ゼロの使い魔 -KING OF VAMPIRE-   作:歌音

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第10話/Silent Shout -第一楽章=それぞれの『音楽』、『土くれのフーケ』の襲撃-

 

 

最近トリステイン国内の貴族達に恐怖に陥れている『盗賊』が噂になっている。

 

『土くれ』のフーケ。

 

土系統の魔法を駆使し、トリステイン国内の貴族の屋敷から、次々と高価な品を奪い取っている。

 

かなり強力なメイジらしく、貴族達が己の屋敷の防備を整えても、あっさり突破され宝物を盗み出さる。

 

発見して魔法衛士が取り囲んでも、身の丈およそ三十メイルという巨大なゴーレムを造り出し、あっさり蹴散らされてしまう程である。

 

そんな土くれのフーケの正体は、未だ不明のまま。

 

性別すらわかっていない。その力から、恐らくは土のトライアングルメイジであろうと推察されている。

 

ハッキリしている事は、犯行現場に犯行声明と馬鹿にしたようなサインを残すこと。

 

そして、強力なマジックアイテムの類を好んで強奪していることである。

 

 

 

月の照らす夜、魔法学院の本塔…ちょうど、宝物庫がある五階部分の外壁に怪しげな人影。

 

「さてと…どうやって…を…」

 

「何をしている?」

 

「きゃっ!?」

 

人影は新たに現れた男性の声に驚く。

 

「あ、あの、あなたは…?」

 

人影…ミス・ロングビルは学園で見かけた事のない男性を見て、そう尋ねた。

 

男はロングビルを少し見て、

 

「俺は次狼。よろしくなお嬢さん」

 

これ以上ない、といいった位の自分の魅力を100%引き出した笑みをロングビルに向ける。

 

「いや、その、あなたは、誰ですか?学園関係者の方にしてはお見掛けした事は…」

 

「あぁ、俺か?俺は…ミス・ヴァリエールの使い魔、渡の従者だ」

 

「あのミス・ヴァリエールの?」

 

「ああ。ところで何をしている?ここは宝物庫だぞ?美人が来るには場違いなところだ」

 

次狼の質問にロングビルは少しうろたえたが、

 

「それは…見回りですよ。ほら最近『土くれのフーケ』って盗賊が騒ぎを起こしてるじゃないです」

 

「成程…でもこの宝物庫は大丈夫だろう。欠点さえわからなければまず盗まれないな」

 

「えっ、知ってるんですか?」

 

次狼の言葉にロングビルは驚く。すぐに頭の中で計算し、これをチャンスとばかりに…

 

「ねぇ、教えてくださらないかしら?」

 

次狼に枝垂れかかる。

 

「ああ、俺の見立てじゃ…」

 

ここで次狼はいらん事をベラベラ喋り始めた。その後、しつこくロングビルを食事に誘ったが全てスルーされ、ロングビルの目的を達成させてしまった。

 

 

 

「う~ん、いい天気だね」

 

中庭に出た渡は大きく伸びをする。

 

「洗濯物も干したし、のんびり日に当たるのも悪くないね」

 

「…………」

 

「どうしたのルイズちゃん?」

 

「なんであのケガがこんなに早く治るのよ」

 

ほんの数日前、タバサの魔法で渡は大怪我をした。

 

しかしだ。ずっと寝ていたが、一日でだいぶ傷は塞がり、二日目には目覚めて動いていた。

 

その回復力にルイズは呆れていたが、

 

「まあ、無事でよかったわ」

 

「ゴメンね心配かけて」

 

渡は少し反省する。

 

「でも、タバサはなんでアンタを狙ったの?」

 

「うん、次狼さん達も聞いたみたいなんだけど…」

 

渡は自分の使い魔のルーン…蝙蝠を象った不思議な印を見せる。

 

「なんでもこの紋章に似たモノをつけてる人を探してるんだって」

 

「だからって、ワタルをあそこまで傷つけるなんて…ねぇ、学園長に抗議しに…」

 

「ルイズちゃん。前にも言ったけど、この事は黙っててあげて」

 

「でもワタル…!?」

 

渡はルイズに頭を下げる。

 

「お願いします」

 

流石にルイズも少し気が引け、

 

「わかったわよ。今回は黙っててあげるわ」

 

「ありがとう」

 

「お~い渡~、ルイズ~」

 

「あっ…」

 

「げっ…!」

 

キバットが飛んでやってくる。後ろにはキュルケとタバサがいた。

 

「キュルケちゃんにタバサちゃん。こんにちわ」

 

「こんにちわ。ダ、ダーリン」

 

「こんにちわ」

 

渡は二人に会釈を交わす。

 

「ちょっと、キュルケとタバサがなんのようなのよ」

 

「い、いいでしょ。今日は用があってきたのよ」

 

「用?」

 

「ほら、タバサ」

 

キュルケはタバサを渡の前に出す。

 

「タバサちゃん?」

 

「…この間はゴメンナサイ」

 

タバサは渡に頭を下げて謝った。ルイズも眼をパチクリする。

 

「うん。誤解が解けたならいいんだ。気にしないで」

 

「でも…」

 

「それじゃあルイズちゃんと仲良くしてあげて。結構寂しがり屋さんだから」

 

「こら~!使い魔が余計な事いってんじゃないわよ!」

 

その発言には黙っていられなかった。

 

「まあまあ」

 

キバットがルイズを宥める。

 

「それと…ゴメンね」

 

「?」

 

「僕も勝手に君の『音楽』を聴いちゃって」

 

「あ…」

 

タバサは次狼達から聞いていた。渡には人間の心が奏でる音楽を聴き取る能力があると。

 

それのせいでタバサは渡を『ビショップ』本人かその仲間と勘違いしてしまった。

 

「ねぇ、僕にできる事があったら言って」

 

渡はタバサを真っ直ぐな瞳で見る。

 

「タバサちゃん。人は知らず知らずの内に心の中で音楽を奏でてるんだ。それは誰にも真似出来ない、その人だけの音楽…」

 

そう、激しいロックビートな人もいれば、クールでオルゴールな人もいる。

 

「でも、君は悲しい音楽を奏でている。それもずっと」

 

そう、それは本当に悲しい音楽。普通の人生を歩いている人間も時には悲しい音楽を奏でる。

 

しかし、渡は感じている。目の前にいる少女は悲しい音楽をずっと弾き続けている。

 

寂しさと孤独、憎悪と殺意、復讐…それらが絶妙なハーモニーを生み出し、悲しい『名曲』を創りあげている。

 

この曲は少しずつ少女の心を壊していくだろう。

 

少女の無表情はその現われだ。

 

その少女を支えているのは、少女の奥底から聞こえてくるもう一つ小さな『音楽』。

 

それはこの少女の『思い出』だろう。とても優しい、とても楽しい、とても温かくなる。それはまるで家族でピアノを笑いながら弾いているような音楽…それがこの少女の本来の…

 

「僕は、君の本当の『音楽』を聴きたい。僕に、助けられる事はできないかな」

 

 

 

ルイズは渡の言葉を黙って聞いていた。

 

いつもなら、使い魔が勝手を咎める所だ。

 

だが、ルイズは咎める事ができない。

 

ルイズは少し前から感じている事がある。

 

渡の近くにいる度に感じる『何か』だ。

 

それを感じると、とても悲しくなる。胸が締め付けられるようで、とても辛い。

 

それは今でも感じている。

 

(もしかすると、これがワタルの『音楽』…)

 

だとすると、彼はなんでこんな『音楽』を奏でているんだろう。

 

こんなにも、優しい自分の使い魔が…

 

(もしかしてワタル…いつも泣いてるの?)

 

以前、自分は彼の事を『泣き虫』と評した。もし彼の心が『涙の音楽』を奏でているとしたら、なんで自分に言ってくれないのだろう。

 

(私って…そんなに頼りない?)

 

ルイズが胸を締め付ける。

 

(私は…自分の使い魔の涙さえ拭えないほどの『ゼロ』なの)

 

 

 

 

キュルケは渡を見つめていて、改めて渡との恋が確かなものだと確信する。

 

(無理よ。この人を好きになるなって。自分はこの人の心に『一目惚れ』した…)

 

強くて、優しくて、誰かの為に戦う…

 

(歴代のツェルプストーの当主にだって堂々と誇ってみせるわ。こんなにも素敵な人に『恋』をできたんですもの!)

 

 

 

 

 

タバサは渡の言葉に戸惑っていた。

 

渡の言葉に一つ一つが自分の心に響いてくる。

 

自分の心に立ち入られていく。自分の心を揺さぶっていく。

 

この人は自分の全てを話しても、同じ事を言うのだろう。

 

自分でもそれ位はわかる。

 

(なんで…こんな事が言えるの?)

 

ほんの数日前、自分の勘違いで自分は彼に大怪我を負わせた。

 

普通なら怖がられたり、恨まれたりする。

 

(なんで…)

 

タバサは目の前の男性に何もかも喋ってしまいたい衝動に駆られた。

 

自分の本当の名前。母の事。今までの事。そして…『助けて』と叫んでしまいたかった。

 

(そんな資格…私に…)

 

 

ドガァァァァァァァァァッ!

 

 

『!?』

 

そんな彼等の邪魔をしたのは、とてつもない破壊音だった。

 

 

 

 

 

渡達が破壊音のする現場へと向かうと、巨大なゴーレムが塔を拳で殴っていた。身の丈およそ三十メイル。

 

「な、何あれ?」

 

「あれはゴーレムよワタル!でもなんて大きいの!あんな大きな土ゴーレムを操れるなんて、最低でもトライアングルクラスのメイジに違いないわ」

 

「えっと…みっつ以上仕える魔法使いが操ってるの?」

 

渡は初めて見る巨大なゴーレムに少しアタフタしている。

 

「盗賊」

 

 タバサが呟いた。

 

「最近、トリステインを騒がしているわね。確か『土くれのフーケ』…」

 

キュルケも心当たりがあった。

 

「おお~、武器屋のおっちゃんが言ってた奴か。もしかしてあいつか?」

 

『えっ?』

 

キバットの羽が指したゴーレムの肩をみると、確かに誰かが乗っていた。

 

「ちょっと!早く止めないとヤバイわよ!」

 

「バカ!どうやって止めるのよ!私達じゃ相手に…」

 

ルイズとキュルケはそこまで言って渡とキバットを見る。タバサの方はすでに渡をみていた。

 

「うん。やってみるよルイズちゃん。キバット!」

 

「おう!キバッていくぜ!」

 

ガブッ!

 

「変身!」

 

渡はキバへと姿を変える。初めて身近でみたキュルケとタバサは興味深くみて、

 

「でもダーリン。あんな大きなゴーレムをどうやって相手にするの」

 

「大丈夫!でも物凄く危ないから三人とも下がってて!できればできるだけ遠く。それも速く!」

 

三人は走り出す。渡が急かせたのはゴーレムが塔に大穴を開け、『土くれのフーケ』らしき人物が塔の中に入り、ゴーレムがこちらを向いたからだ。

 

渡は落ち着いて、フエスロットルから紫の拳を象ったフエッスルを手に取る。

 

「さーて、派手にぶっ壊しますか!『DOGGA HAMMER』!」

 

キバットはフエッスルを奏でた。

 

 

 

グララ…

 

「きゃっ」

 

突然の揺れにシエスタが足を取られる。

 

ガシッ

 

こけそうになったシエスタを力はしっかりと受け止めた。

 

「あ、ありがとうございます、リキ様」

 

「どう、いたし、まして」

 

力はニッコリと微笑む。

 

(リキ様はいつも寡黙ですけど、とても優しい方だな)

 

学園内でもいつも自分が重たい物を運んでいる時に現れて、運んでくれる。

 

『♪~♪~♪~♪~』

 

「あれ、この音は?初めて聞きます…ね」

 

シエスタは力の顔を見た。『待ってました』といわんばかりの顔を。

 

「今回はリッキーか…」

 

「チェッ…まあ、いっか。向こうの世界の時とは違って他に楽しめるし」

 

ポイッ

 

次狼は力にテーブルの上のチェスの駒を投げる。力はそれをキャッチすると力強く握る。

 

次に掌を開いた時にはチェスの駒はなく、

 

(チェ、チェスの駒を握りつぶした!?)

 

これには流石にシエスタも驚いた。

 

「い、ってく、る」

 

力は歩き出す。それを聞いたシエスタはいつものように

 

「いってらっしゃいませドッガ様。その無双の力、存分に振舞いください。どうか御武運を」

 

力はシエスタの激励を満足そうに受け取り、腕組をしてドッガに変身。そして彫像に変化して『王』の下に向かった。

 

 

 

ルイズはやってきた光を見る。

 

「あれは…筋肉バカ」

 

光…ドッガの彫像はキバの元にやってくる。ドッガの彫像は宙でどんどん姿を変え、ドッガの拳を象ったハンマー・魔鉄槌ドッガハンマーへと変わる。

 

キバがそれを力強く両手で掴むと、紫の電撃と共に鎖(カテナ)が厳重に両腕に巻きついていき、両腕が紫のキバの筋肉が通常の10倍に強化した『グレードアーム』となる。

 

(あれ?なんか他の二人の時より厳重に鎖が…?)

 

そう、純粋な力では他の二人を遥かに凌駕するドッガを制御するには他の二人より厳重な鎖(カテナ)を強いられる。ドッガハンマー本体に出さえウインチタイプのカテナをしている程だ。

 

次に鎖が胸を多い、ドッガの拳が変質して出来たルシファーメタル胸部装甲・アイアンラングに覆われる。

 

これで下部装甲との二重の守りとなり、戦車砲を至近距離で直撃しても吹っ飛ぶどころか立ち止まらず進む絶対無敵の強度を誇る。

 

最後にキバットの眼が紫色になり、ドッガの幻影がキバに吸い込まれると、キバの眼も紫色に変色した。

 

キバの全身を覆う紫は深厚な闇の色を連想させる。

 

キバはドッガハンマーを引きずり、無防備にゴーレムに近づいた。

 

「な、なにやってんのよ!バカ!」

 

案の定、ゴーレムは足を上げ、

 

ズゥゥゥゥゥゥゥンッ!

 

そのままキバを踏み潰した。

 

「ワタル!」

 

「ダーリン!」

 

「!」

 

三人が叫ぶ。土煙が辺りに充満している。

 

(あのバカ!ちゃんと避けてるでしょうね!)

 

自分の…自分の最強の使い魔があんなに簡単にやられるはずがない。ちゃんとかわしているはずだ。

 

土煙が晴れていく。そして土煙が晴れた時、三人はもっと信じられないものを見た。

 

『う、嘘…』

 

ルイズとキュルケはハモり、タバサも絶句している。

 

「グゥゥ…」

 

なんとキバはゴーレムの一撃を受け止めていた…しかも左腕一本で!

 

「グゥ…」

 

キバはドッガハンマーを手放す。みると少しずつ地面に沈んでいっている。

 

キバは空いた右腕でゴーレムを掴み、

 

「グゥゥ…グガァァァァァァァァッ!」

 

ふわぁ…ドゴォォォォォォォッ!

 

『………』

 

もう開いた口が塞がらなかった。

 

あの巨大なゴーレムを、『投げ飛ばした』のだ。

 

(な、なんてデタラメ!?)

 

ゴーレムはその大きさにそぐわぬ速さで立ち上がる。

 

キバはドッガハンマー掴み、持ち上げて、キバットに近づける。

 

「よぉーし!一気に決めるぜ!『DOGGA BYTE』!」

 

キバットがドッガハンマーに噛み付き、魔皇力を伝達させる。

 

「グゥ…ハァァァァ…」

 

そしてキバを中心に世界が夜に覆われる。

 

雷鳴轟き、そらに朧月が浮かぶ。

 

キバはドッガハンマーの柄の先を地面に叩きつける。

 

そう、拳の握り目がゴーレムに向かうように。

 

ドッガハンマーの拳が少しずつ開く。そしてドッガハンマーの掌には大きな一つ目が存在した。

 

巨大な眼球『真実の瞳(トゥルーアイ)』。このトゥルーアイの中央には巨大魔皇石・『真実の石』がはめ込まれており、ここから放出する魔皇力によって相手の弱点や記憶などを解析するだけではなく…見つめられたモノの全てが偽りと断じる事もできる!

 

真実の瞳に見つめられた時、『偽り』は全て動けない。

 

ゴーレムの動きが時が止まった様に止まる。

 

キバはドッガハンマーを持ち上げる。

 

(あれ?どんどん大きく…って!?)

 

なんとドッガハンマーから更に巨大な拳が雷を纏って現れる。

 

キバがドッガハンマーを振り回すと、それに呼応して、巨大な拳も動く。

 

ドゴンッ!

 

巨大な拳がゴーレムを砕く。

 

ドゴンッ!ドゴンッ!ドゴンッ!

 

拳の竜巻はゴーレムを粉々に破壊していき、

 

「ウガァァァァッ!」

 

止めの一撃といわんばかりに振り下ろされた『DOGGA THUNDER SLAP』により、ゴーレムはこの世から消滅した。

 

力には力を…それをまさに体現するキバ。

 

(強い…)

 

ルイズの胸が更に締め付けられる…

 

キバ…渡は強い。

 

メイジの実力を測るのは使い魔を見ろ。

 

そう考えれば自分は一流のメイジと評価されるかもしれない。

 

しかしルイズの心中は

 

(私は…ワタルのご主人様の資格があるの?)

 

『ゼロのルイズ』…なにもできない、魔法の仕えない貴族…

 

(私は…私は…)

 

ルイズはその小さな手を強く握った。

 

 

 

 

「ハァハァッ…」

 

『土くれのフーケ』はあの派手な戦闘をドサクサに逃げていた。

 

「まったく、なんて化け物だい!?なんて方法であたしのゴーレムをぶっ壊すのさ!」

 

流石に単なる『力』でゴーレムが投げ飛ばされるとは思わなかった。

 

「まっ、でも…」

 

『土くれのフーケ』は自分の手の中にある物を見る。

 

「『鋼の鞭剣』は手に入れた…けど、これどこが鞭?」

 

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