あと、若干オリジナル要素入ってます。教導官のイケオジとか、レイハさんの新形態とか。イメージ的には、ケリュケイオンとリボルバーナックル(両手)を足して2で割ったくらいのゴツさかな……?
表- 八神はやての戯れ -
今日は出勤の日。放課後に友達のお誘いを断るのは辛いけど、小学校からの子が多いから忙しいの分かってくれてて、少し安心できる。執務官試験の対策にデスクワーク、今日は無いけど戦闘訓練もあるし……なのはのことはいつも気になる。色々な部署に出向して回ったりもするから時間はいくらあっても足りない。
それでもちょっとした時間はできるから、そういう時はカフェで休憩……でも今日はいつもの席に先客がいた。
「あれ、フェイトちゃんやん。今日はなのはちゃんのお世話はええの?」
いたのははやてだけど、リインは一緒じゃないみたいで今日は1人。開口一番にからかってくるのがはやてらしいけど、反応してたら切り無いからまともに対応しちゃうのが実は一番。
前に「お節介なお母さんみたいに言って……!」って怒ってみたけど、「はいはい、ラブラブやね」って返されちゃったからって言うのは内緒。
「うん。今日はシグナムが見てくれてるから」
「あー、そういえば言っとったなぁ」
「はやてこそ、リインはいいの?」
リインははやてのデバイスって扱いになってる筈だから、一緒にいることは多いって聞いてるけど今は違うみたい。一人だけだと、はやては何となく寂しそうに見える。
「今日はヴィータのところで研修や。うちの子ら皆、まだ部署が安定せえへんのや。フェイトちゃんもやろ?」
「さすがに私は収まってきたけど、まだ少しは……。なのはは基本武装隊だけど捜査官もするし、色々な色々な高ランク魔導師さんと戦闘訓練もしてるって」
戦技教導官になるために勉強も頑張ってるみたいだけど、なのははやっぱり訓練の方が多い。私はむしろデスクワークの方が多いけど、その分執務官試験との両立は厳しい……次こそ受かりたいなぁ。
「なのはちゃんは、やっぱり戦闘要員みたいやなぁ……フェイトちゃんはどっちかって言えばデスクワーク中心なんやない?」
「半々くらいかな。今は落ち着いては来たけど色々なところをたらい回しになってるのは本当だし。アルフは……そろそろ前線は引退するつもりかも。家で母さんの家事のお手伝いしてることも多いし」
中学生が近づいてきた頃からアルフは前線にはあまり出なくなってて、家で働くことも多くなってる。ずっと一緒だったから、仕事の忙しさ以上にそれが寂しい。今度の日曜日はちゃんと子犬モードから解放してあげて、色々発散させてあげないと……。
「なかなか一緒っていうのは無理なんやね……わたしらも家族バラバラ……っていうよりも、なるべく一緒にならへんようにされとる」
それはありそう……なのはが右腕無くなったときも、主治医はシャマルさんから早々に変わったし……。なるべく関係者を同じ部署には置きたくないけど、機嫌を損ねたくはない……そういうことかな?
データは定期的に取りたいみたいだから訓練って名前の模擬戦だけはやるし、色々な武装の実験台にもされるから意外に寂しくは無いけど。
「あー、平気?もし何かあったら私でも誰にでも……」
「平気や平気。よっぽど家に帰れば一緒やし、メリハリが付いてええくらいや」
平気って言ってても、はやてはなのはとは違うベクトルで無理してることが多いから、少し信用できない。ただでさえ敵視されてることが多いから……。
「それよりもなのはちゃんなんやけど……シグナムと一緒で平気やろか」
「どういうこと……?一応、無茶はさせないようお願いはしてきたけど」
「シグナムがなぁ……今朝、凄く機嫌良かったんや」
機嫌がいいシグナム……それは少し不味いかもしれない。シグナムはいつも冷静でいてくれるけど、戦うことってなると時々抑えが効かなくなることもあるから。だから予め朝に連絡しておいたんだけど。
「だ、大丈夫だと思うよっ! シグナムも『加減はする』って言ってたし……」
「フェイトちゃん……シグナムの『加減』ほど信用できひん言葉はないよ?」
シグナムの加減……言われてみれば確かに。10から9に減らして加減って言ってそうな気もするし……その気になったら12くらい出しそうな気もする。
そこに関しては人のことを言えないけど。
「で、でもさすがになのはだって、シグナム相手に接近戦は避けるんじゃ……」
「近接戦闘のプロフェッショナルと真剣勝負できる機会……なのはちゃんが見逃すと思えへんなぁ」
確かに、2年前のなのはならともかく……デバイスの改造とか近代ベルカ式のデータ取りに協力してる、今のなのはなら……本気のシグナムに果敢に接近戦を挑むかもしれない。そうなったらちょっと危ない。たたみかけるようにはやてが口を開く。
「シグナムを煽って乗せて、空いてる人にデータも取ってもらいながら、好きな距離、嫌いな距離を色々試してできるだけ手札を引き出して……なのはちゃんならやりそうやない?」
あ、あぁぁ……ダメ、それはダメ。絶対にやる気がしてきた。なのはならやりかねない。止めなきゃ……でも仕事が…でも止めなきゃ……でも仕事が……でも止めないと何が起こるか……。
「い、今からでも合流した方が……!」
「無理……っていうよりも無駄やね。まあ、さすがに本気1回2回でどうにかなるほどなのはちゃんの体も負担はかかってないやろうし……止めても止まるような性格でもないし。それに、今日の仕事も残ってるんやない?」
こういうところははやては鋭い。鋭いし、よく見てる。シャマルさん経由でなのはの体調のこともたまに聞いてるって言ってたし……心配性なところがあるからかも。
「なら、お互いに仕事はできるだけ早めに切り上げて二人のフォロー、だね」
「そうやなぁ……。今日は桃子さん達も忙しい言うとったから、わたしの家でお食事会やね。お説教しながらリフレッシュや」
ああ、明るいなぁ……はやては明るいから、元気をもらえるし、安心させてくれる。私にはできない方向で皆のことを支えてくれるから尊敬してる。でも、それだけに抱え込みすぎることもあるんだけど。
「平気? 急に二人も増えたらはやても大変なんじゃ……」
「それがな?今日は急にシャマルとザフィーラがお仕事入って食卓が少し寂しかったんよ。っと……桃子さんとリンディさんの許可も今取れたよ」
「そうなんだ……っていつの間に。母さんだけじゃなくて、桃子さんの許可なんてどうやって……」
「だって、わたし2人とメル友やし」
はやてらしい……凄く。母さんがはやてとメールしてるなんてこと知らなかったし……なのはも知らないと思う。こういう風に知らない間に人脈を広げるのが、はやては上手い。
「そ、そうなんだ……それじゃあお願いできる?私は一刻も早く仕事を終わらせないと……!」
「なんや、もう行ってまうん?まだ休憩時間残ってるやろ?もう少しだけお話ししてったらええのに」
「だけど、早くしないとなのはが無茶しすぎちゃうから。私が見てないとすぐに無茶するし……レイジングハートは意外と止めないし」
せっかくのお誘いだけど……なのは達は止めても止まらないのに、止めないと無茶が加速していく。こう言うところはバルディッシュとはやっぱり違う子なんだって感じる。
インテリジェントデバイスは、ちゃんと個性が根付いてる。
「I'm annoyed. (困ったものです……本当に)」
「なんや、2人とも結構心配性やなぁ。そんなに心配なん?」
「当たり前だよ。今度何かあったら、腕じゃ済まないかもしれないし」
腕だけじゃなくて脚とか……お腹とか……想像しただけで怖い。
「We don't want to lose my friend. (親友を失いたくはありませんから)」
「なんや、バルディッシュえらい入れ込んどるなぁ……そんなにレイジングハートのこと好きなん?」
あれ、珍しい。はやての矛先がバルディッシュに……でも止めない方がいいかも。普段は無口な子だから、正直私もすごく興味ある……。ていうか、そうじゃなくても興味ある……インテリジェントデバイスの……恋愛事情!
え、でもそこまでプログラムされてるの?ただの友達かもしれないし……。
「She's good "friend." Nothing more, nothing less.(『親友』です。それ以上でも以下でもありません)」
「あははっ、そんなに必死にならなくてもええんやない? そんなに『友達』として大好きなん?」
なんだろう……お互いに難しい駆け引きしてるような……。あ、でも心なしか友達の部分だけバルディッシュも強調したような……あれ、ひょっとして、ひょっとする?
「Are you tease me?(……騙しましたね?)」
「わたしは何も騙しとらんよ?あれ、何と勘違いしたのか教えてもらえへんかなぁ?」
ああ、はやてすっごくいい顔してる。これ以上無いくらいのオモチャを見つけたみたいな……。でも、こんなバルディッシュ見たこと無いから新鮮……もっと聞きたいけど、そろそろ限界かな?
「I don't know.(知りません)」
「あらら、嫌われてしもた。それじゃあわたしは仕事に戻らなあかんから、また後でなぁ」
あぁぁ、残念……でも得した気分かも。これからはバルディッシュとこういう話をしていけたら楽しいのかな?
でも、バルディッシュ……敵が強大すぎるよ。
「She's lively…as usual. (騒がしい方ですね、相変わらず)」
「あれでもかなり心配性なんだよ? それに優しいし、面倒見もいいし。他のところで色々台無しにしてるのは否定しないけど……」
家庭的だし仕事もできるし、モテてもおかしくないのに損をしてると思う。よくよく話してみると意外に乙女なのになぁ……。
「By the way……the otherday, she groped……(そういえば先日も胸を……)」
「そうそう、胸を…って、バルディッシュ!?そ、それ以上はだめ!って、何で知ってるのっ!?」
「She provide the video for me now.(八神はやてから映像を提供してもらいました)」
これ絶対にバレてた……庇わずに面白がってたこと。普段は怒らない分、意外に根に持つんだよね……。それにしても、あの時のお風呂場でのことがまさか録画されてて……しかも、バルディッシュに送るなんて……!
「はやてぇっ!!」
うぅぅ……はやての癖はどうしたら治るんだろう。自分だって大きいんだから、自分のを、その……揉めばいいのに。そんな事言っても、「自分でやっても楽しくないんや!」とか言いそうだけど。
「Also, I received a e-mail from her.(それと、彼女からメールを受信しています)」
「開いてくれる?」
どうせ、またからかわれるんだろうけど……
なのはちゃんのことを一番知っとるんは、フェイトちゃんやないよ?だから、もうちょっと肩の力抜いてこう?
八神はやて
「バルディッシュ、これだけ?」
「Yes」
どういう意味だろう。流れで考えてからかわれるのかと思ったけど……心配されてる?でも、心配されてるような…挑発されてるような……でもやっぱりからかわれてる?
どっちにしても、はやてはきっと私の気を紛らわせようとして言ってくれてるんだと思う。でも何だろう……ちょっとモヤモヤするような、そうでもないような。弄ばれてるようで、本気のようにも見えるのが少し不可解かも…しれない。
烈- 戦闘狂の宴:高町なのはの場合 -
結界が張られたトレーニングルームの空を舞いながら、牽制のシューターを撒いていく。シグナムさんに接近されないよう弾幕を絶やさないようにながら、アクセルとコントロールを使い分けて隙を見据えて……
「はぁぁっ……!」
それでもシグナムさんは蛇腹剣でシューターを一掃してから突っ込んで来る。左右のフェイント……正面……違う。右の……下段!?
「っ…、くぅぅ…!レイジングハート!」
「Break Mord」
踏み込みの鋭さに注意しながらギリギリのところで杖の部分で受け止める。でも受け止めた次の瞬間には、もう刃はそこに無い。視線で追いながら誘導弾の生成……は間に合わないから考え方を変える。
今は新形態の試運転も兼ねた模擬戦。試したいのは新形態だけじゃないけど、とりあえず今日の目標はシグナムさんに近接で勝つこと。振り下ろされる剣を、レイジングハートが形を変えたアーマーグローブの甲で受け止めて凌ぐ。
「ほぅ……新形態か。面白いっ!」
「まだお試し……ですけどねっ!!」
「構わんっ!」
「Explosion」
レヴァンティンが炎を纏って破壊力が上がる。 やっぱり正面からだと押しきられるかな……。でも、威力が発揮される前に止める!
「レイジングハート!」
「Hoop bind」
「バスターっ!」
「Short Buster」
拘束してから最速砲撃。バインドをかけたまま、集束も何もしない単純な砲撃。発射速度の分、威力は削ってるからすぐに離脱。一応ダメージは最小限で離脱できたから、今のは及第点。
でも間違いなくダメージはあまり通ってない。寸前で相殺されてる。
「今のは良かったぞ、高町。並の騎士なら撃墜できる」
「ありがとうございます。でもシグナムさんに通すには今一つ、ですね」
煙が晴れると、少し甲冑を汚しただけ。手応えはあまり無かったから当たり前だけど、多少不意は突けた。誘導弾を生成しようと思ったけど、休憩のブザーが鳴ったから最低限の警戒だけ残して一休み。
「ところで、そのデバイスの形態は何だ?」
「カノン用のモードをオミットする代わりに搭載してもらったんです。杖だと手が塞がっちゃいますから」
そういえば、あまり会えてなかったからシグナムさんには初お披露目だったかもしれない。杖を介して魔法を使うよりも、できることは自分でできた方が幅は広がる。単純な砲撃くらいなら杖からじゃなくても撃てるし、デバイスが無くても何とかなる。
そうすれば、レイジングハートには私が得意じゃない精密な魔力操作の補佐とか補助魔法の手伝いとかしてもらえて、戦術が広がる。装甲もつければ、いざとなったら近接戦闘にも転用できる。
「なるほどな……それで使えるようになったから、私相手に試運転か?」
「はい、何とか戦術に組み込めるくらいには使いこなせてきましたから」
半年くらいはかかったかもしれないけど、一応実用段階くらいにはなった。少しずつ模擬戦には入れてたんだけど、今の感じだとベルカ式の人にも対応しやすくなった……かな?
「レイジングハートでは、接近戦を想定した耐久に難があると思うが」
「本来の使い方は補助なんです。アームドデバイスの志向も取り入れて近接戦闘もできるようにしたんですけど、正直オマケ程度で」
「ふむ……それならもう少し付き合おう」
訓練終わってからワガママ言って付き合ってもらって……これで5戦目。さすがに疲れてきたし、さっきは引き分けだったけど……次こそは!
「はい。よろしくお願いします、シグナムさん」
炎- 戦闘狂の宴:シグナムの場合 -
テスタロッサとは違った駆け引き……正直そそる物があるな。あの距離で砲撃を放っておきながら、私が防いだことに気付いて距離を取る賢さ、剣撃に反応する反射神経……やはり面白い。砲撃の他にも鍛練を積んでいることは知っていたが、つまみ食いでもこの感触……少しばかり本気を出してしまってもいいか。
「手心は加えずにいくぞ、なのは」
「大丈夫です。勝つのは私ですから」
向き合ったところで開始のブザーが鳴り響く。瞬間に飛んでくる誘導弾は……突っ込みながら衝撃波で破壊する。最短距離で切り込むことが砲撃魔導師を制する手段の1つ。そしてもう1つが
「レヴァンティン!」
「Schlangeform」
「ふぇっ!?きゃあっ……!」
先手を取り続けること。後手に回って空間を制圧されては面倒が多い。牽制させる隙も罠を仕掛ける隙も与えずに制圧すること。連結刃に魔力を乗せて、誘導弾を破壊しながら攻める。だが、狙いは攻めることではない。
「レイジングハート、いくよっ!」
「そこだっ!!」
この形態の欠点は足が止まる事だが……その分狙いを定められる。空を舞う高町を刃で追いながら鞘を呼び出し……砲撃を仕掛けようとした瞬間に、鞘を投擲する。
作る隙は一瞬でいい。ほんの一瞬で、ミドルレンジを必殺の間合いに変えられる。
「えっ……?鞘だけ!?」
「一手遅いっ!」
レヴァンティンを剣に戻しながら、最短距離を駆け抜ける。高町はまだ攻める体勢ではないし、バインドを仕掛ける素振りも無い。つまり……ここが攻め所。剣を振りかぶり……
「紫電……」
「今っ!!」
「いっせ…ぐぅっ!」
後方からの衝撃。ダメージはほとんど無いから誘導弾1発……隠しておいたものを脳波コントロールか。だが、付与した魔力は残っている。
「このまま斬るっ!」
「させ、ないっ!!」
体に突き付けられる砲撃の先端。こちらが斬るのが早いか、砲撃が発射されるのが先か……
「レヴァンティン、カートリッジ……!」
「ロードしないでくださいっ!!」
ブザーは鳴っていない……が、響き渡る大音量のマイク音声に反射的に動きが止まる。この声は……
「テスタロッサ……?」
「フェイトちゃん……?」
裏- フェイト・T・ハラオウンの逡巡 -
思ってたよりも仕事に時間がかかったけど、取り敢えず一区切りつけてから退勤手続きをして、シグナム達の所に向かってみた。予定よりも一時間以上過ぎてるし、もう終わらせてるとは思うけど……終わらせてないかもしれない。
心配が抜けきらないまま近くまで行くと、案の定の爆音と衝撃。急いで入ってみたら、データ記録の職員さんもいつもの初老の指導教官さんも呆れた様子で画面の向こうを見ていたから、聞いてみたら、
「模擬戦やりたいって言い出しちまったんだよ。もちろん基礎訓練に戦闘訓練の後だ。俺は止めたんだが……」
ってことらしい。話を聞いている間も衝撃は響いていて、思ったよりも本気でやってるみたい。はやての不安が当たっちゃったみたいだね……。
「聞かなかったんですね……すみません」
「いいや、嬢ちゃんは気にしないでくれ。あー、でもそろそろ止めてくんねえか?ボチボチ不味いことになってらぁ」
「えっ……あっ!!」
シグナムが紫電一閃で斬りかかって……一瞬妨害されたけど、すぐに体勢を建て直してる。でもなのはも……砲撃!?シグナムもカートリッジ追加で使ってるし……止めなきゃ本当に怪我する!
「カートリッジ……」
「ロードしないでくださいっ!二人とも終わりですっ!」
ギリギリ、本当にギリギリの所で止められた。突き飛ばしちゃった指導教官の人には謝らなくちゃだけど、今は二人にお説教が先。
「不思議そうな顔してもダメです!なのは、オーバーワークは禁止だって昨日言ったよね?」
「あ、あー……にゃはは…忘れちゃってた」
嘘だ。絶対に忘れてない。レイジングハート隠しながら焦ってるし……誤魔化すつもりだったに違いない。後でお仕置き決定。
「シグナムも!本気でやらないで、無理もさせないようにお願いしましたよね!」
「本気と言ってもお互いに少しだけだ。それに、私は無理をさせていない」
「止めてくださいって意味で言ったんです!」
「そうか。すまなかった」
この人はこの人でもう……!はやての言ってたことが当たってた。悪気が無さそうなところとか、怒ってるのに気づいたら簡単に謝るのに、多分次も同じ事をやりそうなところとか……本当に戦いには目がないっていうか……!
私も人の事は言えないんだけど……
「すまなかったって、そんな簡単に……はぁ。もういいです。戻ってきてください」
「え……!フェイトちゃん、今いいところだから後少しだけ……」
「なーのーはー?レイジングハート没収だけじゃなくて、訓練も暫く禁止にされたい?」
「にゃあぁぁっ!ごめんなさぁい!」
なのはのごめんなさいも、絶対に分かってない。周りの人がどれだけ心配してるのかも、あまりよく分かってないんだと思う……自分が守ればいいって思ってるから。
それは確かに、強くなることも必要だけど……でも、オーバーワークは意味無いのに。
「嬢ちゃんも苦労すんなぁ……」
「ありがとうございます……あの、機材壊したりとかは……」
「そりゃあ大丈夫だ。一応開始と休憩のブザーは守ってくれたし、威力自体も抑えてたみたいだからな」
この人は頼りになる。それは知ってる。1年前になのはの訓練担当になった人だ。若い人じゃなくて最初は不安に思ったけど、初老でも現場で動いてるだけあって、余裕がある教導をしてくれるから安心できる。ワガママに弱いところはたまにキズだけど。
でも、これ以上はって所の一線は絶対に越えさせない人だ。さっきも、私がいなかったら自分で止めてたはず。私の顔を立ててくれただけ。
「そうですか……あの、次からはバインドで拘束してでも止めてください……特になのはを」
「わぁったよ。共有しとく」
「ご迷惑おかけします……」
「いいってことよ。未来の……っつーか、今現在も管理局のエース達だからな。嬢ちゃんも含めて」
カッコいいおじさんだなぁ……余裕あって、まさに大人って感じがする。ベテラン、年の功を地で行ってる人だから、なのはの教導を続けられる。それでもなのはは、見えないところで無茶するけど。
「そんなこと……」
お父さんって、たぶんこういう感じなのかもしれない。
「謙遜するな。テスタロッサにはそれだけの実力はある」
「シグナム……ごまかされませんよ?」
いつの間にかシグナムが戻ってきてたけど……やっぱり、堂々としてる。
過保護気味だって分かってはいるし、シグナムはシグナムの考え方げあるのも分かるけど、なのはには過保護な人がいた方がいいから、私はこのスタンスを変えるつもりはない。
「それはすまなかったと言っているだろう?だが、高町には実戦経験をできるだけ多く積ませることが必須だと考えているのも事実だ」
「シグナム……!」
「あー、そりゃああるかもな」
「教官さんまで……!」
少し、聞きたくないかもしれない。正論な予感がするから。こういうのって何て言うんだっけ……良薬は口に苦し?
「まあ大人しく聞け。話程度でしか知らないが、たぶん嬢ちゃんは訓練を積み重ねてくタイプだろ?それで長所を伸ばしてくタイプだ。たぶん、良い師がいたんだろ」
「はい……一応、その方向性でやって来ました。変換資質と適正もハッキリしていましたし、魔法の先生も、特別な人が……」
あの時も思ってたけど、今改めて考えればリニスは先生としてバランスがよかったんだと思う。家族として接してくれたけど、先生のときはそういうこと関係なしで厳しく優しかった。バルディッシュを近接用に作ってくれたのも、私の適正を分かってくれてたから。
「だろうな。だが、高町の嬢ちゃんは違う。ありゃあ必要に駆られて実戦の中で磨かれてったタイプだ。強いて言うならシグナムタイプだな。詳しい事情なんざ興味ねえが……お前さんも恐らく実戦で磨いたタイプだろ?」
「はい。日々の鍛練は欠かしませんが、数多くの戦場で磨かれた物はいくつもあります」
それはよく分かってる。シグナムの戦闘の勘には私は敵わない。身のこなしも攻めの鋭さも、まだまだ足下にも及ばない。
だから色々な技術を使うんだけど……なのはも、私に近いと思ってた。
「まあ、そりゃそうだな。見りゃあ分かる。んで、高町の嬢ちゃんだが……あの子も勘が働くタイプだな。なんつーか、本能的に危険を察知できるっつーか、戦ってるときに視野が狭まらねえっつーか。ありゃあどう化けるか分かんねえな」
「あなたは教導においてかなり経験豊富だとお見受けしますが、それでも分からないと?」
「ああ、分からねえよ。砲撃を極めるってんなら推測できんだけどよ。大方、体に爆弾抱えながら無茶ばっかして、後遺症なんか抱えながら30前には引退するか堕ちてただろ。砲撃ってのはそんだけ負担がでけえ。だが……今の嬢ちゃんはあらゆるものを吸収するつもりだ。遠近補助の枠に捕らわれず、必要なもんを必要以上に取り入れて備えようとする奴の先なんざ分かるかよ」
なるほど……言われてみれば納得できる。前までのなのはは完全に砲撃が中心の組み立て。でも砲撃は……一撃が大きい代わりに負担が大きい。なのはみたいに無茶ができちゃうタイプだと、相性は最高だけど最悪。
でも、魔法が決定打にならない相手と戦ってから……なのはは力押しだけじゃなくて搦め手も積極的に覚えるようになった。ユーノに補助魔法を習いにも行ってたし、私のところにも高速移動について聞きに来てた。はやてのところに広域魔法聞きに行ってたし、クロノに戦術を習いにも行ってた。色々……積極的になった。
「だから、実戦経験を増やして取捨選択をしやすくさせる……そういうことだ。もうすぐ高町も戻ってくる。そうしたら帰るぞ」
そっか……選択肢を増やしたからこそ、取捨選択をできる能力が必要不可欠。でもそれは実戦の中で磨くしかない。
強くなるには実戦が必要だけど……実戦を増やすのは、長期的に見て体に負担がかかる。これは、難しい問題なんだ……最終的にはなのは次第にしかならない。
「あ、はい……そうだ、シグナム。今夜は……」
「二人ともうちに来るのだろう?先ほど主はやてから連絡は受けた。高町にも伝えてある」
「ありがとうございます、シグナム」
こう言うところは頼りになる。シグナムは模擬戦では対等に向き合ってくれるけど、視野とか気づかいとか、出来ることもやってることも大人で、私はやっぱり敵わない。
「きぃつけて帰れよ」
自分の管理はできているつもりだったし、だからなのはのことも気にかけられてるつもりだった。でもまだまだ考えが足りなくて…でもオーバーワークは絶対にさせないのも間違ってないはず。私は……どうすればいいんだろう。少し分からなくなったかもしれない。
何となく……何でだかはやてはそういうことが分かってる上で行動してる気がして、無性に羨ましくなった。
デバイスの会話書くのって意外と楽しい。ちなみに、まだ使っていませんが念話をしてるときは『』を使う予定です。
カップリングはまだまだ決定されていませんし……想像の余地を残したまま焦らし続けるのは作者的には凄く楽しいです(笑)
戦闘シーンって難しいんですけど、やっぱり書いてて楽しい。