表- 高町なのはと八神はやての日常 -
「やっほー。なのはちゃん、検査結果どうやったん?」
お夕飯を食べてお風呂に入って、今から寝ようかなって思ってた時に携帯が鳴った。出てみたら元気すぎる声で、ちょっと悲鳴上げちゃうくらいには驚いちゃった。でも、今はこれくらいの方が嬉しくて……自然と私まで元気になれる。
「全然大丈夫!バッチリ健康だったから、帰りに練習していこうかと思ったら、先生に止められちゃったくらい」
「それはまた、なのはちゃんらしいなぁ。一生懸命なんもええけど、ちゃんと休まんと……わたしが無理矢理ベッドに縛り付けてまうよ?」
はやてちゃんの手でベッドに……それはイヤだなぁ。もっと雰囲気があるところでとかならまだしも、オーバーワークのお仕置きでってなると、いたずらされ放題なのは間違いないもん。
「にゃはは……それは、ちょっとイヤかも。大丈夫っ、今日はお夕飯の前までグッスリだったから!」
「うんうん、そのくらいが健康的や。でも、明日の小テストの勉強はええの?」
て、すと……?テスト、テスト……全然記憶にない。今日は入学式だけだったし、いくら大学の附属だからってそんな急に……はやてちゃんが嘘言ってる可能性もあるし。でも、聞き逃してるかもしれない……特に帰りの時間とか。
「えっ……!?し、小テスト……何の科目っ?え、それよりもいつ言ってたの!?」
「なんや、やっぱり聞いてなかったんか……HRのとき、担任の先生が言っとったよ?科目は数学。小学校のときにやった範囲の確認やったかな?」
「うそうそうそっ!何でもっと早く教えてくれなかったのっ!」
はやてちゃんが言うタイミング……あったはず!終わった後とか、メールでとか、いくらでも……なんでなんで!あれ、でも聞いてないなんて思わないかな?そんなこと無いよね?HR中とか授業中とかにイメージトレーニングしたりとか、それに熱中してうっかり授業聞き漏らすなんて魔導師と学生兼業してたらみんなあるはず……!
「聞いてると思ったわ……なのはちゃん、ちゃんと起きとったし」
「あ、あの時は……イメージトレーニングでユーリちゃんと戦ってて……」
「じゃあ自業自得やん?それで、相手が相手やからなのはちゃんが熱中するくらいの難易度なんは分かるけど……勝ったん?」
「もっちろん!今日はエクセリオンモードで勝ったの!」
あの時はガチガチに武装してたからだし、イメージトレーニングだから実際に戦ったら分からない。でも、少なくとも経験値にはなるはず。本音で言えばもっと強い人とじゃなくちゃなんだけど、さすがにあの時のユーリちゃん以上ってなるとデータがほとんど無いし……ユーリちゃんは魔導師だから、今のところは一番有効な特訓のはず。
「エクセリオンモード?それって、もしかしかくても……強化改修1段階目のときのあれやろ?」
「……?うん、そうだよ?」
「イメトレなのに、デバイスはダウングレードしてやってるん?」
「うん。縛ってできるなら、それに越したこと無いでしょ?さすがにバスターモードまでだと落とせなくて……私もまだまだかなぁ」
そう、私はまだまだ修行が足りない。たぶん、ユーリちゃんをバスターモードまでで倒せるくらいにならなくちゃ、この先の事件は乗り越えられない。はやてちゃんは基本的に範囲攻撃だし、フェイトちゃんは近接。私のポジションは代わりができる人はいないから……私が誰よりも強くならなくちゃいけない。まだまだ、まだまだ足りない。
「なのはちゃん……相変わらずやなぁ。ほどほどにしないと、今度はテスト範囲聞き漏らしてまうよ?」
「にゃああっ!そ、そうだった……はやてちゃん、また明日!勉強しないとっ」
でも今はテスト勉強が優先かも。早く勉強始めないと、さすがに無いとは思うけど居残りとかになったら嫌だし……点数もなるべく高くないと、みんなと比べたときにビリなのはもっとやだ。
「あははっ、早く寝るんよ?どことは言わへんけど、フェイトちゃんに成長追い抜かれてまうから。あ、もう結構前から追い抜かれとったね」
「もーっ、はやてちゃんっ!!」
言葉の端々でちょっとずつ一言足しておちょくるのははやてちゃんちょくちょくやるけど……今のは反則!次の模擬戦でボコボコに……って言おうとしたら電話切れてた。仕方ないから明日はやてちゃんにお仕置きしないと……!だいたい、私だってまだまだこれから……きっとフェイトちゃんにだって絶対負けないくらい……!
あぁっ!そ、そうじゃなくて勉強しないとっ!
翌朝、結局テストは合格できたけど……点数ではやてちゃんにもフェイトちゃんにも、アリサちゃんにもすずかちゃんにも皆に負けちゃった。でもそれ意外は基本的に順調で、英語も現代文も、中学の出だしは悪くないはず。体育以外、体育以外は。それと、今日の小テスト。ちょっと凹むなぁ……。
今はもう下校中だけど、学期始めから失敗しちゃって落ち込みぎみです。
「なのは、まだ気にしてるの……?」
「たまたまだと思うし、気にしない方が……」
「うー、でも……」
「なのはならどうせ次は満点取れるわよ」
「そうかなぁ……」
すずかちゃんは励ましてくれてるし、フェイトちゃんも元気付けてくれてるけど……アリサちゃんはトップだったから、余裕見せて言ってるだけだと思うの。負けたら誰よりも悔しがるし。
「そうやでー?あまり気にしてると……こうやっ!」
「ふにゃっ!?ち、ちょっと、はやてちゃ……んんっ……」
「はやて、公衆の面前で何してるのよっ!ここは……大通りでしょうがっ!!」
そういえばはやてちゃんはどこに……って思ったら、揉まれちゃう。はやてちゃんって、かなりテクニシャン……こんな才能をはやてちゃんにあげた神様を私は恨む、恨む、うら……めないかもしれない。
それにしても、怒ってるアリサちゃんかわいいなぁ……怒ってるからこその魅力って、アリサちゃんにしか無いと思う。有り余ってる元気をここぞってばかりに発散してるところなんて、すっごくかわいい。
「あいだっ……!ちょっとしたジョークやん……そういうアリサちゃんも、意外に揉みごたえがありそうな……」
「やめんか!」
みんな楽しそう。私の隣を歩いてるフェイトちゃんも、空気を明るくしてくれるはやてちゃんも。アリサちゃんは突っ込み役ですずかちゃんはお母さんかな?苦笑いするすずかちゃんの周りをはやてちゃんが逃げてアリサちゃんが追いかけて……。
あ、はやてちゃん頭かかえてる。アリサちゃんのチョップ、そんなに痛かったのかな……なんて思ってフェイトちゃんに目を向けてみたけど、「気にしなくてもいいんじゃないかな。いつものだよ」って顔してたから、きっと平気。いつも通り毎日平和。
「待ちなさい、はやてーっ!!」
「いややーっ!鬼さんこちら、手のなる方へ〜」
「こ、んのぉぉぉっ!」
「にゃはは……」
ちょっと騒がしいかもだけど、平和で賑やかな毎日。この日常を私は守らないといけない。何があっても、みんなが笑っていられる日常だけは守り抜かないと。その為にはもっと強くならないといけなくて……でも、力が無いと守れないけど、力があっても争いは起こって……今はどうすればいいのか分からないけど、きっとまた答えを出さなくちゃいけない時は来るから。その時までに、答えを出せる強さを身に付けておかないと……そんな事を考えながらみんなと別れた。また考えちゃったけど、バレてないといいなぁ。
あ、はやてちゃんにお仕置きするの忘れてた。明日こそお仕置きしなくちゃ。
裏- 八神はやてとクロノ・ハラオウンの密会 -
みんなと別れた後わたしは一旦家に帰る。今日はシグナム達が帰ってくるのも遅いから、目立たない服に着替えてお出かけ。そう、目立たない服で、散歩を少ししてからいつもの買い物。いつも通りに身支度をしていつも通りに家を出て、いつも通りに買い物のリストを確認したら……いつもとは違う路地に入る。
そうしたらそこには、いつもとは少しだけ違う世界。人気がない暗がりに、お互いの顔が見えないくらいの明るさの空間に、クロノ・ハラオウン……たぶん執務官……と二人きり。変な関係じゃなく怪しい関係。秘密の関係じゃないけど、秘匿している関係。今は……友人じゃない。
「それで、なのははどんな調子だ?」
「なのはちゃんはいつも通りや。良くも悪くもいつも通り。友達として言うなら……ちょっと心配やけど」
「友達としてなら、か……局員としてなら、どう思ったか聞かせてくれないか?」
客観的に見れば親しげな会話に見えるはず。でもそれは見えるだけ。仲が悪いわけではないし、不信感を抱いてるわけでもないけど、でも無防備にさらけ出すには相手が悪い。昨日の夕方に連絡をもらったときから仕事だとは気づいているから、それ相応に応対する。
「意地悪やなぁ……その聞き方、相手はわたしじゃない方がええんやない?」
「そうか?案外はやては『こっち』側かと思っていたんだが。だからフェイトじゃなくはやてに連絡した理由は、分かってるだろう?」
ふーん、なるほど。ユーノ君から連絡は受けてるし、クロノ君もそれは知ってるはずや。それを踏まえて、話せる相手……おそらくはそういうこと。確かにフェイトちゃんには荷が重いし……真面目すぎるうちの子らには不向きやね。なのはちゃん絡みの話やから、なのはちゃんに話を振るのは論外。3人目にわたし以上の適任はいないってことや。でも、これは素直に言わない方がええ。ちょっと搦め手で様子見やね。
「『こっち』側がどっちを指すのかはわからへんけど、わたしはわたし、いつもどんな時でも『八神はやて』や。そこに変わりはないよ。それに、わたしのこと買いかぶりすぎだと思うんやけどなぁ?」
「なるほどな……少なくとも正当な評価をしているつもりだが。まあいい。意見交換といこう。昨日直接伝えた情報、役に立ててもらえたか?」
話は短く正確に。変に探り合うつもりは無いってことみたいやね。全部は話すつもりはないけど、話した内容に嘘は入れない。入れてもユーノ君に看破されるのは間違いない。
正直に言えば、昨日もらった情報はわたしが欲しかったものやった。フェイトちゃんは生まれも育ちも特殊すぎて、どこかの勢力が隠れて利用するには目立ちすぎ。かと言ってわたしも同じやし、となれば問題はなのはちゃん。3つの事件に大きく関与して、しかも事件解決の功労者が、管理外世界の元一般人。利用するにはうってつけやし、もしもうちならまず狙う。このタイミングの良さからすると、3人とも考えてることは同じやったってことやね。
「あー、それなぁ……ユーノ君に依頼されたっていう情報やろ? 仮に全部真実だとするなら、杞憂っていうのが感想やね。今のところは」
「そうか……今のところは、か。どのくらいだ?」
「感覚で言うなら……あと1回は最低でも。2回目は分からへんなぁ……その時は対応しきれるかどうか」
もらった情報自体はあり得る話やし、なのはちゃんの焦りも気づいてる。だけど、正直に言えば今すぐにどうこうなるって話やない。何もなければ、取り越し苦労で終わる話で、そうあってほしい。でも……万が一近いうちに1つでも何か起これば、なのはちゃんは耐えきれなくなる。溜め込んできた不安も悲しみも破裂する……かもしれない。
だからこそ、具体的な対応は早いうちにしておく必要がある。新生活から始まる1年間、感情が不安定なこの時期だからこそ、何が起こるか分からない。対策は……早く立てるに越したことはない。
「万が一のときは、はやてはなのはの方に向かってくれ。守護騎士がどう動くかが不安だが」
「シグナム達は動けへんよ。そもそも、わたしが動けるかどうかも怪しいくらいゆうんは知ってるやろ?あれから時間は経っとるけど……私たちは未だに警戒されとる。辛うじて身の回りには鼻つまみものにされてないのがやっとや」
万が一が地球で起きれば、高い確率でわたしかフェイトちゃんが対応できる。でも……その時に正式な捜査ってなれば、間違いなく身内に近い人材は極力排除される。ましてやフェイトちゃんもわたしも過去の事件の重要参考人。なのはちゃんに何かあれば、管理局が関わらせたくない人物の1位2位や。
「はやて一人くらいなら僕が何とかできる。守護騎士は、局が押さえてくれるくらいの方が僕にとってはありがたい」
「はぁ……難儀やなぁ。なら、クロノ君は他方面の足止めお願いや。はぁ……フェイトちゃんにバレたら何て言われるか」
わたし1人……そう。もしも何かあった時でも力業で事件に対応させてもらえる一人に選ばれたのは、それ相応の責任がある。友達のことを騙しながら、疑いながら……信じて、慕って、関わる必要がある。
フェイトちゃんに知られたら、間違いなく何発か殴られてまうなぁ……絶交されなければいいんやけど。それに、フェイトちゃんは確実になのはちゃんに伝えてまう。あくまでもまだIFの話。もしもの時には、フェイトちゃんにはちゃんと活躍してほしい場面がある。
「それはそれで利用するタイプだと思っていたが。そのくらいの度量はあるだろう?」
「そういうクロノ君こそ、ユーノ君とは『いい関係』なんやろ?」
「ふっ……お互い面倒な立場だな。心配しなくてもフェイトにはまだ伝えてない」
「まったくやね。なら、わたしもエイミィさんには何も言わないでおく。でも、クロノ君が面倒なのは性格のせいでもあるんやない?」
知り合いとこの手のやり取りをするのはいい気分やない。でもこれはなのはちゃんの為や。なのはちゃんにもしもの事なんて何も無いように、先回り先回りして対処するための大前提。だから……これはわたしの仕事や。
「君は僕のことを何だと思っているんだ……そのまま返してもいいんだが?」
「それは勘弁やね。ユーノ君は無限書庫、クロノ君は信頼の厚い執務官、わたしはなのはちゃんの友人として。これからも『いい関係』でいられたらええなぁ、クロノ・ハラオウン執務官」
「ああ……こちらこそよろしく頼む、八神はやて特別捜査官候補生」
話を締め括ってから、わたしが先に大通りに出る。いつもとは違う時間が、これからはいつも通りの時間になる。お互い不自然じゃない程度に、いつも通りの時間。誰にも話せないし、不審にすら思われてはいけない。家族にも、友達にも、職場の先輩にも。だから無反応で大通りに出ると、いつも通り夕飯のお買い物をしてから、いつも通りに帰宅。きっとこれからパラパラとみんなが帰ってきて、なるべく全員揃ってから夕飯。
この「いつも通り」が続くかは分からないから……私は常に先を読もうとする。何があってもいいように、心を平衡に保てるように、「今まで」をお腹の中に飲み込んだまま、客観的に見つめ続ける。
日常回苦手だー。永遠にシリアスとバトルシーンと恋愛シーンだけ書いていたい。