犬も歩けば棒に当たる 作:政影
「ただいま~♪」
下校途中に雨が降ってきたけどあたしの気分はるんっ♪
なんてったって今日はおねーちゃんが持たせてくれた折り畳み傘があったから。
おねーちゃんのお陰で濡れずに帰ってこられたと思うと……。
早くお礼を言って感謝のハグをしたいな!
「あれ?」
よく見たら玄関にはおねーちゃんの他にずぶ濡れの革靴が。
これって……ワンコちゃんのだよね、傷の位置が一致してるし。
おねーちゃんの靴があんまり濡れてないから車の水飛沫からおねーちゃんを庇ったってところかな。
彩ちゃんみたいにうっかり水溜りに突っ込む事は無いしね。
耳を澄ますと微かにシャワーの音。
責任感の強いおねーちゃんの事だから絶対先にワンコちゃんにシャワーを使わせてる筈。
そしてワンコちゃんの他人の家でのシャワーの短さと玄関タイルに靴から垂れた雨水の広がり具合から計算すると……おねーちゃんの部屋にワンコちゃんが一人でいる可能性大!
これは……突撃するしかないでしょ!
今日は体育が無かったから体操服やジャージは持ってない筈。
優しいおねーちゃんならワンコちゃんに新品の下着を出してるだろうし、勿論その上に着る物も。
さてさて、どんな格好をしているのかな?
撮影したら当然みんなにシェアしないとね!
そーっと、音を立てないようにおねーちゃんの部屋の扉を開ける。
中にいるのはワンコちゃんだからノックする必要は無いってあたし判断。
こーいうのはサプライズが大事なんだから。
手に持ったスマホはいつでも撮影オーケー。
……おねーちゃんの服を着てるところをあたしに見られて少しは恥ずかしがってくれるかな?
「えっ」
ベッドの上に仰向けで寝ていたのは、おねーちゃんお気に入りのペールラベンダーのワンピースを着たワンコちゃん。
眠ってるようで控え目な胸が規則正しく上下してる。
最初に会った時のどこか影のある表情とも最近の優しい表情とも違う……神々しさ?
っていうか胸元と裾が捲れて下着が見えてる、キャミソール着ようよ!
部屋に充満するワンコちゃんの匂いとおねーちゃんの服を着ているその姿に頭がくらくらしてきた。
……ゴクリ、と唾を飲む音が自分のものにしてはやけに大きく。
鞄をそっと床に置くとゆっくりベッドに乗る。
ワンコちゃんの伸ばされた足の上にまたがり、ふくらはぎから太股へ指を這わせる。
彩ちゃん以上に引き締まったその肉体。
触れているうちにどんどん変な感情が湧いてくる。
本人に無断でこんな事をしてるのがバレたらどんな事になるのか、おねーちゃんには軽蔑されるかな?
そんな考えを持っても手が止まらない。
遂には両手を使ってワンコちゃんの太ももを堪能する。
美肌というわけじゃないけど程よく弾力があって心地良い。
あたしおかしくなっちゃったのかな?
いっその事このままもっと上に、そして直接味を──
「こーら♪」
「ふぇっ!?」
ワンコちゃんの下半身に意識を集中していた所為で、彼女が起きてこっちを見ている事に全然気づかなかった。
白濁した右目と漆黒の左目、その両目で見つめられると体が痺れたように動かない。
「悪戯っ子なんだから……えいっ」
「きゃっ!」
いきなり上半身を起こすとあたしの頭を胸に抱きしめる。
密着するあたしの顔とワンコちゃんの胸、服越しに心臓の鼓動が伝わってくる気がする。
そして優しく後頭部を撫でられる度に不思議な感覚に。
「よしよし、寂しかった?」
「……少し」
本音が口から漏れた。
半日も大好きなおねーちゃんと一緒にいられないのはやっぱり寂しい。
……その穴埋めがワンコちゃんとは思いたくないけど。
「彼女は幸せね。こんなに想われて」
「そうかな?」
「そうよ」
迷いの無い言葉。
普段なら根拠を聞くのに何故か信じられる。
少しワンコちゃんに酔っちゃったかな?
「『わたし』の時間はもうお終い。少し寝ましょう?」
「うん」
いつもとは違うワンコちゃんの胸に顔を埋めたままおねーちゃんのベッドに寝そべり、眠りの世界へ落ちていった……。
「──起きなさい日菜、ワンコさんもお茶の準備ができましたよ」
「うーん、良く寝た♪」
「……あれ、何時の間に」
おねーちゃんの優しい声で意識が覚醒、ワンコちゃんはまだぼんやりしてる。
普段の表情に戻ったので安心したような、残念なような。
「ワンコちゃんさっきの──」
「あ、紗夜さんすみません。寝ちゃって服に皴が」
「風紀委員の仕事を手伝っていただいてお疲れですから仕方ありませんよ。日菜、帰ったら制服は脱ぎなさい」
「えー、扱いが酷いよー」
「ワンコさん、新品のキャミソールを持ってきたので着てください」
「ありがとう」
あたしの抗議を無視して用事を済ませるとさっさと部屋を出ていくおねーちゃん。
もう、こんなに想ってるのに!
「日菜ちゃん、タオルケット掛けてくれた?」
「え、あたしは直ぐに寝ちゃったし」
「じゃあ紗夜さんか」
気付けば掛けられていた犬柄のタオルケット。
流石おねーちゃん!
「良いお姉さん」
「でしょでしょ!」
「じゃあ紗夜さんに迷惑かけないでよ?」
「うっ、これでも成長したんだからね!」
疑わし気なワンコちゃんの表情。
心当たりは全然無い……わけじゃないけど。
最近はそれなりにアイドル活動も──
「ちなみに千聖さんから掛かってくる愚痴電話の半分は日菜ちゃん絡み」
「……反省します」
「よろしい」
あたしの返事に満足して着替え始めるワンコちゃん。
スラっとした体形はまるでおねーちゃんみたいで……って、人の事とやかく言えないよね!?
デリカシー身につけなよ!
リビングに移動すると既にティータイムの準備ができていた。
昨日作っていたおねーちゃんお手製のクッキーと淹れたての紅茶、香り的に千聖ちゃんに貰ったやつかな?
それだけでも踊りだしそうなくらい嬉しいけど怒られちゃうのでおねーちゃんの左に座る。
ワンコちゃんはおねーちゃんを挟んで反対側に。
そして促されて最初にクッキーをぱくり……あ、笑った。
「紗夜さん、美味しい」
「でしょ?」
「なんで日菜が得意げなのよ。お口に合ったのなら羽沢さんや今井さんのお陰です」
そっけなく言ったけどおねーちゃんの口元が少し緩んでるのを真横のあたしは見逃さなかった。
ワンコちゃんも見ていたみたいでアイコンタクト。
やっぱり可愛いよね?
「…………」
「…………」
「二人の仲が良いことは分かったので言葉にして会話してください」
「あれ、もしかしておねーちゃん嫉妬してる?」
「日菜っ!」
「ちょっと紗夜さんが可愛かったのでからかってみたり」
「ワンコさんまで!?」
あたしとワンコちゃんの悪ふざけに慌てるおねーちゃん。
ちょっと意地悪だったかな?
あー、膨れっ面に……勿論可愛いけど。
「お詫びに。はい、紗夜さん」
「自分で食べられます!」
「はい」
「ですから!」
「はい」
「…………全く」
髪をかき上げ遠慮気味にワンコちゃんの手からクッキーを食べるおねーちゃん、まるで映画のワンシーンみたい。
差し出した艶っぽい唇も少し赤らめた頬も咀嚼に伴って動く筋肉もあたしを魅了してやまない。
へー、そういう風にすればいいんだ♪
「はい、おねー「やらないわよ」」
即行で拒否された。
酷いよ。
でも今度は二人っきりの時にやってみよ。
「それにしてもおねーちゃんってワンコちゃんに甘いよね?」
「っ……そんなことないわよ」
露骨に目を逸らすおねーちゃん。
自分以外の人の気持ちに疎いあたしでも流石分かるよ。
ちょっとモヤモヤするな。
「ふーん、そういう態度取るならワンコちゃんに聞いちゃうから」
「日菜!?」
慌てるおねーちゃんからワンコちゃんに視線を移すと我関せずといった感じで紅茶を飲んでる。
でも……少し気にしているような気も。
「というわけでワンコちゃん教えて♪」
「紗夜さんが優しいから」
「そんな当たり前の理由じゃなくて!」
その回答にあたしは納得できない。
だってあたしよりワンコちゃんの方が優しくされてるもん!
「おねーちゃんと出会って数か月しか経ってないのにずるいなー」
「……確かにワンコさんと直に顔を合わせたのは数か月前だったけどもっと前から知ってたわ」
「えっ、嘘!?」
おねーちゃんの意外な発言に頭が真っ白に……。
あたしの知らないところで一体。
「はぁ……一年の時からあなたが聞いてもいないのにワンコさんの事を私に話してたでしょ?」
「あっ、そう言えば」
羽丘でみんなあたしから距離を取る中、ワンコちゃんだけは挑み続けてきたのが嬉しくてついおねーちゃんに。
てっきり聞き流されてたと思ってたけど、しっかり聞いてくれてたんだ……。
「私も日菜ちゃんから聞いてもいないのに紗夜さん自慢されてた。話に違わず実物も素敵だったけど」
「日菜っ、何を話したの!?」
「えーっと、おねーちゃんが恰好良くて可愛くて厳しいけど時々優しくてポテトと犬が大好きで人参が嫌いな事だったかな?」
「~~~!」
顔を両手で隠してプルプルするおねーちゃん可愛い。
でもそれだけだとワンコちゃんに優しくする理由には弱いかも。
「つまり二人とも日菜ちゃんの被害者」
「それ酷くない!?」
「……否定できないわ。聞かされる度に日菜に翻弄される少女を想像してシンパシーを感じてたわ」
「えー」
そこは否定してよ、おねーちゃん!
ワンコちゃんを翻弄してなんて……無いとは言い切れなかった。
あたしってどうしても今楽しい事を優先しちゃうから。
我慢してる時間はもったいないし、楽しまないと。
「うーん、面倒な事だらけで生きるって難しい……んぐっ!?」
あたしらしくない言葉が口から出た、と思ったらクッキーを口に押し込まれた。
あはは、やっぱり優しいや。
「いざという時は誰かの手を掴みなさい。あなたを大事に思ってる人がいるから。ワンコさんとかパスパレとか──」
「それって……おねーちゃんでもいいの?」
「……他に人がいない時はね」
少し複雑な表情を浮かべるおねーちゃんだけど凄く嬉しい。
去年までだったら絶対出てこない言葉だし。
おねーちゃん……も私も変われたのかな?
「あ、おねーちゃんがいない時はワンコちゃんに頼むから」
「お手柔らかに」
やれやれといった感じの言葉がワンコちゃんから返ってきた。
基本あたしの扱いは雑だけど約束の類は今のところ破られたことは無いから安心かな?
「誹謗中傷の類は全力で追い詰めるから」
「……法律に触れない程度でね」
全然安心できなかった。
そう言えばあたし以上にソイヤだったっけ。
発言には気を付けよっと。
ピカッ!
ドカーン!
「!?」「!」「えー」
外から差し込んできた強烈な光と間を置かず鳴り響いた轟音。
落雷だと認識した瞬間に部屋の灯りと見ていた録画してあったパスパレの映像が消えた。
停電かー、折角あたしのギターソロだったのに。
「紗夜さん……痛い」
「ご、ごめんなさい……」
何も見えなかったのでスマホで横を照らすと、おねーちゃんがワンコちゃんに抱き着いてた。
ワンコちゃんずるい。
バンドと弓道で鍛えた筋力での全力抱き付き……あたしもされたいな。
「おねーちゃん怖いの?」
「驚いただけよ!」
「そっかー。あ、そう言えば数日前から変な甲高い声がするって上の階で話題になってたよね」
「えっ」
「へぇ……って紗夜さん痛い痛い」
「日菜っ! 変な事言わないで!」
「えー、でも夜中に『アッー!』とか『ウー!』とか聞こえたとか」
「えっ…………」
「後は何かをかじる音とか引っ掻く音とか走り回る音とか」
「…………………………」
「ちょっと前には廊下に血痕があったとか」
「………………………………」
「日菜ちゃんストップ。紗夜さんがちょっと涙目」
「あ、うん」
おねーちゃんに悪い事しちゃったかも。
いつも幽霊なんていないって言ってたし平気かなって思ってたけど。
でも涙目のおねーちゃんもるんっ♪
「アー」
「ひ、日菜、悪ふざけはいい加減に!」
「あたしじゃないよ。ベランダの方からかな?」
「確認頼める?」
「うん♪」
おねーちゃんに抱き着かれて動けないワンコちゃんの代わりにベランダへ。
雨が吹き込みそうだけどベランダドアを開けないと原因は分からない。
ゆっくりと開けるとそこには──
「にゃぁ……」
「あ、猫だ」
ずぶ濡れの猫……の親子。
普通サイズの親猫が一匹と子猫が二匹いた。
幽霊騒動の原因はこの子達かな?
侵入経路は見える範囲だとベランダの隙間か配管。
「ね、猫なの?」
「おねーちゃん怖がり過ぎだって」
「うっ……」
まだ怖いのかしがみ付いたままお姫様抱っこの状態でワンコちゃんに運ばれてきたおねーちゃん。
ちょっとくっつき過ぎかな?
「このままだとまずいかも……紗夜さん、一時保護する?」
「それは……」
ワンコちゃんの言葉に表情を曇らすおねーちゃん。
昔から決まり事をしっかり守ってきたから、一時的とはいえ決まりを破って室内に動物を入れる事に躊躇してる。
本当は直ぐにでも助けたいと思ってる筈なのに……それならあたしが。
「おねーちゃん、お願い!」
「日菜……」
おねーちゃんと目を合わせ全力のお願い。
お願いだから私の手を──
「……分かったわ、今はこの子達を助けるのが最優先ね。ワンコさん指示を」
流石おねーちゃん!
覚悟を決めたおねーちゃんの凛々しさに目が潤みそう。
「多分停電でポンプが止まってるから……紗夜さん、いらないタオルと段ボール、それとホッカイロある?」
「はい、直ぐに持ってきます」
「日菜ちゃん、逃げないように優しく室内に入れてあげて」
「うん♪ おいで~」
あたし招きに母猫が子猫の首を加えて運んできてくれた。
信頼してくれてるみたいでちょっと嬉しい。
受け取るとすごく冷たくて……微かに動いているから、頑張って!
「日菜ちゃん、こっちに」
「うん」
おねーちゃんから渡されたタオルで手際良く子猫を拭いていくワンコちゃん。
あたしもそれを真似して別の子を拭いていく。
拭き終わるとタオルを敷き詰め季節外れのホッカイロで温められた即席の寝床に。
おねーちゃんお手製だからきっと快適♪
これで大丈夫、かな?
「ふふふっ」
「えへへっ」
床に置いた段ボールの中で眠る猫達を上から覗き込んで優しく見守るおねーちゃん、を優しく見守るあたし。
停電が早めに復旧したお陰で猫達も奇麗に洗えて一安心、ありがとう電力会社の人。
「紗夜さん、日菜ちゃん、この子達の今後についていい?」
「は、はい」
「うん」
緩んだ顔を引き締めソファに座るおねーちゃん。
まるでイヴちゃんみたいな表情の切り替え。
「一応迷子届が出ていないか確認して出てなかったら里親を探す、て感じだけどいい?」
「はい……このまま飼う事はできませんから」
辛そうな顔のおねーちゃん。
責任感とモフモフ愛の強いおねーちゃんのことだからずっと気に病みそう。
だったら──
「あたしがペット可マンション借りるから!」
「日菜!?」
「また突拍子もない事を」
「えー、良い考えだと思ったのに」
「日菜ちゃんと猫の面倒を見ながら学生とRoseliaやってたら紗夜さん過労死するよ?」
「同居前提ですか!?」
「おねーちゃんはあたしが一人暮らしできると思ってるの?」
「自信満々に言わないで!」
「にゃぁ……」
「あ、起こしてしまってごめんなさい」
あたふたと子猫に謝るおねーちゃん。
良い考えだと思ったのになー。
「この後どうすればいい?」
「先ずは親御さんに一週間の保護許可を貰って。貰えたらマンションの管理会社にも許可を貰えるようにお願いして」
「正攻法で行くんだ」
「筋を通さないと後が面倒。断られるにしても数日は稼ぎたい」
「了解♪」
こういう時はワンコちゃんの言う通りにした方が上手くいきそう。
何となくだけどね。
「私は何をすればいいですか?」
「落ち着いてきたから一度動物病院に連れて行きたい。猫を乗せられるタクシー呼ぶから同行して」
「分かりました」
「お願い。あとは──」
チラッとワンコちゃんがこっちを見た。
何か意味がある筈、考えろあたし。
……あ、そうか。
「はい、おねーちゃん。これでタクシー代と診察代、それと挨拶回り用の菓子折りでも買ってきて」
「日菜……ありがとう。そうね、ご近所さんにも言っておかないとね」
「千聖ちゃんに楽屋挨拶行く時は持たされてるから♪」
「流石アイドル」
現金を渡すのが正解だったみたい。
妹からお金を受け取るのって去年のおねーちゃんなら嫌がったかもしれないけど……。
何にせよおねーちゃんの力になれて良かった♪
さあ、おねーちゃんとついでにワンコちゃんとの共同作業、頑張らないとね!
「あとで半額返すわ」
「えー、デートしてくれるだけでいいのに♪」
「はぁ……あなたもアイドルなんだからお金の管理はしっかりしなさい」
「はーい」
「ペット可の家に住むのは私が稼げるようになってからよ」
「えっ、それって……」
感想、評価、誤字報告などありましたらよろしくお願いします。
特に感想をいただけるととても喜びます。
※アンケート回答も嬉しいです。
<備考>
氷川日菜:意外と世話はきっちり。
氷川紗夜:花女で里親を募集。
ワンコ:紗夜服装備で姉力アップ?
今後読みたい話は?
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シーズン0(一年生)の続き
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シーズン1(二年生)の続き
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シーズン2(三年生)の続き
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シーズン指定無しの短編
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連載終了