ダンジョンで安寧を求めるのは間違ってるだろうか   作:ステラ・グローリア

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頑張りました


29話 宝玉

18階層の水晶の空は、昼から夜に移り変わろうとしていた。

森林や大草原にそそぐ暖かな白い光は見る見る内に失われていき、階層全体が暗くなり始める。

階層西部、湖の島に築かれたリヴィラの街もまた、蒼い薄闇に覆われようとしていた。

 

 

「はっ、はっ・・・!?」

 

 

周囲が暗くなる一方で足元から生える青水晶がうっすらと輝きを放つ中、獣人の少女が視線の先で錯綜する岩の路地を走っていた。

 

息を切らしながら背後を振り返り、私と視線がかち合う。追跡者である私を震える瞳に写し、動転しているように、彼女は前を向いて逃げ続けた。

 

 

「ロボ、このまま追ってて・・・回り込むから・・・。」

 

 

中心地である水晶広場から北西、外壁を近くにする街の片隅でアイズが耳元で囁き飛び降りて行く。

 

坂や階段を駆け上がり、レフィーヤを背に犬人を追いかける。肩に掛けている小鞄を揺らしながら再度振り返り怪訝な表情を浮かべ、曲がり角を折れて行った。

 

追い掛けて曲がると巨大な青水晶と岩壁に挟まれた、まるで谷間のような細い一本道だった。

 

長く平らな道の先にはアイズが先回りして現れた。

 

 

「えっ!?」

 

 

行く手に立ち塞がるかのごとく道の真ん中に佇むアイズに、犬人の少女は、逃げ道もない狭い路地の真ん中で、腰を抜かしたようにへなへなと座り込んだ。

 

 

「はふぅっ、捕まえましたね。流石です」

 

「ううん。全部ロボのおかげだよ」

 

 

犬人である彼女は黒い髪に、頭から垂れた獣耳を生やしていた。健康そうな小麦色の肌をしており、細い手足は獣人らしくしなやかさに富んでいる。

 

編み上げたロングブーツに薄手の戦闘衣(バトル・クロス)を身に付けており、防具の類は装備していない。

 

 

「事情聴取は・・・私達がするより団長達に任せた方がいいですね」

 

「うん、広場に戻ろう。ロボ、お願い」

 

「ワフ!」

 

 

挙動不審だった彼女を怪しい人物と睨み、戦闘衣の襟を咥えフィン達のもとへ連れて行こうとした——が。

 

 

「やめてっ!?」

「ガフッ!?」

 

 

垂れた耳をぴくりと動かした少女は、途端に涙ぐみ、顔を振り上げ懇願する。

その拍子に、彼女の後頭部が鼻柱を強打し驚いた私は口を放し前足で鼻を押さえた。

 

 

「お願いっ、止めて、あそこに連れていかないで!?あそこに戻ったら、今度は私が、きっと私がっ・・・!」

 

「ロボ!あ、あのっ、退いてっ・・・!」

 

「ちょ、ちょっとっ、何してるんですか!?」

 

 

犬人の少女が私に駆け寄ろうとするアイズに縋り付くように両腕を掴み、レフィーヤが慌てて引き離そうとするが、「お願い、お願いっ・・・!」と少女は俯き顔を振るばかりで、掴んだ腕を放そうとしない。

 

そのあまりにも必死な様子に、流石に困り私達は顔を見合わせる。

 

 

「どう、しましょうか?」

 

「・・・ロボ、人のいない場所に乗せてって」

 

「いいんですか?」

 

「うん、すごく怖がってるみたいだから・・・落ち着いたら、話を聞こう」

 

 

流石にここまで怯えている少女に無理をさせるわけにもいかない訳で、三人を背に乗せて移動した。

 

 

向かった先は北西の外壁を間近にする、街の倉庫と言うべき場所だった。

 

少女を連れて倉庫の奥に進んだ先、カーゴに囲まれる空き地のような空間で、私達は向かい合った。

 

 

「もう、大丈夫?」

 

「・・・うん」

 

 

カーゴの角に掛けられた灯りが薄暗い周囲を照らす中、犬人の少女はアイズの声に頷き返した。

 

 

「貴女の名前は?」

 

「ルルネ・・・ルルネ・ルーイ。Lv.は2。所属はヘルメス・ファミリア・・・」

 

 

俯きがちだが質問には答える少女、ルルネは、落ち着きを大分取り戻したようだ。

 

アイズとレフィーヤが質問を繰り返し、ルルネがハシャーナから荷物を受け取り地上にいる依頼人(クライアント)に届ける依頼(クエスト)を報酬の大金に目が眩み受けていたことが分かり。

 

荷物を採取する依頼を受けていたハシャーナが殺され、自分も殺されると思ったから怖くなって広場から逃げ出したとのことだった。

 

依頼人は黒尽くめのローブの人物で正体は不明。

 

更には、ルルネがLv.を主神に偽るように言われ本当はLv.3だったことも判明した。

 

 

「私達に、その荷物を渡して」

 

 

それが一連の話を聞き、アイズが下した決断だった。

 

大金と身の危険を天秤にかけていたルルネは、やがて命あっての物種だと、我慢するように頷いた。

 

 

「詮索しないで、絶対に誰にも見せるなって言われてたんだけど・・・」

 

 

荷物の入っている中型の小鞄を地面に下ろし、中から口紐がきつく締められた袋を取り出した。

ルルネは緊張した面持ちで、袋の中身を取り出す。

 

 

「・・・!」

 

「な、何ですかっ!これっ・・・?」

 

「グルルルル」

 

 

ルルネからアイズに手渡された物は両手に収まる程の球体だった。

緑色の宝玉。薄い透明の膜に包まれているのは液体と———不気味な胎児だ。

 

 

アレは駄目なモノだ・・・

目の前にある宝玉が何であるのかは一切分からないが、しかし、私にとって不愉快なモノである事だけは確かであった。

 

 

「アイズさん!?」

「ガウッ!」

 

急に膝をついたアイズを体で支える。拍子に宝玉はアイズの手から零れ落ち地面を転がる。

 

アイズの異常の原因を察し、レフィーヤは飛び付くように宝玉を拾い上げ、アイズから距離を置く。

 

 

 

 

「大丈夫ですか、アイズさん」

 

「・・・うん、平気。ロボも、ありがとうね」

 

 

どこか弱々しい声で、アイズが私に跨る。

 

手元の宝玉を見下ろすレフィーヤ。

 

 

「だ、大丈夫なのかよ・・・や、やっぱりコレ、やばい代物だったのかっ?」

 

 

怯えたようにルルネが尋ねてくる。

 

その答えを私達は持ち合わせていないが、レフィーヤが決断したかのように頷いた。

 

 

「私が持って、団長に渡します」

 

「ごめん、レフィーヤ・・・」

 

「謝らないでください、こんな時くらい私が・・・アイズさんは、離れていてください。ロボさん、アイズさんをお願いします」

 

「ワフッ!」

 

 

精一杯であろうに笑みを浮かべるレフィーヤに頷く。

 

レフィーヤは頷き返しルルネから袋と小鞄を受け取りその中に宝玉を仕舞って肩に担いだ。

 

 

「それじゃあ、行きましょう———」

 

 

直後だった。

 

遠方から何かが崩れる音と、悲鳴、そして破鐘の咆哮が届いてきたのは。

 

 

「!?」

 

 

三人共を急いで背に乗せ、弾かれるように駆け出す。

 

倉庫を後にし、来た道を背のレフィーヤ達を落とさないように気を付け駆けて行くと、視界が一気に広がる突き出た高台に出た。

 

手すりの設けられた見晴らしのいい場所に出た瞬間、私達の目に飛び込んできたのは街の方々から上がる煙、そして。

 

 

「あれは・・・!?」

 

空高く首を伸ばす、無数の憎き植物型のモンスターだった。

 




さてさて、次回は戦闘回になりますね
戦闘描写って苦手なんですが頑張って行こうと思います


早くアイズとイチャイチャしてるだけの話を書きたい
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