ダンジョンで安寧を求めるのは間違ってるだろうか 作:ステラ・グローリア
私は狼である
名前は狼王ロボである
50階層西端の壁にある大穴がある。ほぼ崖と言ってもいい傾斜面の岩壁が50階層と51階層を繋ぐ通路であり岩壁の至るところに付着する黄緑色の粘液を尻目に私達は駆け上がる
大穴から飛び出すと聞こえてくるのは人の掛け声とけたたましい炸裂音だった
「キャンプが……!」
灰色の森を駆け抜けながら野営地の方角から上る黒煙に焦燥感を高めながら私達は大樹林を走破した
「リヴェリア、みんな!?」
森を抜けた先には開けた平地と野営地を構えた一枚岩、そして岩に取り繕え芋虫共の群れだった
芋虫共は多脚を岩に張り付けよじ登り、頂上で防衛を行っているリヴェリア達に腐食液を噴出している
崖際で腐食液を防いだ団員達が直ぐ様溶け出す盾を廃棄していく
「矢、放て!」
「これが最後です!?」
「構わん!撃て!」
リヴェリアの号令が聞こえよじ登る芋虫共に向けて数人の弓使いから放たれた矢が命中した芋虫が更に数匹の芋虫を巻き込み地へと叩きつけられていく
「まだあんなに……!?」
「キャンプを包囲されていないのがせめてもの救いか」
芋虫共は知能が低いのだろう、太い列を作り同一方向から一枚岩をよじ登っている。進行箇所が集中しているおかげで居残り組の団員達はリヴェリアの指揮で拠点の防衛を続けられているようだが、それも時間の問題である
「ガゥッ!」
「っ!」
私とアイズが同時に飛び出す
毛に青みが加わり足元から影が沸き上がる
あのフリュネの時からアイズに付き合ってもらい練習を重ねて漸くここまでは理性を飛ばさずに自力で使えるようになった
理性で押さえてるからなのか足から影の鎖が延びているのが不思議である
使える影も少なく凝縮し
首狩り鎌のような剣の形とし口に咥えている
元が私自身、存在不明の影であるため腐食しない
アイズも魔法で風を纏い芋虫共の列の横っ腹へと奇襲をかけた
「アイズ!?ロボ!?」
一枚岩の上からリヴェリアの声が聞こえ他の団員達の喜びの声も上がっている
芋虫共の群れに突撃したことにより場の状況は一変した
アイズの武器は
私も通り際に切り裂き噴出する前に次の敵を切り裂きに跳ぶことで腐食液を浴びずに芋虫共を斬り殺す
一枚岩を目指していた芋虫共も後ろの状況を察したのか反転し数で押し潰そうとこぞって襲いかかろうとする
そこへベート達が参戦し、更にレフィーヤの魔法が撃ち込まれれば芋虫共の統制などあっけなく失われ、あっという間に混線状態へとなる
ティオナ達も一枚岩の上から投げられた予備の武器を使いティオネにいたっては素手で芋虫の魔石を抉りだし全身に腐食液を浴びていながら殺していた
かなり頑丈に作られたティオナの武器すら直ぐに溶かしてたのになんでまだ戦えてるんだろ?て言うか怖いんですけど……ティオネの事は全部フィンに任せよう、そうしよう
私はティオネの事を頭の中から閉め出し次の芋虫を斬り殺す
「週末の前触れよ、白き雪よ。黄昏を前に風を巻け」
芋虫共の殲滅を続けるなかリヴェリア達の折り重なる詠唱が聞こえてきた
リヴェリアをはじめとするエルフ団員を中心にした魔導士達が一斉砲撃の準備をはじめたようだ
「閉ざされる光、凍てつく大地。吹雪け、三度の厳冬━━我が名はアールヴ!」
リヴェリアの詠唱完成を皮切りに私達は戦闘を切り上げ離脱する
「【ウィン・フィンブルヴェトル】!!」
氷、炎、雷といった多種の攻撃魔法が芋虫共の大群に突き刺さり幾つもの爆発が巻き起こり魔法の残滓が周囲を舞った
「終わったー!」
アイズが漏れ残った最後の芋虫を斬り伏せ私達以外に動くものはいなくなった
「手こずらせやがって……キャンプに残ってたあいつ等、無事なんだろうな」
「あれ、ベート、リヴェリア達を心配してるの?めっずらしー!」
「うるせぇ!あいつ等が荷物を守ってねぇと深層から帰れねぇだろうが!薬の有無でロボに走って貰わねぇとなんねぇ場合だってあんだ、勘違いしてんじゃねぇ!」
恒例のようにティオナとベートが言い争いを始めるなか私は警戒を解けずにいた
微かながら芋虫共の移動する様な音が聞こえるのだ
私が警戒しているのを察してフィンやアイズも表情を引き締めていた
来る……っ!
「ガルアァァァァ!」
私が吠えた直後である
木をへし折る遠くから響いてきた破砕音が届いた
音源の方角を見つめ待ち構えているとそれは現れた
「……あれも下の階層から来たっていうの?」
「通路を壊しながら進めば……なんとか?」
「馬鹿言わないでよ……」
半ば呆けたようなティオナといつの間にか治療していたティオネの会話が静まり返った場にやけに響く
およそ6Mはあるだろうか
先程まで戦っていた芋虫よりも一回り程大きく上半身が滑らかな線を描き、明らかに人の上体を模した形をしていた
扇に似た厚みのない扁平上の腕には二対四枚で、後頭部からは何本も垂れ下がる管の様な器官がある
濃厚な色彩が及ぶ顔面部分には鼻も目も口もないが、線の細さから女性のものを連想させた。が、大きく盛り上がった腹部が女性的な要素を全て台無しにしていた、そして何よりもあまりに醜悪であの醜き者フリュネにも匹敵した
あの腹部の途轍もない量の腐食液がまき散れば辺り一面は死の充満する世界だろう
素早くフィンの指示が出た
「総員、撤退だ!速やかにキャンプを破棄し、最小限の荷物を持ってこの場から離脱する!リヴェリア達にも伝えろ」
「おい、フィン!逃げんのかよ!」
「あのモンスターをほっとくの!?」
フィンの意見にベートやティオナが噛み付く
「僕も大いに不本意だ。でもあのモンスターを始末して、かつ被害を最小限に抑えるにはこれしかない。月並みの言葉で悪いけどね」
フィンは表情を消して、アイズに、そして私に向き直った
「アイズ、君が討て。距離を取ったら信号を出す。それまでは時間を稼いでくれ。ロボ、アイズを頼んだよ」
「わかった」
「ガゥ!」
フィンに制止の声が掛かったけど一喝し鎮めた。そしてラウルにリヴェリアに撤退の合図を出させ、私とアイズを残し離脱した
「ロボ、援護をお願い……【目覚めよ】」
風を纏ったアイズが女体型と相対する
女体型は無貌に見えた顔面部に横一線の亀裂が走り口腔を開放し、そこから鉄砲水のような勢いで腐食液が打ち出される
目的は時間稼ぎである
ならば取るべき行動は撤退中のフィン達とは別の方向に回避することだ
幸いにも女体型はアイズを標的にしているのだから誘き出せるだろう
しかし女体型は四枚の腕を大きく振り、そして目を疑うような夥しい量の光粒がアイズの頭上を覆った
「ガルアァァァァ!」
アイズに降りそそぐきらめきを放つ極彩色の粒子郡が私の咆哮により吹き飛ばされ女体型の近くで幾つもの爆発が巻き起こった
爆発の衝撃が更に女体型の腕から粒子郡が舞い上がり新たな爆発を起こす
『━━━━━━━━━ァァァァ!?』
懐で巻き起こった爆発の連鎖に女体型は絶叫し管の髪や腕を振り乱し悶える
その間にアイズは私の近くまで下がってきた
「ありがとう……信号、まだかな?」
「……バゥ」
女体型が悶え苦しんでいる今、殺そうと思えばいつでも殺せるけど信号がないため手を出すわけにはいかない
「練習してたアレ……やってみる?」
「ワン!」
アイズの提案に私は頷き身を屈める。そしてその背にアイズが乗り私を含めて風を纏った
アイズが武器に風を付与する時、武器にも相当な負担を掛けているため直ぐに折れてしまう。これは人に対しても付与の負担は変わらず何度も傷を作りながら負担を少なくし風を付与する練習をしたのだ
その結果、未だ多少の負担は有れど私はアイズを背に乗せ風を付与することに成功した
これが今回、フィンが私をアイズに付けた理由でもある
出来なくても残るつもりだったけど
悶える動作が緩慢的になってきた
そろそろ女体型も動き出す頃だろう
信号は未だだろうか
そう思った直後、遠くから破裂音と共に遥か上空に閃光が打ち上がる
待ちに待った撤退完了、そして目標撃破の許可である
「ロボ……っ!」
「ガウ!」
アイズが声を発すると同時に大きく後ろに跳躍し一枚岩、その上部壁面に着地し膝を折り力を溜める
もはや嵐と言える風を纏いアイズは剣を引く
放つのは今持てる最大威力の一撃
女体型に向け足のバネを最大限に使った高速の跳躍と後押しする風の加速からもたらされる神風
アイズは静かに主神に命名されたその名を唇に乗せた
「リル・ラファーガ」
それは女体型を貫き風穴をあけ、そして桁外れの大爆発を起こした
今回はここまでです
この作品では初の3000文字越えでしょうか?
いつもは2000文字いかない程度にしか書いていませんがここまではこの話のうちで終わらせておきたかったのでちょっと長くなっちゃいました
アンケート
今のところアイズと二人で復讐者が一番多いですね
レフィーヤが一番人気ないですね
まぁ、復讐者状態のロボをレフィーヤが落とせるのかって疑問が私にも投稿してから思ったのでこの結果はわかるんですけどね
因みに復讐者状態のロボがアイズを乗せると
ロボの宝具である【遥かなる者への斬罪】の最後の一撃がリル・ラファーガになる鬼畜仕様を考えてます
怖いですね
それではまた次回、お会いしましょう