「風よ踊れ、風よ舞え、全てを薙ぎ払う風を起こせ……」
クルッと一回転し詠唱ありの魔法を放つ。
まあ、ただ単純に詠唱を真似ているのではなく、数々の工夫を組み込んではいるけど……
まず、ウィンドダンスという魔法は本来そよ風を起こす程度の魔法なのだが、始めの一節「風よ踊れ」の時点で周りの雑音が飲み込まれるほどの音を発生させる風が発生させる。正確には僕が手を叩くことで発生した僅かな風を加速させる。
そして次の「風よ舞え」という説で風が暴風となりその数を軽く数倍に増やす。これも他の空気と先に起こした風と同じ状態に同期させるだけ
そして最後の節……「全てを薙ぎ払う風を起こせ」で暴風を収束、全てを切り裂く刃が元素と元素の結合を寸断する様をイメージし
「ストーップ!」
シンに止められた。
「なんで止めるのさ」
「あのままだったら、この建物吹き飛んでいたよな!?」
「だってみんなが僕の魔法の詠唱有りバージョンやれっていうから」
「それは遠慮なく魔法をぶっ放せってことじゃないからな!」
「ち…」
「なんで舌打ちした!?」
「あはは。まあ別にいいじゃない。放つ前でも僕の実力は多分みんな分かったでしょ?」
僕はみんな…シンを創設者に仕立て上げた研究会『魔導探究会』に入会予定のSクラスのクラスメイトの方を向いた。
『『『コクコクコク』』』
今は全員が青ざめて首を振っている。
「おとなしそうな顔してやることはシンに似てえげつないんだから…やっぱり兄弟ね」
「兄弟?ボーウェンくんとウォルフォードくんが?」
「厳密に言うと僕は拾い子だけどね」
「え?そうなの?」
「血は繋がってないよ。僕は森で一人で暮らしていたところをおじいちゃんに拾われただけだからね」
「つまりその魔法の才能は遺伝ではないと」
「そうなるね」
ま、僕の場合は遺伝より確かでえげつない力で魔法の才能は持ってるけど、その他は僕由来の力だし。例えば飽きずに鍛練を続けたり、変な魔法を考えたり体を鍛えたりだとか。継続は力なりってね。
ちなみに今は入試の時に使った魔法をみんなに披露する時間。
なのに、シンの青い炎でやばいのは満足したのかマリアの「そういえばヒューマかシンが詠唱有りで魔法を使ったらどうなるのかしら?」という疑問の答え合せの為、僕だけ別の魔法を使う羽目になった。
「それにしてもすごい…やはり、私たちとあの二人だとてんで異なるな」
「魔法に必要なのは制御能力とイメージの補填、それとプロセスを組み立てそれを実行することだからね」
「プロセスの実行?」
「そのあたりは研究会の時で。驚きは多いほうがいいでしょ?」
「この時点でかなり驚いてるわよ……」
そこで授業が終わり、帰宅となる。
まあ、一応僕とシンはシシリーの護衛だから帰宅も一緒。
ちなみに言うと……
「カートくん今日は学校自体来てなかったよ」
「なら護衛の意味はないってこと?」
「だね。シンは気がついていないといいけどそこまで鈍くはないだろうし……」
「ん?でも、ヒューマ的には護衛はそんなに乗り気じゃないんじゃないの?」
「ま、護衛はね。でも、年頃の男の子としては可愛い女の子と一緒に登校できるかどうかっていうのは割と重要だからね。特に……」
「特に?」
「僕はマリアには存外好ましい部類に入る印象を抱いているからね」
「往来の間で言うことじゃないんじゃない?」
「ん〜?でもさ、一目惚れってほどじゃないけど、恋人とか夫婦とかにはマリアになってほしいなぁ〜っていう結婚願望はあるよ」
「……本当にこの場で言う台詞じゃないわよね?」
「そう?僕は好意を隠すようなことはしたくないよ。まあ、それと同じように嫌悪感も隠す気ないけどね」
うーん、やっぱり口説いてるように聞こえるかな?それにしてもシンもシシリーももう少し早く歩いてほしい、広域の感知魔法は意外と疲れるからさ。
僕は帰って研究したい魔法とかやりたいこと結構あるから帰ったら即座に睡眠とかイヤだよ。
まあ、マリアと一緒に居られる時間が増えるのはいいよね。
ん?
「どうかしたの?」
「いや、かなり遠くで魔物の気配……最近多いから気にしなくていいけど」
「それって危険なんじゃないの?」
「どうなんだろ?今までも別段異常なさそうだったから僕は気にしてないけど?」
ジーク兄やクリス姉もそういうこと特には入ってなかったしディスおじさんからの注意喚起とかもない。
ま、僕とシンなら対処できるだろうから伝えなかったと言われたら頷くしかないんだけどさ。
「もし魔物に襲われても僕とシンがいれば問題ないし、ミムも普通の魔物なら駆逐できるし。多分マリアとかシシリーとかの僕らの友人は怪我ひとつないんじゃないかな?」
「それは…安心するところなのかしら?驚くばかりでろくに反応できそうにないんだけど?さらっと魔物倒せるって言われたし…」
「え?でも、魔物ハンターを生業にしてる人もいるんだからみんなそれなりに戦えるんじゃないの?」
「そんなわけないでしょ…」
※※※
というわけで翌日。
午前の授業が終わりお昼休み。Sクラスは10人だから一かたまりで行動しやすい。
食堂のテーブルも示し合わせたように十人テーブルだしテーブルを独占してお昼をとる。
そんな時だった。
「そういえばヒューマの索敵魔法ってなんで移動中にも使ってるの?」
「ん?そうだね。まず、街中で僕たちのことを認知している人ってどれくらいいると思う?」
「認知?えっと……数百人?」
「それだと僕らのことを知っている人かな。この場合は『街中でヒューマ=ボーウェンだと認識して行き交う人』かな。そうなると何人ぐらいだと思う?」
「そうなると……数人ぐらいじゃないかしら?」
「それはなんでだい?」
「だってすれ違う人が誰かだなんて運よく顔が見えたりしないといちいち考えたりしないわよね?」
「そう、つまりは互いに無関心であること。で、僕が感知しているのはその人たちの波長なんだ。波長がわかればある程度その人がどんな感情を向けてるかわかるんだ」
「そうなの?」
「うん。例えば感知するまでもないけど、マリアとシン以外のみんなは今僕にドン引きしてる。あ、若干名違う人もいるけど」
そこでシンが呟いた。
「聞けば聞くほど思うけど、俺とヒューマだと索敵の方式違うよな。俺は害意か何かがわかるだけだし」
「普通それでも十分だよ。広域のをする場合、僕とシンとじゃ疲労の具合も変わってくるんだし」
「そうは言ってもなぁ……」
「害意?ってなんですか?」
そこで疑問に思ったのかわりと近い席に座るトールが問いかけてきた。
「そうだな、トール魔物狩ったことあるか?」
「あるわけないじゃないですか。少し前まで中等学院生だったんですよ?」
「俺が感知してるのは波長じゃなくて魔力。魔物の魔力って普通のと違ってなんといか禍々しいっていうのか?どこか普通じゃない感じなんだ。そういうのって人間にもあるみたいで、俺が感知するのは『悪意を持った魔力』って感じかな。魔力全般を感知できるからヒューマとは分野が違うから俺たち二人が同時に索敵すできればいいんだけど、ヒューマが一人でいいって言うから俺は使ってないだけ」
「ちょっと待ってください。つまりシンくんは魔物を……」
「うん、倒したことあるよ」
「参考までに何歳くらいの時?」
「俺は10歳かな。ちなみにヒューマは6歳で魔物狩ってたらしいよ」
「「「へ?」」」
「そういえばそうだったね」
「ちなみに俺は3mぐらいの熊が初の獲物。ヒューマは大きめの鹿」
「「「熊!?」」」
「シン、その辺りにしといたほうがいいわよ。私は慣れたけど他はそうじゃないんだから」
「そうだねぇ。僕とシンはぶっ壊れだし。それにそろそろ時間じゃないかな?」
僕がそういうとSクラス全員が辺りを見回す。食堂にはもうほとんど生徒がおらず、午後から予定されている研究会説明会に向かったものだと推察できる。
「じゃ行こうか。遅れると上級生に反感持たれるだろうし」
「そうね」
説明会は講堂で行われるらしく、食堂からはグラウンドを突っ切った方が早い。
だけど、今回は悪手だったかな。
「1〜6障壁!」
「ヒューマ?」
オドロオドロしい波長とともにカートくんが現れ魔法を放ってきた。
距離はあるけど僕が気がつけないなんて……
誰かの差し金?
「オーグ!シシリー!魔力をまとって!僕とシンで迎撃するから他の人たちは逃げて!」
「だけど!」
「正直邪魔!あの火力、ゴメンだけど僕とシンじゃないと対処できないと思う!」
ドォォォォッォン!と爆音を立て僕の出した障壁とカートくんの魔法がぶつかり合う。
「なんで!謹慎中なんだろ!」
「誰かの差し金か、なんにせよカートくんだけで行っているわけじゃなさそうだね。ま、なんにせよもう許す気はない。殺人未遂なら自己防衛してもいいよね?」
「ああ、今までは未遂だったから見逃していたが、もう到底見過ごすことはできんな」
そこでカートくんの波長が人間のものから外れていく。
それに加え魔力も膨張していく。
「あれって制御できてると思う?」
「……できてないと思う」
「……右に同じく」
「デスヨネー。ま、想定の範囲内。オーグ、みんなを頼んだよ!」
そう言って僕は異空間収納から6本の短剣を取り出す。
投擲してカートくんを牽制するけど……
「魔力の暴発で吹き飛ばす……そんな芸当ができるなんてね……!」
僕が目を向けりとカートくんの目は……
魔物を象徴する淀んだ赤に染まっていた。つまり
「魔人化……へぇ、面白くなりそうだね」
※※※
この世界において
人類史では人間の魔物化の例は過去をさかのぼっても一件しかない。
その事件が起こるまで人々は魔物化は魔力を操れない動物にのみ起こる現象だと考えていた。
だからこそ人間の魔物化……魔人化が発生した時、人々は恐怖した。
人間が魔物化の例外ではなかったことについて?違う
暴走し無限と思えるほどの魔力を持つ魔人が行う破壊活動に対して人々は恐怖した。
王国は魔人に立ち向かうため部隊を編成し討伐を行ったが被害は増える一方。
その魔人を倒したのが……
賢者マーリン=ウォルフォードと導師メリダ=ボーウェンのコンビだ。
だからこそ二人は敬われている。
※※※
「とまあ、なかなかにハードだね」
「余裕だな!?」
「被害を出さないって言うだけなら割と簡単にできるよ。さて、魔人討伐戦と行こうか!」
僕はそういうと魔法を受け止めるために展開した障壁を肥大化させ僕とシンそしてカートくんを他から断絶するために展開する。
ついでに周りの声もシャットダウンする。
「さて、シンどうしたい?彼をぶっ殺したい?それとも元に戻したい?」
「もちろん元に戻す!」
「オーライじゃあ協力してね」
僕は五つセットの魔道具を出す。
「マホカトールって言ったらわかる?」
「…………!ああ、だいたいわかった!」
「やっぱり持つべきは以心伝心が可能な兄弟だね。じゃあ作戦開始!」
僕らは同時に別方向に駆け出す。
「すべて拘束!出来うる限り手早く終わらせよう!」
「ああ!それはもちろんだ!」
僕が魔法を発動させると黒い魔力が鎖となって具現化しカートくんに襲いかかる。
イメージしたのは
自動的に相手を捕縛する魔法。僕式マホカトールは相手が動かない方がやりやすいからね。
「まあ、様子見で放ったんだけど……え?」
まさかまさか特に何もせず僕の魔法をその身に受けちゃってる。
「……もしかしてヌルゲー?」
「油断するなよ?」
「それはもちろん」
油断なく着々と準備を進める。魔道具を五芒星の頂点になるように配置する。
……拘束している間、カートくんはもちろんだけど何もしてこなかった。
ま、あの魔法には魔力を練れないようにする仕掛けがあるんだけどね。
「さて、じゃあ実験を始めようか。失敗して爆発しても恨まないでよ?」
「大丈夫なんだよな!?」
「理論上はね」
遅れて本当にすみません。
いわゆるスランプです。
今後はもう少し頑張ります。