「ここってキャンプ場、ですよね」
「すごく暑いわ。マスター、これじゃあ体力が持ってかれるわよ」
「しかもマスターとそのサーヴァントの気配が感じられません」
どこから攻撃が来るか分からない。
暑さで体力の消費量が増える。
本来楽しいはずのキャンプ場。
それが殺人鬼が潜む恐怖の場所へと変貌した。
「こう言う時固まって動いた方が良いんですよね。なにより瞬間移動が使える敵ですし」
菊【キク】の提案に凛【リン】は魔導石を取り出しながら承諾する。
「当たり前だけどそれは良い案だと思うわ。セイバー、相手は不死身の化け物よ。チャンスがあれば〈エクスカリバー〉の力を解放してちょうだい」
「分かりました」
アルトリアは〈 エクスカリバー〉を構え、凛を守る体勢をとる。
その時だった。
〈エクスカリバー〉で銃弾を防ぎ、位置を把握する。
しかし相手は瞬間移動ができる。
位置などすぐに分からなくなるだろう。
一方ジェイソンにはこちら位置などとっくに分かっていた事になる。
(まずい。このままだと体力負けしてみんな一方的にやられる)
位置が分かってもすぐに瞬間移動で逃げられる。
暑さで体力が奪われる。
まさしく敵の術中にハマった。
エリザベートが盾で放たれた銃弾を防ぐ。
敵は真っ向から戦うつもりはない。
それが分かると余計に動きづらくなる。
しかし近づかなければセイバークラスである2人はジェイソンに攻撃すらできない。
「とりあえずあの大きなコテージに入って体勢を立て直すわよ」
凛の言葉に3人は納得し、2階建のコテージに入る。
そこにはダンカンテレビやソファーなど、くつろげる物がある反面ジェイソンが武器にしそうな物が散りばめられている。
とっ、視界にノイズがかかる。
次の瞬間アルトリアは後ろを振り返り〈エクスカリバー〉振るう。
すると忍びよって来ていたジェイソンの包丁を持つ左腕が切断された。
ジェイソンはなにが起きたのか分からず動揺する。
それでも遠距離から投影される鉈を右手で掴み取り、菊に襲いかかる。
だがエリザベートによる剣撃をくらい腹部分を傷つけられる。
ドス黒い血を吹き出しながら「マママ、キキキ」と息を吐く。
そして鉈を捨て、エリザベートの首を掴み上げる。
「殺す」
首を圧し折ろうとしたその時。
「てりゃー!」
アルトリアの剣技がジェイソンの右腕を斬り落とす。
ジェイソンの手から脱出できたエリザベートは剣と盾を回収する。
「これでお前は私達に攻撃できない。潔く死ぬがいい」
「僕は死なない。願いを叶えるまで。僕は。僕は」
「そんなの私達にとってはどーでもいいの。さっ、私の歌を聴かせてあげる」
そう言うと突然スピーカーが大量に取り付けてある城が床を貫き、コテージを破壊する。
「これがセイバーの宝具」
「これはかなり範囲がありそうね。セイバー、攻城君、離れるわよ」
「「はい」」
3人はエリザベートの宝具の範囲外にまで離れる。
エリザベートは剣を地面に突き立て、持ち手に立つ。
「さあ行くわよー。〈バートリ・エルジェーベト〉!」
オペラ歌手が歌う様な美しい音色が城のスピーカーで増幅され爆音に変わる。
ジェイソンの体が爆音に耐えきれず傷づき、血が溢れ出す。
骨が露出し、ホッケーマスクが砕け散り、醜い顔が丸見えになる。
顔の皮膚が破け、頭蓋骨が露出する。
ジェイソンは最後の力を振り絞り、瞬間移動を行った。
監視塔にいたアゲハの前に現れたジェイソンはすでにボロボロになっており、倒れた。
「ジェイソン! そんな。起きてよジェイソン! ねえ!」
返事がない。
「そうだった。ジェイソンの復活には時間がかかるんだったはね。ハハ」
ジェイソンの復活を待つアゲハ。
だが何分待っても復活しない。それどころか再生する事もない。
「どうして!? どうして起きてくれないの!? 私はジェイソンを失いたくない。だってあなたは私を救ってくれた。支えになってくれた。心友になってくれた。だから起きてよ! ジェイソン!」
涙を流しながらジェイソンのスキルを確認する。
そこには追加されたスキルが表示されていた。
それを見たアゲハは笑みを浮かべる。
「ジェイソンは私の心友、だからおいで。一緒にあいつらを倒そ」
まるでジェイソンを受け入れる様に上着を脱ぎ始めた。
一方その頃4人はジェイソンを探しにクリスタルレイクを探索していた。
「ジェイソンは死に至る技を使わなければあそこまで追い詰められるんですね」
「でもあの宝具をくらえば再生するのに時間はかかるはずよ」
「そこを叩くってわけね。やってやろうじゃない」
「油断は禁物です。敵はどこにいるか分かりません。注意して行きましょう」
話し合いながら歩いていると、ジェット噴射音が聞こえて来る。
急いでエリザベートが音を頼りに盾を構える。
すると左上斜めから4連弾のミサイルが飛んで来た。
菊はバリアを張り、ミサイルを防ぐ。
ミサイルとバリアがぶつかり合い、爆発を引き起こし、バリアが砕け散る。
あまりの衝撃に全員吐き気が出る。
爆発と言う物は人体にも害がある。
爆風によって人体は耐えられず破裂する。
今回はバリアによって爆風は軽減され吐き気だけで済んだが、もしエリザベートが盾で防いでいたら全員爆風で死亡していただろう。
「あの角度からしてあの建物ですよね」
「ならあいつもそこにいるのね。よーし。行くわよー」
そう言ってエリザベートは建物に向かって加速する。
「おい待てよ」
「仕方ありません。追いかけましょう」
3人はエリザベートを追いかけると、ノイズが視界に入る。
するとマシンガンの連射音が聞こえてきた。
(後ろから!?)
アルトリアは後ろを振り返り銃弾を斬って行く。
再びノイズが視界に入り、今度は左から手斧が縦に回転しながら菊の方へ飛んで来る。
バリアを張ろうとするが間に合わない。
もうダメだと思ったその時、凛が放った風の魔導石が手斧にぶつかり合い吹き飛ばした。
感謝の言葉を言っていたら隙が生まれるため言わず、攻撃された方向に放つために火炎弾を準備する。
しかしまたもやノイズが視界にかかる。
(またか)
今度はどこから、なにで攻撃してくるのか。
3人の脳内にそんな事が過ぎる。
しかし一向に攻撃が来ない。
「まさかセイバーのところに向かったんじゃあ」
「急いで行くわよ。セイバー、護衛は任せたわ」
「分かりました。まったく、困ったサーヴァントです」
菊、凛、アルトリアは夜のキャンプ場を駆け、エリザベートを追いかけた。
しばらく走っていると、エリザベートが戦闘を行っていた。
戦っている相手を菊と凛は確認する。
「あれって、アサシンのマスター?」
「よく分からないけど。セイバー。やっちゃて」
「言われなくても」
アルトリアは一気に加速し、〈エクスカリバー〉を構えながら攻撃を仕掛ける。
アサシンのマスター、いや、アヴェンジャーのマスターことアゲハは〈ゲイボルグ〉で攻撃を防ぐと、投影魔術で弓を錬成し〈ゲイボルグ〉を射出する。
赤き槍がアルトリアを殺しにかかる。
だが〈エクスカリバー〉による一撃で破壊されてしまう。
「さすがは騎士王よね。簡単に〈ゲイボルグ〉を打ち砕くんだから」
「褒め言葉など無用です。なぜマスターであるあなたがもう1人のセイバーと戦っているのですか? ジェイソンに戦わせればいいでしょうに」
「ジェイソン? ジェイソンはここにいるわよ」
「なにを言っているのですか。ジェイソンはここには・・・・・」
「なにを言ってるの? 僕はここにいるよ」
「そのとおりよジェイソン。あなたはここにいるは」
「なに独り言言ってるのよ」
エリザベートの言葉にアゲハは不思議に思うが、すぐに言葉の意味を理解する。
「私達は2人で1人。ジェイソンのスキル〈寄生〉によって私はジェイソンになった」
「そして僕はアゲハになった」
「私達は負けれない」
「僕達は死ねない」
「だから代わりにあなた達が死になさい」
投影魔術を使用し、2本の剣を錬成してエリザベートに襲いかかる。
寄生された影響で力がジェイソンと同じ強靭的なものとなっている。
剣と盾が触れ合い、火花が飛ぶ。
(私に代わりなさい)
カーミラの言葉で人格がエリザベートからカーミラにスイッチする。
ピンクだった髪が白に変わり、瞳が黄色に変色する。
剣をそらす様に受け流し、隙を作る。
体勢を立て直そうとするアゲハの腹に剣を刺す。
「うぐっ」
「ただ合体すれば良い訳じゃないのよ。おバカさん」
痛みに悶えるアゲハから剣を引き抜き、蹴りで吹き飛ばす。
痛みを感じるアゲハの神経のせいで戦いづらくなったのも事実。
だが9回目の死亡した際に追加された〈寄生〉によって復活したジェイソンの感情を失いたくない。
そんな思いがアゲハは踏ん張る。
荒い息を上げながら剣を捨て、ハンドガンを錬成、瞬間移動で凛に近づく。
(マスターがいなければ騎士王はこの世からいなくなる)
(そうすれば僕達は強くしてもらえるそしたらあの金色の奴にも勝てる)
勝利を確信し、後ろからトリガーを弾こうとする。
だがそれはできない。
なぜなら凛が後ろに投げた魔導石が爆発し、吹き飛ばされたからだ。
アルトリアとカーミラは爆発音に気づき、そちらに向かう。
アゲハは傷口を手で押さえながら銃口を向け、連射する。
だが菊のバリアによって防がれ、弾切れになる。
その隙をアルトリアがつき、〈エクスカリバー〉をアゲハの腹に突き刺し、力を解放する。
「消え失せなさい。エクス、カリバー!」
0距離から放たれる閃光が寄生したジェイソンの心臓ごとアゲハの体を包み込み、消滅させた。
固有結界が消え、教会の入り口に戻る。
ホッとしながら魔力の事も考え攻城家に戻る事にした。
「あのアヴェンジャーさんがやられるなんて、まったく、忌々しいセイバーさんです」
シールダーの言葉でバーサーカーのマスターであるキールグレイトスとバーサーカーのクラスのサーヴァントであるギルガメッシュは次に戦うのが自分達だと悟る。
「今度はあなた達に依頼しましょう。やれますね」
「分かりました。バーサーカー、頼んだぞ」
キールの命令にギルガメッシュは吠えた。
1日が終わる。
そして朝になる。
今日菊は学校を休み、疲れない様に家でゆっくりとする事にした。
いつものカーミラとの吸血を終了し、朝ごはんを作る。
「よくもまあ今まで血を提供できたわねぇ」
「仕方ないですよ。パートナーであるセイバーの頼みです。断れませんよ」
「あのね攻城君。別に私はサーヴァントと仲良くするなとは言わない。でもね、これだけは言っておくわ。このままだとあなた、身を滅ぼすわよ」
身を滅ぼす。
それぐらい菊は理解していた。
自分が使い魔ごときに命を削られるなど以ての外である。
しかし今まで戦って来たパートナーとのコミニケーションとして行っていた事。
それをやめろと言われているのだ。
「それでも俺は続けます。セイバーと一緒に居れて本当に嬉しいんですよ。家に居場所なんてなかったですから」
ここは冷静に対応する。
凛は呆れた様にため息を吐いた。