市街地から少し離れた丘の上に、多様な草花が咲き誇り、小鳥が歌う、妖精の国と言われてもなんら違和感を持たない美しい庭がある大きな家がひっそりと立っている。
遊んでいる子どもが夕食の匂いを嗅ぎつけ、オレンジに染まった道に長い影を落としながら帰路につく夕暮れ時。その庭に、触れただけで折れてしまいそうな、風が吹かれただけで飛んで行ってしまいそうな、そんな印象を受ける文字通り白い女性が佇んでいる。
彼女の名は、クラウディア・オルテンシア。彼女は先天的にメラニン色素が薄い、いわゆる「アルビノ」「先天性白皮症・白子症」と呼ばれる疾患を持った女性だ。メラニン生成能力が極端に低いその体は、美しい金の瞳と、体の節々に巻かれた包帯や貼られたガーゼの下を除き、例に漏れずその体は美しいまでに白く、病弱だ。
そんな彼女が、自宅の敷地内とはいえ供回りもつけずに外に出ることは、冗談や比喩表現ではなく死ぬ可能性すらある危険な行為だということは彼女–––クラウディアも重々わかっている。事実、これまでの二十数年間という決して短くはない人生の中で、ただ外に出ただけで死にかけたことなどざらにあった。陽の光を浴びて肌が焼け、その後数週間は顔や首など、露出していた箇所に地獄のような痛みが襲ってきたことだってある。おかげでたとえ愛する夫が万全を期して外出を提案しても、彼女はすぐには首を縦にふることができないでいる。
それでも、クラウディアはこの庭に広がる美しい花々を、自分の足で歩いてみて回ることをやめようとはしない。曇った日やとっぷりと日がくれた頃合いを見計らって、毎日のように、こうして花を眺めて回っている。
チューリップ、ガーベラ、コスモスといったよく見る花から始まり、夫の趣味だというサボテン(危ないからと柵で囲ってある。客などまず来ないというのに、品種や、どういった花を咲かせ、どういった生態なのかが簡潔に書かれたプラカードまでかかっている)が植わった一角を抜け、クラウディアが食べてみたいとぼやいたら次の日にはすでに植わっていたドラゴンフルーツの木、義父と夫が夏になると楽しんでいるひまわり畑、リラックスできるようにと整えられたラベンダー……。いったいどうやって一人でこれほどの数を管理しているのだろうと疑問に思いながら、いつの間にか確率し、それ以来一度も外れたことのないルートを通りながら、クラウディアは考える。そして、毎回同じ場所でこの考えが頭をよぎることを思い出すと、一人楽しそうに笑う。
なんていつも通りなんだと。なんて平和なんだと。なんて幸せなんだと。
そして、今日もいつもと変わらないのならば、クラウディアが最後に見るようにしている花壇に必ずいるはずだ。
この庭に似合うといえば似合うような、そうじゃないといえばそうじゃないような、カソックの上からでもわかる引き締まった体に日本人の平均身長を軽々と凌駕する長身を持ち、金のロザリオを首にかけたクラウディアの最愛の人――、
「今日は冷え込むから、外には出ないように。そう言いつけて置いたはずだが?クラウディア」
言峰綺礼が、いつも通り紫陽花とともに佇んでいた。
これこうしたほうがいいよとか、これ間違ってるよとかありましたら言っていただけると助かります