表- 高町なのはとフェイト・テスタロッサ・ハラオウンの日常 -
「ふぅっ…はぁ……んっ!」
左から散弾、上から斬撃……足元を固定しないままディバインバスターを左手で打って、反動で吹き飛びながらシューターセット。
「シュート!」
発射したらすぐに動く。2発はフェイトちゃん用の牽制にしながら、8発ははやてちゃんに飛ばす。
「Master!」
「わかってる。ストライクフレーム展開」
はやてちゃんの砲撃と、フェイトちゃんの追撃。砲撃はギリギリまで引き付けながら、回避運動を取らせまいと発射されたプラズマランサーはストライクフレームで相殺。爆風に紛れて逃げようとするけど、フェイトちゃんはまだ追撃してくる。このままだと逃げられない……でも……背後ってフェイントかけてから……あえて正面から斬撃。ここは読みきった。
「Restrict Lock」
「レイジングハート、モードリリース!」
片足だけでいい。強度もそんなにいらない。躓かせる程度のバインド。砲撃はすぐそこまで来てる。モードリリースしながらバリアジャケットもオフ。
「きゃあぁぁっ!」
砲撃は何とか腕に当たっただけ。衝撃で飛ばされたけど……距離は稼げた。ここからは速度が大事。フェイトちゃんは砲撃から逃げ切れなかったはず。はやてちゃんの空間制圧魔法に囲まれてるけど、発動の瞬間に…!
「レイジングハート!」
「Alright. Set up and protection」
強引すぎるけど……セットアップの時の保護フィールドでダメージ軽減しながら、プロセス完了し次第障壁で防御。そっちはレイジングハートに任せて……
「く、ぅぅぅっ!あぁぁぁっ!!!」
衝撃で両腕が震えながら集束魔法。でも、まとめる必要は無い。それに……集束させるのもここじゃない。
手からちょっと離れたところにでも、集束はできる。シューターは必ずしも手元に展開するわけじゃないから、これも同じ。それに、砲撃するわけでもない。
「く、ん……ふぅ……はぁっ……!」
準備はできた。ちょっと無茶しちゃってボロボロだけど、爆風に紛れながら……ダメ、これは間に合わない……
「にゃあぁ……だめだぁ……」
撃墜アラートが出たところでシミュレーションは終わり。これから使った魔法と戦術、使われた魔法と戦術を復習しながらレイジングハートと念話で反省会。フェイトちゃんが休憩でお茶を入れて帰ってきちゃうまでに何とか……。宿題やりながらこっそり練習してて、休憩時間にしてもらったのに練習してるなんて秘密にしておかないと、また怒られちゃう。
えと、今日の点数は……
「15 out of 100. (15点ですね、100点中)」
「にゃはは……厳しいなぁ、レイジングハート」
「For your sake. (あなたのためです)」
「うー、わかってるけど……」
「Don't worry. You'll get better, me too.(心配しなくとも、まだまだ飛べますよ。私も)」
「ありがと。一緒に飛ぼうね……もっと速く、もっと高く」
「Alright……definitely.(ええ……絶対に)」
会ったときから、レイジングハートは優しくて厳しい。確かに今回のシミュレーションは変化球というか……突拍子も無いことを試してみたかったから、その分点数も悪いけど……確かに中身は最悪だったかも。
裏目に出てたとは思わないけど……役には立ってない。もっと魔法の幅も広げて戦術の幅も広げないと、未知の相手どころか一人で高ランク魔導師複数人相手するのも……。
「やっぱり、バインドとか転送魔法みたいな補助魔法の練習が先かなぁ……あ、でも新しい魔法の方ももうちょっと詰めたいし……ね、どっち先にやろうか」
「なのははその前に休憩です!」
「ふぇ、フェイトちゃん……!?いつから……」「今さっき。なのは……今日の練習は終わりって約束したよね?ほんの一時間くらい前に」
気づけなかった……さすがフェイトちゃん。でもやっぱり迂闊だったなぁ……念話にするべきだったかも。シミュレーションが終わったとは言っても気が抜けすぎ……実戦だったら堕ちてた。気を付けないと。
「そ、そんなに怒らないで……ね?」
「別に怒ってないよ?せっかく訓練終わって宿題一緒にやってたのに、今度はシミュレーションやってるなんて……なのははいつもの事だから」
「な、何のことかなぁ……」
あれ、もしかしてバレてる……? 時間さえあればシミュレーションしてたり魔法の練習してたりとか、いまだに日常生活に魔力負荷かけながら生活してたりしてること……昔クロノ君に聞かれたことはあるけど、最近は話してないはずなのに……。
「授業中、登下校、お昼ごはん、買い物。心当たりは……?」
「あ、あります……」
バレてた……全部じゃないけど。それ以外にもお風呂とか寝る前とかちょっと時間空いた時とかもやってるけど。むしろ、寝る時以外は基本的に魔力負荷かけてるけど。でもバレちゃってるなんて……これから、フェイトちゃんがいる所ではシミュレーションはやりにくくなっちゃうかなぁ……。
「それで、何やってたの?」
「えっとね、フェイトちゃんとはやてちゃんタイプの魔導師を1度に相手した場合のシミュレーション」
フェイトちゃんの顔が呆れ始めてる……やっぱりフェイトちゃんは優しいなぁ。まだ見放さないで一緒にいてくれるなんて。でも、だからこそそんなフェイトちゃんも守るために、負荷をかけたトレーニングしなくちゃいけない。
「はぁ……なのは、今日の訓練内容言ってみて?」
「基礎訓練の後に久し振りにフェイトちゃんと合同訓練だったから模擬戦やって、その後に反省会とフォローアップ」
厳密に言うと基礎訓練はこっそり負荷かけながらだったし、訓練始まる前にも練習してたんだけど……教官に陰で怒られちゃったからフェイトちゃんには言わなくてもいいよね。ごめんなさい、フェイトちゃん。なのはは悪い子です。紅茶が冷めないように魔力で温度を保ってくれてるくらいフェイトちゃんは優しいのに、私はフェイトちゃんに秘密を持っちゃう悪い子です。
「そう。結構ハードな内容だったよね?なのはも結構疲れてたと思うんだけど……なんで今もそんなシミュレーションしてたの?」
「えっと……模擬戦でフェイトちゃんのデータ更新できたから」
これは本当。せっかくだから実戦の感覚が残ってるうちにやらないと勿体ないし、それだったらはやてちゃんのデータも合わせて2対1の特訓した方が幅も広がるし……やりたいことも色々あるから時間は有効に使わないと。対集団用トレーニングに多人数の高ランク魔導師用のトレーニング、それに極端に強い1人を打倒するトレーニングに……本当に色々有りすぎて、時間はいくらあっても足りないくらい。
「なのは、帰りまでレイジングハート没収」
「なんでぇっ!?」
あぁっ、フェイトちゃんずるいっ! こんなところで加速魔法使うなんて……そこまで信用無いかなぁ……確かにこっそり反省会やるつもりだったけど。でも、そうでもしないと時間は足りないし……あ、でもさすがにこれ以上はフェイトちゃんに見捨てられちゃうかも……それは嫌だなぁ。でも、時間は無駄にしたくないし……こうなったら!
「理由が分からないなら返してあげません!」
「あ、ちょっとフェイトちゃんっ……! レイジングハート、今のシミュレーションの反省点とか、対応した訓練メニューとか……色々お願い!」
「Alright, my master. 」
「なのはぁ!!」
今度こそ怒られた! レイジングハート助け……あ、ダメかも。睨まれてる……角とか牙とか生えてそうなくらい怖い顔で。こんなに怖いフェイトちゃん見たこと……あ、先週も見たかも。あれ、3日前だっけ。でも、怒ってるのに紅茶冷めないようにしてくれてるフェイトちゃん、やっぱり天使。
「ひっ……!あ、あの、その……ね、フェイトちゃん」
「ふんだ。もういいよ……なのははオーバーワークで倒れて私に看病されなくちゃ分からないみたいだし」
あ、でも看病してくれるんだ……優しい。それに、いじけてるフェイトちゃんかわいい。さすがに空気読んでやらないけど、抱き締めてあげたいくらいかわいい。顔をそっぽ向けちゃってほっぺ膨らませちゃって……そのほっぺを指でつつきたい……!やらないけど。
「うぅぅ……ごめんなさい」
「でも、直すつもりないんだよね?」
「寝る前はやめて朝起きてからにするね?」
あ、ダメだったみたい。嬉しそうな顔じゃなくて諦めた顔してる。あれ、でも諦めてくれたならこれからもシミュレーションできるから結果オーライ?
あ、レイジングハートもちょっと嬉しそう。レイジングハートはフェイトちゃんほど厳しくないけど……本当は私のこと止めなくちゃいけないんだろうなぁ……。さっきまでバルディッシュに怒られてたように見えたし。
「もういいよ……紅茶飲んだら、数学の問題集の続き一緒に解こう?一緒に、ね」
「じゃあその後は現代文一緒にやろ?宿題、分からないところあるでしょ?」
「ありがとう、なのは。漢字は分かるようになったけど、熟語はまだ難しくて……」
「にゃはは…仕方ないよ。日本人でも難しいから」
フェイトちゃんに嫌われたくないから、帰るまではトレーニングはおしまい。せっかくだから天使フェイトちゃんに癒されながら勉強しよっと。そうしたら、家に帰ってから元気溌剌で憂いなくシミュレーションできるし、早起きして早朝訓練もできる! あ、教官にトレーニングプランの提案書送っておかないと……。
裏- フェイト・テスタロッサ・ハラオウンの独白 -
なのは、前よりも忙しいのかな……自分では取り繕えてるつもりかもしれないけど、全然そんなこと無い。クロノも母さんもみんな心配してるけど、なのははたぶん気づいてない。もっと、もっと……って気持ちが強すぎて周りが見えなくなってるんだ。
だから……バレて無いって思って一日中無茶ばっかりしてる。でも、私には止められない。私の言葉はなのはに聞こえるけど届ききってない。私だって強くならなくちゃいけないけど、それがなのはをより焦らせるから。こういう時ははやてとかアリサに任せるしかできないのは歯がゆいけど……その分、私はなのはの側でなのはを安心させてあげられる。
なのはは正直に言って凄い。もともと才能はあるけど、それ以上に……一日中戦闘のことを考えていられるのが凄い。それも毎日。凄いって言うより……時々少し怖くなる。小さいときから……プレシア母さんやリニスと一緒に暮らしてた時から魔法の練習をしてた私でも、1日の半分も集中していられない。
でも横で見てれば分かるけど……なのはは魔法に没頭……違うかな。執着してる。運動は苦手だけど魔法戦闘は得意で、人間関係は正面突破だけど戦闘は詰め将棋みたいに細かい所を詰めて逃げ道を無くす……確実に決められるタイミングでしか大技は撃たないけど、必要なら強引な手段も使うし、柔軟な対応もしてくる。正々堂々が好きなのに、それはそれとして勝ちに拘れる。
だからこそ、模擬戦でこそなのはに勝ったり負けたりだけど……仮になのはと対立することになったら、私はなのはに敵わない……と思う。一対一なら勝てる気がしない。
はやては天才って言うし、クロノは才能って言うけど……私から見たら全然違う。なのはは誰よりも執着が強い。執着できるから、いつまでもどこまでも上を目指せるし、諦めないでいられる。
同じ局員でなのはに嫉妬してる人は『インテリジェントデバイスだから』って言う人もいるけど、きっと違う。例えばなのはがレイジングハートじゃなくてただのストレージデバイスと出会ってたら……きっと戦闘スタイルが変わっただけ。レイジングハートがいたから『砲撃戦魔導師』としてのなのはがいたけど、いなかったら『近接戦魔導師』のなのはがいたはず。士郎さんの剣術を習いながら魔法に昇華して……また別の強さを持ったなのはがいたと思う。
言い過ぎ?違うよ、バルディッシュ。それがなのはだから。折れない心……でも、それ以上に折れないことへの執着。『不屈の心』じゃなくて『不屈の執着』。だからって私がなのはから離れることは絶対に無いけど。クロノは最近忙しいみたいだし、はやてもたまに疲れた顔をしてる。だから私がなのはから目を離しちゃいけないんだ、絶対に。なのはが傷1つ負わないように、2度となのはが危険な目に会わないように……私がなのはを守る。管理局員だから難しいかもしれない……けど、私個人は絶対になのはを守りたい。
「その時は手を貸してくれる?バルディッシュ」
「Yes, sir. (了解しました)」
あ、ちなみに女の人に『sir』って使っちゃいけないって知ってた?女の人には『ma'am』って使わなくちゃいけないんだって。
「……Yes, ma'am」
ふふっ、変な感じだね。今まで通りでいいよ、バルディッシュ。
「Yes, sir.」
狭間- 蠢く者 -
「それで、手筈はどうなのかね?」
「順調です、元帥。高町なのはの監視、及び周辺人物の行動は隈無くチェックしております」
そこは何も見えない空間。光の一筋も入らない空間に声だけが反響して、やがては消える。しかし静寂が訪れることはない。推測するに50歳ほどの男性の機嫌が良さそうな笑い声。恐らく男性の手駒だろうと想像できる人物の、冷徹な反響。
事前に情報を掴んで天井裏に待機していたとはいえ、顔までは見えないか……でも、会話は十分に聞ける。バレはしない……はずだ。
「クロノ・ハラオウンはどうだ」
「使えそうです。母親共々こちらの手の内にありますので、今頃は偽の情報を流して内部から撹乱している頃かと」
姿を見られぬよう闇に紛れて秘密の会合。お互いですら相手の姿は見えておらず、しかし意思疏通はしっかりとできているようだ。かなり親密な関係そうにも見え、そうでも無さそうにも見える。
「偽の情報の割合は?」
「真実が8割、嘘が2割と言ったところです。内容の報告は受けています」
「よろしい。これで奴らは動けまい。我々の邪魔をする者はいない、ということだ」
奴ら……邪魔者……何のことだ?まだ知らないことがある、ということか。さすがに簡単にはいかないな。
「はたして、高町なのはが我々の味方をするでしょうか」
「するさ。彼女を影で崇める者が多い一方で、疎む者も多い。そいつらを利用する」
やはり狙いはなのはか。過去3回の事件で目立ちすぎだとは思っていたが、ここまで上層部の人間にも狙われているとなると……もう少し身長に動く必要があるな。武装隊や魔導師だけじゃなく一般職員にも注意しておく必要がある……か。
「なるほど……それでクロノ・ハラオウンを」
「そう言うことだ。奴は有能だが、他の奴等は使い方を間違えている」
「さすがです、元帥。それでは我々はそろそろ時間ですので」
時間……何かするつもりか。でも元帥から目も離せない……人手不足は否めないな。さすがに無理があったか。でも仕方ない。取り敢えず長期的な危険を考えて元帥を優先しよう。
「ああ、最高評議会の老害共を引きずり下ろすぞ、同士よ」
なるほど、最終的な狙いは最高評議会か……帰って情報を精査するか。ペラペラ喋ってくれて感謝するよ、元帥と誰か。
なのはの頭脳労働者陣はかなり有能だと思ってる私。