後に残った理性と本能のせめぎ合い、それでも体は彼女を求めます。

 

「ちなみに当時のトレーナーの麻弥さんがタートル率高めだったのは私の所為」

 

「……分かりました。私も全力でいきます」

 

「かかってこい♪」

 

 

 

 

 デビュー戦は大差で勝利しました。

 

 

 

 

○反省会

 

 

「──という感じでゲームとは言え現実と見紛う程の出来栄えでした。体感時間の調整を行えば何倍もバンド練習が出来そうですね」

 

「流石紗夜さん、色々と考えてる」

 

「ふふっ、もっと褒めてくれても良いんですよ?」

 

 VRゲームを終えてワンコさんとファミレスに行こうとしたら湊さん達も近くにいるということで合流しました。

 湊さんと今井さんはショッピング、白金さんと宇田川さんはイベント帰りということでそれぞれ大荷物を抱えていました。

 そういうわけで行き先を羽沢珈琲店に変更して、羽沢さんには申し訳ないですが空きスペースに置かせてもらいました。

 

「いやー、何て言うかねー」

 

「……ええと……その」

 

「ううっ、淫魔のオーラが」

 

 三人が困ったような視線を投げてきます。

 はて、何か可笑しな事を言いましたか?

 

「外なのに二人ともべったりね」

 

「ちょ、友希那!?」

 

 湊さんの少し呆れたような言葉。

 ああ、確かにワンコさんに寄りかかってポテトを食べさせてもらっていますね。

 ゲーム終了直後は気恥ずかしさを感じたものの、今は特に違和感を覚えませんが。

 

「紗夜さん、人参も食べないと駄目」

 

「うー、そんなものは日菜にでも食べさせておけばいいです」

 

「そんなんじゃ強くなれないよ」

 

「……鼻をつまんでいるので食べさせてください」

 

「うん、はいあーん」

 

「あーん……んぐんぐ」

 

「はい、よく食べられました」

 

「このくらい当然です!」

 

 ご褒美に優しく撫でてくれるワンコさん。

 頑張った甲斐がありますね。

 思わず頬を彼女に擦り付けてしまいます。

 

「重症ね」

 

「紗夜の方が犬っぽいよ……」

 

「あこのカッコイイ紗夜さんが……」

 

「……羨ましい……あっ、そう言えば」

 

「?」

 

 何かを閃いたような燐子さんが荷物を漁り取り出したものは──

 

「犬耳カチューシャと犬尻尾ですか?」

 

「はい……狂戦士装備です……」

 

 慣れた手つきで私にその二つを着ける白金さん。

 犬尻尾はベルトで腰に固定するタイプなので服を脱ぐ必要はありません。

 つけ終わると何故か顔を赤くした羽沢さんがスマホで撮影してくれました。

 画像を見てみると……二つとも私の髪の色に近いアイスグリーンなので違和感はありませんね。

 

 それに……何となくしっくりくるというか。

 

 

 その時脳裏に浮かんだのは芝を吹き抜けていく一陣の風。

 

 

 すぐにでも走りだせそうです。

 

 遥か先を走る妹の背中を追って。

 

 そしてその先の光景を見る為に。

 

 

「紗夜さん、一段と凛々しくなったね」

 

「ええ、一緒に頂点を目指しましょう!」

 

 

 

 

○帰宅

 

 

「ただいま」

 

「お帰りおねー……えぇ!?」

 

 帰宅早々日菜が叫びました。

 全く、騒々しいのは昔から変わりません。

 

「えっと……その耳と尻尾って」

 

「ああ、白金さんに着けてもらってそのままだったわ。変かしら?」

 

「ううん、凄く似合ってる! ……後で写真撮ってもいい?」

 

 珍しくしおらしい態度の日菜、たまには姉らしくお願いを聞いてあげてもいいかもしれません。

 ……今日は気分が良いですから。

 

 

「手洗いうがいをしてくるから先に私の部屋で待ってなさい」

 

「うん! 早く来てね!」

 

 

 全速力で私の部屋に向かう日菜。

 集合住宅で騒音は厳禁だというのに。

 

 

 外ではライバルでも家の中では双子の姉妹。

 

 ここは姉らしくしっかりお仕置きしてあげないといけません、ね。




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特に感想をいただけるととても喜びます。


<備考>

氷川紗夜:34時間後に元に戻る。

氷川日菜:朝チュン大勝利。

ワンコ:八大競走を制覇すると隠しボスとして登場するとか。

AI=HINA:オリジナルよりやべー、大体こいつの所為。

白金燐子:小規模イベントなら余裕。

今後読みたい話は?

  • シーズン0(一年生)の続き
  • シーズン1(二年生)の続き
  • シーズン2(三年生)の続き
  • シーズン指定無しの短編
  • 連載終了
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