夜。
攻城家にお世話になる事になった凛【リン】とアルトリアは菊【キク】と食事を取っていた。
アルトリアは凛が作ったポテトサラダをプラスチックのオタマで皿に装い、箸で食べる。
「うん。これはお見事です」
その光景を目の辺りにしたセイバーは疑問に思う。
「なんでサーヴァントのあなたが食事をしてるのよ」
「私は食事を楽しむのが好きなだけです。なにか問題でもありますか?」
「あるわよ! 食事を取るなんて事したら食費がかさむからマスターの迷惑になるじゃない!」
「なにを言っているのですか。あなたは戦闘においてマスターである菊の言葉を聞かなすぎる。だからあなたではなくカーミラと言う人格の方に信頼を置かれるのです」
「なんですってー!」
凛と菊はケンカを無視して、味噌汁を飲み、テーブルに置く。
「この聖杯戦争、おそらくなにか裏があるわ」
「確かに。反英霊の多さ。シスターが擬似サーヴァントになっている。どう考えてもおかしいですよね」
「しかもギルガメッシュまでこの戦いに参戦しているとなると結構まずい。あいつは元々慢心して手加減をする奴だったけど、バーサーカーになった影響で本気を出し続ける様になった。このままだと私達は確実に負ける」
「俺はアサシンであるジェイソンとマスターを警戒してます。不死身であり武器を使いこなすジェイソン。投影魔術が使えるマスター。理想のコンビだと思いますね」
意見を言い合い、今後の事について語った。
一方アゲハとランスロットの鎧を装備しているジェイソンはオーディンと戦闘を行なっていた。
「トレースオン」
投影されたロケットランチャーをジェイソンはオーディンに向けて撃つ。
しかし〈スレイプニル〉で弾を防がれる。
「グングニル!」
膨大な魔力を放出しながら〈グングニル〉が放たれる。
マッハのスピードで飛んで行く〈グングニル〉がジェイソンの頭を貫いた。
これで7回目の死を遂げたのでスキルが追加される。
戻って来る〈グングニル〉を掴み取り、倒れるジェイソンの方へ近づき、〈スレイプニル〉で滅多刺しにする。
「このまま朽ちろ!」
一撃をくらわせ様と〈スレイプニル〉を心臓部に突き刺そうとする。
だがジェイソンは復活し、〈スレイプニル〉を掴み、ものすごい力で奪い取った。
「貴様! スレイプニルを返せ!」
立ち上がり、〈スレイプニル〉を攻撃に使うジェイソンにオーディンは怒りを覚える。
ジェイソンはランスロットを思わせる叫びを上げ、〈スレイプニル〉で突きを繰り出す。
しかし〈スレイプニル〉が幻獣の姿に戻り、蹴り飛ばされる。
〈スレイプニル〉は鼻を鳴らし、オーディンを背中に乗せる。
「お前の様な愚か者にスレイプニルは扱えず好かれん! 私の相棒をその醜い心で汚すな!」
その言葉にカチンときたのはアゲハだった。
親友、いや、心友を他人にバカにされて黙っていられなくなる。
「醜い心? 今バーサーカーが醜い心を持っていると言ったわね!」
「お前もそうだぞバーサーカーのマスター。バーサーカーを召喚した時点でサーヴァントのことを信用していない。バーサーカーと言うクラスは強化を付与する代わりに理性が失われる。それによって言う事を聞きやすくなる。まあ逆もしかりだが。しかもバーサーカーはお手軽に召喚できる。なぜなら呼び出す呪文にバーサーカー専用の呪文を付け加えればいいのだからな。元々強いサーヴァントを呼び出せればより利用できる化け物として機能する。だから召喚したのだろう。バーサーカーのマスター」
アゲハは最初ジェイソンを願いを叶えるために利用していたが、段々と信頼関係ができていき、最終的に心友になった。
それをランスロットとして偽装しているとはいえ心友を侮辱され、自分のやり方を否定された。
許せない、そんな感情が爆発する。
「バーサーカー、いえ、ジェイソン。もう自分らしい戦いをして良いわよ」
ジェイソンは?マークを浮かべ、アゲハの方を向く。
「だからね、もう良いの。今までごめんね、私のやり方に付き合わせちゃって。でもこれからはジェイソンのやり方で戦って良いの。カッコいいところを私に見せて」
『ジェイソン。アゲハはあなたの素敵な殺戮を見たいんですって。神を殺すなんてすごい事はあなたしかできないわ』
2人の言葉でジェイソンは本来の戦いの体制に入る。
猫背だったのをピンと背を伸ばし、ゆっくりとオーディンに近づく。
「トレース、オン」
ジェイソンの手元にクレイモアが錬成され、片手で振りかぶる。
(そんな遅い動きで私を倒せると思っているのか)
オーディンには軍神としてプライドがある。
ここでこの隙を見逃す事は絶対にない。
「第3宝具、ラグナロク!」
固有結界〈ラグナロク〉を発動し、夕暮れになり、武器が多量に地面に刺さった戦場に変わる。
〈スレイプニル〉を走らせ、〈グングニル〉を構える。
すると視界にノイズがかかり、ジェイソンが消えた。
それにアゲハは笑みを浮かべる。
「どこだ。どこに消えた!」
声を荒げるオーディンは周囲を見回し、ジェイソンを視界に入れようとする。
空気を斬る音が聞こえる。
(後ろか!?)
後ろを振り返るとクレイモアがこちらに向かって飛んで来ていた。
思わず〈グングニル〉で防ぐが、今度はジェイソンが弓を引き抜き、矢が放たれる。
〈グングニル〉で弓矢を弾き、ジェイソンに突進して行く。
だが再び視界にノイズがかかる。
(次はどこから!?)
疑心暗鬼になるオーディン。
すると後ろからジェイソンに首を絞められた。
〈スレイプニル〉から落馬したオーディンの首からメキメキと音が鳴る。
(まずい。このままだと首がへし折れる!?)
神がサーヴァントとは言え神聖を持たない人間に負けるなどあってはならない。
(こんな、こんな者に負けてたまるか。もし負けたら他の神に示しがつかない)
相棒のピンチに〈スレイプニル〉がジェイソンに向かって行き後ろ蹴りを繰り出す。
しかしその程度の攻撃ではビクともせず、オーディンの首の骨にヒビが入る。
あまりの激痛に泡を吹き、気絶仕掛ける。
〈スレイプニル〉は相棒のためにジェイソンをひたすら蹴る。
「これで終わりにしてあげる」
ジェイソンがそう言った次の瞬間、オーディンの首がへし折れた。
〈スレイプニル〉の嘆きの鳴き声と共に〈ラグナロク〉が解除され、〈スレイプニル〉は消滅して行った。
殺し合いに勝利したジェイソンはアゲハの方へ歩いて行く。
「勝てたね。アゲハ」
「よく頑張ったねジェイソン。明日の晩ご飯は豪華に焼き肉でも食べよっか」
「お肉!すごく食べたい!」
「明日だから、明日食べるんだよ」
明日も生きのびていられるかわからない。
しかしそれでは臆病者と思われてしまう。
この戦い終わっても自分はジェイソンと一緒にいたい。
そう感じてしまうほど今の状況が幸せに感じられた。
夜中をゆっくりと歩く黄金の鎧を着ているライオンマスク。
彼の望みは殺戮。暴走。破壊。
本来の彼なら誰に対しても見下し、本気を出す事をしなかった。
出したとすれば、かつての親友と災害を起こした幻獣。
第4次聖杯戦争の時に恋した戦いの乙女。
そして自分の事を侮辱し、片腕を斬り落とした投影魔術師。
彼の名はギルガメッシュ。最古の王であり、最強のサーヴァントの一角。
それがバーサーカーとして召喚された。
マスターの犬に成り下がったギルガメッシュは〈エア〉を構えながら今日もサーヴァントを探す。
「ウゥー」
唸りを上げ、雲に包まれた空を見つめる。
すると砲弾が飛んで来たので〈エア〉で斬り落とす。
「ウゥー」
〈ゲート・オブ・バビロン〉から4連装バズーカを取り出し、構える。
戦車の軍勢がギルガメッシュに砲弾を発射してくる。
だが〈ゲート・オブ・バビロン〉に自分自身を貯蔵し、攻撃を回避する。
そして〈ゲート・オブ・バビロン〉から戦車の軍勢の後ろに出現し、ビームサーベルと〈エア〉で戦車を破壊して行く。
つまらない。そんな感情で顔を歪ませながら、出てくる兵士を殺戮する。
しかし殺したはずの兵士達が立ち上がりアサルトライフルを連射してくる。
邪魔だと言わんばかりにビームサーベルで銃弾を防ぎ、〈エア〉で兵士達をぶった斬る。
その隙を突き、戦車から兵士が機関銃で攻撃してくる。
だがそんなものがギルガメッシュの鎧を貫通するわけがない。
ビームサーベルを貯蔵し、ロケットランチャーを取り出す。
照準を戦車の1車に合わせ、トリガーを弾く。
ロケット部分が発射され、戦車に直撃、爆発する。
爆発での誘爆を避けるため、戦車達は逃げる様に移動する。
戦車内ではミラが怖がりながらヒトラーの方を見る。
「あんな強いサーヴァントがいるなんて聞いてないよぉー!?」
「これは戦略的撤退だ。ミラしっかり捕まっていろ」
撤退して行く戦車達を見逃すほどの慢心を持ち合わせていないギルガメッシュは〈エア〉の力を解放し、振りかぶる。
「オーーーー!」
振り下ろされる〈エア〉。
そこから放たれる閃光。
これこそ〈エア〉に選ばれし者にしか使えない必殺の一撃。
〈エヌマ・エリシュ〉だ!。
次々に消し炭になって行く戦車。
閃光に包まれ、ヒトラーとミラは消し炭になった。
つまらない。
本当につまらない。
そう思いながらギルガメッシュは再びサーヴァントを探しに向かった。
一方その頃、シールダーは教会で十字架に祈りを捧げていた。
神を憑依させているとは言え素体はシスター。
神への祈りは欠かさず行なっている。
「今日もシスターとして頑張りますよ」
そう言って教会を出るとアルトリアを探しに向かう。
聖杯を破壊しようなどと言う部外者は排除しなければならない。
そんな思いを胸に秘め、見慣れた道を歩いて行く。
夜の道を散歩をしている若者の男性がシールダーを見て不思議そうに思う。
それもそうだろう。
シスター姿をした女性が通りすぎたのだから。
「あれってシスターだよな。なんでこんな時間にシスターの服着て町を歩いてるんだ?」
見慣れない格好をしていて戸惑う。
しかも日本人の様な顔立ちをしているのにもかかわらず目は青く、金髪だった。
「シスターがカラコンとか染めたりしないよな。じゃああいつコスプレイヤーか? だったらマジでヤバイ奴と出くわしちまった。オーコワ」
男性は独り言をボヤきながら散歩を続けた。
悪口を言われているとはつい知らず、シールダーは魔力を感知し辺りを見回す。
するとアゲハとジェイソンが楽しそうに会話をしているのを発見する。
「こんばんはアサシンのマスターさん。こんばんはアサシンさん。すいません間違えました。訂正します。今はアヴェンジャーのマスターさんとアヴェンジャーさんでしたね」
「こんばんはシスターさん。いえ、シールダーさんと言った方が良いですか?」
「フフ、どちらでも良いですよ」
「僕達は今お話をしてるんだ。邪魔しないでよ」
握り拳を作り殺意をむき出しにするジェイソン。
「落ち着いてジェイソン。あの人はとても偉い人なの。殺したら私達の願いは叶わないのよ」
「それはいやだな。ママを蘇らせられないなんて事があったら僕いやだな」
「そうでしょ。だからシスターさんを殺すのはやめましょ」
「うん。そうする」
アゲハは素直なジェイソンに優しく笑みを浮かべ、それからシールダーを真剣な目で見る。
「良いですね。あなた達が仲良くしてるのを見てホッとしました。これぐらいみんな仲が良いと良いのですが・・・・・令呪を使わないでここまで登り詰めるなんて、それほどに信頼を寄せているのでしょうね」
「私達は心友です。ねっ、ジェイソン」
「そう、僕達は負けない。誰にもね」
「そうですね、あなた達は強い。だからお願いがあります」
「なんでしょう」
「あなた達に不正に参加しているもう1人のセイバーを討伐してほしいのです」
「それはお願いではなく命令ですか?」
「命令と言ったらそう言う事になります。あのセイバーは私達が行っている聖杯戦争を終わらせるため、聖杯を破壊しようとしているのです」
その発言に驚きを隠せない2人。
「それは本当の事ですか!?」
「はい。残念ながら事実です」
シスターの言葉にアゲハはあの4人がフラッシュバックする。
「もしセイバーを倒してくださればアヴェンジャーさんに強化を施しましょう。令呪などあなた方には必要ないでしょうから」
「分かりました。ジェイソン。私達の力でセイバーを倒すわよ」
「分かった。僕アゲハが一緒なら誰でも殺せる」
「でっ、セイバーの居場所はどこですか」
シスターが居場所を伝えると、ジェイソンはアゲハをお姫様抱っこをして、瞬間移動を連続で行い、セイバーのクラスであるアルトリアを殺しに向かった。
一方その頃菊と凛、アルトリアとセイバークラスのエリザベートは教会に来ていた。
「ここに元凶のシスターがいるんですね」
菊の質問に凛は頷く。
「そう。あいつを倒せばおそらく聖杯が出て来る。そこを〈エクスカリバー〉で破壊するわよ」
作戦通り菊は扉を開け様とする。
「どうやら敵が来た様です」
アルトリアの呼びかけで後ろを振り返ると紺色の鎧を装備した大柄の男とそのマスターの女性が立っていた。
「またランスロットの真似を! 許さん!」
「僕はもう真似をしない。僕はただこれを着けてるだけさ」
アルトリアの怒りの表情を見てアゲハは目を細めニヤリと笑みを浮かべる。
「勝つためには手段を選べないの。だから存分に利用させてもらうわ。さあジェイソン。あいつらを倒しましょう」
「分かったよアゲハ。4人共殺してやろうよ」
「トレース、オン」
呪文を唱えるとバトルアックスが錬成され、ジェイソンはゆっくりとした足取りでアルトリアとエリザベートに向かって行く。
(ノロい。これが本来の敵の戦い方か。まるで生ける屍の様だ)
アルトリアは〈エクスカリバー〉を構え、向かって行く。
すると視界にノイズが入る。
(消えた)
菊がそう思ったのもつかの間、アルトリアが後ろを振り返る。
ジェイソンが後ろからバトルアックスを振り下ろして来るのに直感で気づいたのだ。
振るわれる〈エクスカリバー〉がバトルアックスを破壊する。
「スティール」
菊の魔術によってジェイソンの鎧が崩れ脱げる。
「ナイスマスター! このまま倒しちゃうわよ!」
エリザベートは剣をジェイソンの心臓部に突き刺す。
そして勢いよく引き抜き、血を浴びる。
ジェイソンは倒れ、それにアゲハは動揺する。
だがそれも一瞬。
復活し、立ち上がると、セイバー2人を見つめる。
「アゲハ。僕宝具使うね。これじゃあこいつらに勝てないから」
「分かった。私も全力で援護するね」
「行くよお前達。これが僕の宝具。クリスタルレイクだ!」
宝具の名を言うと、固有結界が張られる。
そこはアメリカのにある夜のキャンプ場だった。